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事故評価尺度は「レベル7」に福島第一原発とチェルノブイリの違いとは?

福島第一原発事故直後、さらに「レベル7」への引き上げた直後の2回にわたり行った、チェルノブイリ事故との違いについて米国研究者として最初にチェルノブイリの原子炉溶融を現地で調査したアレクサンダー・ジッヒ氏への緊急インタビューをお届けする。 ジッヒ氏は「レベル7」への引き上げについて、「今回の事故が重大な事故であることは明らかだが、センセーショナルにチェルノブイリと比較して騒ぎ立てるのは無責任」とし、データに基づく冷静な分析が不可欠であり、現在の状況で日本政府が「レベル7」に引き上げたのは時期尚早であるとの見解を示した。

  1. 福島第一原発危機の深刻度とは?(4/12記事)英文オリジナルはコチラ↓
    How Bad Is Fukushima Crisis?
    http://the-diplomat.com/a-new-japan/2011/04/12/how-bad-is-the-fukushima-crisis/
  2. 福島第一原発とチェルノブイリの事故の違いとは?(3/29記事)英文オリジナルはコチラ↓
    Why Fukushima Isn’t Like Chernobyl
    http://the-diplomat.com/2011/03/29/why-fukushima-isn’t-like-chernobyl/


1. 福島第一原発危機の深刻度とは?
(The Diplomat誌4/12記事)

写真: 国土交通省

日本政府は福島原子力発電所の事故の評価尺度を「レベル7」に引き上げた。Diplomat誌は3/29のインタビューに続き、アレクサンダー・ジッヒ(Alexander Sich)氏にこの決定をどう見るか、そしてこの決定の正確な意味を尋ねた。

ジッヒ: 私は日本政府が「レベル7」に引き上げたことは時期尚早だったと考えます。事故が発生してから1ヶ月間、私たちは正確な数字に飢えていましたし、さまざまな憶測が飛び交っていました。現在、誰もがデータではなく、ただ一つの数字(国際的評価尺度で7)に注目しており、メディアは「チェルノブイリと並ぶ」とか「チェルノブイリと同じレベル」という言い方をしています。これは体重や年齢といった、一つの数字で一人の人間の全体像を定義するのと似ています。私は一般の人々がその馬鹿馬鹿しさを見抜くことができると考えます。

私の理解では、東京電力 は過去1ヶ月間で数十万テラベクレルの放射能が放出されたと報告しています。

まず、1ベクレルが毎秒当たり1回放射能の崩壊が起こることだと理解している人はどれだけいるのでしょうか?この数値が放射能の0.027ナノキュリーに相当すると言われて、人々はどのように反応するのでしょうか?おそらくは—そして正確に言うと—-あくびが出るでしょう。

一連の事実を見てみましょう。

(1) 日本ではこれを「暫定的評価」とし、さらにこれまでの放出量を合計して「レベル7」であることがわかったとしています。また、健康への影響に関する評価を引き上げたわけではないとしており――変更していません。私は、これが正しいと考えており、健康への影響はごく少ないと考えます。

(2) 1万テラベクレルがどれくらいの量かと言えば、27万キュリーです。チェルノブイリと並ぶ?本当でしょうか?!では、見てみましょう。ソビエトの官僚は、チェルノブイリの推定放出量の合計を5,000万キュリーと発表しました—-その言葉のとおり数字を受け入れたとして—- (今回の27万キュリーという)この量はチェルノブイリの185分の1です。(1994年、スウェーデン スタズビック・エコのレナート・デベル氏は、欧米の大多数の専門家が疑問視していた点を確認しました。デベル氏が行った推定放出量のメタスタディーの結果、ソビエト政府が報告した数値の1.5~2.5倍の放出量であったことが明らかになったのです。)仮に私が、たった今4万2千テラナノメーターもの超長距離ロードレースを走ってきたばかりだ、と主張したらどうなるでしょう? 大多数の人は、私がマラソンを走ってきたと理解するでしょうか?マラソンをこのように表現する私に責任があるのでしょうか? 人は、私が人をミスリードしようとしている、数字に過度にこだわりすぎると判断するのではないでしょうか?

(3)チェルノブイリでの放射能の放出は約9.5日間続きました。福島での放出は30日間分の推計であり、4基の原子炉と第四原発の使用済み燃料プールから放出されたものです。チェルノブイリでの放出は全く手のつけられない状況でした。福島では、日本の人々は汚染された水を封じ込め、水素爆発を抑制するため、多くの手段を講じています。

(4) チェルノブイリとの比較には間違いもあります(そして、私の判断では、無責任です)。その理由として、これら二つの事故では放射能の放出メカニズムがかなり違うことが挙げられます。
チェルノブイリでは、全期間を通じて炉心が大気中に完全に露出していたため、放射能が放出されました(前回のインタビュー(3/19記事)で、ヘリコプターで炉心へ物体を投下しても、炉心自体が覆われるわけではないため、これは幻想であるとコメントしたことを思い出してください。)このことは、放射性同位体が運ばれて放出されるメカニズムには、気体の漏れから物理的な排出までの広範にわたる化学的・物理的な変動範囲があったことを意味します。福島では、原子炉圧力容器、原子炉内部格納容器、低圧圧力抑制プールがどの程度損傷されたか正確にわかっていません。私はさまざまな評論を読みましたが、すべて初期評価です。
私が強調したいのは、炉心と大気の間に放出を阻止する「壁」がそれほど多く存在するなら、放出の経路とメカニズムはかなり異なったものとなり、厳しく制限されることです。これは公表されている数字によって裏付けられています。福島では、化学的・物理的に不安定な放射性同位体が放出されました。I-131、Cs-137、Xe-133がそれで、その他についての詳しいことはわかりません。原子力発電所から北西約40キロメートルの地点でCs-137が検出されたことについては、私は依然として正確な数値が出されるのを待っている状況です。検出された量(キュリー)、範囲、そしてなぜ他の地域で検出されていないとされているのか、私たちはわかっているのでしょうか?私なら、使用済み燃料プールからの放出と原子炉からの放出を注意深く区別することを徹底するでしょう。

私は他にもいくつか数値を見ましたが、部分的な状況を示すものだけでした。ロイターの記事によると、日本では、約50万テラベクレルのI-131が「大気中に」放出されたと推測しているとしています。また、私には、日本の人々がりんごとオレンジの放射能量をチェルノブイリの特定の数値と比較しているように見えます。これらの合計量を福島の単一の放射性同位体と比較しているのでしょうか?私が見た報告書を見ても、その辺は明らかではありません。

放射能の推定放出量は、放射性同位体の半減期を計算にどう反映させるかによっても異なります。稼働中の原子炉で作られる放射性同位体の多くは短命で、かなり短期間で崩壊します。したがって、これを勘案して放出量を算出することは可能ですが、短期間で崩壊した場合には、重大な影響を及ぼす放出であったと言えるのでしょうか?I-131(半減期は8日)でさえ、80日後には放出量の1024 分の1まで減少します。

私は、影響が全くないと言っているのではなく、冷静で注意深い評価とともに、慎重で正確な放出量の提示をすべきと訴えているのです。原発の事故からI-131の半減期の3倍以上の期間が経過していることから、現在、ほぼ10 分の1が残留していることになります。事故発生時に存在していたI-131の総量に基づいて、放出量の合計値を提示することは正確で慎重でしょうか?私はそうは思いません。

さて、質問してみましょう。Pu-239またはU-235の放出量はどれくらいだったのでしょうか?これらは両方とも対火性酸化物(セラミックス)と呼ばれる形で存在し、超高温(数千度)で融解するため、漏れ出すためには物理的に運ばれる必要があり、気体で漏れ出すことはありません。放出量はどれくらいだったのでしょうか?
私の推測ですか? ごくごく微量…そして、仮にセンセーショナルな見出しの例に倣って「大きな」数値で大きな影響を与えようとしたとしても、これはキュリーではなくテラベクレルでしか表せないのは確実です。チェルノブイリとの比較は、無知からくる憶測です。まず、検証済みの数値、構造的評価、輸送メカニズムをすべて理解し、それからこの非常に複雑な状況に対して、単一の数値を提示したい人がいるなら、やってみてください。

これが、センセーショナルに騒ぎ立てる人の主張の要点です。私は、放出量について「暫定的」と制限というただし書きをつけ、健康への影響に関する評価に関係なく、この再評価を発表した日本人が慎重であるとは言えないと思います。原子炉建屋の主要部分への構造的な損傷が正確に評価されるまで、そして放出量に関する信頼できる放射性炭素年代測定調査を待つ方がより理に適っていると思われます。加来道雄氏や下院議員のエドワード・マーキー氏をはじめとするパニック扇動者は、今回の発表を受けてセンセーショナリストぶりを最大限に発揮することでしょう。

私は日本の人々に対して、もっといろいろなことが明らかになるまで評価の引き上げを再考するよう忠告したいと思います。

誤解しないでいただきたいのは、今回の事故が重大な事故であることは明らかであるものの、繰り返し行われているチェルノブイリとの比較はセンセーショナルに騒ぎ立てているだけであり、自分勝手な行為であるということです。

アレクサンダー・ジッヒ(Alexander Sich)

オハイオ州スチューベンビルのフランシスカン大学の物理学准教授。
チェルノブイリの原子炉溶融を現地で調査した最初の米国研究者の一人である。
●記事中の見解はジッヒ氏自身によるものです。

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