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事故評価尺度は「レベル7」に福島第一原発とチェルノブイリの違いとは?

2. 福島第一原発とチェルノブイリの事故の違いとは?
(The Diplomat誌3/29記事)

写真: Flickr / Daveeza

「放射能の危険に関する度を越した報道をメディアは続けている。しかし福島第一原子力発電所の核燃料危機が第2のチェルノブイリになることはない」。アレクサンダー・ジッヒ(Alexander Sich)がDiplomat誌に語った。

Q. チェルノブイリで発生したような大規模な放射能の放出が福島第一原発でも発生する可能性があるのでしょうか?

ジッヒ:いいえ、福島ではあのような大規模な放出は発生しえません。単純にそんなことは起こりえないのです。問題は、燃料ペレットを覆っているジルコニウム合金がどの程度炉心まで損傷を受けているか、そして燃料のどの程度が破損しているかということです。私は必ずしも「融解している」とは言っていません。現状は、あくまでも「破損している」ということです。炉心については「融解」という言葉が非常に曖昧な定義で使われてきました。しかし、溶融(メルトダウン)という言葉を使う場合、非常に特定の状況を指して使うべきです。

福島第一原発には放出を阻止する主要な「4重の壁」が存在します――燃料ジルカロイ被覆、圧力容器、原子炉内部格納容器、そして原子炉格納建造物(建屋)です。
大体において炉内構造材料は封じ込められているようです。その一方で、当然のことながら、ある特定の水たまりで発見された放射能がどこから出ているのかという問題があるわけです— この点に憶測が過剰に膨らんでいるわけです。現時点での推移を見ると、漏えい源は炉心ではありません。破損した建屋には上から、内部へ向けて多量の水が放水され噴霧されているため、こうした水が放射能の有力な放出源だと考える人も確かにいることでしょう。
けれども、現実に東京電力側の関係者が内部に入って実際に目で確認するまでは、私たちは推測を続けているにすぎません。
と言うのも、関係者にもどの程度炉心が損傷しているのかはわからないし、どの程度圧力容器が損傷しているのかもわからないからです――そうは言ってもその可能性は低いですが。同時に東京電力側にはどの程度、配管が損傷しているかもわかりません。ですから、私たちには内部で何が起こっているのかを推測することはできないのです。だとしても、原子力発電所の設計を知っている原子力エンジニアから見ると、福島第一原発がチェルノブイリと同じ状況であるというのは真実ではありません。

Q.つまり福島第一原発とチェルノブイリを比較するのはアンフェア、不当だとおっしゃるのですね?

ジッヒ:2つの事故はまったく異なっていますし、比較するのは非常にアンフェアです。その理由は2つあります。1つ目はチェルノブイリ事故自体に言われていることに、でっち上げがあること。そして2つ目はこの2つの事故の純然たる相違です――事故の原因、そして構造・エンジニアリング・物理学的な相違ですね。
まず第一に、福島とチェルノブイリの原子炉の設計には主として3つから4つの重大な違いがあります。その1つ目は欧米タイプの軽水炉—つまり加圧水型炉(PWR)そして福島第一原発のような沸騰水型炉(BWR)—とチェルノブイリ原発の相違です。
欧米タイプの軽水炉では軽水が冷却材および減速材に用いられます。冷却の仕組みはごくシンプルです――軽水は燃料を冷却し、その熱を取り除き、最終的には蒸気を発生させるために利用されます。その後、この蒸気が電力を生み出すのです。一方で非常に重大な相違点は軽水を使った減速の仕組みです。減速とは、炉心の中性子を減速し、これを核反応に利用できるようにするために軽水が利用されるということです。チェルノブイリ型の原子炉では、水は冷却材ですが減速材ではありません――減速材には黒鉛が使われています。この点は1つの重大な設計そして構造上の相違となります。
軽水炉の炉心では、核燃料そのものは別として、すべてが事実上金属製です。核燃料は特殊なジルコニウム合金に格納されており、圧力容器はステンレススチール製であり、上部構造は金属製です。福島第一原発のような沸騰水型炉では、原子炉圧力容器はおよそ6インチの厚さの鋼鉄製です――つまりこれは炉心を収容した巨大なヤカンのようなものですね。チェルノブイリの原子炉には圧力容器がありませんでした。そこでここに2つの大きな相違があります――BWRはとても頑強な圧力容器に収容されていますが、チェルノブイリの原子炉はそうではなかった。そして、BWRの原子炉そのものは一つの金属容器ですが、チェルノブイリの原子炉はおよそ2,000トンの黒鉛を貫通する約1700本の圧力管です。欧米タイプの軽水炉は原則的にまったく黒鉛を使っていません。この2つは非常に著しい相違です。
3つ目の非常に大きな相違は、すべての軽水炉にはある種の格納構造あるいは格納建造物が付随しているという点です。現在でも11基が稼働中であるチェルノブイリ型の原子炉には格納建造物がありません。
そして福島とチェルノブイリの最後の相違点は、基本的にはその運転に関わるものです。BWRでは、原子炉の周囲――つまり圧力容器内部ですが炉心の周り――で環をなしている制御棒と冷却材ノズルによって、そして基本的にはこうした圧力ポンプのスピードを上げたり下げたりすることで出力を調節することができます。また、BWRの炉心のサイズはと言えば、直径がおよそ2.5メートル、そして高さがおよそ3.7メートルです。対照的にチェルノブイリの原子炉の大きさは、直径が11.8メートル、そして高さが7メートルです。これは巨大な原子炉であり、つまりそれこそが運転に関わる相違だと私が指摘している点です。
チェルノブイリの原子炉は言わば「分離された」炉心です。つまり、一方の炉心はもう一方の側が中性子に関して何をしているかを必ずしも「把握している」わけではありません。言い換えれば、チェルノブイリ型の原子炉の運転員たちは原子炉の中で何が起こっているかを監視しなければなりません。欧米タイプの原子炉ではそうではありません。このタイプの原子炉では、炉心の一方はもう一方の炉心が何をしているかをかなり「把握する」ことができ、すると必然的にこうした原子炉は調節することができるのです。
ここから最後のポイントにつながります。欧米タイプの軽水炉ではいわゆる「負のフィードバックの原則」が機能しています。原因が何であれ軽水炉の温度が上昇した場合には、核反応は現実に減速します――原子炉の温度が高くなりすぎると核反応にとって状況が悪化するからです。チェルノブイリ型の原子炉では、特定の出力領域ではこれがまったく反対に作用します。言い換えれば、原子炉の温度が高くなればなるほど、より多量の水が沸騰されます。より多量の水を沸騰されればさせるほど、より多くの蒸気ボイド(泡)が生じ、核反応が加速されることになります。この点にはチェルノブイリ事故以降ロシア政府が主に取り組んでいます。しかしながら、正のフィードバックを原因にこんな状況に陥りたくはないことは誰にでもわかります。もちろん常にこうした状況が発生すると私は言っているわけではありません。けれども、特定の出力領域ではそれが真実なのです。一方でこうした事態は軽水炉では発生しようもありません。
以上、ここまで述べてきたことが福島とチェルノブイリのそれぞれの原子炉がいかに異なっているか、その仕組み上の相違の概要です。ここから私が述べる2つ目のポイントとなります――それは事故の原因です。
福島第一原発では、地震は事故を引き起こしたのではなく、原子炉の自動停止をもたらしました。システムそのものは機能したのです――未臨界状態になったのです。問題は、これに続いて発生した津波が継続的な炉心の冷却を請け負うはずであった発電所の外側に設置されていたいくつかの装置を破壊したことでした。残念なことに装置は損傷しました。そしてこれを原因としてこの1週間、東京電力では電力線を原子炉につなぎ、冷却システムを再起動しようとしているのです。

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