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事故評価尺度は「レベル7」に福島第一原発とチェルノブイリの違いとは?

チェルノブイリでは事故の原因は2つありました――1) 先ほどお話ししたように原子炉の設計にそもそも存在した欠陥、そして2) 皮肉なことに安全実験を実行すること求めた外部からの発電へのプレッシャーです。事故はメーデーのちょうど数日前の1986年4月26日に発生しました。かつてのソビエト連邦ではメーデーは非常に大きな国民の祝日でした。そして当局ではボーナスを手にすることができるように可能な限り大量の発電をし、それと同時にこの安全実験を実行するようプレッシャーをかけられていたのです。現実には、事故発生のおよそ1日前にキエフの指令者が、さらに9時間分の電力が必要であったために、原子炉の運転員に対して出力を低下させないように命令したのでした。
つまりこのような外部的な要因がありました。そして事故を起こした最終的な出来事は運転員たちによるミスでした――運転員たちは意図的に安全装置、安全バリア、そしてインターロックを解除しました。彼らはこの実験を実行するようプレッシャーをかけられていたために解除したのです。
こうしたすべてが福島とチェルノブイリの2つの事故が大きく異なることを示唆しています。チェルノブイリではそれこそ大量の放射能が放出されました。福島第一原発については現時点では放射能放出の数値はわかりませんが、それにしてもせいぜい細いダイナマイト1本分程度ではないかと思います。これはおおまかな例えですが、これで少しイメージをもっていただけるいのではないでしょうか。

Q.チェルノブイリにまつわるある種のでっち上げられた神話について述べられていましたね。こうした神話は福島第一原発で発生した出来事に対する見解にどのように影響しているでしょうか?

ジッヒ:残念ながらある種の利害関係者が福島第一原発に関してセンセーショナルな発言、不正確な報道、そしてあからさまなでっち上げを利用しています。フィリピンで広がったデタラメな噂の携帯文字メッセージ(SMS)、そして噂によれば豪州発であるという米国の西海岸に影響する放射線致死量を予測した地図についてはコメントする気にもなりません。まったくすべてナンセンスです。
しかしながら、マサチューセッツ州民主党下院議員のエド・マーキー氏のように「チェルノブイリ事故の再発」を警告し、「米国でも同じ事故が起こりうる」と予測し、それから新世代のより安全な原子炉設計へのライセンス供与の手続きをただちに中止すべきであると続けて求める人もあるわけです。私は彼のこの一連の行動には嫌気がさしますが。

弦理論を研究したニューヨーク市立大学の理論物理学者である加来道雄氏もまた、こと原子炉についてはまったく理解することができない存在です。彼は原子力エンジニアでもないのに、インタビューでヒステリックなコメントをすることをやめません。加来氏はたとえば次のように主張していました。「『チャイナ・シンドローム(原子炉の炉心溶融による事故)』が発生しえます」。「(チェルノブイリのように)容器と屋根が一度に吹き飛ぶでしょう」――どちらも事実上まったく間違っています。そもそもチェルノブイリ型のRBMKには原子炉圧力容器が存在しないのですから。
さらに少しの証拠も提示せずに加来氏はこのように主張しました。「いまだに(チェルノブイリの)原子炉事故によって人々が死亡しています」。彼は医師でもなく保健物理学者でもありません。さらに状況は「ますます悪化しています・・・原子炉はいまや、いつでも落下することでしょう。すると3つの原子炉が同時にメルトダウンすることになります。そしてすでに温度の上昇している使用済み核燃料棒用のプールが爆発する恐れもあります」。何より厄介なのは加来氏のいいかげんな提案です――「もし日本の首相に話を聞いてもらえるのであれば、チェルノブイリで実行された施策(ヘリコプターから様々な物資を投下した)を提案したい」。実際には、がれきそして内部原子炉の建屋に対して上空のヘリコプターから大量の物資を投下することは、そもそも放出を阻止するよう設計された構造物の完全性を危険にさらすことになりかねません。
チェルノブイリの上空を飛行するヘリコプターが炉心に向けて物資(訳注:ホウ酸、石灰石、鉛、粘土や砂等が投下された)を投下したかの有名なビデオ映像がこのような見解をもたらした一因です。しかしながら、現実にはこうした物資はほとんど炉心には届きませんでした。ヘリコプターが投下したものは原子炉の側面で燃え尽きてしまったのです。
チェルノブイリにまつわる2つ目のでっち上げられた神話は、原子炉を周囲から隔離するために作られた巨大なコンクリート構造物(サルコファガス)に関するものでした。サルコファガスはある種の一枚岩のコンクリート構造物であり、これに最近ひびが入り放射性物質が漏れ出しているというのです。これは真実ではありません。そもそもサフコファガスは一枚岩の構造体ではなく、金属のテントのようなものでした。このコンクリートにかかわる作り話はチェルノブイリに関する最も悪質なものの1つです。けれども私は現地で新たなサルコファガスの設置にあたるチームに協力しました。ですから、ソビエト製のサルコファガスの撤去と廃棄の取り組みは汚染拡散のリスクを大幅に削減して実現しているはずです。古いサルコファガスはがれきの上に残されていたために解体されました。ですから、この構造物の実際の安定性については今となっては誰も知ることができません。

Q.なぜあなたは日本における現状についてのマスコミ報道に警鐘を鳴らしているのでしょうか?

ジッヒ:マスコミは今回の事故についてコメントする語り手の顔を非常に慎重に選ぶ必要があると私は考えています。残念ながら、多くのマスコミは理論物理学者と原子力エンジニアの大きな違いすら理解していません。しかしながらその相違は開業医と脳外科医を比較するようなものです――脳外科医は脳について隅々まで知っている必要がありますが、開業医は脳についてはごく一般的なコメントをすることしかできません。
ですから、理論物理学者は一般的なコメントはできますが、原子炉設計の重大な詳細についてはほとんどコメントすることはできません。したがって、マスコミに対してはスリーマイル島での事故を隅々まで理解し、ウクライナでのチェルノブイリ事故そして英国のウィンドスケールでの事故について良く理解しているBWRの専門家を特定することを私は要請したいのです。そうすれば一般の人々に対して慎重で深刻な、そして正確な情報が提供されるようになるでしょう。
私が要請したい2つ目は、ある種の警告とも言えますが、日本の人々を非難しないことです。マスコミが現実に非難をしていると言っているのではありませんが、日本人をある種センセーショナルに非難する「放送時間」をマスコミがあえて許している傾向があることは確かですが、私は日本人が非難されるべきかは疑問です。日本の人々は非常に困難な状況で最善を尽くしています。もちろん実行しているすべてについてまったく完璧であると言っているわけではありません。しかし、私なら彼らを批判はしません。私なら日本の人々を助けようとするでしょうし、専門家を呼び寄せるでしょうし、可能なことを実行するでしょう。そして当然のことながら日本側には検証可能な数値を含めて可能な限り多くの情報を提供するよう求めることでしょう。
私はマスコミによる報道を追ってきました。そして、事故発生から最長で1週間後までの初期の段階では、どれもみなセンセーショナルな見出しで一杯でした。けれども、その後数値を見つけ出そうとして実際の記事を調べてみると、ごくわずかながらこうした数値を見つけ出すことができました。たとえば、「マサチューセッツ州での放射性ヨウ素の濃度がどうであるか」に関する今日の記事があります。放射性ヨウ素そしてその他の汚染物質はたとえば英国のウィンドスケール、あるいはチェルノブイリの事故、そして間違いなく核兵器の大気圏での実験の際にはもっと大量に放出されています。

放射性物質の放出が微量であるというのであれば、微量だと語っていただきたい。結局のところ、私たちの身体は放射性なのです。あなたの配偶者の隣で眠りにつけばあなたは放射能を浴びることになります。微量というのは、こうしたレベルの話で言っているのか、そうではないのか?そこでもっと慎重になってほしいのです。当然のことながら質問することをやめてはいけません。しかしそのときには具体的な数値を求めてください

アレクサンダー・ジッヒ(Alexander Sich)

オハイオ州スチューベンビルのフランシスカン大学の物理学准教授。
チェルノブイリの原子炉溶融を現地で調査した最初の米国研究者の一人である。
●記事中の見解はジッヒ氏自身によるものです。

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