韓国現地レポート:小さなグローバル企業。韓国中小企業の強さの秘密とは

第7回:「歯を削らない革新的な歯科技術“ヒューマンブリッジ”」

取材・原稿:申 美花(シン ミファ)氏

1.意地っ張りの若い患者がきっかけで生まれた新技術

權五達(クォン・オダル)院長

デンタビア歯科医院を経営する權五達(クォン・オダル)院長の人生を変えたきっかけは2004年に病院を訪れた若い男性の患者だった。折れた歯の治療に訪れた男性に、權氏は差し歯を勧め、「両側の健康な歯を削らなければならない」と説明したところ、その患者は頑なに「健康な歯を削らないで治療してほしい」と主張する。

歯を治療するためには両隣の健康な歯を削って土台を作り、なめらかにした後、「クラウン(被せもの)」を被せる以外に治療方法がないにもかかわらず、その患者は意を屈しない。

いつもなら「現在の治療法では健康な歯を削って差し歯にするか、インプラントの方法しかありません」と患者を説得して終わりだ。しかし權氏は、その患者をきっかけに、自ら「患者にしてみれば健康な歯を削ることはもったいないことだ。なぜ健康な歯を削らなければ治療ができないのか、他に方法はないのか」と悩み始めた。歯科大学に入学する前に、大学の工学部に途中まで通った経験のある權氏は、その日から仕事が終わると、夜遅くまで健康な歯を削らないでも良い治療法の研究に没頭し試行錯誤を重ねた。

3カ月の研究のすえ閃いたのが、両側の歯を削らずに“損傷した歯の両側の中側にブリッジを設置し、新しい人工の歯をかける技術”である。早速、開発した治療法で若い男性患者に初めて施術した。ブリッジが脱け落ちてしまうのではないかと不安だったが半年が過ぎても全く問題がなく、施術第一号となったその患者はとても満足したようだった。歯科医には珍しく、大学で工学部に通った経験が開発に大きな原動力となったのである。

權氏は新しく開発した“人にやさしい”補綴物(ほてつ:失われた歯牙を補う物)を“ヒューマンブリッジ”と命名した。実に面白いネーミングである。

その後、權氏は“ヒューマンブリッジ”技術の特許を取得し、独占的に保有している。その一方で、多くの歯科医師に“ヒューマンブリッジ”技術を普及し、現在は韓国内で約1,000カ所の歯科医院がこの方法で施術を行っている。

例:ヒューマンブリッジ(前歯)

患者のニーズに耳を傾けることを大切にする權氏はセミナーの講演会など多忙な毎日を送りながらも、毎週木曜日は必ず直接患者を診察する。「患者の要望を聞いて上げるためには、絶え間ない技術の進歩が必要です。自分が開発した治療法を患者と直接コミュニケーションしながらすり合わせしないと、技術の進歩はありえないからです。」と權氏は言う。いろいろな方法で技術開発を試みているため、歯科技工室で試作品を自ら作り、実験を重ねて、最終的に一人ひとりの患者に合わせながら、開発領域を広げているのだと權氏は語った。

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