企業とNGO/NPO

震災の経験を全国に―➀復興、これからが本番だ!

岩手・宮城のNPOなどで働くリーダーたちの声から

5年を迎えた東北被災地の経験が何かの参考になると考え、東北各地で復興に取り組む地域のリーダーたちの経験を2回にわたってお届けします。1回目は、岩手と宮城県の3人からの報告です。

岩手-宮城編1

発達障がい者とその家族を応援する

認定NPO法人みやぎ発達障害サポートネット 療育支援事業プリズム
事業責任者 後藤まほろさん

後藤まほろさん

後藤まほろさん

震災の話をしない子どもたち

Q1.あなたにとって東日本大震災はどのような出来事でしたか。

後藤:当たり前の日常が突然なくなることもある、という現実を知った日でした。

Q2.現在、あなたはどのような団体でどのような取り組みに関わっているのでしょうか。

後藤:認定NPO法人みやぎ発達障害サポートネットでは、発達障害のあるご本人とその家族の方々に、楽しく安心した生活が過ごせるようにと願い、療育、相談、情報発信、学び合い、おしゃべりサロンなどを行っています。

その中で私は療育事業「プリズム」において、高校3年生までの発達障害のある子ども、またはその疑いのある子に対し、個別療育、グループ療育をとおしてその子が自己肯定感を育むための療育指導を行っています。

みんなで楽しくたこ焼きパーティー

みんなで楽しくたこ焼きパーティー

Q3.その団体の取り組みを通じて、被災地や被災者が抱える復興に向けた課題、復興への足取りにいま何が一番必要だとお考えですか。

後藤:子どもたちは、震災の話をほとんどしません。私たちも無理に語らせようとはしません。

震災で大変な思いをしていたときは、不安なことはなるべく考えず、自分たちが今できることは何かを考え、子どもたちからも前向きな発言が多く聞こえてきましたが、5年という月日が経った今は、震災の話をすると、辛かった記憶や先行き見えない不安に駆られることもあり、「思い出したくない」という声が多く聞かれます。

また、本人は津波の被害にあっていなくても、家や家族をなくした友だちを思い、自分のことのように悲しい気持ちになっている子もいます。

発達障害のある子は、嫌なことのフラッシュバックに悩まされる子が多いので、震災について考えるときは、大変だったことを思い出すという作業よりも、今できること、できていること、これからできそうなことを一緒に考えることが、私たちができること、必要なことだと考えています。もし、子供たちに震災のときの話を聞くときには「何が大変だった?」ではなく、「震災のときに、何が必要だと思った?」という防災の視点で質問をしてもらえると、子どもたちもフラッシュバックを起こさずに答えることができると思います。

個人に合わせた備えにも行政の心遣いを

Q4.企業の支援や行政の取り組みに改善すべき点があればお聞かせください。

後藤:自閉症・発達障害の子が家族にいる場合、通常必要な物のほかに、その子が食べられるもの、余暇・安心グッズなどを防災用品に入れておく必要があります。学校や施設での避難訓練のほかに、個人に合わせた備えについても、行政の方で情報があるといいなと思います。

Q5.10年後のあなたはどこでどのような活動をしているでしょうか。オープンにできる範囲で夢や抱負がありましたらお聞かせください。

後藤:10年後も仙台で、このNPOで、発達障害のある子への療育指導や相談などに従事していたいと思います。発達障害への理解は、この10年でかなり広がってきたと感じていますが、理解をした上で、好ましい対応ができるところまでの理解はまだまだだと思います。

クラスに2人程度在籍していると言われている発達障害。その子が、安心して暮らしていくには、人とのいい関わりを積み重ねて、自信を持って生きていけることが大事です。そのために、社会とうまく付き合っていくコツを、本人、家族と一緒にこれからも考えていきたいと思います。

●認定NPO法人みやぎ発達障害サポートネット

http://mddsnet.jp/


地域コミュニティの再生に一役

p style=”font-size: small”>NPO法人遠野まごころネット
サブマネージャー 佐々木 雪恵さん

佐々木雪恵さん

佐々木雪恵さん

事業先行ではなく、まずは現地の声を聴く

Q1.あなたにとって東日本大震災はどのような出来事でしたか。

佐々木:今まで「当たり前」だと思っていた日常の大切さ、人とのつながりの大切さがわかりました。

Q2.現在、あなたはどのような団体で日々どのような取り組みに関わっているのでしょうか。

佐々木:災害救援活動や国際協力活動で被災者支援のために情報収集・発信を行っています。今後起こり得る自然災害時に対応できるマニュアル・ネットワークの構築、指定障害福祉サービス事業の運営、酒類の醸造、及び販売事業をしている団体です。

これまでの主な活動には、被災された皆さんのための多目的農園の運営をとおして、コミュニティづくりと生業づくりを行う「まごころの郷」、コミュニティの不全、求人と求職のミスマッチ、産業の衰退といった問題に取り組む「大槌たすけあいセンター」、障がいを持った方々の就労と自立を支援する「まごころ就労支援センター」、被災地物産の販売事業である「みちのく社中」などの活動があります。

私自身は、財務状況の把握、助成金収支報告、就労支援事業の国保連請求など、経理の業務が主な役割です。

遠野まごころネットの取り組みから

遠野まごころネットの取り組みから

岩手-宮城編6

Q3.いま、被災地や被災者には何が一番必要だとお考えですか。

佐々木:支援を受けたくても受けることができない方がいます。そうした人にも手を差し伸べられるようにしなければなりません。

Q4.企業の支援や行政の取り組みに改善すべき点があればお聞かせください。

佐々木:まず、現地の方の声を聞き、相談し、皆で取り組むということが大切です。それがないまま、事業が先に進んだ後で意見を聞く場を設けるというケースがときたま見られます。

Q5.10年後のあなたはどこでどのような活動をしているでしょうか。

佐々木:今回の災害支援で今まで培ったノウハウ、つながりを大事に10年の間にまた大きな震災があっても迅速な対応と連絡体制が取れる団体、スタッフに成長できていればと思っています。

●NPO法人遠野まごころネット

http://tonomagokoro.net/


遊びで地域に賑わいを

一般社団法人プレーワーカーズ
事務局長 神林 俊一さん

神林 俊一さん

神林 俊一さん

震災を機に子どもたちの心のケアに

Q1.あなたにとって東日本大震災はどのような出来事でしたか。

神林:震災直後の2011年4月26日から、東京にある団体「NPO法人日本冒険遊び場づくり協会」とともに宮城県気仙沼市で子どもの心のケアを旗印に活動してきました。自分が大きく前に踏み出すきっかけになりました。

Q2.現在、あなたはどのような団体でどのような取り組みに関わっているのでしょうか。

神林:初めは気仙沼大谷地区で、常設の子どもの遊び場を被災した住民と協力して開所しました。無料で登録のいらない遊び場で、子どもたちから「気仙沼あそびーばー」と名付けられました。そこを拠点に移動型遊び場「プレーカー」に乗って岩手県・宮城・福島などの被災地を訪ね、児童館・プレーパーク・学童だけでなく、行政・NPOやママサークルなどといった子どもに関わるあらゆる場所で、遊びの企画から相談までの中間支援を行っています。

プレーワーカーズが取り組む遊び場の支援から(以下3点)

プレーワーカーズが取り組む遊び場の支援から(以下3点)

岩手-宮城編8岩手-宮城編9

“引きこもり・不登校・中退”の青少年に耳を貸す

Q3.いま、被災地や被災者には何が一番必要だとお考えですか。

神林:震災以降、目に見えづらいストレスで家庭の環境が悪化し、夫婦が離婚して家族が分断されたり、その後再婚した家庭もあります。大人はさまざまな方法で気持ちの整理をつけて新たなに踏み出していますが、子どもには展開が速すぎ、むしろ心の傷が深まるケースも見てきました。

また、災害公営住宅への転居や自立再建によって新しい家での生活が始まったものの、仮設住宅に暮らしている子どもたちからいじめられるケースもあります。

遊び場には遅い時間になるとの青少年も来ます。「津波がきて良かった」と彼らが話していたのを聞いたことがあります。震災前から地域に居場所がなく、辛い日常を過ごしていたのです。

茶髪に染めて粋がったり、ピアスをあけたりする子どもは、その時点から大人にとって問題のある子どもだと見られがちです。特に悪いことをしていないのに嫌な目で見られたりしたそうです。

震災直後はあわただしく、地域の大人は彼ら青少年とも協力しましたが、最近はまた「震災前のように都合のよい大人だけの社会になってきて息苦しい…」と話しています。

子どもたちを地域の“真ん中”に

Q4.10年後のあなたはどこでどのような活動をしているでしょうか。オープンにできる範囲で夢や抱負がありましたらお聞かせください。

神林:こうした不登校・中退の子どもの支援を行っている団体はまだまだ少ないのが現実です。大人は震災があった地域を元に戻すのではなく、子どもをしっかりと社会の真ん中に据えた、より良い環境にしていくことを意識する必要があります。

これから復興創成期としての5年が始まります。私たちは子どもがしっかりと街づくりの「まんなか」に入った社会をイメージしていく必要があります。そのためにこれから先の5年を歩いていきたいと思います。

●一般社団法人プレーワーカーズ

http://playworkers.org/


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