識者に聞く

新しい価値観で未来を創り直すために「裸足の大学」インドのベアフット・カレッジに学ぶこと

2012年最初に登場頂くのは、第20回目を迎えた公益財団法人旭硝子財団(理事長 田中鐵二)の地球環境国際賞「ブループラネット賞」を受賞したインドのベアフット・カレッジだ。1972年に設立したベアフット・カレッジは、貧しい村々を拠点に地域の伝統的な知識を活かしつつ、村民自らの力で灌漑ダム建設やソーラー発電を利用するなど、持続可能で自立的な地域社会への転換を促している。インドのみならずアフリカ、アジア、南米まで広がる思想の根幹について、創設者の一人、バンカー・ロイ氏に伺った。

太陽光発電のエンジニアは文盲のおばあちゃん

Q ベアフット・カレッジは1972年にインドのラジャスタン州、約2,000人が住むティアロニア村で活動を開始しました。読み書きができない—しかも年老いた村のおばあさんたちを対象に、最新の技術を教えるシステムは、スタート時からのアイデアなのでしょうか

バンカー・ロイ氏

ロイ:もちろん最初からすべてのアイデアがあったわけではなく、現地で実際の活動をしながら生まれました。おばあさんたちをトレーニングするアイデアも私のオリジナルではなく、村の人々と話し合いながらそのような問題解決策を見つけ出したものです。

村での大きな課題の一つは、村から都会への人の流失をどう防ぐかでした。

インドでも若者たちは農村に留まることなく都会に流出してしまいます。ですから(持続可能な村社会を作るには)そもそも“村を去らないような人”を選んでトレーニングする、そこで“おばあちゃんたち”を対象とする事になりました。

もう一つの課題は、村に仕事を確保することでした。そのため、おばあちゃんたちをエンジニアとして教育し、太陽光などの発電設備を村に設置する、それによって村全体の生活の質が向上し、他の多くの人たちも村に留まるようになりました。

Q 失礼ですが、文盲である年老いた女性たちに最新技術を学ばせることが、想像できませんでした。

ロイ:文盲である人たちの特長は、決して物事を忘れない事です。むしろ読み書きができる人たちこそ、いろいろなことが頭をよぎり、物事を忘れがちになると思います。おばあちゃんたちには研修所で6カ月にわたってソーラーの仕組みの勉強をしてもらうのですが、村に戻っても決して知識を忘れることはありません。きちにんと覚えていてくれるのです。ですから、読み書きができないからといって見下したり、あるいは拒否するのは非常に勿体ないことです。彼女たちが社会に貢献する能力は非常に大きいですし、こういったおばあちゃんたちの社会における役割はぜひ見直すべきです。

Q 従来とは“逆の価値観”ですね。

ロイ:われわれが逆なのではなくて、他が逆なのだと思いますよ。

ベアフット・カレッジによる太陽光発電を自主的に設置・運営
文盲である彼女たちに技術を教えるのは基本“口伝口聞”。言葉が分からない場合はサイン・ランゲージ(手話)などを使う。実際に彼女たちと会うと、言葉が分からなくとも、こちらの意図を全て把握する理解力の高さに驚くという。
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