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『日本林業はよみがえる 森林再生のビジネスモデルを描く』

著者 梶山恵司 日本経済新聞出版社 1,800円

美しい里山も中は真っ暗だった

日本は国土の2/3を森が占める「森林大国」と呼ばれる。ご存知だろうか。京都議定書で世界に約束したCO2(二酸化炭素)の6%削減目標うち、3.9%は“日本の森林による1300万炭素トンのCO2吸収”でまかなうことになっていることを……。

京都議定書から13年、環境を名目にした森林整備という名の公共事業に多額の資金が注がれてきた。だが、日本の森が抱える根本問題の改善にはいまだ目覚しい進展は見られない。著者の梶山恵司(かじやま・ひさし)氏は、菅総理の“抜本改革”の指示のもと、2010年11月に農林水産省が打ち出した「森林・林業再生プラン」の立案者の一人といわれる。

著者と森林の関わりは次のようなものだ。

「経済同友会の環境委員長になられた福井俊彦氏(前日銀総裁・当時は富士通総研理事長)の補佐役として2001年に同友会に出向した。そこで森林をテーマとして取り扱うようになった。目に浮かんだのは、ドイツに駐在していたおりに体験した森との出会いだった。ドイツでは休日は森に行き、散歩をし、食事をして、自然と森を親しんだ経験を持つ。ところが1998年に日本に帰国して、日本の森があまりにも荒れているのに驚いた。日本の森は、遠くから見れば懐かしい絵に描いたような里山でも、一歩中に入れば真っ暗で、手入れが行き届いたドイツの森とは大違いだったのである(筆者要約)。」

日本の森林が抱える深刻な課題

この数十年、日本の森の手入れはほとんどおざなりの状況であった。いま、一番の課題は間伐といわれる。戦後植えた森林の成長に合わせて、木材の間引きをしなければならないのだが、手入れが進まず、太陽の届かぬ森が各地で見られる。半ば“死に体”に近い山では、CO2吸収力も大きく損なわれるという。

日本の林業は、長らく不振の理由を「材価(木材価格)の低迷」にあるとしてきた。戦後の復興期、木材は高値で取引された。70代末には欧米との価格差が3倍になったといわれるほどだ。だが、一度切り出された山がよみがえるには50年近い歳月を要する。日本の森林は、70年代以降、森林組合などを中心とした植林に力を注いできた。木材の利用は外材などにシフトし、それによって木材価格は下がり、山林所有者の多くが林業から離れる一方、高齢化も重なって山は荒れ放題となった。

本書の中では、日本の林業が抱える問題の指摘が随所に記される。林業経営の規模が小さいこと、現金化を急ぐあまり短伐や皆伐を繰り返してきたこと、林業機械の普及や路網整備が遅れたこと、木材の利用の広がりが不十分だったことなど……。

ドイツの林業から学ぶべきこと

実は、森林面積を比較すると、ドイツは1,060万ヘクタールに対し、日本の森林面積は2,500万ヘクタールにも及んでおり、うち人工林面積だけで1,040万ヘクタールだと著者は語る。日本はドイツに匹敵するかそれ以上の森林大国なのである。

ドイツの成功事例が取り上げられている。ドイツでは、木材の成長量の一定量を定期的に・安定的に伐採し、育った木を収穫するための伐採である主伐後の更新が義務づけられている。「伐ったら植える」が徹底されているのだ。わが国では九州地方などで大規模な皆伐が行われていると聞くが、大規模な皆伐は土壌に対する負荷が強く、伐った後の植林とその後の生育にも莫大な費用が掛かる。

森林ごとに管理の目標を定め、大きな木材だけを定期的に伐採し、植林する方が遥かに負担は少ないのだと著者は語る。林業はドイツでは雇用創出産業としても注目されている。林業そのものに加え、製材などの一次加工、木質ボードなどの二次加工、木材住宅、内装、家具、製紙、林業・木材産業機械のほか、最近では木材ペレットを利用したバイオマスエネルギー利用などへと広がっている。ドイツの木材関連産業人口は、2005年の資料で99万人、売上は1,223億ユーロ(1ユーロを110円と換算すると13兆4,530億円とドイツの化学産業にほぼ匹敵する)となっている。

保育から利用への転換を

筆者がうらやましいと思ったのは、製材→木質ボード→紙パルプ→エネルギー利用といった木材カスケード(総合)利用が社会に受け入れられていることだ。日本では木材の利用は柱材などの構造材に限られ、国産材の木質ボードなどへの利用は広がっていない。また紙パルプは外材に依存し、エネルギー利用は補助金目当てのものがほとんどだ。「保育から利用へ」の転換が急がれる。

ドイツをはじめオーストリア、北欧といった欧州の代表的な林業国では、林業の収益性を高めることこそ所有者の森林への関心を高め、森林整備意欲を引き出すことに力を注いでいる。結果として森林が持つ水源涵養、治山治水、生物多様性の保全、景観、レクリェーション、CO2吸収源としての活用、エネルギー源など多面的機能を発揮させることとなる。

森林の再生と林業の復活は裏表の関係だ。そのためには、①資源としての森林の見直し、②支援産業・機関の育成、③競争環境の導入、④需要の掘り起しが待ったなしとなっている。著者の“抜本改革”の意欲に応える山林所有者たちの出現を望みたい。この10年あまりの短い期間で地域の森林を再生させた京都・日吉町森林組合の取り組みが心強い。

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