ISO26000がソーシャルビジネスの定義を変える

~「社会的責任」がもたらすチャンスとリスク~

チャンスとリスク

QISO26000 がもたらすチャンスとリスクについてもお話しいただけますか。
蝦名 ISO26000の発行は顧客獲得と採用の2つに大きな影響が及んできています。

◎社会的責任を果たすかどうかで顧客が増減する
まず、顧客獲得について話しましょう。ISO26000に取り組む組織は、サプライチェーンマネジメント(SCM)によるCSR調達をより重視することになります。CSR調達というのは簡単にいうと、社会的責任を果たしている組織と取引するということで、その範囲は直接の取引先だけでなく、自社と二次、三次的に関係する企業にも及びます。

大企業を中心にISO26000に取り組む企業が増えるということは、その企業から選ばれる条件として、社会的責任を果たしているかどうかが重要になってきているということです。今まで取引の選定基準は、価格、品質、納期、それに追加して実績(今までの関係性)が重要視されました。最近では環境配慮も重視されていますが、今後はこれに「人権」「労働慣行」「公正な事業慣行」「コミュニティ参画および開発」といった要素が今まで以上に強まります。

たとえば、価格、品質、納期、環境性能は申し分ないが、従業員の労働状況に問題(性差別や過重労働が見受けられる)がある、といった点で、お客様を失う可能性が挙げられます。逆に、価格、品質、納期などで差が無い場合、従業員満足や、地域への貢献の度合いが差別化のポイントとなってきます。
つまり、ISO26000に対応しないと既存の取引先を失うリスクにもなりますし、いち早く対応しておくことは、新たな顧客を獲得するチャンスにもなります。

たとえば、兵庫県西宮市にある社員40名未満の企業が ISO26000の発行前にいち早くISO26000を参考にしてCSR報告書を編集したことで、注目を浴びたことが挙げられます。

◎社会的責任を果たすかどうかで採用力が変わる
次に、採用です。企業・組織が社会的責任を果たしているかどうかは、優秀な人材の採用力に影響を及ぼしてきます。実際に、社会への貢献を実感できる仕事を求めて大手企業を辞め、ソーシャルベンチャーに転職したり、起業したりする方が日本には多くいます。仕事にやりがいを求め出産後も仕事を続けたいという意思を持った女性も増えており、就職活動時に女性の働きやすさにも注目しています。

ISO26000を基に社会的責任を果たす組織を作り上げられれば、組織の規模に関係なく優秀な人材が集まる可能性もあります。逆に社会的責任を果たしていないとみなされれば、優秀な人材が集まらなくなるでしょう。ISO26000を基に社内外への社会的責任の徹底と適切な情報発信が重要となります。

学生側はCSRもエントリーの判断基準にし始めています。最近では大学の就職課にCSR報告書が用意されていたり、企業のCSR活動を記載する欄を採用サイトの中に設けたりする例も見られます。また、立派なCSR報告書を作成しても、従業員にそれが徹底されていなければ、会社説明会、OB訪問等で実態がわかってしまいます。

ソーシャルビジネスの再定義

QISO26000 の発行であらためてソーシャルビジネスが再定義される可能性があるとおっしゃっていますが、それはどういうことでしょうか?
蝦名 ソーシャルビジネスといえば、ビジネスで社会の課題に取り組むことを言います。メディアの注目度も高まり、就職先としても徐々に人気が高まってきています。大手企業がCSRの側面からソーシャルビジネスを支援する動きも出ています。ではなぜISO26000の発行がソーシャルビジネスの再定義につながるのでしょうか?

それは先ほど述べた、人権、労働慣行、公正な事業慣行という、現在のソーシャルビジネスの議論に入っていない要素がISO26000に入っているからです。現状のソーシャルビジネスの議論は、組織が行っている事業がいかに社会的課題を解決しているか、また事業性を確立し、持続可能な経済活動と両立しているかという2点で論じられるケースばかりです。ソーシャルビジネスを行う組織の社員や取引先に対しての社会的責任はあまり述べられていません。

つまり、ソーシャルビジネスの社会性は顧客だけでなく、社員と取引先に対しても求められる時代になっています。その結果、現在ソーシャルビジネスを担っているとされている組織がソーシャルビジネスといえない場合が出てきます。

一方、一般に知名度が高くない国内の中小企業にも、社会的責任を果たしながら、社会的課題に対して事業を継続している企業があるということが最近注目されてきました。これらの企業は特にソーシャルビジネスであるということを自称せずとも、ISO26000が掲げるテーマを十二分に満たしている組織があります。そのため、ISO26000を基に自らの組織の取り組みを整理して、発信することで大きな認知を得て、新しいソーシャルビジネスの流れを作る可能性を秘めています。

◎モチベーションの高い組織の業績は高い
従業員に対する社会的責任を果たすことは企業競争力を強めることにもなります。バブル崩壊後の成果主義の際に、業績を目的とし至上命題とする風潮がありましたが、最近では社員が高いモチベーションを保ち、顧客満足度を上げた結果が業績であるということが明らかになってきました。つまり、業績が高いから従業員のモチベーションが高いのではなく、従業員のモチベーションが高い組織の業績が高いというあるべき因果関係が再認識されています。

私の知る事例としても、事業型NPOが、公正な労働慣行を整備したことで、今までやめていた優秀な社員をひきとめ、サービスの質があがったというケースがあります。以上のように、現状ソーシャルビジネスと自称している組織も本当の意味でソーシャルビジネスなのかを問われると共に、現在ソーシャルビジネスとして認識されていない組織も、ソーシャルビジネスとして認識される可能性があります。

ビジネスは社会課題を解決する

Q ISO26000の発行をこれまでのビジネスのあり方を見直すべき絶好のチャンスにしたいですね。
蝦名 再度述べますが、ISO26000は認証システムではなく、ガイドラインです。だからこそ、組織の自主性が問われます。事業に必要不可欠な投資として、いち早く、かつ自主的な対応を行った企業にこそチャンスが訪れます。一般消費者に知られていない組織であっても、ただそれを整理し、発信していないだけで、充分に社会的責任を果たしている企業がたくさんあり、そのような企業にとってISO26000は絶好のチャンスとなります。また、ISO26000を基に組織や事業の見直しを測ることで、企業の競争力をつけることも可能です。

ISO26000の発行は、バブル崩壊後、年功序列の仕組みと共に薄れてしまった、ビジネスにおける貢献の精神と、「そもそもビジネスとは社会課題を解決するものである」という原点に回帰するきっかけとなるでしょう。

蝦名 裕一郎さんのプロフィール
アミタエコブレーン株式会社 マーケティング事業部 マーケティングチームに所属。
アミタ株式会社に入社後、人事部門でアミタへのエントリー者数を昨年対比3倍にする等成果を上げる。その後、コンサルティング部門で企業の環境教育活動のプロデュース、省庁との地域活性化支援事業の運営等に携わる。ソーシャルビジネスに関する新規事業部門を経て、現在はCSRレポートの横断検索サイト「CSR JAPAN」の運営とCSRコミュニケーションの分析、コンサルティング業務に従事。
関連サイト
CSRレポートの横断検索サイト「CSR JAPAN」はコチラ↓
http://www.csr-japan.jpCSRに関する蝦名氏の個人ブログ「CSRが当たり前になる世の中に」はコチラ↓
http://csr-yebina.blogspot.com

参考:ISO26000の日本語版について
ISO・SR国内委員会サイトはコチラ↓
http://iso26000.jsa.or.jp/contents/index.asp

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