「科学技術は環境(エコ)の基本」シリーズ

【第6回】科学技術を学ぼう④

~公式テキストから~「環境リスクとリスクマネジメント」「技術者のモラル」「環境と経済」

第10章 技術者のモラル

~社会への警告(ホイッスル・ブローも科学技術者の重要な役割

船越:科学技術者には広く社会の公共福祉の推進に寄与するという観点から、自己の良心に基づく品位と責任感を持つこと、そして何よりも公益性を念頭に置いた中立公正さと高いモラルが求められます。同様に、科学技術者には公衆の安全を確保するために、科学技術的対策や法的根拠に準拠した対策のほかに、科学技術者としての倫理に基づいた行動や対策を講じていくという大きな責任があります。

では、モラルと倫理の違いについて考えてみます。一般的に、倫理とモラルは下図に示した『意識』と『規範』というレベルの差として定義されています。

意識レベルには個人の道徳感に基づく『モラル』と、社会の共通認識となっている『常識』がありますが、モラルを規範化したものが『倫理』であり、常識を規範化したものが『法』であると言われます。そして、『倫理』と『法』の違いは、倫理が自律的規範であるのに対し、法は他律的規範であると捉えられています。

すなわち、倫理はそれを守るかどうかは個人意識(モラル)に委ねられる側面があるものの、科学技術者が常に自律的に倫理観を持って行動することによって、事件・事故を未然に防止することが可能となるのに対し、法はあくまで事件・事故の発生後に社会(国家権力等)による摘発・罰則等の制裁を課すものであり、後追い的規範と言えます。

科学技術者は、様々な事象を科学的に高い次元から俯瞰できる能力を有していることから、一般社会や自己が所属する組織・企業などに対して、「それはいけない! !」「この様に改善するべき!!」と警告(ホイッスル・ブロー:whistle blow)する義務があります。そのため、科学技術者には様々な事象における僅かな兆候の中から、将来起り得る災害や事故などを予見・予測できる能力を備えておくことが求められます。

ノーベル平和賞受賞のアル・ゴア氏が、『不都合な真実』という映画を通して提起した大規模な地球環境問題など、実感を伴わなくても明らかに進行している厳しい現実にも眼をそらすことなく、正しい事実を見抜き、現実的に対処していく姿勢が求められるのです。すなわち、科学技術者には、過去に人類が犯してきた数々の誤りを謙虚に認め、それを未来に向けた貴重な教訓とする気持ちでホイッスル・ブロー義務を果たすことが期待されているのです。

しかし、現実には個人の義務感だけでこうした警告を発することは困難を極める場面も想定されます。それだけに、技術者自身が日頃から技術研鑽を積んで社会や組織の信頼を得る努力を重ねるとともに、組織として常に意見交換し易い雰囲気を醸成し、互いの利益相反を克服し合える組織環境を作っておくことが必要になります。

TOPへ戻る