「科学技術は環境(エコ)の基本」シリーズ

【第6回】科学技術を学ぼう④

~公式テキストから~「環境リスクとリスクマネジメント」「技術者のモラル」「環境と経済」

第11章 環境と経済

~社会への警告(ホイッスル・ブローも科学技術者の重要な役割

船越:産業革命以降、私達はこれまで経済優先の社会システムの中で様々な利便性を享受してきましたが、大量消費・大量廃棄や化石燃料依存の経済システムの陰で、地球上の貴重な自然環境や資源の多くを失い、いまや自己破壊へと進んでいる様に思われます。地球の貴重な財産である環境や資源に限界が見え始めた今、私達は将来世代のために世界と協調してこの貴重な地球を守り、持続可能な新たな社会に創り変えていく責任があります。

例えば、温暖化ガスの原因となる化石燃料に替えて再生可能エネルギーなどの活用も有効と考えられますが、その実現には割高な利用コストの低減など経済的課題の克服が必要であり、その解決には斬新的な環境技術や科学技術の進展が不可欠です。

そうしたなか、米国のオバマ大統領は地球温暖化の取組みを前進させるとともに、環境ビジネスを通して経済の活性化を促そうと『グリーン・ニューディール政策』を提唱しました。そこで謳われている環境ビジネスには、再生可能エネルギー利用、バイオマス利用、高断熱住宅、エコカー、マイクログリッド等々、持続可能な社会構築に必要な科学技術分野が数多く盛り込まれています。世界が環境・経済政策で足並みを揃えることで、温暖化対策、世界経済の活性化がより実効性のあるものになると考えられています。

環境ビジネスへの投資で経済活性化を図ろうとする考えは今や世界共通の認識となっていますが、その手法は国によって異なります。米国では、温暖化効果ガスの排出削減目標を立て、『キャップ・アンド・トレード(Cap & Trade)』というCO2排出量取引制度を設けました。EUは国ごとに法的拘束力のある再生可能エネルギー導入目標を設定し、環境税と環境協定を組み合わせた政策を導入しています。

これに対し、我が国は1990年比25%削減という世界で最も高い目標を表明したものの、国民の経済負担や産業活動への影響の大きさなどから、現状では実現困難との声が大きくなっています。今後、世界が少しでも高い削減目標に到達するためには、より高度な環境技術開発の国家戦略が求められます。具体的には、化石燃料消費の多い車から燃料消費の少ないエコカーへの転換策や、より効率的なエネルギー供給を可能にする地域分散型エネルギー供給システム(マイクログリッド)導入に向けた施策などが注目されています。

しかし、世界はCO2削減の必要性は共有しているものの、経済力の弱い途上国側とできるだけ経済支出を抑えたい先進国側の間で、経済負担のあり方を巡って激しく対立しています。世界人口の18%にも満たない先進諸国が、世界の富の70%、エネルギー消費の半数を占め、途上国との格差がますます拡大している現状で、持続可能な社会を実現するためには、世界が温暖化防止に必要なコストを「将来世代のための投資」とする認識を共有し、各国が足並みを揃えて取り組んでいくための新たな経済システムの構築が不可欠です。

また、環境問題は人口、食料、資源枯渇など多くの問題とも関わっていますが、とりわけ食料問題は危機的状況にあると言われます。現在、世界では8億人を超える人々が飢餓状態にありますが、2050年には90億人を超えると予測される世界人口を養うために必要な食料生産は、水資源や農地拡大の限界からますます困難になると考えられるからです。

WFPハンバーマップ

これまで限られた農地のなかで、増加する食料需要に見合う食料生産を実現できたのは、「第一次緑の革命」と呼ばれる農薬や化学肥料などの開発に始まり、近年の「第三次緑の革命」と称される遺伝子操作作物の開発など、高度先端技術に依るところが大ですが、これからの課題は、農業生産に必要な農地や水の確保です。特に水は、私達が利用可能な地表淡水は地球上の水の0.008%に過ぎず、今後、少ない水資源を巡る地域紛争の急増が懸念されています。

それを解決する手段として注目されているのが海水の淡水化技術です。中でも、淡水化だけでなく汚水浄化にも活用できる浸透膜を利用した「逆浸透法」には、大きな期待が掛けられています。我が国は浸透膜生産の最先端技術と圧倒的な世界シェアを有していますが、高コストが課題となっています。しかし、この技術の普及は食料問題だけでなく途上国等における生活改善や貧困問題にも多大な貢献が可能と考えられますので、大幅なコストダウンの実現に向けた更なる技術革新が期待されます。(2012年11月)

●「科学技術は環境(エコ)の基本」シリーズ

【はじめに】時代が必要とする科学技術エコリーダーとは?
【第1回】東日本大震災と科学技術 ~科学の目で今を選択することが、未来を変える~
【第2回】ニュースの中の環境問題と科学技術~何かしなければの想いを実践につなげる~
【第3回】科学技術を学ぼう①「地球環境の現状と科学技術」「環境問題とその側面」「地球環境問題への対策技術」
【第4回】科学技術を学ぼう②「生活と科学技術」「エネルギー開発と対策技術」「地球規模の環境問題と対策技術」
【第5回】科学技術を学ぼう③「IT技術の仕組みと活用」「自然災害から国土をまもる環境保全対策」
【第6回】科学技術を学ぼう④「環境リスクとリスクマネジメント」「技術者のモラル」「環境と経済」
【第7回】科学技術を学ぼう⑤「国際化」「人材育成人材活用を急ごう」「社会環境への気配り」
【第8回】行動力とリ-ダ-シップが社会を変える

●科学技術エコリーダー養成講座について

●エコリーダー公式テキスト「<科学技術>エコリーダーになろう」

既に16万人を超えるeco検定合格者(エコピープル)を対象に、スキルアップ事業「科学技術エコリーダー養成講座」を定期的に開催しています。職場や地域で環境分野のリーダー育成を目的とするもので、2日間の講習修了者には東京商工会議所および(社)日本技術士会「持続可能な社会推進センター」からの認定証が発行されます。

●科学技術エコリーダー養成講座:大阪会場
日時:2013年3月2日(土)、3日(日)
時間:AM10:00~PM4:00(2日間共通)
https://www.eco-people.jp/skillup/kouzaseminar/7875

●上記以外の今後のスケジュールについては下記にお問い合わせください。
[問い合わせ先] エコピープル支援協議会 事務局(エコリーダー担当)
Tel. 03-3556-6405 Fax. 03-5226-3322
E-mail: ecoleader-uketsuke@ep-support.jp

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