識者に聞く

自然エネルギーに舵を切る米国のIT企業

大手IT企業の最新の取り組みについて

勝ち残りを賭けたルールづくりに参画を
日本のIT企業に問われるもの

デロイト トーマツ コンサルティング㈱ディレクター 國分俊史氏の報告から

國分俊史 氏

私どもの調査では、米国の主要IT企業の電力消費量に占める再生エネルギーの比率は、Facebookが23%、Googleが30%、Microsoftが46%、Appleがほぼ100%となっているのに対し、わが国を代表するA社は0.07%、B社は未公開となっています。

米国のIT企業の多くが再生可能エネルギー100%に向けて舵を切っているのに対し、日本企業の対応は大きく出遅れています。日本のA社、B社とも7月1日にスタートした固定価格買取制度を活用し、太陽光発電にA社で約150億円、B社で約500億円を投資し、電力会社に売電する予定となっています。ただし、再生可能エネルギー利用の具体的な目標は明確にされていません。

日本ではこの種の議論は東日本大震災以降ようやく活発化していますが、米国ではその前から戦略的に取り組まれていることが分かります。

Appleは再生可能エネルギー化100%を視野にノースカロライナ州に新たなデータセンターを新設しようとしています。そこでは民間最大規模となる水素・燃料電池発電を行い、太陽光と水素で全体の60%、残りの40%は外部の風力電源から購入し、再生可能エネルギー100%化を達成しようとするものです。

再生可能エネルギーに向かう日米のエネルギー構造を2010年の例で比較すると、米国が再生可能エネルギー1,672億kWhの保有量に対し、Google1社の電力使用量は22.6億kWh。全体の1.4%にすぎません。それに対して日本では再生可能エネルギー119億kWhに対しの大手A社だけで88.1億kWhですから、74%となります。再生可能エネルギーの絶対量そのものが非常に脆弱だといえます。Googleの場合、政府が再生可能エネルギーをより重視するということであれば明日からでも100%化が可能なのです。

政策提言活動を強化する米国企業

Googleの場合、自ら再生可能エネルギーへの投資を行う一方で、クリーンエネルギーに置き換えることを政府に働きかけています。

米国では、世界最大級の投資銀行であるゴールドマンサックスの再生可能エネルギーへの投資や政策制定への参加を見落とせません。2008年にオバマ大統領は10年間で1,500億ドル(約12兆円)を再生可能エネルギーに投じると発表しましたが、ゴールドマンサックスやGoogleの働きかけが成果を上げたともいえます。

米国では、政府の動きに合わせて、主要投資ファンドが再生可能エネルギーへの投資を進めています。ブラックストーンは約9,000億円、KKRは約1,200億円、ストーンピーク・インフラストラクチャー・パートナーズは38億円の投資を進めています。それに対し、わが国では匿名組合をつくり、発電事業に投資する事例はあるものの小規模にとどまっています。7月1日の固定価格買取制度の施行を受け、ようやく投資ファンドに新規設立の動きが生まれているにすぎません。

有利なビジネスルールをいかに構築するか

日本企業はできあがった国際ルールの中でビジネスをやるというスタンスですが、米国企業は自ら政府などに働きかけ、ルールそのものをつくろうと動いています。つまり、ビジネスの基盤となるルールそのものを自分たちの主導権で育てているのです。この差がやがて大きな差になる可能性があります。

米国企業のロビー活動や投資ファンドのグリーンテクノロジーへの投資実績を踏まえると、日本のIT企業は米国の先進IT企業が再生可能エネルギー比率100%化を国際ルールとして求めてくるリスクを考えておく必要があります。ルール形成の兆候をNGOやNPOとの関係構築を通じて速やかに把握するとともに、自らに有利なルール形成を進めていく戦略づくりが求められています。

※この記事は当日の会議をもとに書いたものです。文責は当編集部にあります。

●国際環境NGOグリーンピース

http://www.greenpeace.org/japan/ja/

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