識者に聞く

自然エネルギーに舵を切る米国のIT企業

大手IT企業の最新の取り組みについて

国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは、このほど新レポート「電気をたくさん使っているのは誰?」を発表。電力消費の大口消費者である経済界、中でも今後電力消費の急増が予想されるIT関連企業に積極的な「省エネ」と「電源責任」を求めた。今回の発表に合わせて、グリーンピース・インターナショナルのギャリー・クック氏と経営コンサルタントの國分俊史氏をゲストが、IT企業の最新の動きについて報告した。

写真左から、グリーンピース・ジャパン エネルギー担当 高田久代氏、
グリーンピース・インターナショナル ギャリー・クック氏、経営コンサルタント 國分俊史氏

電気を多く使っている企業に「省エネ」と「電源責任」を

グリーンピース・ジャパンからの問題提起

日本の電力消費の3分の2は、産業部門と業務部門からなる経済界が消費しています。そのうち製造業は産業部門全体の電力消費の約8割を占め、日本全体の電力の28%を占めています。しかし、製造業の99%の業種では、生産額に占める電気代の割合は5%未満と低く、電力コスト上昇が製造業全体に与える影響は限定的で、業種によって異なることが分かりました。一方、今後電力消費量の大きな増加が見込まれる産業に情報通信分野があります。2006年に約500億kWhだった消費電力が2025年には5.2倍となり、国内総発電量の20%に達すると予想されています(2008年、経済産業省グリーンIT推進協議会試算)。

グリーンピース・ジャパンのエネルギー担当である高田久代氏は、「原子力発電には人や自然を傷つけるリスクがあることが、東京電力福島第一原発事故で改めて明らかになりました。電気をたくさん使う企業には、どのような発電方法でつくられた電気を使うかの責任があります。『省エネ』はもちろんのこと、できるだけリスクの少ない発電方法を選ぶ『電源責任』が問われるでしょう」と会議の冒頭で語りました。


自然エネルギー普及のチャンピオンをめざす米国IT企業

グリーンピース・インターナショナル主席政策アナリスト ギャリー・クック氏の報告から

ギャリ―・クック氏

IT機器や携帯電話・スマートフォンの登場で、私たちがインターネットにアクセスする機会は確実に増えています。同時にネットワークを支えるために必要な電力の使用量も急増中です。中でもいま注目されるのがデータセンター。FacebookやTwitter、Google やYahoo検索などインターネット上のサービスに欠かせない施設です。インターネット上にデータを保存して使う「クラウド」の普及によってデータセンターの需要は急拡大しています。


クラウドは「世界第5位の電力消費国」

私たちの調査では、世界でインターネットを動かすために使用する1年間の電力消費量は、623億kWh。これを世界の国別電力消費量と比較すると米国、中国、ロシア、日本に続く5番目(各国の消費量とダブルカウント)に多く、ドイツや、イギリスよりも多くの電力を使っていることが分かりました。

クラウドと各国の電力消費量
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※2007年の世界各地のデータセンターや携帯電話の基地局運用のための電気使用量。ユーザーのIT機器を動かすための電力は除く。

米国バージニア州はデータセンターの拠点になりつつあり、向こう5年でデータセンターの電力需要は1,200MWまで増加するとされています。データセンターは大規模な製造工場並みの電力消費で、24時間365日休みなしというところに大きな特徴があります。

ソーシャル・ネットワーキング・サービスのFacebookを運営するフェイスブック株式会社では、全オペレーションを自然エネルギーでまかなうと約束。企業施設の立地の判断基準とするため電力会社や政府に自然エネルギーの供給増加を働きかけています。

Appleの iCloudは、2013年にクラウド用電源の100%を再生可能エネルギーで賄おうとしています。そのため、米国ノースカロライナ州に大規模な太陽光設備を設置、オレゴン州でも自然エネルギー導入増加を要請し、自然エネルギーの電力証書を購入する動きを強めています。この動きの背景には企業のブランド戦略があります。

私どもではGoogleとMicrosoftの取り組みを比較しました。どちらもカーボンニュートラルを打ち出し、Microsoftは社内炭素税の導入で対処しています。それに対し、Googleは自然エネルギーに9億ドルの投資を決め、100MW超の風力発電と20年契約を結びました。風力電源確保に向け地元の電力会社と連携を強めています。こうして見るとマイクロソフトの対策が限定的なものに対し、Googleは自然エネルギーの普及により積極的な動きを見せています。

Googleは、電力のグリーン化に具体的数字目標を掲げています。2010年で25%だった目標は2011年で30%に、2012年で35%と着実に拡大しています。

世界最大級のインターネット通信販売業者であるeBayは、ユタ州に本社があります。地元の電力網の82%が石炭火力であることから自然エネルギーを選べる状況にはありません。米国ユタ州政府に働きかけるととともに、10MWの自然エネルギー導入を提案し、6 MWの燃料電池システムを主要電源として設置し、電力網からの電気はバックアップ用とする方針です。

IT産業はエネルギー分野のニューリーダー

IT業界の温室効果ガスの排出量は毎年2%ずつ増加しています。しかし、2020年までにITのエネルギーソリューションによって世界全体で15%の削減が可能と見ています。もちろん、スマートグリッドの普及、省エネ対策、デジタル化などの対応が前提です。

本当のところは自然エネルギーの革命なしに達成は難しいと思われます。海洋エネルギー、地熱、太陽熱、バイオマス、風力、水力に加え、省エネがますます重要になっています。おそらく、「省エネ」と「自然エネルギー」の統合によってしか、達成は困難なはずです。

2012年10月、米国ニューズウィーク誌は、自然エネルギー普及に熱心な世界企業のランキングを発表しました。それによればグローバルランキング上位25社中14社がIT関連企業であり、米国企業の上位25社中上位8社と15位がIT関連企業となっています。日本でも上位10社中9社がIT関連企業です。まさにクールITの成否はこれらIT関連企業の取り組みに掛かっています。私たちもIT企業への働きかけをさらに強めていきます。

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