企業とNGO/NPO
地中熱の活用で自然エネルギーのベストミックスへ
特定非営利活動法人地中熱利用促進協会に聞くいまこそ本格的な普及を急げ
Q 福島の原発事故以降、各地で火力発電所が再稼働しています。CO2の排出とともに燃料輸入による貿易収支の悪化も懸念されています。わが国の地中熱利用は世界の動きから見ると進んでいるのでしょうか。
笹田:地中熱の利用は、アメリカ、中国、スウェーデン、ノルウェー、ドイツなどで進んでいます。技術大国日本は残念ながらこの分野では、普及に後れを取っています。
たしかに一般家庭用でも初期投資に数百万円かかりますから、いますぐ誰にでもお奨めできるというわけではありません。しかし、身近なところでは東京スカイツリー地区が地域冷暖房で地中熱利用システムを採用しました。ボーリングとともに建物の基礎となる杭の部分に複数のチューブを付け、地中熱を採取する仕組みです。
地中熱利用がはいっているスカイツリー地区のシステム全体では、同規模の従来システムと比べ、エネルギー消費量を年間48%削減できるそうです。これは、およそ47トンのCO2削減に相当します。
Q わが国でもようやく動き始めてきたわけですね。地中熱はどのような設備に適用できるのでしょうか。
笹田:東京都渋谷区にある渋谷本町学園では、校舎の建て替えを行い、運動場の地下にプールが建設されました。この校舎の冷暖房とプールの加温に地中熱が利用されています。校舎に沿って、深さ100mのボーリングが40本掘削され、水がその中を循環しています。この水は、地中熱ヒートポンプで夏は冷やされて校舎の冷房に、冬は暖められて校舎の暖房やプールの床暖房、シャワーなどの給湯にも使われています。また、プールは年間を通して30℃の水温で利用しており、そのための加温に地中熱が利用されています。
東京都の学校では、最も規模の大きな地中熱利用であり、節電、CO2の削減、ヒートアイランド現象の抑制に大きく貢献しています。なお、病院や高齢者介護施設など24時間の空調設備が欠かせない施設なら、初期投資の回収も一気に進み、効率的な施設運営に寄与します。
Q 太陽熱や風力の普及には補助金も使われています。地中熱の普及にも必要ではありませんか。
笹田:ここ数年の間に経済産業省・国土交通省関連で「再生可能エネルギー熱事業者支援対策事業」「地域再生可能エネルギー熱導入促進対策事業」「住宅・建築物のネット・ゼロ・エネルギー化推進事業」などの補助金が使えるようになりました。また、環境省も25年度から新しい補助金を創設します。今後の普及が待たれます。
なお、環境省の調査では、2000年以降、地中熱ヒートポンプシステムの設置件数が伸びており、2011年には年間設置件数が200件を超え、累計設置件数は990件になっています。
●特定非営利活動法人(NPO法人)地中熱利用促進協会 |
2000(平成12)年10月18日、地球温暖化防止の有効な手段の一つとして地中熱を利用したヒートポンプシステムをわが国に普及させる目的で 「地中熱利用ヒートポンプ協会」 が設立され、翌年の4月13日 「地中熱利用促進懇談会」 と改称しました。2004(平成16)年3月29日に東京都のNPO法人の認証を受け、特定非営利活動法人(NPO法人) 地中熱利用促進協会として発足しました。協会は地中熱の普及促進に向けてさまざまな活動を行っていますので、一度ホームページをご覧になってください。 |
笹田 政克さんの略歴 |
特定非営利活動法人(NPO法人)地中熱利用促進協会理事長。通商産業省工業技術院地質調査所・独立行政法人産業技術総合研究所で地熱の研究等に従事。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)で地熱調査などに関わる。2007年に産総研退職後、現在は産業技術総合研究所名誉リサーチャー・研究顧問、芝浦工業大学非常勤講師、応用地質株式会社顧問(社外)などを務める。 |
<関連記事>
●識者に聞く「自然エネルギーに舵を切る米国のIT企業」
●識者に聞く「電気を選べる時代がやってくる」<前半>
●識者に聞く「電気を選べる時代がやってくる」<後半>
●自転車をもっと暮らしの中に
●科学技術は環境(エコ)の基本シリーズ
●識者に聞く「脱炭素社会、“決め手”は省エネルギー!」<前半>
●識者に聞く「脱炭素社会、“決め手”は省エネルギー!」<後半>
●国内企業最前線「昼の太陽エネルギーを蓄え、夜のコミュニティを照らす」㈱風憩セコロ