「突破力---女性と社会」

写真集『福島 土と生きる』で、“夜明けを待つ”福島の人々を追う

写真家 大石 芳野さんに聞く

同時代に生きる責任として伝える

Q.ニューギニアから始まってカンボジア、ベトナム、ソビエト、コソボ、アフガンなど紛争地や災害のある地域をひんぱんに訪れ、レンズをとおして人々の姿を追いかけてきました。大石さんをそうした場所に駆り立てるエネルギーは何ですか。

大石:1つはまず自分が知りたいという願望です。その上で、自分の目で見たことを「伝える」ことができればと思ってきました。

紛争地や災害を目にするたびに、人間という存在に絶望したくなります。ただ、同時代に生きる私たちにも責任の一端はないのか、いや、あると思うのです。自分だけが遠くでのほほんと生きていてはいけないと……。ずっとそう思ってきました。紛争地や災害をなかったことにしたり、知らなかったことにしたり、見なかったことにしてはいけないと思います。

写真家は「伝える」ことが仕事。もちろん、そこには知ってもらいたいという動機が隠されています。知っていれば、いろいろな関わり方が可能になります。たとえば、NGOの方ならその紛争地に支援の手を広げることができるかもしれません。お金に余裕のある方なら寄付もできます。時間にゆとりがある方ならボランティアで参加できるかもしれません。こうした小さな活動の1つひとつが同時代に生きるものとしての責任の取り方だと思います。

Q.福島の写真集にも“未来の命”が写っていました。絶望の中にも希望があるというメッセージでしょうか。

大石:川俣町(福島県伊達郡)で11月に知り合った若い夫婦には、小さな命が宿っていました。翌12月には千登勢ちゃんという女の子が生まれました。写真展ではその子の写真も登場させました。

私たちが絶望したからといって、この世から人間がいなくなるわけではありません。子供たちは懸命に生きているし、これから生まれてくる子供たちもいます。その子たちが自分の頭と足で、しっかりと大地の上に立ち、行動できるようにするのが大人である私たちの役割だと思います。

大石芳野さん

東京都出身の写真家。ドキュメンタリー写真に携わり、戦争や内乱など社会の急激な変化によって傷つき苦悩する人々の生きる人々の逞しい姿をカメラとペンで追いかけてきた。2001年に写真集『ベトナム 凛と』(講談社)で土門拳賞、2007年にエイボン女性大賞、同年紫綬褒章ほか。

写真集『福島 土と生きる』

2013年1月藤原書店から発刊。四六倍判変形並製 2色刷・264ページ
定価本体3800円+税

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