企業とNGO/NPO

東北復興リーダーを企業と連携して支える企業リソースを自立的復興に活かせ(1)

みちのく復興事業パートナーズとETICの取り組み 〔前半〕

<フリートーク>

自立的復興に企業との連携が欠かせない

司会:本日のテーマは、被災地の自立的な復興に、企業がどのような支援を行うべきかにあります。企業の方からは、思うように現地に入り込めないと言った声も聞きますが、皆さんは企業とどのような形の連携をされてきたのでしょうか。

松島:企業のボランティアは2012年で30社ほどありました。1泊2日や2泊3日で参加いただくものですが、大きく分けて2つのケースがあります。1つは人材研修、もう1つはCSRの一環としてボランティアを送り込まれるケースです。1回限りというものもあれば、10年間コミットしますという例もあります。もちろん、資金支援もいただきました。

長谷川:地域にツテがないと大企業の皆さんは市役所に行きます。副市長さんから「こんな企業が来ているが会ってくれ」と私たちに電話が来るわけです。話だけ聞くというのも微妙なものがあります。確かにボランティアはありがたいと思っています。しかし、ボランティアはやり方を間違うと、押しつけにもなりかねません。また、被災地の自立を妨げることにもなります。一番頭を痛めているところです。

半谷:地元のある商店主の奥様から「子供たちのためになることを」という思いを託されたのが復興事業に関わるきっかけでした。私なりに考え、子供たちの成長支援になる事業をと考えました。私自身は環境活動のNPOを20年ほど運営してきた経験もあります。最近の8年間は森林の健全化にも取り組んでいます。

その延長でキッザニアに林業体験のパビリオンを出展しています。今回もすぐにキッザニアの社長に相談して、理念を共有していただき、ノウハウを活用させていただくことで快諾を得ました。それが体験学習のグリーンアカデミーです。

司会:うまく進んだ例がほかにもあったら聞かせてください。

松島:NECのボランティアの方に会員管理システムの構築を行っていただきました。NECが本来持っている強みを活かしたボランティアですが、私たちが持っているニーズとうまくマッチングできたケースです。

長谷川:陸前高田にも震災直後からいろいろな方が来てくれました。私が申し上げてきたのは、「ボランティアだけだと疲弊するので、実際の仕事をしてほしい」ということ。被災地に入ってきて、できればその企業の強みを活かした仕事をしてほしいとお願いしました。そこから木質ペレットを使ったストーブとかの事業も生まれました。

松島:大手のハウスメーカーからは、地元の植生にあった植物を使った植林の提案やその木材を活用した復興住宅の提案がありました。これからの連携の中で模索し、追求しなければならない課題です。

半谷:2011年9月に福島復興ソーラー株式会社をつくり、最初に訪ねたのが東芝さんでした。CSRの室長さんとお会いしたところ、「物の支援から仕組みの支援に移したい」という認識を持っていました。私どもの提案が仕組みの支援に値するということで、多額の第三者割当を引き受けてもらいました。

そうした支援と国の補助により、500㎾の太陽光発電所が完成し、また行政の補助などにより植物工場も完成しました。

司会:半谷さんはこれまでの人的つながりをうまく活用されていますね。 

半谷:かつて、東京電力の新規事業で自家発電の一括サービスを始めたことがあります。福島県を中心に180店舗のスーパーを展開するヨークベニマルさんの店舗に自家発電システムを採用いただいたご縁で、社長さんに相談したところ、ありがたいことに植物工場でつくった野菜をヨークベニマルさんで引き取ってくれることになりました。

司会:企業が震災復興に関わる意味をどのように捉えていますか。

半谷:志だけでは続きません。被災地には企業のリソースを活かすことがなによりも必要です。これからは物の支援だけでなく、仕組みの支援が不可欠です。被災地にはなにものにも代えがたい支援になるはずです。

司会:仕組みということをもう少し詳しく……。

半谷:先日、仙台で志をもった若い方にたくさん出会いました。感動的なものでしたが、彼らの志を被災地で継続性のある事業に活かすには、より具体的な事業の仕組みに落とし込んでいく必要があります。事業をうまく進めていく秘訣は、経験に加えてギブ&テイクの精神だと思います。

新規事業に20年関わった私の経験則ですが、現実的にギブ&テイクがないと長続きしません。

松島:NECさんとの関係もまさにそこにありました。人も資源も限られる中で、さまざまなノウハウを持ったところとパートナーシップを図り、事業に関わっていけるかが大切です。東北で活動している若者たちの中には、とりあえず活動に入ったという人も大勢います。なかにはビジネスエリートもいますが、特定の分野にノウハウを持っていても、事業の仕組みづくりとなるとなかなか難しいのです。

NECの例は、個人としてではなく企業としてコミットしてくれたからできたと思います。私たちも企業の方に持続可能性のある提案ができるかが試されています。芽の出る種をまけるかという点では私たちも試されています。

司会:企業とのマッチングではなにが大切だとお考えですか。

松島:たくさんの方々が視察に来ますが、うまくいく場合とうまくいかない場合があります。まず、担当者の方がそこの地域や人に惚れるかどうかだと思います。担当者が本気になれば上司も説得できます。

面白いのは企業の一員として関わり始めるとともに、やがて個人で関わってくる方も多いということです。そうした方々に感想を聞くと、「うちの会社って素晴らしいと思いました」というような前向きの感想が返ってきます。

司会:ボランティア活動がやがて企業活動にもフィードバックされていくということですね。

長谷川:私が思うに地元の中小企業に弱いものとして、見せ方とか、提案の仕方があります。私たちにはそれに費やするマンパワーも時間もありません。組織がしっかりしている大企業にぜひ力になってほしい部分です。

半谷:被災地の自立的復興に必要なのは、新規事業や新商品の開発にあたって発揮する企業本来のマネジメント力、つまり仕事を仕切る経験とノウハウです。

私たちも具体的に実績をあげ、支援いただいた企業様のCSRの“見える化”にお役に立てればと考えています。

松島:いまの東北の課題を解決できなければ日本が抱える課題も解決できません。糸井重里さんは、「東北の復興とは、東北地方の生き残り戦略の発見物語であって、日本における新しい生き残り戦略の発見物語でもある」と語っています。私もそれを強く実感しています。

司会:企業、NPO、行政が一体となって取り組まないと、15年後、20年後の未来につながる日本は登場しないというわけですね。ありがとうございました。

みちのく復興事業パートナーズ
http://www.michinokupartners.jp/
東日本大震災の復興支援に向け、被災地で復興に取り組む次世代リーダーを支援する企業のプラットフォーム。2013年3月末日現在で、味の素株式会社、花王株式会社、株式会社損害保険ジャパン、株式会社電通、株式会社ベネッセホールディングスの5社が参加しています。被災地では、今後、長期視野による多様な支援が必要となってきます。本プラットフォームは、「右腕派遣プログラム」をベースに、各被災地で復興に取り組む次世代リーダーおよび団体を、企業が自社のリソースを活かし支援していくための機会を検討し、実行につなげていく場となっています。設立には、NPO 法人ETICが関わっています。
NPO法人ETIC.
http://www.etic.or.jp/etic/index.html
社会のさまざまなフィールドで新しい価値を創造する起業家型リーダーを育成し、社会のイノベーションに貢献する目的で設立されたNPO法人。東日本大震災では、被災地の自立的復興に向けた人づくり、コトづくりに取り組む一方、震災復興リーダー支援プロジェクトを立ち上げ、現地の復興を担うリーダーの右腕となる意欲ある人材を派遣する「右腕派遣プログラム」や、東北での起業を応援する「みちのく起業」などをとおして東北の自立的な復興を支援している。

※お問い合わせは、「みちのく復興事業パートナーズ事務局(担当:山内亮太、海津)」まで

<関連記事>
みちのく復興事業パートナーズとETICの取り組み 〔後半〕企業の取り組み
東北で生きる~企業の現場から見た東日本大震災
電気を選べない、電力会社も選べない。それっておかしくない⁉
対談:“面白い”と“共感”でわが街に本物の復興を !
ISHINOMAKI 2.0代表理事 松村豪太 × ジャスト・ギビング・ジャパン代表理事 佐藤大吾

あなたが一足の靴を買うたびに、貧しい国の子供たちに、TOMSの新しい靴が贈られる
就業時間、製品、株式の1%を社会貢献に、セールスフォース・ドットコムの「1/1/1」モデル
震災から1年半、今こそ企業とNGO/NPOは連携を [第1回] 2つの大震災から見えてくるもの
震災から1年半、今こそ企業とNGO/NPOは連携を [第2回] 顔の見える関係づくりを
宮城県大指の東北グランマそれぞれの復興
東北の女性をつなぐ「福島のお母さん達と行く石巻」プロジェクト
東日本大震災と科学技術~科学の目で今を選択することが、未来を変える

トップへ
TOPへ戻る