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第8回ロハスデザイン大賞2013座談会から

6月5日(水)の世界環境デーに合わせて発表された「第8回ロハスデザイン大賞2013」。授賞式の後、コト部門で大賞を受賞した3組4名の皆さんが日頃の思いを語りました。

ハスデザイン大賞2013座談会

座談会参加者の皆さん

宮治勇輔さん(NPO法人農家のこせがれネットワーク代表)
清水英二さん(NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク代表理事)
後藤寿和さん(ギフト・ラボ代表/デザイン・ディレクター)
池田史子さん(山ノ家代表/クリエイティブ・ディレクター)
●指出一正さん(一般社団法人ロハスクラブ理事、月刊『ソトコト』編集長)

●「ロハスデザイン大賞2013」と座談会出席者を含む受賞者の活動詳細についてはコチラ
 いまの社会に一番しっくりくる「ヒト・モノ・コト」とは

私たちにいま必要な“コト”

指出: 今年はヒト・モノ・コトの大賞3部門の中から、あえて「コト部門」の大賞に選ばれた3つのグループの皆さんにお話をうかがうことにしました。まず、自己紹介からお願いできますか。

宮治: 「NPO法人農家のこせがれネットワーク」代表の宮治勇輔です。私たちのグループは農家の後継者支援を行っています。都心で働いているサラリーマンで、実家が農家だという皆さんに“農業の魅力と可能性”を伝え、会社を辞めて実家に戻り、農業をやってもらおうというわけです。

清水: 私は「NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク」代表理事の清水英二です。幼児期の子供たちに自然の体験をしてもらおうと、全国の幼稚園・保育所のネットワークを使って森づくりを広めています。東日本大震災以降は、「東北復興グリーンウェイブ」の活動を始め、今回はそれが評価されました。

池田: 私は隣にいる後藤たちとともに東京都内でデザイン事務所をやっています。日本有数の豪雪地帯として知られる新潟県十日町市に、昨年から縁あってカフェとドミトリーをもつ「山ノ家」を立ち上げました。民家を改造したゲストハウスをみんなでシェアしているという状況です。こうした生き方を「ダブルローカル」と呼んでいます。

後藤: 池田の紹介のとおりですが、池田が「山ノ家」の代表を名乗り、私が会社である「ギフト・ラボ」の代表を名乗っています。

指出: どれも素晴らしい取り組みですが、実際に活動や運営を行って、どのようなご苦労がありますか。宮治さんからお聞かせください。


農業に“知恵と意欲”ある後継者を

宮治: 私の実家は神奈川県藤沢市で養豚業を営んでいます。“みやじ豚”というブランド豚を育て、直販ルートで売る一方、バーベキューパーティーを開いてクチコミでお客様を増やしてきました。私自身、家を継ぐ気はなかったのですが、サラリーマン時代に一次産業を“かっこよくって、感動があって、稼げる産業にしたい”とひらめき、農業をやろうと決心しました(笑)。実際にやってみると自分だけ“みやじ豚”を育てて満足していても駄目だと思いました。農業を最短・最速で改革するにはどうしたらよいか、ゼロベースで考え、たどり着いた結論が「農家のこせがれネットワーク」でした。

NPO法人農家のこせがれネットワーク代表の宮治勇輔さん

指出: 日本の農業を元気にするには、意欲があって知恵もある後継者たちが必要だと考えたわけですね。

宮治: 農業従事者の平均年齢は66歳です。農家の親父たちはどの家もかなりいい歳なわけです。親父たちが元気なうちに実家の農業をどうするか心配しないといけないわけですが、サラリーマンをやっている息子たちはなかなかそれに気づきません。私の活動でもいきなり立ちはだかった壁が、地域に農家の小せがれがほとんどいないという現実でした。

指出: 仲間はどうやって集めましたか。

宮治: 都会でサラリーマンをしていると実家が農家であるという記憶が消去しています。「こせがれ交流会」「丸の内朝大学」などで出会った人を説得したり、全国で講演活動をひんぱんに行いました。少しずつ農家の後継者が集まり、実家に帰る人も出てきました。ところが、中には親父とそりが合わなくて、また実家を飛び出したという人もいるわけです(笑)。農業界にとって大きな損失です。

指出: もったいないですね。なにか対策がありますか。

宮治: 地域のコミュニティーづくりですかね。農家の小せがれたちが生き生きと活動できる地域のコミュニティーづくりが欠かせません。農家の小せがれだけでなく、飲食店の方や商品開発で知恵を出してもらえる方などさまざまな方が集まり、新しいコラボも始まり、コミュニティーに厚みが増してきました。私たちの役割は最初のお膳立てだけですが、きっかけづくりにはなっているようです。この数年、農業に関心をもつ人は確実に増えてきました。

指出: 日本の農業も少し希望の光が差し込んできたようですね。次は清水さんにお願いします。


森づくりを通じて、子どもたちにリアルな体験を

清水: 今年のテーマは「ソーシャル・デザイン」ですが、それぞれの思いの中で活動をすればよいのかなあと考えています。私がやっている「子どもの森づくり運動」も個人の思いだけで出発しました。

指出: 清水さんの活動は大きく2つありますね。

清水: ええ、1つはそれぞれの地域に密着した「子どもの森づくり運動」です。2008年からスタートし、全国各地に広がっています。日本郵政グループの特別協賛事業となり、いまでは全国に拠点となるフラッグシップ活動を「JP子どもの森づくり運動」、フラグシップ活動実施園を「JP園」として展開し、2010年7月には全国ネットワークが構築されました。

NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク代表理事の清水英二さん

指出: 東北復興グリーンウェイブの取り組みはどのようにして…。

清水: 東日本大震災支援活動の風化が叫ばれており、東北の人々との協働が欠かせぬものとなっています。「子どもの森づくり運動」の被災地支援活動として、「東北復興グリーンウェイブ」をスタートしました。東北の幼稚園・保育園の子どもたちが被災地で拾ってくれた“どんぐり”を、全国の幼稚園・保育園の子どもたちが、それぞれの園で苗木に育て、3年後に被災地に届けて植えるという活動です。1回目は、2014年5月22日の「グリーンウェイブ」の日に岩手県山田町で植える計画です。

指出: なぜ、“どんぐり”だったのでしょうか。

清水: 東北の森の生物多様性と再生に寄与したいという思いがありました。“どんぐり”なら種の採取が簡単で、幼稚園・保育園の子どもたちにもできると思いました。被災地の子どもたちと全国の子どもたちの“絆”のシンボルとしてもふさわしい植物です。

指出: 森づくりに関わるきっかけには遠大な目標も隠されているようですね。

清水: 子どもたちを取り巻く環境も日々変化をしています。デジタルな環境で育った最近の子どもたちにはリアルな体験が不足しているといわれます。私たちの子ども時代のように泥んこになって野山を駆けまわるといった体験が決定的に不足しています。幼稚園・保育園の現場でリアルな体験ができるきっかけづくりをと考えたのが「子どもの森づくり運動」です。“樹を植えて、子どもたちの心を育む”ことができればと考えています。

指出: 子どもたちの成長が図れるといいですね。続いて「山の家」のお二人にお聞きしたいと思います。「ダブルローカル」という発想そのものがユニークで、驚きました。


地方と都市――2つのマイローカルを元気に

池田: 私たちにとっては東京も十日町市もホームであり、マイローカルなのです…。田舎のある人もない人も、この土地で育った人もそうでない人も、縁のある土地でマイローカルを見つけてくれたらというのが基本スタンスです。「山ノ家」のある新潟県十日町市は全国有数の豪雪地帯です。冬は4〜5メートルの雪に閉ざされます。魚沼コシヒカリの産地として知られますが、“農家の小せがれ”などどこにいるのだろうというほどの過疎地です(笑)。今日も十日町から出て来たのですが、人が歩いていませんでした。ただ、20年くらい前まではしっかりした商店街があったと聞いています。「山ノ家」のある十日町市松代は江戸時代の宿場町で、旅籠も茶店もごっそりあったと…。そんな街がわずか20年か30年で過疎になったわけです。

指出: 「山ノ家」のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

後藤: 現地は「大地の芸術祭」で知られ、私たちも幾度か足を運んでいました。こういう場所に暮らせたらいいなあという話は数年前からしていたのです。でも、私たちは中途半端で東京も捨てられないし、地方の田園生活も体験したいという欲張りなところがあり、なかなか踏ん切りがつきません。最初に話しがあったのは1年半くらい前ですが、それからはどんどん話が進み、「山ノ家」が誕生していったという印象です。

「山ノ家」の後藤寿和さん(左)

池田: 商店街のど真ん中にあった空き家を渡され、「なんかやってよ」ということでした。自分たちがここに来るという前提で必要なものから準備しようという話になり、1階は誰でも立ち寄れるカフェにしました。2階は9台のベッドを置いて簡易宿泊施設にしました。寝心地だけは追求しました(笑)。仕事をとおしてロハスな生き方と関わりはあったのですが、あくまでも縁の下で支えてきたもので、自分たちが何か主体的に事を起こしたわけではありません。皆さんから共感をいただき、大賞をもらえて本当に驚いています。

「山ノ家」の池田史子さん



誰もが共感できる社会を育てよう

指出: 皆さんの話を聞いていると、自己実現をしたいがための活動とかではなく、目の前にある課題に淡々と取り組んだ結果だということが分かりました。クリエーティビティーを使って社会問題を解決することが求められているわけですが、「ソーシャル・デザイン」と大上段に構えなくてもよいのだと思います。実は『ソトコト』でも農家の特集をやると評判になります。農業そのものに潜在的な魅力があるからだと思います。それがないと人々を引きつけません。

宮治: 「ソーシャル・デザイン」と並んで、「ソーシャル・アントレプレナー」という言葉もあります。社会起業家ですが、現在はお金のために起業するのではなく、社会の問題解決のために起業する人も増えています。ビジネスの手法を使って社会問題を解決できたらと思います。

指出: 仕事の意味そのものが大きく変わりつつあると…。

宮治: 私たちの世代は、お金を稼ぐことにモチベーションをあまり感じなくなっています。私自身、大学では「組織と人事」を学び、新卒で人材会社に入りましたが、「3年で会社を替わる」といった話をよく聞きました。若者たちは自分がイメージしている暮らし方、働き方と現実がうまく一致せず、もがき苦しんでいます。東京で働いていても給料は上がらない、出世はできない、へたするとリストラの憂き目に遭うわけですから、実家に帰って農業をやる方がずっと先は読めるかもしれません。

池田: 「ソーシャル・デザイン」をやろうと構えたことなど一度もありません。ただ、「山ノ家」に関わったことで、自分たちの何かが変わりつつあると思っています。たとえば、「山ノ家」にいると、東京にいるときよりも、たくさんの人に会えるのです。東京にいると「そのうちね」といいながら、なかなか会いません。月の半分くらいいる「山ノ家」には、海外や東京から大勢の友だちが訪ねてきます。また、近所のおじいちゃん、おばあちゃんが山菜をもって来たり、小学生が宿題をもって遊びにきます。フェースブックを見たよと世界の人たちからも便りが届きます。小さな輪が広がっていると実感しています。

後藤: 私は東京生まれの東京育ちです。地方に戻る場所をもっていませんでした。東京で暮らしてデザインの仕事をやっていると、地方に行くことに対する抵抗があります。頭の中でいいことだと思っても、身体が反応するまでに時間が掛かります。そんな私がいまのような生き方を始めていると知って、友だちはびっくりします。自分の中に大きな変化があったということかもしれません。

清水: 地域というと中央との対比で考えられがちですが、ローカルという言葉には独立した力があると感じました。私たちの活動もローカルの結合体です。小さな組織が集まって全国のネットワークになり、岩手県山田町のようなローカルを支えているのです。“どんぐり”を介して、子どもたちの共感が全国に広がってくれればと願っています。

指出: 本日は活動のジャンルも目標も違う皆さんと、貴重な情報交換の場をもつことができました。ロハスクラブは小さな団体ですが、これからも社会に対してより良い提案ができればと考えています。

※この記事は「第8回ロハスデザイン大賞2013」の大賞発表式に合わせて行われたシンポジウムの模様を当編集部が要約して座談会形式にまとめたものです。文責はあくまでも当編集部にあります。

●「ロハスデザイン大賞2013」と座談会出席者を含む受賞者の活動詳細についてはコチラ
 いまの社会に一番しっくりくる「ヒト・モノ・コト」とは

●NPO法人農家のこせがれネットワーク http://kosegare.net
●NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク http://kodomono-mori.net/tohokugw
●山ノ家 http://yama-no-ie.jp/

●お問い合わせ

一般社団法人ロハスクラブ

TEL:03-3524-9757
http://www.lohasclub.jp/about_us/top.php

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