CSRフラッシュ

2013年(第22回)旭硝子財団「ブループラネット賞」受賞者が決定

1992年(平成4年)に創設された公益財団法人旭硝子財団の地球環境国際賞「ブループラネット賞」の2013 年度(第22回)受賞者が発表された。受賞者は地球環境問題の解決に向けて著しく貢献した個人/組織として、世界23カ国、国内650名、海外650名のノミネータから選出される。今回は、地球温暖化と気候変動の解明に貢献し、日本人国籍3人目の受賞者となった松野太郎博士(日本)と、交通が環境に及ぼす影響を研究し、現代の都市づくりを提言してきたダニエル・スパーリング博士(米国)が受賞した。

リーマンショック以降、世界各国は環境問題よりも経済成長に軸足を置きがちに見える。一方で、2013年に初めて大気中の二酸化炭素濃度が400ppmを超えるなど、地球環境は着実に悪化している。今回の2人の受賞者の業績を知るとともに、地球環境問題解決に向けた世界レベルの取り組みの必要性を改めて考えたい。


[2013 Blue Planet Prize受賞者]

松野太郎 博士(日本)

海洋研究開発機構
地球環境変動領域特任城跡研究員
[1934年10月17日生まれ]

気象学者として大気力学の研究に従事し、気象科学の研究・予測・解明に優れた指導力を発揮、地球温暖化と気候変動について世界の認識を深める大きな貢献をした。



松野博士の業績を知るためのQ&A

Q.松野博士は、特に熱帯域における大気や海洋の運動に関する研究を行い、博士の理論的な予言による“赤道波”が実際の大気や海洋中の観測で確認されて、その後エルニーニョ現象の解明などに重要な役割を果たしたとのことですが?

A.松野博士の業績の一つは、古くから“現象”として存在することは分かっていたが、なぜ生じるのか、理論的に説明できなかった気象現象について、数値モデル化し、“理論的に立証、予測”された点です。

博士が1966年に発表された論文「赤道域における準地衝運動」では、赤道付近で生じる特殊な波動—東に進む「ケルビン波」と西向きに進む「混合ロスビー重力波」—がどのような特殊な条件下で生じるのかを、数式モデル化して実証されました。

例えば皆さんもエルニーニョ現象[注]という言葉を聞いたことがあると思います。現在は海洋中で生じる「ケルビン波」がエルニーニョ現象の重要な役割であることが分かっています。しかし今なお、エルニーニョ現象がなぜ生じるのか、完全には解明されておりません。前述した博士の論文「赤道域における準地衝運動」は1966年の発表であり、いかに早い段階で現在の地球温暖化や気候変動問題を解決する礎となる研究であったかご理解いただけるかと思います。

また、松野博士はコンピューター・シミュレーションによる研究拠点作りにもリーダーシップを発揮されてきました。2002年に運用が開始された当時世界最大のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」を用いて温暖化・気候変化を予測する国家的研究プロジェクトでの推進役を果たし、日本からの研究成果が国際的な政府間機構であるIPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の第四次・第五次報告に反映されました。また、日本を含むアジアにとって重要課題である台風・集中豪雨など熱帯域の対流性現象を正しく取り扱う世界唯一のモデル開発も推進されてきました。

[注] エルニーニョ現象:太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて高くなり、その状態が1年程度続く現象(気象庁ホームページから)


[2013 Blue Planet Prize受賞者]

ダニエル・スパーリング博士 (米国)

カリフォルニア大学デービス校教授
[1951年3月27日生まれ]

交通が環境に及ぼす影響について、科学・技術から行政までを含む包括的な実践研究により、都市の環境施策に大きな進歩・指針をもたらした。





スパーリング博士の業績を知るためのQ&A

Q.スパーリング博士は世界の都市づくりの基盤となる“持続可能な輸送エネルギー”、効率的な輸送システムの研究と提言により世界的に知られ、カリフォルニア州の公害防止法にも関与されたと伺っています。

A.ダニエル・スパーリング博士は、輸送分野に関する技術、燃料評価、エネルギー、環境、および政策に関する第一線の専門家として世界的に著名で、カリフォルニア大学デービス校に、持続可能な交通運輸について、技術および政策の研究を行う輸送研究所(Institute of Transportation Studies: ITSデービス)を創設し、ディレクターを務めています。

スパーリング博士の業績で注目すべきは、ライフサイクルで物事をとらえる点にあります。例えば、単に燃費が良い車、二酸化炭素を出さない車といったパーツで環境性を考えるのではなく、燃料の生産から車が消費されるまで、全工程を踏まえて二酸化炭素の排出量や燃料の効率性を考えるということです。単に車の燃費が良いというのは輸送システムにおける一部のパーツにすぎない、都市のシステム全体が総合的に効率的でなければ意味がないということですね。従って、博士は単なる工学的な研究だけでなく、持続可能な都市システムを成り立たせるための政策提言にも力を入れてこられました。

博士が関与したカリフォルニア州のクリーンカー政策(編集部注)は、日本や世界中の自動車メーカーに直接的な影響をもたらし、またクリーン燃料および気候に関する政策は輸送・エネルギー政策に対する世界のアプローチに大きな影響を与えました。

(編集部注) California’s Advanced Clean Cars program

2012年1月、米カリフォルニア州の大気資源局(CARB)は、2017~2025年を対象期間に、自動車メーカーに対して電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)など走行時の排気ガスをゼロにすることができる自動車(ゼロ排出車=ZEV)の販売比率を引き上げを含む「カリフォルニア高度クリーンカー規則(California Advanced Clean Car rules)」の導入を発表した。

http://www.arb.ca.gov/msprog/consumer_info/advanced_clean_cars/consumer_acc.htm

公益財団法人 旭硝子財団 田中 鐡二 理事長

「いま一度、世界は英知を結集し、地球環境問題の解決を」

過去20年間、地球環境問題は成層圏オゾン層の破壊、気候変動、生物多様性の喪失、海洋の酸性化が進み、対応策としてモントリオール議定書や京都議定書が批准され、解決に向けて機運が盛り上がった時期もあったかと思います。しかし、リーマンショック以降は経済成長が世界各国の優先テーマとなり、環境問題解決への取り組みが後退しているのではないかと懸念される状況です。

2013年5月上旬には米国の海洋大気局(NOAA)がハワイで大気中の二酸化炭素濃度が人類史上初めて400ppmを超えたという大変ショッキングなニュースを発表しました。世界は地球環境問題について今一度、英知を結集し解決に向けて一致協力しなければなりません。今回のブループラネット賞受賞者の業績を知っていただくと同時に、地球環境問題解決の必要性を改めてお考えいただければと存じます。

(レポートは2013年6月18日記者会見の内容を要約して報告しています。文責はCSRマガジン編集部にあります。)

受賞者による記念講演会を開催

2013年(第22回)「ブループラネット賞」表彰式典は2013年10月30日(水)にパレスホテルで行われ、翌10月31日(木)に受賞者による記念講演会が国際連合大学(東京都渋谷区)で開催されます。

●お問い合わせ:公益財団法人 旭硝子財団

http://www.af-info.or.jp
email: post@af-info.or.jp

<関連記事>

「裸足の大学」インドのベアフット・カレッジに学ぶこと
ジェームス・ハンセン博士(米国)、ロバート・ワトソン博士(英国)に聞く
自然エネルギーに舵を切る米国のIT企業
グローバル化時代の企業の人権リスクとは?
倫理観を基盤に、科学技術を社会に役立てる技術士
ネパール人女性登山家が公共広告に登場
横浜市の「待機児童ゼロ」が残した課題
あなたが一足の靴を買うたびに、貧しい国の子供たちに、TOMSの新しい靴が贈られる
就業時間、製品、株式の1%を社会貢献に

トップへ
TOPへ戻る