国内企業最前線

「捨て方をデザインする会社」が提案する企業価値を最大化する廃棄物の使い方

株式会社ナカダイ 中台澄之さんに聞く

株式会社ナカダイは群馬県に約3,000坪の工場を持つ「産業廃棄物中間処理業者」だ。工場には年間で1,000人近い見学者が訪れ、デザイナーなどアーティストが様々な素材を吟味し、子どもたちが廃棄物を使ったワークショップを楽しんでいる。CSRの一環としての廃棄物利用、子どもたちへの環境教育、地域の活性化など、 “つながる”ことで新しい価値創造をめざす株式会社ナカダイの中台澄之さんに話を聞いた。

集まる廃棄物の95%をリユース/リサイクル

Q. 産業廃棄物は焼却・埋立処分というイメージでしたが、貴社は9割以上をリユース/リサイクルとのことで驚きました。リユース・リサイクル率が高い背景に、企業への“捨て方の提案”があったと伺っています。

㈱ナカダイ 中台澄之さん

中台:当社の場合は1日に50トン、月に1,000トンの廃棄物が搬入されます。そのうちオフィス家具・OA機器・産業機械などいわゆる粗大ごみが半分、残り半分は金属・プラスチックなど製造企業の生産工程から出る廃棄物です。

私は2000年に証券会社を辞めて家業である㈱ナカダイの仕事を始めたのですが、当時は京都議定書の議論や家電リサイクル法が始まるタイミングで、環境問題への意識が高まりつつも、企業は自分たちの廃棄物の分別手法を確立していませんでした。

当社で8割を占めるマテリアル(素材)リサイクルですが、例えばプラスチックといってもポリエチレン、ポリスチレンなど様々な樹脂があり、ペットボトルのキャップと包装に使うプラスチックフィルムでは原材料が異なります。当然リサイクルされるものも違います。しかし、当時は製造会社からのプラスチック素材廃棄物は“まぜこぜ”でした。

企業が楽に素材を分別するにはどうしたらよいか。「最初からプラスチック素材の製造ラインごとに下に分別箱を置けば、楽に分別できるんじゃありませんか?」そんな風に提案型の営業を続けると取引先も増え、キレイな単一素材の廃棄物も増えて、さらにリサイクルしやすくなっていきました。

Q. 現在は、企業に対してCSRの一環として廃棄物の再利用もコーディネートされています。産業廃棄物の“捨て方”から“使い方”の提案へと移行されたということですね。

中台:2000年当時、環境問題は企業の新しい経営テーマでしたから、企業は社員教育を含めて必死に“分別システムの確立”に取り組みました。しかし、徐々に環境への取り組みが社会的に当たり前になる、“産業廃棄物の分別”には終わりもなく、“やって当たり前”です。いわば“分別疲れ”とでもいう雰囲気が企業から伺えるようになったのが5年ぐらい前からでしょうか。

一方、自分たち産業廃棄物処理業者の在り方も考える日々でした。ゴミは減ったほうがよい、しかし廃棄物処理業者の売上は“扱い量x単価”、産業廃棄物が増えなければ儲からない業種です。このままでは時代と逆行して生き残れないのではないか、“ゴミの量”から“ゴミの質”へ視点を変えるべきではと考えました。

顧客に分別方法を提案することもその一環でしたが、さらに“産業廃棄物をこんなに風に使ったら”というコンサルティングも行うようになっていきました。企業にとっても“分別疲れ”のなか、廃棄物で企業価値を高めるという視点は新鮮だったと思います。

具体的には、企業の環境イベントで産業廃棄物の再利用品を配布する、アーテイストに素材を提供してコラボする、子どもたち向けのワークショップを行うなど、“産業廃棄物”を使ってブランドイメージを高めるご提案やコーディネートも行っています。

“量・地域・期間(時代)限定”が産業廃棄物のおもしろさ

Q. あくまでもCSRの一環として廃棄物を利用する、いわゆるエコプロダクトのように商品化をご提案するわけではないのですね。

中台:産業廃棄物はさまざまですが、例えば製造工程で素材をつくりすぎてしまったとか、仕様変更で使わなくなったとか、いずれにしても基本は“少量”です。逆にコスト削減の時代に産業廃棄物が大量に出るようでは企業も困ります。ですから、産業廃棄物を使って大量生産品を創るのは、基本的には考えにくいわけです。

最初に申し上げたように、分別方法をご提案して単一素材を揃えていただけば、こちらも廃棄物を高く買わせていただく、例えば1トン当たり単価を5円見直して年間で120万円程度はコスト削減できましたよ、その分で廃棄物を活用したCSR活動をしましょうと。

従来、企業にとって産業廃棄物が多い=無駄が多いですから、隠したい話なんですね。それを「うちの産業廃棄物を再利用しました」「こどもたちのワークショップに使う」など表面に出すこと自体も、価値の転換ではないかと思います。

Q. 廃棄物を活用したグッズの魅力は“限定商品”だそうですね。

中台:産業廃棄物の面白いところは、量だけでなく、地域も限定されることです。食べ物の地産池消ではないですが、地域の産業によって産業廃棄物も変わります。例えば、京都では“組み紐”や“畳のヘリ”が大量に廃棄されるのですが、群馬県とは全く違います。

また時代によっても廃棄物は異なります。今の子どもはTVのブラウン管なんて知りませんし、無線LANに移行するなか有線LANケーブルはどんどん廃棄される、あと数年したらタブレット式端末が大量に廃棄されるかもしれません。

数量限定、地域限定、時代限定など、産業廃棄物の再利用品は少量しか作れないけれども、それが逆に面白さ、特徴にもつながると思います。

産業廃棄物処理業者がヒト、モノ、地域を“つなげる”

Q.産業廃棄物を活用したモノヅクリで、地域の活性化していきたいとか。

中台:地元独自の産業廃棄物を利用して、地元の技術者、若いアーティストと組んで“Made In xxx”を生み出せないか具体的に模索中です。

いま地方では技術者がどんどん職を失いつつあります。当社はオフイス家具等のリユースも積極的に行っており、中古品の塗装を地域の吹付け屋さんにお願いしています。家屋の外壁塗装は吹付け屋さんが専門でしたが、今は全てハウスメーカーの工場で作業が完結する時代です。しかし地元には技術を持った皆さんがいらっしゃるし、家の外壁じゃなくとも、家具の塗装にも技術は生きるわけです。

単なるリサイクル・リユース市場ではなく、産業廃棄物処理業者が媒介したモノヅクリで、地域のブランド化・活性化、雇用拡大に結び付けることができないかと考えています。当社がかかわる“地域限定産業廃棄物商品”をきっかけに、地域の産業や技術力の情報発信ができれば、別なところから地域の製造企業や職人さんにビジネスチャンスが生まれるかもしれません。

素材提供を通じてデザイナーなどアーティストとのネットワークはある程度は築けていますので、今後は地域の縫製業者であるとかモノづくり企業や技術者とのネットワークを広げていきたいと思います。

敷地内の「モノ:ファクトリー」では、素材を集めた「マテリアルライブラリー」を常設。ワークショップでは、PCの解体から廃棄品を活用したバングル作りまで、“壊す”と“創る”の楽しさを体感できる。http://monofactory.nakadai.co.jp/

Q.産業廃棄物処理業者が媒介者となる意義をもう少し教えてください。

中台:最初に、環境重視の時代に“ゴミの量”から“ゴミの質”を考える業者とならなければならないと申し上げましたよね。しかし、矛盾するようですが、産業廃棄物というのはやはり“量”も不可欠です。

(素材の)リサイクル業界は10~20トンを単位に売り買いします。個人がペットボトルのキャップを一生懸命集めても、産業廃棄物処理業者は10kg単位でもタダで引き取るかどうかです。また、企業でさえ—前述のとおり生産工程で無駄が許されない時代ですから—1社でペットボトルのキャップが5~10トン出ましたということもありえません。しかし、産業廃棄物処理業者によっては「10kgを1,000人から集めて10トンにして商売しますよ。小口でも高く買ってあげますよ」と。当社であれば3,000坪の敷地があって保管もできる、またこれまでの実績で量が集まるという見通しが立てられるから買えるわけです。

モノが集まれば、今はこういう面白い素材があるなどの情報も一番よくわかります。矛盾するようですが、“ゴミの質”を追究することで評価いただき、“量”が集まるから、相手企業にも還元できるわけです。

2010年から始めた工場見学には、一般の方や子どもたち、デザイナーなど幅広い層が年間に1,000人近く訪れる。

Q.産業廃棄物処理業者が代理店となって小口の廃棄物を持つ企業同志を紹介したり量を集めたり、使い方もコーディネートすることもできると。

中台: “つなぐ”ことが非常に重要じゃないかと思います。当社は自分たちのノウハウを隠すつもりもないし、全国の産業廃棄物処理業者が各地域で新たな価値創造を広げると同時に、日本国内をつなぐ役割も担うことができたら。

日本経済を支えるメインは“新品市場”かもしれませんが、その裏には必ず一定割合の産廃マーケットがあります。最新技術の分野では負けるけど、地域の製造業、デザイナー、技術者が互いの価値をシェアすることで何とか自力でやっていく道を見つけることはできるんじゃないか、そのために当社が何かできたらと思っています。

●株式会社ナカダイ

http://www.nakadai.co.jp/〒379-2122 群馬県前橋市駒形町1326
Tel. 027-266-5103
(モノ:ファクトリー http://monofactory.nakadai.co.jp/

●株式会社ナカダイが第3回 産廃サミットを開催!(入場無料)

http://summit2013.nakadai.co.jp/
50人を超える、デザイナー、建築家、教授、学生、さまざまなジャンルのクリエイターとともに、株式会社ナカダイがモノの“捨て方”と“使い方”を提案します。ワークショップも開催します。

●期間:2013年9月7日(土)~15日(日)
12:00~20:00.(初日・最終日は最終入場15時まで)
●展示場所:プラス株式会社 赤坂ショールーム +プラス
〒100-0014 東京都千代田区永田町2-13-5 赤坂エイトワンビル 1階

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