CSRフラッシュ

国民の英知を結集して、放射能汚染水の流出を防げ!

原子力市民委員会が緊急提言

福島第一原発の放射能汚染水漏れが止まらない。東電任せにしてきた結果、これまでの対策はことごとく後手にまわり、解決の糸口さえ見つかっていない2013年8月28日、原子力・エネルギー問題に専門的知識と経験をもつ在野の研究者・実務家からなる原子力市民委員会が緊急提言を行った。国会は休会中だがもはや一刻の猶予も許されない。

緊急提言を発表する原子力市民委員会座長の舩橋晴俊座長(法政大学教授)とメンバーの皆さん(衆議院第一議員会館国際会議室で)

【4つの緊急提言】

この日の提言には、原子力市民委員会から舩橋晴俊座長(法政大学教授)、吉岡斉座長代理(九州大学副学長・元政府事故調委員)、井野博満規制部会長(東京大学名誉教授)、川井康郎さん(プラント技術者の会)、後藤政志さん(元東芝原発設計技術者)らが参加した。提言は以下の4項目からなる。一部要約して掲載したい。

1 事故収束体制の再構築に全力を

福島第一原発事故は収束しておらず、政府は事故収束のための取り組み体制の再構築に全力をあげるべき。東京電力は政府指示の下、情報の公開を含め事故対策の責務を果たすべきである。

2 専門家を集めてプロジェクトを組め

事故収束に当たる事業体をつくり、関連分野の専門家を集めて、汚染水に対する機動的対策を緊急に実施するべき。事業体にはプロジェクト管理の手法を採用し、権限を持つプログラムマネジメント組織(PMO=Program Management Office)を形成し、そこにタスクフォース型業務に秀でた、有能かつ経験豊富なプロジェクトスタッフを配置するよう求める。

3 大型タンクの建設など実効性のある流出防止システムを

汚染水対策業務の遂行に当たっては、最適技術の選択を行いながら進めることとし、大型タンクの建設と既存の応急的、仮設的汚染水処理システムから耐久性のある恒久的な汚染水処理システムに更新していくこと、および実効性のある海洋への汚染水流出防止システムを構築すること。

4 事故収束に当たる事業主体を独立させる

東京電力は適切な事故処理も汚染水対策もできなかった。法的な破綻処理や組織分割も検討されるべきだが、それに先立ち、汚染水対策をはじめとする事故収束に当たる事業主体を独立させるべきである。東京電力の経営形態や法的位置づけの見直しを行う「専門調査委員会」を国会に設置するべきである。


この日の提言を突き詰めると、東電の現場はかなり疲弊しており、自力で考えて対策をとるという当事者能力が損なわれているとされる。プロジェクトベースでオールジャパンの対策チームを早急に立ち上げ、耐久性・恒久性のある汚染水処理システムを構築すべきということだ。欧米メディアからの日本政府批判も一段と厳しさを強めている。官民挙げた真剣な抜本対策を打ち出さなければ、オリンピックの日本招致など絵空事になるだろう。

【背景解説】

放置されてきた汚染水対策

福島原発事故後、大量の放射性物質が海洋に放出されたことを受け、東京電力は深さ約30mの難透水層に達する地下遮蔽壁の構築を計画したものの、中長期的対策として検討することだけを、2011 年6 月17 日に公表した。これに対し、日本弁護士連合会は、同年6 月23 日、政府及び東京電力に対し、工事費用負担の問題にとらわれることなく、手遅れとならないうちに地下水と海洋汚染のこれ以上の拡大を防止するため、地下バウンダリ(原子炉建屋及びタービン建屋の周りに壁を構築し遮水する)の設置を含めた抜本的対策を速やかに計画・施行することを求めた。

この間、政府も東京電力も海洋汚染防止のための抜本的な措置を講じることなく、汚染は拡大し続けた。東京電力は、「原子力安全改革プラン進捗報告2013 年度第1四半期」において、地下水が汚染水となることを防止するための対策が「予定通りに実施できない、あるいは機能しない場合に備えて、凍土方式による陸側遮水壁について、概念設計等を進め、本年12 月までに技術的課題の解決状況を確認する」「汚染水が海洋に漏えいすることの防止対策としては、来年竣工する予定の『海側遮水壁』が進められている。(中略)工期は約3 年を要する」などとしている。

東京電力は、2011 年5 月以降、海洋に流出したセシウム137 は20 兆ベクレル、ストロンチウムは10 兆ベクレルにのぼると公表した。海洋汚染の広がりから、福島沿岸域の漁業再開は延期されるに至った。現在、福島原発敷地内の汚染水総量は43 万トンに達し、これらは建屋内に9 万3 千トン、タンク内に33 万4 千トンが保管されている。

今年7 月になって公表された経済産業省の汚染水処理対策委員会の議論によれば、既に5 月の段階で、地下水の流入を遮水するためのプランが複数のゼネコンから提案されている(粘土系遮水壁案、凍土遮水壁案など)。しかし、技術的蓄積のない東京電力がこのような提案の適否を判断して、迅速に業務遂行ができるとは考えられない。

また、敷地内に設置されたタンクが5 年しか持たない脆弱な構造のものであり、そのタンクのひとつから300 トンもの高濃度汚染水が海へ流出したことが判明した。他のタンクの健全性にも疑問がもたれている。タンクに水位計を付けなかったことや、タンク周囲に堰を設置したがドレン配管(排水用)の弁を開いていたので汚染水が堰の外に漏れてしまったことなどをみれば、東京電力が汚染水流出防止の重要性を認識しているとは思えない。

危機意識の欠如が対策を後手にまわらせる

経済産業省原子力事故収束対応室のまとめた2013 年8 月9 日付「凍土遮水壁のコストに関する検討状況」によると、遮水壁工事は「世界に前例のないチャレンジングな取り組みであり、多くの技術的課題もあることから、平成25 年度末までにフィージビリティ・スタディ(実現可能性を探る事前の調査)を実施する」とし、造成費に数百億円、維持費に年間数十億円を要するとしつつ、変動する可能性があるとしている。

この工事のため、「資源エネルギー庁、プラントメーカー、専門家等からなる実務的タスクフォースを汚染水処理対策委員会のもとに設置し、検討を進めている」としている。「フィージビリティ・スタディでは、遮水壁の範囲、遮水壁の深度、既設埋設物干渉箇所等での凍土の成立性等の検討事項について、調査・評価・検討を実施することとなる」としている。

事故直後から指摘されていた遮水壁の技術的可能性をこれから半年以上かけて調査研究するという姿勢は、高濃度の汚染水が環境中に放出され続けているという緊急事態に対応する上で、受け容れがたいものである。

東京電力に任せられない理由

現在、東京電力は、2つのミッションでまた裂き状態にある。1つは、「汚染水その他、福島の現場を一日も早く安全な状態にせよ」という要求。もう1つは、「民間企業として早く経済的に立ちゆくようにせよ」という要求である。そのため柏崎刈羽原発をむりやり再稼働して、企業業績を回復しようという動きを急いでおり、汚染水対策を含む事故収束業務も不完全なものとなっている。

電力会社は装置産業である。プラントの運転部門はもとより、装置発注・建設部門や保守部門も、定型的な詳細マニュアル化できる仕事を業としてきた。しかし、この度の原発事故およびその収束作業は、特大の不規則業務であり、従業員にとって一生に一度遭遇するかどうかの稀有な業務である。

東京電力に事故収束と汚染水対策をすすめる能力が欠けていることはもはや明らかである。ここに至っては有能で強い使命感を持った人員を組織的に動員し、東京電力に代わる事故収束のための事業体を別個に立ち上げるしか、現状の危機的状況は打破できない。

事故収束作業を担う一元的な組織づくりを

原子力市民委員会の主張は、“餅は餅屋に”任せろということだと思われる。産業界には、非定常的かつ状況即応型の業務形態の仕事を日常とする人々がいる。タスクフォースチームを組んでプロジェクト完遂を生業とするプラント系企業(造船重機のエンジニアリング部門を含む)などである。

放射能汚染水対策を含む事故収束では、すべての権限を持つプログラムマネジメント組織(PMO=ProgramManagement Office)を形成し、そこにプロジェクトスタッフを配置するのが良いだろう。これだけの数、規模のEPC(Engineering, Procurement & Construction)業務となると数百人規模のプロジェクト要員が必要であり、エンジニアリング系を中心とした複数社からの派遣が必要となる。

これは海外大型プロジェクトではよく採用される事業形態である。原子力産業に深く関わってきたメーカーやゼネコンの技術スタッフも、既得権益やいわゆる原子力村とのしがらみを断ち切ったうえで、ぜひ参画を望みたい。経験ある海外のエンジニアの参加を求めることも必要になるだろう。予算の策定と行使を含む広範な権限もPMO に与えるべきである。(2013年9月)

※背景解説は、原子力市民委員会の資料をベースに当編集部で要約・加筆しました。原子力市民委員会の提言には「事故収束業務の原則と手順」などにも触れられています。詳しくは原子力市民委員会のホームページをお読みください。

http://www.ccnejapan.com/


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