企業とNGO/NPO

社会を変える“明日のリーダー”を育てる

アメリカン・エキスプレスのNGO/NPOとの連携

Part 2:社会を変える仕事に挑む

第3回「アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミー」問答セッションから

若い起業家を前に日頃の思いを語る

第3回「アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミー」には、教育、医療、地域活性、途上国支援などの分野で活躍する若手起業家30名が参加。先輩起業家たちの講義のほか、個人ワークのカリキュラムが3日間行われました。このプログラムは、若手社会起業家がお客様や社会のニーズに対する理解を深め、より優れたサービスを開発・提供することを支援することで、彼らの行う事業のインパクトを高めることを目的としています。

この「問答セッション」は、全体のカリキュラムの中間に位置し、先輩3名の話とそれを受けた参加者たちの質問に答える形で行われました。

●問題提起を兼ねて

NPO法人ケア・センターやわらぎ  代表理事 石川 治江

外資系企業に秘書として勤務、その後、居酒屋、喫茶店、手紬工房などを経営して、福祉の道に進む。継続して長い間行える在宅ケアの仕組みを作ろうと、1987年、非営利の民間福祉団体「ケア・センターやわらぎ」を立ち上げて事務局長に。看護婦とワーカーを一緒に派遣することを特徴にし、「24時間365日」のサービスを打ち出した。1997年、「やわらぎ」を母体に社会福祉法人「にんじんの会」を設立。著書に『介護はプロに、家族は愛を。』がある。

http://www.yawaragi.or.jp/

㈱西粟倉・森の学校  代表取締役 牧 大介

民間シンクタンクを経て2005年アミタ持続能経済研究所設立に参画し、所長に就任。専門は森林・林業、農村漁村振興、生態学、環境民俗学など。FSC認証制度を活用した森林集約化や林業経営改善をはじめ、農山漁村での新規事業を多数プロデュースしてきた。現在は岡山県西粟倉(にしあわくら)村で村の創造・発信機能を担う地域商社、㈱西粟倉・森の学校代表取締役社長。地域再生事業を行い、共有の森ファンドなどを手がける株式会社トビムシ取締役を兼務。地域再生マネージャーを担当した西粟倉村が、「地域仕事づくりチャレンジ大賞」で2011年にグランプリを受賞。

http://nishihour.jp/

NPO法人エティック  代表理事 宮城 治男

大学2年の1993年に起業家を志す友人らと勉強会を発足。以来、起業家の育成に関心を持ち、独自の支援システムでネットベンチャーなど幅広い分野の起業家を育成してきた。NPO法人格を取得した2000年頃から社会起業家の育成に着手。環境や地域振興、ニート対策といった社会問題の解決に取り組む「社会起業家」の育成に乗り出す。セミナーやインターンシップ(就業体験)の提供を通じて社会起業家の育成、支援に取り組むNPO法人「ETIC.(エティック)」の代表理事。2006年、第1回ニッポン新事業創出大賞経済産業大臣賞を受賞。

http://www.etic.or.jp/

頭を冷やす時間も必要

石川:このあたりで一度頭を冷やしましょう。起業の先輩であるお二人にいろいろ話を聞いて頭を整理してください。この仕事に入った動機から…。

牧:虫大好き少年でした(笑)。そのまま大学生になりました。昆虫学者になる手前まで来ていたのですが、23歳くらいのとき、人間の社会で生きていくのか、昆虫と植物の話だけをする人間の社会で生きていくのかと、自分に問いかけ、あるシンクタンクのお世話になりました。その後、林業とか山村を何とかしたいと答えを探しているうちに、今の仕事に入っていました(笑)。シンクタンクは“離し飼い”状態のいい会社でした。自分の関心のある分野で、お客様をつくって仕事をやるわけですが、やればやるほど見えてくるものがあります。こうした方がいい、なんとかしてみたいという積み重ねの中で問題意識が芽生えてきます。

石川:“頭を冷やせ”と言いましたが、“魂を冷やせ”とも言います。介護の世界にいるとしんどい問題が次々と起きます。“魂を冷やせ”はそのとき自分にかける暗示です。カッカッしているといい解決法が見つけられません。

牧さんの話はほとんど文学の世界ですが、やっていることはロジカルです。宮城さんにも動機を聞いてみましょう。

NPO法人ケア・センターやわらぎ代表理事 石川 治江さん

自分たちが求めているものとの間にズレ

宮城:僕は団塊ジュニアです。平和で自由で、食べることにも困らない、そんな社会しかしらない世代です。ところが、幸せとか生きがいってなんだろうと考えると、お金はたくさん稼ぐ方がいいし、人よりも出世できる方がいいし、田舎よりも都会の方がいいとか、今の状況と自分たちが求めているものの間にズレが生じていると思いました。

石川:物心ついたときから、そんなことを考えていたわけ……。

宮城:中学生くらいのときにそう思いました。じゃ、何をすればいいのかという答えはありません。それを自分たちでつくっていくというか、変えていく存在になりたいと思いました。早稲田だったので、変なことをしている人がたくさんいました(笑)。政治を変えるとか、マスコミを変えるとか……。ところが4年生になるとハンで押したように偏差値就職活動を始めるわけです。もったいないと思いましたね。

石川:エティックをつくろうと思ったのは……。

宮城:簡単に答えはみつかりません。いろいろ考えた末、大学2年生のときに起業家の先輩を大学に呼んで勉強会を始めました。サークルのようなもので、初めは名前もありませんでした。1年後にエティックと付けました。

石川:宮城さんからこんな話を聞くのは初めてですね。

宮城:ふだんは隠れて生きています(笑)。話すのは苦手だったりするので、自分より上手に話してくれる人を調達してくるのが仕事だと思っています。

石川:得意な誰かを連れてくるというのはキーワードかもしれませんね。でも中学生の宮城少年がどうしてそんなことを考えたのだろう。不思議だね。

●若手起業家たちの質問に答えて

質問者A:僕らは船長(団体のトップ)をやっているわけですが、もっとすごい船長が目の前に現れたら、自分の船を捨てる、あるいは預けるという選択肢もあるのでしょうか。

牧:事業の初期設定によると思います。森の学校という会社はあくまでも一時的に経営を預けられた形です。地域に戻していくというゴールがあります。僕以上にやりたい、この人だったら任せられるという人がいたら、うれしいことです。持続可能経済研究所というアミタの中の事業部でやっている会社があります。本物のシンクタンクをつくりたいということで一生懸命つくったのですが、トビムシという会社を立ち上げ、ほかの人に任せました。シンクタンクとドゥータンクの機能を分離したわけです。心中は複雑でしたね。自分=持続可能経済研究所みたいなところがありましたから……。

質問者B: 4〜5年前からエティックさんとお付き合いがあるのですが、スタッフの皆さんが生き生きと働いているのを目にしています。どうしたら社員が育つのかお聞きしたいのですが。

宮城:オフィスにいてもいるのかいないのか分からないのが私です(笑)。電話が掛かってきて、「あっ、いたのですか」と。エティックは、各自が自分で意思決定しないと気持ちが入りません。そこは大事にしています。指示とか命令はほとんどありません。意思決定のお手伝いをしているというのが私の立場です。

質問者C:こういう資質や能力があれば、伸びる、成功するといったことはあるのでしょうか。

宮城:起業家もさまざまです。自分で起業家だと思っていないような人もいます。こういう資質がなければならないというわけではありません。根っこのところで大切にしているもの、価値観といったところで共通項はあるかもしれませんが。

牧:このテーマを追求したいという思いを内部に宿した人は、ほっといてもどんどん伸びていきます。思いはあって、問題意識も悪くないし、センスもあるのだが、ふんばりきれないタイプは、パフォーマンスは上がりません。ぎりぎりのところまで追い込んであげないといけないのだと思います。

㈱西粟倉・森の学校代表取締役 牧 大介さん

質問者D:結構揺れ動くところがあるので、しっかりしないといけないとは思っています。完璧でありたいと思う半面、自分自身も迷ったり、弱さがあります。

石川: “世間の誤認”という言葉があります。しっかりしないといけない。誰かに見られている。だから自分はこうしなければいけないのだと…。世間から見られる自分像をつくっているわけです。そういうのはあまり気にしないで、やりたいことをやるしかありません。垣根をつくるのではなく、取りはがしていくことが必要です。

質問者E:いい師匠とめぐりあった経験はありますか。

牧:いろいろな方にお世話になりました。昆虫をやっていたときは昆虫の師匠が、地域のときはある地域に師匠がいました。漁師さんには魚の釣り方やさばき方も習いました。僕に唯一才能があるとしたら、弟子入りするという才能かもしれません。

宮城:起業家をめざして相談に来る人がいますが、こっちを先生だと思ってきてくれる人もいます。気がつくとこっちも目線が上からになりそうなのですが、自分をフラットに戻してありのままでその人を見たら、こちら側が教えられることも多いのです。そういうことを見つけ出す心の習慣を持とうとしています。

石川:昔、絵を描いていました。そのときの先生はとても野心家でしたね。仕事は先輩が教えてくれました。物事の見方、考え方は仕事のボスが師匠でした。

質問者F:リーダーシップの捉え方についてお聞かせください。われわれは船長ですが、船長のリーダーシップはボトルネックになることもあります。ちなみに私は30代です。

牧:僕は人を育てるのは下手だと思っています。周りに厳しくしすぎるきらいがあり、最近は少し自重するようにしています。最近はとやかく言ってどうなるものでもないと達観しています。こういうふうにしたらいいね、というところで付き合うくらいですかね。

宮城:20代よりも30代の方が社会への影響力が出てきます。動くと事業も大きくなるし、関係する人も増えざるをえない。人が増えるとリーダーシップはおのずと磨かれざるを得ません。起業家という生き方を選んだ時点で、自動的に磨かれるポジションだと思います。成長のスピードも速いと思います。30代はただ走るだけでなく、自分自身も問われるわけです。

牧:こう見えても気が短い方なのです。カリカリしていると周りが怖がって報告が上がりません(笑)。自分が一歩下がってもう一人の自分を客観的に見ることにしました。35歳くらいからそれができるようになりました。相談にも来るようになりました。

石川:リーダーになりたいと思っているうちはいいリーダーになれません。ただ、人間は分かっていても自分のやり方は変えられません。もっと自然体でいいと思うの…。着飾らなくて、ありのままの自分で勝負に出るべきです。その覚悟が大切です。

質問者G:今、自分自身がボトルネックになっていると感じています。こんなに素晴らしい人たちがいるのに活かせていないというような経験はありませんか。

NPO法人エティック代表理事 宮城 治男さん

宮城:組織は伸びないのは俺のせいじゃないか、という思いを持っているわけですね?私はいつもそう思っていますよ。ボトルネックは自分だと。

牧:やれることをやるしかありません。自分の能力を高めていければ、周りによい影響を与えていけるはずです。トップの能力は組織に一番影響を与えるでしょうから…。成長するよう努力するしかないでしょう。

石川:ボス以上の組織はできません。1つは自分自身を高めていく、ボトルのラインを高めていくわけです。この繰り返しです。うちの職員は700人ですが、31歳の若者がボスです。あなたが伸びるしかないと私は言っています。ボトルネックで悩んでいる暇なんかありません。

質問者H:28歳です。今度結婚します。僕の中では事業が優先順位のトップですが、結婚を機に生活のバランスが変わったりすることはあるのでしょうか。

牧:僕も28歳で結婚しました。年に200日くらい出張するような毎日で、本当にお前の子供かと冗談を言われました(笑)。子供ができてからは意識的に家にいる時間を確保し、休みをつぶさないようにスケジュールを組むようになりました。

石川:私は結婚で泣く泣く仕事を辞めました。家にいたのですが、これって牢獄だと思いました。これで一生暮らすなんてとんでもないと思いました。子供が生まれるのは大きな変化です。その頃は仕事を7個掛け持ちしていましたが、3時間も眠れればいい方でした。年に1回ほどはぶっ倒れていましたが、後悔だけはしたくないと思っていました。

質問者I:事業を立ち上げたときと今の思いは一致しているでしょうか。今の自分の事業の中の付加価値といったものも含めて聞かせてください。

牧:地域には手付かずの資源が一杯あるので、それが商品になってお客様に喜んでいただけることが付加価値です。トビムシの立場だと、森林を含めた自然とか、地域全体が持っている価値の総枠みたいなものを高めことが付加価値です。地域に眠っている価値を活かすのです。

宮城:エティックに関わるとその人らしくなることが付加価値といえるでしょうか。また、チャレンジしたくなることといってもいいかもしれません。自分に向き合いたくなるというのが私たちの役割だと思います。創業時からほとんど変わっていません。

石川:どのサービスにどのような付加価値をつけるかは、そのときによって違います。選択肢があるとしたら、私はしんどい方をやります。それがいいサービスにつながり、信頼につながります。

質問者J:皆さんは人をたぶらかすのが上手というか、人の目利きだと思います。自分から志願してくる人と引っ張ってくる人ではどちらがよいでしょうか。

牧:地域の人と仲よくしないことを僕の中では大事にしています。仲よくしても結果が出ません。ただ、仕事上の結果を出すために関係づくりはしっかりやります。志願兵はかなり危ないですね。お願いしてきてもらうのは良いのですが、「やらせてください」という子は結構軽いですね。どちらの方が踏ん張りが利くかということです。

宮城:自分で面白がっているというのは大事にしています。自分自身が面白くないと一緒に面白がってくれる人は出てきません。人の目利きという意味でも同じです。この間、全スタッフを集めて思ったのは、全員どこか一本抜けているということです。お人よしという意味です。この仕事は“お人好し”でないと続かないのかなと思います。

石川:二人と同じです。私のところのスタッフもお人よしです。馬鹿がつくくらいです。お人よしがお人よしを呼ぶのです。(2013年9月)

●アメリカン・エキスプレス・インターナショナル (社会貢献サイト)

http://www.americanexpress.com/japan/legal/company/philanthropy.shtml

<関連記事>

NPOを支える明日のリーダーたちよ 学び、はばたけ!アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー2013
ITという社会インフラを止めてはいけない!日本IBMに聞く「災害・パンデミック発生時の対応について」
国民の英知を結集して、放射能汚染水の流出を防げ!原子力市民委員会が緊急提言
「捨て方をデザインする会社」が提案する企業価値を最大化する廃棄物の使い方~㈱ナカダイ
「こどもにつたえるフェアトレード2013」レポート
考えよう! アフリカの水
2013年(第22回)旭硝子財団「ブループラネット賞」受賞者が決定
薬に頼らないエッセンシャルオイルを活用した心のケアを提案
自然エネルギーに舵を切る米国のIT企業
グローバル化時代の企業の人権リスクとは?
倫理観を基盤に、科学技術を社会に役立てる技術士
ネパール人女性登山家が公共広告に登場
横浜市の「待機児童ゼロ」が残した課題
あなたが一足の靴を買うたびに、貧しい国の子供たちに、TOMSの新しい靴が贈られる
就業時間、製品、株式の1%を社会貢献に

トップへ
TOPへ戻る