国内企業最前線

つくる、つなげる、つたえる――社会のしくみを“デザイン”する会社

budoriという会社の生き方から見えてくるもの

ソーシャルビジネスが喝采を浴びています。でも、中にはちょっと胡散臭いものもないわけではありません。何が本物で何が偽物だなんて、野暮は言いません。日本にもこんなユニークな会社があるのだという面白い事例をお伝えしましょう。

社会から必要とされる仕事にしっかり向き合う

「何をやっている会社か分からない」。取材でときどきそういう会社に出くわすことがあります。実は、これから紹介する㈱budoriもそんな会社の1つでした。社長の有村さんに聞くと、「“○○業界で知られた存在”ってあるでしょう。でもbudoriは特定の業界でくくられる存在になるつもりはありません」ときっぱり。

記者が有村さんと初めて会ったのは数年前。東日本大震災の被災者支援でのことでした。NHKの「あまちゃん」で有名になった岩手県久慈市と陸前高田市で被災した縫製工場、宮城県石巻市の漁村・大指(おおざし)の被災地支援として「東北グランマのXmasオーナメント」プロジェクトを展開。被災地と全国を結ぶ取り組みとしてマスコミにも大きく取り上げられました。

仕事をしていただいた東北のお母さんたちとBudoriメンバー。

心を繋ぐ「東北グランマのクリスマスオーナメント」
宮城県大指の東北グランマそれぞれの復興
★東北グランマのクリスマスオーナメント2013年版はbudori butikoで限定販売中です。
http://budori-butiko.com/

被災地支援で縦横無尽の働き

このとき中心メンバーの1人として、写真撮影、動画やWebサイト、パンフレットなどの企画・制作を一手に引き受け、イベントの装飾やオーナメントの販売などを担当したのが有村さんでした。当時の名刺はガーデンラボ㈱社長とあったので、てっきり庭の設計士さんか造園士さんの会社だと思っていました。

前触れが長くなってすみません。そろそろbudoriが何者なのか種明かしをしないといけませんね。それにはどんな説明よりもbudoriのWeb ページを見ていただくのが近道かもしれません。

http://www.budori.co.jp/works

上記のサイトではbudoriが最近手がけたプロジェクトの数々です。企業の会社案内や製品紹介、Web ページ、ベテラン女優のオフィシャルサイトと並んで、2019年のワールドカップを釜石に誘致する「釜石誘致ロゴ」、パーマカルチャーデザイナーの四井真治さんの「パーマカルチャー入門講座」、母の日Special「たのしごトーク」……それらと並んで、売り物らしい商品が並ぶ「budori butiko」、東京の木でつくったTokyo Tree Products「KINO」、企業向け生花販売を行う企業通販サイト、食も愉しむ緑のカーテン「ベジウォール」、石巻浜十三など全国各地の特産品を紹介・応援する「te-ni-te」などが所せましと並びます。

「なんだWebのデザイン制作会社なのか」と早とちりされそうなので、有村さんの言葉を借りて説明すると、「ここに登場したもののほとんどはbudoriがこれまでにクライアントと関わったプロジェクト。budoriはそれらをプロジェクトベースで応援し、企画コンセプトや関連グッズの企画デザイン制作およびネット販売、関連イベント企画運営までを総合的にサポートしました」となります。

そんな有村さんに「何で利益を出し、何で会社を維持しているの?」とあえて厳しい質問を向けると、「いつまでに○○億円売上げる、○○人の社員数にするといった目標はありません。でも、“いまやれること、頼まれること”でしっかり稼ぎ、もう半分で“未来につながる新しいことをやろう”と社員と話し合っています。それが本来の“経世済民(世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」の意)”、つまり経済の一翼をになう会社のカタチではないかと」とのこと。どうやら有村さんたちの思いは〈デザイン+α〉を活用した〈しくみづくり〉で、社会を変える触媒のような会社になることのようです。

それって凄い実験であり、とんでもない挑戦じゃないですか。


地球博をきっかけに、社会に役立つ起業をさぐる

有村さんが起業したのは2007年。「父親が亡くなった41歳という年齢に自分もなったのがきっかけでした」。それまで勤めてきた大手住宅設備メーカーを退職し、ガーデンラボ㈱を立ち上げ、同時にオンラインショップ「ロハスガーデン(後のbudori butiko)」の運営を始めました。

その2年前の2005年、有村さんは名古屋で開かれた「愛・地球博」でボランティアとして展示施設の運営に参加し、環境問題への関心を膨らませていました。そうした経験もあって2008年には東京ビッグサイトで開催された「みらいを創る環境展」のプロデュースなども手がけ、イベントのコーディネート力を磨いていきました。

また地球博の頃に、関係が深まった一人が発明家の藤村靖之さん。地方で仕事を創る塾や、著書『月3万円ビジネス』の中で幸せになる働き方を提案していました。その藤村さんが発明したのが「budori butiko」でいまも根強い人気を誇る「非電化珈琲焙煎器」です。

非電化工房の藤村さんが発明した「非電化珈琲焙煎器」。ていねいにコーヒー豆を煎り、ゆっくりコーヒーを楽しむ人に大人気。budoributikoで購入できます(http://budori-butiko.com/)

震災で生まれた“きずな”が後押し

ガーデンラボ㈱がようやく立ち上がり、拠点を関西から首都、東京に移して、社員数も3人から5人体制になり、もう一回り大きくなろうとしていた時期に遭遇したのが、2011年3月に起きた東日本大震災でした。

「震災が後押ししたのは事実です。新しい出会いが増え、それがきっかけでプロジェクトの数も増えていきました」。被災地支援の輪の広がりとともに、新しい人間関係も生まれ、それらをとおして事業も少しずつ広がり始めました。

震災から約1年後の2012年3月1日。ガーデンラボ㈱は「株式会社budori」と社名を変更します。実は有村さんが若い社員たちに起業の動機を語るとき、いつもある童話作家の名前が登場します。宮沢賢治です。二人の出会いにさかのぼると、有村さんの新しい社名へのこだわり、熱い思いが伝わってきます。


グスコーブドリのように、きびしく、やさしく

宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』をご存知でしょうか。この童話の主人公の名がブドリ= budoriです。新会社の経営理念を固め、その理念を表す社名を決めようと集まってくれた仲間たちと議論をしながら選んだのが有村さんが子供の頃から愛読してきた宮沢賢治の作品に登場してくる「ブドリ」でした。

〈コラム/グスコーブドリのあらすじ〉
ブドリはイーハトーブの森に暮らすきこりの息子。飢饉で両親を失い、農業に携わったのち、クーボー大博士に出会って学問の道に入り、やがて火山局の技師となって火山の噴火被害の軽減や人工降雨を利用した施肥などを実現させたものの、イーハトーブはまたしても深刻な冷害に見舞われます。
人々を救うには、火山を人工的に爆発させて大量の炭酸ガスを放出させ、その温室効果によって飢饉を回避する方法しかないとブドリが提案。クーボー大博士によれば、それにはだれか一人が最後まで火山にとどまる必要があるというもの。みんなの説得にも関わらずブドリが最後の一人として残るというお話です。

ブドリの生き様と重なる自身の体験

有村さんが大阪で生まれたのは1965年。日本中が東京オリンピックで沸いた翌年のことでした。物心がつくと父が経営する鉄工所の集金を手伝い、旋盤機まで操作する健気な少年でした。「その頃の大阪は公害がすさまじく、コールタールのような川でした」。有村さんが環境に目を向けた遠因が少年時代の大阪にありました。

高校2年生のとき、人生の転機が突然有村さんに襲い掛かります。父が友人から預かっていた多数のシンナー缶の引火爆発により父の工場が延焼し、2か月後にお父さんが亡くなったうえに、大きな借金を背負うことになりました。

父の教えであった「手に職をつけろ。人は思いがあればどんな仕事でもできる」の教えを守るため、18歳で製パン会社に就職、一通りのパンがつくれるようになって乗り込んだ電車の中で見たのがJICA(青年海外協力隊)のポスターでした。

世界の貧しい国の人にパンづくりを伝えたいと応募したところ、「後進国は泥水を飲んで、草を食べているような世界。あなたの思っている社会は50年後も100年後も実現できない」と言われてやむなく断念しました。

それならと人の役に立つ仕事とは何かを探るためリクルート社に最年少営業として就職し、20代の初めに3期連続で新規獲得全国1位となりました。「人の3倍まわれば、3倍獲れますよ」と本人はいたって謙虚だが、こうした過酷な経験がグスコーブドリの生き様とも重なってきます。

リクルート社の営業として抜群の成績を残し、職場の仲間たちから祝福を受ける若き日の有村正一さん

有村さんによれば、「ブドリは自己犠牲を教えているのではなく、限りある人生の生き方。知恵の継承を伝えるもの」とのこと。社名にあえてbudoriという高い理想を掲げることで、「わくわくするようなプレッシャーの中で仕事を楽しんでいる」と話してくれました。


KINOに託すもうひとつの思い。東京の木を発信

budoriのオフィスを訪ねると、フロアーの半分を木の香漂う一部屋が占めているのに気づきます。KINO(キノ)部屋と呼ばれるこの部屋はイベントルームとして貸し出すほか、budoriのショップの展示場を兼ねています。

実はこの部屋で使われている木材は、東京・多摩地区の山から伐採されたスギやヒノキ。東京にも山があり、利用できる木材があることを教えてくれます。
いい山を育てるには、木を植えるだけでなく、木の成長に合わせて間伐や伐採が必要となってきます。山にも自然の摂理にそった循環のしくみづくりが欠かせません。

Tokyo Tree Products=「KINO」プロジェクトは、多摩地区のある森林組合長との出会いがきっかけでした。budoriでは、天然の木から〈削って、磨いて、塗って、つくる〉、「さじ」「はし」「バターナイフ」などの「KINO つくるキット」、タテ・ヨコで高さの違う椅子になったり本箱になったりする「たないす」、東京の木の音を愉しむ「KINO のつくるカスタネット」なども販売しています。

手づくりの楽しさを教えてくれる「さじ」「はし」「バターナイフ」の『KINO つくるキット』

国内材の“地産地消”を進めたい

30代になった有村さんは住宅のエクステリア関連の仕事にも関わり、インドネシアや中国の外材を使った事業も手がけました。ドイツの森林組合とその周辺の街でビジネスをする機会もあり、工業国ドイツで木材の“地産地消”が予想を超えて進んでいるのを目にします。

先の大戦で大量の木材を戦争に活用したドイツと日本には、戦後、森林を育成するという共通の課題がありました。ところが戦後70年近くを経て、ドイツが木材の自給率を100%超(製品材、パルプは50%)に高めたのに対し、日本は外材などに依存した結果、戦前、ほぼ100%だった木材の自給率を28%に落としています。

KINOプロジェクトがきっかけで、いつか東京の山が元気になり、町おこしや地域振興策につながる日が来るかもしれません。


手を取り合って広がる、社会のしくみを変える仲間たちの輪

この夏、KINOの部屋を使って「こどもたちにつたえるフェアトレード2013」が開催されました。ゲストは国際NGOシャプラニールでつい最近までバングラデシュでフェアトレードの現地指導を行ってきた菅原伸忠さん。有村さんとはシャプラニールのネパール視察後、キャラバン報告会で一緒になって以来のつきあいです。

2つの組織の連携は、「こどもがわかる・おとなにひびくフェアトレードのしくみ」をはじめ、ワークショップ「シャプラニール・DAY」「バングラデシュの伝統刺しゅう“ノクシカタ”体験講座」に及びました。

『とりがおしえてくれたこと』の冊子を熱心に読むイベント参加の小学生

バングラデシュの女性がつくった伝統刺しゅう「ノクシカタ」を紹介する国際NGOシャプラニールの菅原伸忠さん

●「こどもにつたえるフェアトレード2013」レポート

シャプラニールがバングラデシュで生産する100%ナチュラルのフェアトレード石けん「She with Shaplaneer」や「カンタ刺繍」グッズはブドリのオンラインショップ「budori butiko」でも取り扱っています。

“おかいもので、ちょっといいこと”をコンセプトとする「budori butiko」では、オーガニックやフェアトレード商品、わが国に数人しかいない江戸染め職人に頼んで、budoriがデザインして染めてもらった手ぬぐいなど貴重な逸品も取り揃えています。1つひとつの小さな商品にも、budoriらしい「もの」から「こと」へのこだわりが隠されているのです。「budori butiko」は生産者も買う人も「みんながよろこぶおかいもの」ができるサイトをめざしています。

納得いくまで議論し、納得したら行動に

現在、budoriの社員数は10名になりました。Webディレクター、デザイナー、カメラマン、出版・編集から山と木の専門家、イベントプロデューサーなど多士多彩な顔ぶれが揃い、その周りを外部のクリエイターが取り巻いています。

budoriのスタッフは、非電化工房の藤村さんが提唱する「愉しい」+「しごと」=『たのしごと』の実践を基本スタンスにしています。たとえば、普段の仕事ではロゴ(図案化・装飾化された社名や商品の文字)デザイン1つにもみんながアイデアを持ち寄ってブレストーミングするとのこと。これぞ「たのしごと」の実践に違いありません。

「社会のためになることをしたい。光が当たっていない人たちに光をあてていくのがbudoriの仕事です」といつか有村さんがポツリと語ったことがあります。

グスコーブドリのブドリは、どんなに不遇な環境でも前を向き、懸命に学び、仕事を得て大きく成長しました。budoriが〈つくる、つなげる、つたえる〉をとおして、さらに大きな役割を担える会社になってほしいと思いました。

●株式会社budori

http://www.budori.co.jp東京都千代田区岩本町2-11-9 イトーピア橋本8F
info@budori.co.jp
(電話:03-5809-3057)

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