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日本は人権大国か?

ポラリスジャパンが子どもたちの人身取引被害を防ぐ新プロジェクトを発表

人身取引(ヒューマントラフィッキング)が後を絶たない。成人女性だけでなく、未成年者にも広がる勢いだ。2004年8月に人身取引の廃絶を目指して設立されたポラリスプロジェクトジャパン。設立から10周年を迎えた記念イベントが開かれ、これまでの活動を振り返るとともに、2014年からの名称変更、子どもたちを守る新プロジェクトを発表した。

●「日本人が知らない「人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)」記事はコチラ

10周年会場の模様

これまでの10年を振り返って

この日の会場にはポラリスプロジェクトジャパンに支援を続けてきた企業担当者やこの間の活動で連携してきたNPO関係者など約100名が集まりました。「この活動が10年続いたということは日本の社会から人身取引がなくなっていないということの証し。人身取引のない社会を目指したい」と代表理事の一人があいさつ。続いて代表の藤原志帆子さんからこの10年の歩みが語られました。

代表 藤原志帆子さんあいさつ

人身取引は世界全体で2000万人

会場でマイクを持って報告する藤原志帆子代表

藤原:皆さんにお聞きします。日本を含む世界全体で年間どれくらいの人身売買が行われているかご存知ですか。女性や子どもたちだけでなく、男性も含めた多くの人々が自分の意思に反した形の労働に従事させられています。

その数は約2000万人。東京都と神奈川県の人口に匹敵します。

では2000万人のうち、どれくらいの人たちが人身売買だと認識され、救助されているかというと、1%にも達していません。今日も、明日も、増え続ける一方なのです。人身売買を含む人身取引は、大きな犯罪であり産業となっています。

2004年に米国ポラリスプロジェクトの日本法人としてポラリスプロジェクトジャパンを立ち上げた当初、私は日本でも簡単に法律が整備され、人身取引はなくしていけると考えていました。でも実際はそんな甘いものではありませんでした。日本には大きな壁があると痛感せざるを得ませんでした。

その1つは性による女性差別という壁です。女性を対象にした性的搾取が行われ、買春などの場で女性が商品化されています。女性に対する暴力も容認されています。未だに日本では表立ってこうしたテーマに触れにくい雰囲気があるように感じます。

もう1つは人種差別です。私どもでは、最近、日本人の女性が人身取引の被害を受けるケースも急増しています。そこで感じるのは、行政の対応を見ると外国人の女性への対応と全く違うということです。外国人の女性が被害を訴えても日本の行政機関はなかなか重い腰を上げません。けれども日本人だと比較的早く対応してくれます。これは明らかな人種差別です。

ある外国人女性が遭遇した被害

藤原:人身取引とは何かを改めてご理解いただくために、私たちが初めて扱ったケースをお話します。私たちは2004年にポラリスプロジェクトを日本で立ち上げ、2005年に日本初の人身取引被害者のためのホットラインを開設しました。

最初の相談は岐阜県からでした。フィリピンの19歳の女性でした。彼女は東京にいると思い込んでいるようでしたが、岐阜県にいました。彼女はダンサーとして、シンガーとして2回来日した経験があり、3回目はフィリピンパブで働かされ、お店の奥で客に性的サービスを強要されるようになりました。

いろいろなところにSOSを発信し、ようやくフィリピンの家族から私たちに連絡が入り、救助に向かいました。名古屋付近は危険でしたので、横浜のシェルターで保護し、次の日に入国管理局に連れていき、その場で入管の職員に人身取引だと伝えました。職員の方に私どもから詳しく説明してようやく認定してもらい、彼女をフィリピンに無事に送り返すことができました。

●ホットライン相談(電話相談):2005年に日本初の人身取引被害者のためのホットラインを開始。2005年から2012年末までに約2900件の相談に対応しました。対応言語は日本語、英語、韓国語の三か国語。メールでの相談にも対応しています。

人身取引に関する ホットラインとメール相談
0120-879-871 (日本語・英語)
soudan@polarisproject.jp

●被害者直接支援: ホットラインに助けを求めてきた被害者の保護、緊急時におけるソーシャルワークサービスのほか、被害者が必要とする医療や福祉、法的支援を受けるための付き添い支援、連携機関であるシェルター(緊急の一時保護施設)や法律相談、医療機関等への紹介などを行っています。

日本人女性からも被害の訴えが

藤原:ホットラインの活動は5年くらい前から大きな変化があります。初めは大半の相談が外国人からのものでしたが、最近は相談件数の半分が子どもたちを含む日本人からのものになりました。

ある日本人女性の救出事例をお話しします。彼女は渋谷に住み、10代の頃からおよそ10年間、とても暴力的な恋人によって売春を強要されていました。

2つの性風俗産業で働かされ、稼いだお金のすべてを暴力団関係者だと名乗るその男性に搾取されていました。女性は10数万の借金があり、男性が肩代わりをしたという名目で、彼女が稼いだお金を毎年数百万円単位で搾取していたのです。

この話を聞くと皆さんは「どうしてそんなことに?」と思われるでしょう。でも、暴力等の恐怖に支配され、ある種の洗脳をされた彼女は10年近くも苦しみながら逃げることができなかったのです。しかし、ある時、もうこれ以上耐えられない、この場から逃げることができれば「親や友人との連絡も取れなくなってもよい、自分の存在はどうなってもよいから…」と私たちにSOSを求めてきたのです。そして東京都の相談所と連絡を取り、彼女の救出を手伝いました。しかし、彼氏である男性は姿を消して行方はいまだに見つかりません。

相談件数のグラフを見ていただくとわかるように、私たちが取り扱う件数は数的にはほぼ横ばいですが、一つひとつの相談に時間が掛かるようになっています。先ほどのように恋人関係を利用した売春の強要などの問題は解決にとても時間が掛かります。

理解を広げるため研修に力を注ぐ

藤原:もう1つの大切な取り組みはトレーニング、つまり研修です。ポラリス設立直後の2004年から2005年ぐらいは“人身取引に関する研修”といっても全く耳を貸していただけませんでした。しかし、2006年、2007年と少しずつ独自の研修やイベントを実施できるようになり、毎年数千人、昨年までに2万人規模の研修を行い、ようやく社会から認知されるようになりつつあると感じています。

今日は法務省、厚労省、警察庁などの関係者、小学校から大学までの先生方にもいらしていただいていますが、そうした皆さまとの輪が広がるなかで新しい人身取引の被害者が見つかるケースも増えています。「こういう人が目の前にいるがどうしたらよいか」という相談も徐々に増えています。

2014年には47都道府県のすべてを対象に関係者の研修を行い、さらに支援体制の底上げを図りたいと思っています。


2014年から「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」に命名を変更

この日、会場では、ポラリスプロジェクトジャパンの名称変更も発表されました。2004年に米国のポラリスプロジェクトの日本支部としてスタートし、人身取引の被害者を救済する活動を続けてきました。この間の活動を振り返ると、米国の実態と日本の被害の状況が大きく異なることも分かってきました。

日本支部として米国本部と同一の枠組みではケースによっては日本での保護支援が制限されることもありました。日本独自の活動の必要性から、米国法人との協力連携を続けつつ、2009年に日本でNPO法人化し、米国本部から独立しました。2009年の独立後も米国本部のスタッフは理事の一員として関わり続けていましたが、スムーズな運営移管のため、2012年には理事会もスタッフも完全に日本を拠点にした、今の組織体制が完成したのです。

2014年1月1日からの新しい名前は「人身取引被害者サポートセンターライトハウス」、灯台の意味です。人身取引の被害者は真っ暗な闇の中に一人ぼっちでいる、彼らにとってどんなに小さくとも希望の明かりを灯し続ける灯台のような存在でありたいとの思いが込められています。



子どもたち向けて、新プロジェクトをスタート

さらに会場では、2014年に向けた新プロジェクト「子どものためのマンガ制作プロジェクト」も発表されました。子どもの性的搾取も大きな課題です。被害の現状は、2012年だけで4,000件以上にものぼっています。

ポラリスプロジェクトジャパンの相談窓口には親たちの虐待から逃れるため家出をした少女たちが、風俗関係者に騙されて性産業で働かされているという相談や、出会い系サイトで出会った人に脅され、やむなく風俗関係で働かされているという訴えも数多く寄せられています。そして被害者の年齢は急速に若年化しつつあり、小学生の少女が被害を受けるケースも少なくありません。

さまざまなケースを通じて強く感じることは「少女たちが人身取引についての知識が少しでもあれば、誰かに助けを求められたのではないか」ということです。

児童買春やポルノの問題は学校や家庭で話すことは難しく、タブーになりがちです。「子どもによる子どものための人身取引啓発マンガ制作プロジェクト」は子どもたちが巻き込まれる可能性のある性的搾取の被害について、子どもたちが手に取りやすいマンガをとおして、未然に被害を予防し、また被害にあった時にどうしたらいいか学べるものです。このプロジェクトでは現役の中学生たちとチームを組んで取り組む計画です。

●「子どもによる子どものための人身取引啓発マンガ制作プロジェクト」クラウドファンディングを受付中
現在、このプロジェクトの資金についてご協力いただける方には、クラウドファンディング(資金調達)サイト「ShootingStar」で12月3日から60日間の支援を受け付けています。希望する方は下記サイトからShootingStarに登録のうえ、カード決済で1,000からの支援が可能、5,000以上からは完成した冊子を受け取ることができるなど、様々なオプションが選択できます。

詳しくは下記サイトにアクセスしてください。

http://shootingstar.jp/projects/462

○NPO法人ポラリスプロジェクト ジャパン

http://www.polarisproject.jp/
info@polarisproject.jp
(2014年1月1日から人身取引被害者サポートセンター「ライトハウス」に名称変更)

●人身取引に関する ホットラインとメール相談
0120-879-871 (日本語・英語)
soudan@polarisproject.jp

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