山との対話② 2014年新春第一弾

馬が運び出した間伐材で美しい家具をつくる

岡村製作所とC.W.ニコル・アファンの森財団の連携

家具製造大手の岡村製作所は、2013年秋、作家C.W.ニコルさんが主宰する「アファンの森財団」と連携し、ホースロギングファニチャー「KURA」を発表しました。家具となった木材は、アファンの森財団が森林整備を任された長野県・黒姫の国有林から伐り出された間伐材で、搬送には地駄曳き(馬搬)が用いられました。エコプロダクツ展2013「森の学校」からお届けします。

「エコプロダクツ2013」岡村製作所ブースで開催された「森の学校」。右から岩間敬さん、C.W.ニコルさん、佐々木英彦さん、進行役の野口理佐子さん

●「森の学校」参加者のみなさん
C.W.ニコル:作家、一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団理事長
佐々木英彦:㈱岡村製作所きづくりラボ主任研究員
岩間敬:馬方、遠野馬搬振興会事務局長
司会 野口理佐子:一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団理事・事務局長

多様な動植物が暮らす豊かな森を

司会:岡村製作所(以下、オカムラ)とアファンの森財団による「森の学校」を開講します。アファンの森財団は、長野県・黒姫の地で放置され荒廃した里山をC.W.ニコルが私財を投じて購入し、それを再生させる活動を手掛けたのが始まりです。里山の再生に取り組んで28年、財団になってからは11年目を迎えます。アファンの森財団は2012年に隣接する国有林約27ヘクタールの森林整備を任されることになりました。

ニコル:アファンの森にはコナラ林、ハルニレ・オニグルミ林、スギなど80種類の木があり、フクロウ、アカゲラ、モリアオガエルなどたくさんの生物が住んでいます。隣の国有林にはスギ、カラマツが植林されているが、50年近くが経つのにほとんど手入れがされず、光の入らない暗い森が続いています。まるで“幽霊の森”です。

長野県・黒姫の地で里山の再生に取り組むC.W.ニコルさん(左)

私たちは2012年3月に林野庁北信森林管理署と協定を結び、その国有林の森林整備をすることになりました。光の入らない森で、木を間引く間伐を行うことで、残された木が大きくなり、多様な動植物が暮らせる森を実現したいと考えています。

通常、こうした山林での作業は、山に作業道を通すことから始まります。大型の重機を使って山肌を削り、トラックが入れるようにします。しかし、私たちはあえて大型の重機を森に入れない方法を模索しました。そこで考えたのが馬を使った木材の搬送、馬搬です。岩間さんたちのグループは、いまも岩手県遠野市で馬搬によって生計を立てています。遠野からわざわざ来てもらうことになりました。

司会:岩間さん、今回の作業の感想からお聞かせください。

岩間:ニコルさんがやっているアファンの森で働くという経験はいろいろな意味で興味深いものでした。国有林という場所で仕事をするのも初めての経験となりました。とても楽しい、よい思い出ができました。

私たちは岩手県遠野で2010年に遠野馬搬振興会を設立し、地域の伝統技術となった“地駄曳き”と呼ばれる馬搬の伝承、宣伝、普及を図ってきました。遠野では昭和の中頃まで40人以上の馬方がチームを組んで木材の搬出を行ってきました。しかし、林業の機械化により、遠野ではわずか2名だけになっています。その昔、“地駄曳き”は日本各地で普通に行われていた仕事です。

馬搬について語る岩間さん

司会:馬の費用はアファンの森財団が出しました。国有林ですから、間伐した木材も私たちが国から買った形です。

ニコル:ええ、国にお金を払ったのです。


森の恵みを活用できないか

司会:良い木を残して成長の悪い木を伐るのが間伐です。間伐材は、木材としては二束三文の価値しかありません。でも、せっかくここまで育った木をなんとか利用できないかと考えました。

ニコル:50年近くも放置された山にあった材です。せっかく切り出したのに、使えないと言われると腹が立ちます。なにかできないかとオカムラに相談しました。

司会:使えそうなところだけを選び出して、オカムラでスツール(腰掛け用椅子)をつくることになりました。大変なご苦労を掛けてしまいました。

佐々木:オカムラグループには、「ACORN(エイコーン:英語で“どんぐり”の意)」と名づけた活動があります。事業活動と生物多様性の深い関わりを認識し、生物多様性の保全と資源の持続可能な利用をめざすアクションです。

アファンの森財団からの要請を受け、検討を続けた結果、スツールをつくることになりました。無垢材としては使えないので、使える細かい材を寄せ集めて板状の集成材にしました。使えたのは全体の5%くらいです。

岡村製作所きづくりラボ主任研究員の佐々木さん

●ACORN特設ページ:オカムラは一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団のオフィシャルスポンサーになっており、2011年度からは年に1回、「アファンの森」で体験型研修会を行っています。

http://www.okamura.co.jp/company/csr/acorn/index.html

ニコル:わずか5%ですか。家具づくりともなると大変ですね。なにしろ手入れのされていない森は光が当たりません。不要になった枝を枝打ちしてあれば別なのですが、木に枝がついたままの状態で枝枯れしているわけです。枝そのものが死んでいるので、製材するとそこが穴になってしまいます。

佐々木:柔らかいスギ材は、普通は家具に適しません。なんとかデザイン性も取り入れたいということで、間伐材の集成材にスチールのノウハウを取り入れたハイブリットのスツールにしました。

司会:商品として世に出るというのは大変なこと。オカムラさんならではのアイデアですね。「KURA」というネーミングはどうして付けられたのですか。

佐々木:馬の「鞍」をイメージしています。このスツールは、上から見ると三角形の形をしていますが、馬の鞍をモチーフにしています。脚の部分は横から見ると馬の脚を意識しました。脚端の金具は馬蹄に見立てています。

実はスツールの表面には蹄鉄のオーナメントが付いています。ニコルさんからアドバイスを受けたのですが、欧州では蹄鉄の形は好運のシンボルとされているようです。馬搬(ホースロギング)で運び出したことを印す焼印や、アファンの森財団の焼印も入っています。

スツールづくりの苦労話を語る佐々木さん



●ホースロギングファニチャー「KURA」については

http://www.okamura.co.jp/company/csr/acorn/kura/index.htm

司会:間伐材とはいえ、せっかくここまで育った木材をなんとか利用できないかと考えたわけですが、どうしても使えない木はどのようにしましたか。

ニコル:伐り出しても使えない木は製材所でチップにしました。バイオ燃料として利用し、山道にも使いました。

司会:岩間さんは馬と一緒にこのプロジェクトに参加されたわけですが、このスツールにどのような印象を持っていますか。

岩間:馬で引き出した木材が素晴らしいスツールになってくれました。価値のある話だと思っています。いままでも馬を使って木を伐り出していましたが、一般の方からすれば馬で出した木と機械で出した木の区別はつきません。実際にこうしてスツールになってみるとどこでどのように伐り出した木でつくられたものか、トレーサビリティ(流通における生産者情報等の伝達のための仕組み)が明らかになります。使う方にもそれがはっきり伝わるのでありがたいことだと思っています。


山に馬を使うことの意義

ニコル:間伐をするといってもほとんどの人は興味を示しません。でも木材の伐り出しに馬を使うと知ると、誰もが興味を示します。馬のパワーはすごいですね。“馬力”が出てきます(笑い)。

司会:馬搬の作業には大勢の見学者が来たそうですね。

ニコル:ええ、大勢の人が集まりました。仕事の手伝いではなく、馬を見るために集まったのです(笑い)。

司会:日本の林業衰退の理由のひとつに、木を伐り出す道がないからだという説明があります。お金を掛けて林道をつくらないと伐り出せないと言われます。

ニコル:今回の国有林にも道はありませんでした。でも、馬と人間が木を伐り出すことで、自然に道ができました。何回も往復しているうちに安全な道が自然にできたのです。この道にチップを撒くと、調査道や散歩道にもなります。

岩間:馬のパワーの源はなにかというと草なのです。アファンの森に隣接する国有林には笹がありました。馬は仕事をしながら笹を食べます。馬にとっては仕事をしつつ、食事や休憩もとれる環境なのです。仕事が遊びの延長であり、遊びが仕事の延長というわけです。

馬は早くから家畜として飼われ、乗用をはじめ運搬や農耕で人間と一緒に働いてきた長い歴史があります。確かに機械化は便利ですが、いまの日本に欠けているのは山や森林にも影響の少ない方法を探すという視点です。

馬を使った作業を振り返る

司会:山に重機を入れると土を固めてしまい、山肌を傷めてしまいます。ところが馬が歩くだけで自然と道ができるわけですね。

岩間:英国では馬が山林の中に入るのを推奨しています。山林がほどよく耕されていくからです。私が馬方の師匠から教わった話では、馬が作業をした山では山菜がよく獲れるようになると聞かされました。

馬で木を運ぶという仕事は、ほどよく山を耕す働きがあります。間伐がされれば、土にも光が当たります。適度に土がほぐされ、土壌の改善が進むという効果も期待できます。山菜が出てくるのにもちゃんとした理由があるわけです。

ニコル:いま西洋では馬搬に対する見直しが進んでいます。ブームといってもよいでしょう。スウェーデンの農林学を学ぶ大学では馬搬の専門コースも生まれました。もちろん教科書もあります。

英国、ドイツ、デンマーク、カナダ、アメリカなどでも馬搬が見直されています。大きなトラックが入る道をつくるとお金が掛かるだけでなく、山のダメージも大きいものとなりますが、馬を使えば山肌を傷めません。他の動植物にも影響が少ないのです。

欧米では間伐した木材を馬で搬出する馬搬が見直されている。

司会:力仕事は馬がやるわけですが、若い女性でもできるでしょうか。

岩間:馬とのコミュニケーションが大切です。私たち人間は、力ではとても馬に勝てません。大きな丸太を動かす場合はトビを使ったテコの原理を応用します。知恵と道具の工夫で行う作業ですから、慣れれば力仕事だけではありません。女性でもやっている人がいます。

ニコル:若い女性が1トンもある馬と一緒に仕事をしている姿はとても絵になりますね。

司会:日本の山は複雑で急峻な地形に特徴があります。林道の造成だけでなく、山の作業でも機械化が叫ばれています。大きな機械を入れるためには高規格の林道が必要だということになっていますが、馬の活用もあってよいのではないでしょうか。

岩間:いまは機械化が主流で、まず道を付けなければならないとされています。でも、機械がない頃は自然の斜面を利用したり、冬にはソリを利用したり、馬や牛もたくさん働いていました。それが主流でした。いまよりもはるかに大きな木材を馬や牛が主力となって伐り出していたのです。

ニコル:西洋では馬搬とマッチングする機械の開発もさかんに行われています。
無理に大きな道をつくるのではなく、軽トラック程度の道をつくり、馬を活用すれば、どのような山からでも木材の搬出が十分に可能です。日本の技術力をもってすれば、森の道具もまだまだ工夫できると思います。

岩間:ヨーロッパに行って学んだのは、馬と機械のハイブリットがあるということでした。日本にはモーターとエンジンのハイブリッドはありますが、馬と機械のハイブリットはまだありません。

日本における馬搬の技術は30〜40年前からストップしたままなのですが、西洋ではいまも馬搬の技術が進化を続けています。とても驚きました。

司会:日本にはいろいろな技術があります。伝統的な技術と新しい技術を融合させ、森を良くするという情熱と英知がつながれば、木材の活用はもっと進むはずです。その一つの試みがホースロギングファニチャー「KURA」です。今回、馬で間伐材を伐り出したときは地域の森林組合などの見学者のみなさんもみんな素敵な顔をしていました。

佐々木:オカムラとしてもアファンの森財団との連携で、貴重な経験をさせてもらいました。「KURA」の販売は2013年12月に始まったばかりですが、売上の一部は森林に還元される予定です。

ニコル:私の望みは、森を使った日本人の“心の再生”にあります。長野県・黒姫のアファンの森だけでなく、東日本大震災で被災した宮城県・松島の森づくりなどをとおして、子どもたちの心のサポーターの役割も担いたいと考えています。

●岡村製作所

http://www.okamura.co.jp/
オフィス用の什器などを扱っている国内大手企業。コーポレートスローガンは「よい品は結局おトクです」。東京・赤坂に「オカムラいすの博物館」を有しています(要予約)。

●一般財団法人アファンの森財団

http://www.afan.or.jp/
C.W.ニコルさんが、1986年に長野県・黒姫で始めた里山の再生運動の舞台。故郷ウェールズ(英国)で炭坑の廃山が元の緑の谷に戻ったのを見たニコルさんが、ウェールズの「アファン・アルゴード森林公園」にちなんで名づけたもの。2002年に長野県から財団法人の資格を得ています。なお、afan(アファン)は、ケルトの言葉で「風の通るところ(谷)」を意味します。

※この記事は2013年12月に東京ビッグサイトで開催された「エコプロダクツ2013」岡村製作所ブースで開催された「森の学校」の模様を主催者の承諾をえて当編集部で再構成しました。文責は当編集部にあります。

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