企業とNGO/NPO

民間防災および被災地支援ネットワーク会議ピンチをチャンスに! いま被災地が求める支援とは?

仙台経済同友会 事務局次長 川嶋 輝彦氏に聞く

東日本大震災から1000日が経過した。震災以降、熱心な被災地支援を行うともに、次の災害に備えてきた「民間防災および被災地支援ネットワーク会議」がこのほど第9回目の会合を持った。仙台経済同友会の川嶋輝彦さんから被災地が抱える課題などについて聞いた。

仙台経済同友会川嶋輝彦氏

東北の支援に関わるため仙台に赴任

私は平成25年1月まで日本IBMで社会貢献活動を担当し、平成15年から平成19年まで公益社団法人経済同友会に出向していたことから、仙台経済同友会の代表幹事を務めるアイリスオーヤマ株式会社(以下、アイリスオーヤマ)の大山健太郎社長にご配慮を頂き、本年2月より同社に転職するとともに、仙台経済同友会の事務局次長として出向しています。

アイリスオーヤマは、皆さんもご存じのことと思いますが、ペット用品、ガーデニング用品を皮切りに、収納・インテリア用品、調理器具や生活家電、LED照明といった多様な製品の製造卸を手掛ける生活用品製造卸の会社です。

2013年11月28日に、NHKのクローズアップ現代で「米作り大転換“減反廃止”の波紋」という放送がありました。この番組では減反廃止で農家の不安が高まる中、コメ需要を掘り起こすため、アイリスオーヤマが東日本コメ産業生産連合会(涌井徹社長)と連携して、おいしいコメを消費者に届ける仕組みづくりを始めたという報道が話題を集めました。

消費者の皆様においしいご飯を召し上がっていくため、これまでなかったコールド製法(低温保管、低温精米、低温包装)を実現し、さらに新米のおいしさが味わえるよう、おコメを1〜2回で食べきれる3合入りの新鮮小袋パックにしました。

お米農家の支援につながればとの思いから、おコメは東北や北海道のお米農家と連携し銘柄一等米のみを使用するとともに、宮城県亘理町で精米工場〔舞台アグリイノベーション㈱〕を建設中です。工場の本格稼働を前に、テスト販売を開始していますので、ぜひ、既存のお米と食べ比べてみてください。

○お買い求めは近くの小売店もしくはアイリスプラザで

http://www.irisohyama.co.jp/okome/
○お問い合わせはTEL: 0120-975-408

各地経済同友会および仙台経済同友会の震災復興対応

先の東日本大震災から1000日が経過しました。宮城県内の産業をはじめ東北の経済は大きな被害を受けましたが、全国各地の経済同友会からは「IPPO IPPO NIPPON」プロジェクトを通じて多大なご支援をいただきました。

「IPPO IPPO NIPPON」プロジェクトは、東北の人々や経済がふたたび元気を取り戻すための力になりたい、ということで企業経営者たちが自発的に立ちあげたものです。5年間にわたり、企業や個人から寄附をお預かりし、被災地の人づくりや経済活性化に役立てるため、被災地の学校法人や公益法人への寄付を通じて支援しています。

4次にわたる震災復興提言を行う

被災地は、本格的な復興に向かっていますが、私たちはこの間、現場目線に立った具体的な提言を幾度か政府や地元自治体に行ってきました。この間の提言を簡単にご紹介します。

●震災復興第1次提言(2011年4月9日)~復旧・復興に向けて

  1. 津波被害の地元経営者の企業再建を支援するために、過去5年間に納税した全額を 「企業再建のための必要資金」として還付する。(経営者の経営マインドの保持を支援)
  2. 津波被害に遭った高校生の就職を支援するため、地元企業及び仙台進出の営業所等においては、 従来の雇用枠以外の別枠で当該高校生の採用を行う。
  3. 津波被害に遭った地域を津波被害特区とし、大幅な規制緩和や企業進出のための支援を行う。
  4. 復興事業において、地元雇用を優先する。
  5. 復興支援を行うための本部または復興院(庁)は仙台に立地し、地元の現状に合わせた復興事業をスピーディーに 行うことができる体制を確立する。


●震災復興第2次提言(2011年12月20日)

  1. 仙台平野南東部を復興のモデルに
  2. 仙台塩釜港、仙台空港、物流拠点の一体整備
  3. 人口減少・少子高齢化を前提にした介護・医療施策の推進
  4. 研究機関の誘致と研究学園都市の形成
  5. p style=”font-size: small”>学都仙台の持つポテンシャルを十分に発揮し、産学官連携による防災・減災研究をはじめ、海洋資源を活用した新エネルギーの研究開発、東北の基盤産業である農林水産業の高付加価値化の研究等の拠点を整備することを期待する。

  6. 東北各県及び首都圏との連携強化
  7. これからの東北地方の再生・発展のためには日本海側と太平洋側を連接する東西交通網の整備に加え、陸・海・空の各連接ルートと港湾・空港を含むターミナル整備が不可欠である。
    また、宮城県とりわけ仙台エリアは、首都直下型地震等首都圏で大震災が発生した場合の物流及び通信・情報等のバックアップエリアとしての役割を有するものと認識しており、今後その役割を積極的に果たすことができるよう準備を万全にしていきたい。

    ●震災復興第3次提言(2012年9月25日)

    1. 一層の規制緩和による未来につながる復興支援
    2. 創設の精神に立ち返った復興庁の機能発揮
    3. 産業集積を促進するための国の弾力的な支援強化
    4. 被災地での創業・ベンチャー支援のための税制措置の拡充
    5. 心の復興と、震災の風化防止の象徴となる文化施設の建設

    項目だけだと分かりにくいかもしれません。詳しくは仙台経済同友会のホームページにも掲載されています。関心がありましたらぜひご覧ください。

    http://sendai-doyukai.org/teigen.html

    本格復興に向けて第4次の提言を行う

    実は、2013年10月1日に震災復興第4次提言をまとめて発表しました全国ニュースにはなりませんでしたが、地元ではかなり大きく取り上げられました。以下、少し解説を加えながら報告します。

    ●震災復興4次提言(2013年10月1日)

    1. 農業復興を進めるため、国家戦略特区による農業法人の出資緩和

    被災地域における農業の大規模化のため、新たな担い手の参入を可能にする農業生産法人の要件緩和、農地転用基準の緩和など、一層の規制緩和を要望する。

    2. 県内における工業団地の整備と立地補助金増額による企業誘致の推進

    復興の加速化のためには、一次産業においては農商工連携、二次産業においては自動車関連企業の誘致が不可欠である。こうした新産業の用地確保は喫緊の課題であり県内における工業団地の建設、整備の推進を強く求める。また第三次産業としては、国際介護大学の設立への取り組みを継続する。

    3. こころの復興のための音楽ホールの建設

    世界レベルの音響設備を有する音楽ホールを建設することで、世界中の交響楽団の招聘が可能になり、交流人口の増加と都市機能向上を目指す。仙台経済同友会として3年間で10億円を目標に「音楽ホール建設基金」を創設する。

    4. 東北の中核都市として国際化とインバウンド誘客のためのインフラの整備

    東京オリンピックの開催を視野に、インバウンド誘客に向けた交通機関の整備、ホテルやコンベンション施設の建設、観光地における多国語(英語、中国語、韓国語)対応といった県内インフラの整備が急務である。

    5. 国家プロジェクトとしての国際リニアコライダー(ILC)の建設要望

    宇宙誕生のビッグバン直後の再現による宇宙創生や物質誕生の解明、「ヒッグス粒子」の研究はもちろん、海外からの研究者の受け入れによる街づくりを行うことにより被災地復興を進め、国家プロジェクトとしてのILCの建設を要望する。

    一点目については、安倍晋三政権の成長戦略としても取り上げられていますが、一次産業、特に農業を復興させ、成長産業に育てていくためには、農業生産法人への出資緩和が欠かせません。現状のままでは農業の大規模化とそれに伴うIT(情報技術)投資などを実現するのは困難です。国家戦略特区や復興特区を通じて、規制の緩和や撤廃を速やかに行う必要があります。

    二点目は、一次産業よりも二次産業、つまり製造業の問題です。津波被災地立地補助金やグループ補助金を活用した復興事例はありますが、何千人という規模で雇用を維持できるような産業が長期的な復興には必要不可欠です。
    震災後の2012年7月にトヨタ自動車東日本㈱が進出しましたが、周辺に産業クラスター(集団や集積地)を形成する必要があります。自動車産業の周辺に部品製造メーカーが進出することができれば自動車の組立だけではなく、製造や物流、保守サービスといった自動車産業クラスターの形成が可能になります。


    都市機能を高めていく

    3〜5番は長期的な復興に向けて都市の機能を高めるための提案です。やがて必要になると思われるものを挙げました。

    仙台市は観光都市だと言われますが、英語表記はもちろん、ハングルや中国語など、外国人向けの案内標識の整備が急務です。東京オリンピックが開催される2020年までにホテルやコンベンション施設も含めて、都市のインフラを整備しておかなければなりません。

    仙台市には世界レベルの管弦楽団、交響楽団を招聘できるような規模の音楽ホールがありません。1000人規模のホールはありますが、国際的な楽団を誘致するには2000人規模のものが必要です。札幌市の「きたらホール」など興行面で成功しているホールもありますので、それを参考に経済界がまず建設の後押しをしようということです。

    5番は国内の候補地としては北上山地に一本化されていますが、長期的な復興に向けて、国家プロジェクトとして取り組むことを要請しています。海外から優秀な研究員が家族ごと移住してくることも想定され外国人の定住人口増加も期待されます。

    2番目の最後に第三次産業について書いてあります。高齢化・少子化が不可避である日本において介護人材の不足は避けて通れない問題であり、国際介護大学をつくって介護ロボットやエビデンス・ベースト・ケア(Evidence Based Care)など、将来の介護ビジネスの成功モデルを作ろうという構想です。
    被災地も含めて日本の介護産業における先行事例にしたいと考えています。

    東北の基幹産業である農業や漁業の復興はもちろん重要ですが、持続可能な産業をいかに育成、誘致していくかが被災地の復興にとって大変重要です。同じような問題を抱える日本の地方都市にとって手本になるような復興を実現したいというのが震災復興提言の大きな目的でもあります。

    ※「民間防災および被災地支援ネットワーク会議」における川嶋輝彦さんの発言をご本人の承諾を得て当編集部で一部編集しました。文責は当編集部にあります。

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