日本のエネルギー問題

もう3年か、まだ3年か。

「エネルギー基本計画」に見る、“決められる政治”の危うさ

福島第一原発の事故からまもなく3年が経過しようとしている。被災地の周辺自治体ではいまも15万人近い避難民(県外だけで約5万人:年末時の復興庁調べ)が避難生活を余儀なくされている。原発事故被災地の復興には30年かかると言われるが、これまでの3年は長い道筋のわずか1/10に過ぎない。折しも東京都知事選挙の真っただ中。最大のエネルギー消費地で原発をめぐる論議がどこまで深まるのか。素材となる資料を提供したい。

国会が休会に入った年末のある日、国会内で小さな記者会見が開かれた。2013年4月に設立された原子力市民委員会(座長舩橋晴俊法政大学教授)が、安倍晋三内閣総理大臣と茂木敏充経済産業大臣に向けて緊急声明を発表したのだ。

この日の記者会見には、原子力市民委員会座長の舩橋晴俊氏をはじめ、佐藤和雄氏(脱原発を目指す首長会議、元小金井市長)、竹村英明氏(エナジーグリーン株式会社、eシフト)、筒井哲郎氏(プラント技術者の会)、松原弘直氏(認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所理事)、満田夏花氏(国際環境NGO FoE Japan理事)、吉田 明子氏(国際環境NGO FoE Japan、eシフト事務局)なども同席。

舩橋座長は、「原子力市民委員会の役割は、原発ゼロ社会をめざす説得性のある道筋をつくっていくことにあり、原子力に対する対案を出すことが主要な使命だと考えている。情報の公開とか、話し合いの積み上げの機会を国民に保障することは大切なことだ」と語った。

以下は原子力市民委員会による緊急声明の要約である。


〈緊急声明〉

政府は原発ゼロ社会の実現をめざし、民意を反映した
新しい「エネルギー基本計画」を策定せよ

経済産業省の審議会、「総合資源エネルギー調査会」(事務局:資源エネルギー庁)が、12 月6 日に開催した基本政策分科会において、「エネルギー基本計画に対する意見(案)」とする事務局素案が突如公表され、12 月13 日までにわずか2 回の審議で「エネルギー基本計画に対する意見」の取りまとめが行われた。

さらに6 日付の事務局素案により、そのまま新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた意見募集(パブリックコメント)が経済産業省資源エネルギー庁により開始されたが、13 日の審議結果により、後付けでパブリックコメントの対象となる文章の差し替えが行われる異例の事態となった。

この新しい「エネルギー基本計画」の策定は、今後の国のエネルギー政策(原子力政策や核燃料サイクル政策を含む)の方向性を決める重要なものである。

しかし、この計画案では福島原発事故の深刻な被害を十分に踏まえず、原子力発電の持つ様々なリスクや核燃料サイクルの問題点を軽視した上で、なお原発や核燃料サイクルを維持するとされている。

この計画案を基に経済産業省内や関係閣僚会議で新しい「エネルギー基本計画」を策定し、閣議決定することは、決して見過ごすことはできない。

原子力市民委員会では、すでに2013 年6 月に緊急提言「原発再稼働を3 年間凍結し、原子力災害を二度と起こさない体系的政策を構築せよ」を、2013年10 月には、「原発ゼロ社会への道――新しい公論形成のための中間報告」*を発表しており、2014 年4 月に発表予定の「脱原子力政策大綱」策定に向けて、原発ゼロ社会を実現するための様々な検討を行っている。

「原発ゼロ社会への道――新しい公論形成のための中間報告」


http://www.ccnejapan.com/?page_id=1661

政府は、「原発依存度を可能な限り低減させる」という方針を、責任を持って実施するため、この計画案のうち原発や核燃料サイクルの維持に関する部分を却下した上で、大多数の国民が原発ゼロ社会を望んでいるという明確な民意をふまえ、新しい「エネルギー基本計画」を策定すべきである。

【お問い合わせ先】

原子力市民委員会 〒160-0004 東京都新宿区四谷1-21 戸田ビル4F
(高木仁三郎市民科学基金内)TEL/FAX 03-3358-7064
http://www.ccnejapan.com/
E-MAIL email@ccnejapan.com

内容と手続きの両面で原発再稼働を急ぐ政府

公平性を担保するため、経済産業省の審議会「総合資源エネルギー調査会」の「エネルギー基本計画に対する意見(案)」から原子力に関連する項目を見てみたい。

第1章「我が国のエネルギー需要構造が抱える課題」では、第2節に「東京電力福島第一原子力事故及びその前後から顕在化してきた課題」という項目があり「事故は、エネルギー分野におけるシビア・アクシデントへの対応が欠如していたことを露呈した。いわゆる安全神話に陥ってしまったことや、被災者の皆様を始めとする国民の皆様に多大なご苦労をおかけしていることを、政府及び事業者は深く反省しなければならない」としている。

また、「6.エネルギーに関わる行政、事業者に対する信頼の低下」という項目では、「事故以前から、事故情報の隠蔽問題や、もんじゅのトラブル、六ヶ所再処理工場の度重なる操業遅延、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定の遅れ等、原子力政策をめぐる多くのトラブルやスケジュールの遅延が国民の不信を招いてきた」とある。

ところが、第2章「エネルギー政策の新たな視点」では、「経済成長の視点の重要性」が登場。「経済負担の最小化を図りつつ、エネルギーの安定供給と環境負荷の提言を実現していくことは、既存の事業拠点を国内に留め、我が国が更なる経済成長を実現していく上で前提条件となる」とし、「日本再興戦略の中では、企業が活動しやすい国とするために、日本の立地競争力を強化するべく、エネルギー分野における改革を進め、電力・エネルギー制約の克服とコスト低減が同時に実現されるエネルギー需給構造の構築を推進していくことが強く求められている」とする。

第2章-第2節の「各エネルギー源の位置づけと政策の基本的な方向」では、原子力を「エネルギー需要構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源である」とし、「万が一事故が起きた場合に被害が大きくなるリスクを認識し、事故への備えを拡充しておくことが必要である」としている。

第3章「新たなエネルギー需要構造の実現に向けた取組」では、第1節に「原子力政策の基本方針と政策の方向性」が取り上げられている。

そこでは事故後「エネルギー問題への関心は極めて高くなっており、原子力の利用は即刻やめるべき、できればいつかは原子力を全廃したい、我が国に原子力等の大規模集中電源は不要である、原子力発電を続ける場合にも規模は最小限にすべき、原子力発電は引き続き必要である」との声を併記しつつ、「原子力発電は、燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで供給が維持できる準国産エネルギー源」と再定義し、「安全性の確保を大前提に、エネルギー需要構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源として引き続き活用していく」としている。

柏崎刈羽原子力発電所の再稼働申請が焦点に

原子力発電がエネルギー需要構造の安定性を支えるベース電源になりうるというのが政府の見解のようである。だが、原子力発電所の再稼働は決して簡単ではない。

再稼働に向けた最大の課題は、「原子力規制委員会の新規制基準の下で安全性は確保できるのか」という点であろう。

「総合資源エネルギー調査会」の「エネルギー基本計画に対する意見(案)」では、独立した原子力規制委員会によって「世界で最も厳しい水準」の新規制基準の下で安全性が確認された原発は、再稼働を進めるとしている。が、「この新規制基準は、立地指針を無視していることなど、ある部分では、安全性の面でむしろ後退している」と原子力市民委員会は指摘している。

原子力規制委員会は新規制基準への「適合」を審査するのみで、安全を保証するものではないのである。原発の事故リスクは、原発の「コスト」に十分に反映されるべきものであり、制度の見直しにおいては、数十兆円とされる福島原発事故の被害総額が考慮されていないとされている。

今後もCSRマガジンは、皆さんとともに日本の将来のエネルギー問題を考えていきたい。(2014年1月)


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