被害日本大震災への国際支援

東北に未来の灯をともそう!

「カタール フレンド基金」が次のステップへ

「友として、日本国民の震災復興を支援する」。中東の産油国カタール支援者による1億米ドルの「カタール フレンド基金」プロジェクトの関係者らが集まり、カタール親善大使である俳優の別所哲也さんらを囲んでパネルディスカッションが行われた。

カタールフレンド基金親善大使の任命式



カタールの善意で、復興を加速してほしい

●「カタール フレンド基金」親善大使・俳優 別所哲也さん

スピーチを行う別所哲也さん

別所:私は16年前からショートショートフィルムフェスティバルという国際短編映画祭に関わってきたご縁もあり、映像の文化交流を通じてカタールのみなさんと親交がありました。

あの震災からまもなく丸3年を迎えます。もう3年なのか、まだ3年なのか――時間の受け止め方は人それぞれだと思いますが、カタールの友人たちが東北の人々のために立ち上げた「カタール フレンド基金」も3年を経て、各地でプロジェクトが具体的に動き始めています。

この基金には「子どもたちの教育」「被災者の健康」「水産業の復旧」という大きな目標があります。すでに各地でNGOやNPOなどさまざまなパートナーとの連携のもと、9つものプロジェクトが始まっています。ぜひとも地元に根づいた持続可能な復興支援になってほしいと願っています。


3年目を迎える東北復興に向けた課題

●パネルディスカッション参加者のみなさん

海堀 安喜さん(復興庁参事官)
松井 彰彦さん(経済学者・東京大学大学院教授)
加藤亜希子さん(特定非営利活動法人難民を助ける会東北事務所長) 
久保正英さん(社団法人エコ食品健究会代表理事) 
進行役 別所哲也さん(俳優、カタールフレンド基金の親善大使)

ディスカッション参加のみなさん

                        

東北を“創造と可能性の地”に

別所:東北の各地で復興に向けた取り組みが始まっています。進捗状況はいかがですか。

海堀:被災地は人口減少や高齢化など、今日のわが国が抱える課題が凝縮されています。復興を契機にこれらの課題解決に向けた“創造と可能性の地”として新しい東北を目指さなければなりません。現地では仮設住宅の建設、インフラ復旧、住まいの復興などが計画に沿って進んでいます。

今後は人々の暮らしのなりわいや産業をどうしていくかが課題となります。復興庁としては、地域の課題を解決する「先導モデル事業」を推し進めていきます。

海堀 安喜さん(復興庁参事官)

別所:地域の自発的な活動とともに、持続可能な取り組みが求められています。持続可能なプロジェクトとしていくためには何が大切だと思われますか。

海堀:先導モデル事業は今年度だけで9億円の予算で66件のプロジェクトが行われています。こうしたモデル事業の選定には、持続可能性という視点がとりわけ重要です。私たちは大きく4つくらいのことを考えないといけないと思っています。1つは、地域の具体的な取り組みがあるか。被災地は広いので、いろいろな知恵を地域にもっていって花開かせるためには、地域の人を捲き込むこと。2つめは、最初から大風呂敷を広げずに地道なステップアップを狙うということ。3つめは、被災企業なんかでも求められることですが、なるべく効率性を高めるという課題です。ある醤油工場の例ですが、あえて中古の機械を使って立ち上げを行いました。ハードルを下げて効率性を高めるということが行われました。4つめは、ビジネスの視点をもって収支を上げていくということです。

刻々と変わる被災地の状況

別所:加藤さんは、現地でプロジェクトを進めているお立場ですが、地域で進めている事業について持続可能性という観点からお聞かせください。

加藤:持続可能性という意味では、まずその地域のニーズにあった支援でなければなりません。実は被災地の状況も刻々と変わっています。それに合わせた支援が大切だと考えています。

加藤亜希子さん(特定非営利活動法人難民を助ける会東北事務所長)

別所:フレキシビリティは重要なポイントですね。

加藤:私たちは小さな組織ですが、現地に行き、現地を見て、現地の人たちの話を聞いて、この人たちには一体何が必要かを判断します。ときには1時間、2時間と話が及ぶこともありますが、現地の話を聞くところから次の行動を決めています。

別所:震災直後のニーズと復旧・復興の経過の中でのニーズは異なるはずです。ヒアリングをしっかりしないと現地のニーズとのズレが生じる可能性もあります。

一人でも多くの人々に

久保:私たちは一人でも多くの方に関わってもらうことを意識しています。多くの人が関われば関わるほど、参加者の意欲も高まります。私たちの活動は助け合いです。多くの方が関わることが大切です。

現在、私たちのプロジェクトには600人が関わっています。夏に向けて2000人体制を組んで急速にスピードを上げてやっていこうとしています。それにはいま関わっている600人の方が次の方に声を掛け、さらにその方たちが次の方に声を掛けるということで初めて実現します。たくさんの方が関わることで持続可能性が高まります。

別所:地域の方を捲き込んでやっておられるお二人の行動は貴重なものです。ここで現地の方とのコミュニティーづくりについて、ご自身も高校生たちの教育支援に関わっている松井教授にうかがいます。

松井:私たちは2009年くらいから福島の相馬高校とつきあいがありました。震災があって何かしたいということであらためて学生と出向きました。福島の浜通りというのは大学がありません。大学生と合わない、大学生を見ないという地域です。私たちのところは大学生が大勢いるので、一緒に勉強しましょうという形でプロジェクトを開始しました。

松井 彰彦さん(経済学者・東京大学大学院教授)

高校生が自分のキャリアパスを考えていく上で、大学生との関わりも重要なのではないかということで、東京大学の学生を連れて行ったのですが、持続可能な取り組みとして考えた結果、私たちのプロジェクトを卒業した地元のOB、OGが参画する形にしました。ちょうどいま2年目に入ったところですが、ゆくゆくはOB、OGだけでこうした取り組みが回っていけばと考えています。

いわゆる村落共同体とは違う、新しい形の共同体づくりができるのではないかと期待しています。

別所:3人の方のお話を聞いて、海堀さんは何か感じるところがありますでしょうか。官でできること、カタールフレンド基金でできること、被災地の方ができること、これをつなぎ合わせていくことが復興庁の役割でもあると思うのですが。

海堀:災害の規模が大きいため被災地は広域にわたっています。地域によって復旧と復興のステージも異なっています。隣の町や地域でやっていることが十分に知られていないというケースも見られます。

復興は官民をつなぐヨコの連携で

私たちは官民連携推進協議会というものを昨年の12月に立ち上げました。経済団体、大学関係者、地元の企業、NGOやNPOの方々が参加しています。立ち上げ時は550団体で現在は680団体に増えています。このような方々のネット上の交流を進めようとしています。さらにリアルな交流も進めて、いま地域で広がっている取り組みを連携させていこうとしています。

別所:被災地がよく言われるタテ割りの形になってしまわないようにしないといけませんね。ヨコの連携を推進するためにも復興庁の役割は大きいと思います。

松井:これまでのように個人の努力や市場を通じた経済の役割も重要です。それから社会全体で必要なところにお金や公共財を提供していくことも大切です。“公”の役割と同時に、“民”の役割、それとともに共同体の“共”といったものが今後重要になってきます。

“共”の担い手がNPO法人であり、地域の団体だと思います。

別所:公と民を橋渡しするのがメディアの役割のひとつですが、もうひとつ、共同体における共助=助け合いの視点も大切です。かつての日本社会は共助が確かな位置を占めていました。21世紀においても新しい共助のあり方を見直されていくべきではありませんか。

松井:昔は、村を基本にした村落共同体意識が強くて、もめ事を解決したり、助け合いをしてきました。それが弱まっていく中で、個人の領域や公の領域が強まっていったわけです。

もう昔のような村落共同体には戻れません。そういった中でどういう“共”をつくっていくのかが問われ始めています。

海産物と農産物の連携始まる

別所:今日、参加のみなさんの中には「カタール フレンド基金」の支援で活動されている方もいます。久保さんは釜石の水産業の方々との交流にも参加されたそうですね。

久保:1月の末に釜石ヒカリフーズさんにお邪魔してきました。実際に目の前の海で水揚げした海の幸を、目の前の工場で加工しています。現地の方が多く働いています。

久保正英さん(社団法人エコ食品健究会代表理事)

彼らがつくった製品がいま大手の外食チェーンにも流れています。実は、エコ食品研究会が取り扱う食材と一緒にメニュー提案をしたらどうかという話し合いもありました。

私たちは企業の社員食堂に食材を供給する話が決まっています。釜石ヒカリフーズの水産加工品も社員食堂で使ってもらえるようになればとは考えています。

別所:実現すれば画期的なことだと思います。プロジェクトはとかく自己完結型になりがちです。1つで大きな目標に到達しないといけないと考えがちですが、助け合うとか、サービスを一緒に考えるとか、のヨコの連携でさらにプロジェクトの広がりもできると思っています。

「おちゃっこ」で人々をつなぐ

加藤:仮設住宅に被災者が移られてからかなりの時間が経っています。そこで新しいコミュニティーが生まれてきていると感じることもあります。

私たちは毎週末、仮設住宅にうかがっているのですが、その中で心配なのはまだコミュニティーができていない地域もあるということです。仮設住宅に入って1年ないし2年が経過しているにも関わらず、人間のつながりができていないのです。

東北では、「おちゃっこ」と呼ばれるお茶で集まる習慣があります。女性の方の方はおしゃべりなので、奥様をとおして地域の方とつながっていくという例が一般的ですが、奥さまを津波でなくされた高齢者の男性は孤立しがちです。

私たちの開いた「おちゃっこ」のイベントで、ある男性に「あなたはだれだれさんの旦那さんじゃないか」という話があり、ようやくつながりができたという例があります。コミュニティーづくりに向けた支援も大切なのです。

別所:「カタール フレンド基金」のような海外の支援を受けているからなおさら感じるのかもしれませんが、かつての日本は人々が地縁や血縁でつながった社会で暮らしてきました。いまの日本人に何ができるのか、あらためて問われているように思います。

海堀:先ほどお話しした官民連携推進協議会は、3月16日に仙台で交流会を開きます。いろいろな方が集うことで、私たちの取り組みがさらに幅広い地域に広がっていければと思っています。

松井:主役はあくまでも民間であり、共同体を担う一人ひとりだと思います。

久保:私たちのところでもトマトやナスの出荷が始まっています。一人でも多くの方に知っていただかないとトマトやナスなどの商品も羽ばたけません。お力添えをいただけたらと思います。

加藤:「カタール フレンド基金」をいただき、プレッシャーも感じています。民の力を結集して、東北の復興支援に頑張っていきたいと思います。

別所:東日本大震災からもうすぐ3年が経過します。私たちは与えられた時間の中で被災地のみなさんと思いをひとつにし、これから3年後に被災地のみなさんがどのような暮らしをしているか、自分の問題として関わっていきたいと思います。(2014年2月)

●カタールという国について

アラビア湾に面する中東の産油国として知られる。国名のカタールは、アラビア語qatura(カトゥラ「噴出する」)が由来。日本人には、1993年10月28日にカタールの首都ドーハで行われたサッカーの国際試合で終了間際のロスタイムにイラク代表の同点ゴールでワールドカップ初出場を逃した“ドーハの悲劇”の舞台として有名。カタールは静岡県規模のGDPながら、国民一人あたりのGDPは世界トップクラスで、国民に所得税がかからないことで知られる。医療費、電気代、電話代が無料で、大学を卒業すると一定の土地を無償で借りることができ、10年後に自分のものとなる。

●カタール フレンド基金

http://www.qatarfriendshipfund.org/jp

東日本大震災のあと、シェイク・タミーム皇太子殿下がハーリド・ビン・ムハンマド・アル・アティーヤ外務担当国務大臣に命じて設立した。議長はユセフ・モ ハメド・ビラール駐日カタール国特命全権大使。優先領域として岩手県、宮城県、福島県のそれぞれの地域における「子どもたちの教育」「被災者の健康」「水産業の復旧」に取り組む。到達点は「迅速に、効率的に、持続可能な方法で支援を行うこと」とされる。

東北に視察に訪れたカタールのみなさん

●これまでのプロジェクト

・カタール・東北・イノベーター・プラットフォーム(2014年秋開設)(宮城県仙台市)

仙台市のクリエイティブ産業クラスター内にQFF東北センターを設置。新規事業のアイデアを持つメンバーのために、起業のための各種実践プログラムやイベントを開催。グローバルな起業家等のメンター、仲間達と触れ合いながら、試行錯誤することにより、自身が起業するまでに成長できる実践の場を提供する。

・しらかわ夢かたーる総合運動公園(2014年冬開設)(福島県白河市)

白河市総合運動公園内に子どもから高齢者まで利用できる健康スポーツセンターを新設したり、既存の陸上競技場と国体記念体育館を改修し、避難者と地域住民の心と身体の健康を改善・促進する。

・未来の地域を担う子どもプロジェクト-カタールフレンド基金ホールと子ども科学キャンパス(2014年夏)(宮城県仙台市)

被災地域における将来の産業を担う子どもたちに「学校ではできない科学実験・体験」を提供することにより、科学への興味を増進させ、将来への希望や目的意識を育むことを目指す。

東北大学カタールサイエンスキャンパスイメージ

・カタールファンド スチューデントシティ/ファイナンスパーク(2014年4月開設、いわき市/7月開設、仙台市)(宮城県仙台市、福島県いわき市)

実際の街並みの雰囲気を再現した体験学習施設を整備し、東北の小・中学生の自立した判断力・自分の意思による進路選択、責任ある市民意識など「自立してたくましく生きていく力」を育むことを目的とし、街・社会の成り立ちや生徒一人一人の生活設計を体験するプログラムを提供。

・生簀の導入と漁師の販促力強化を通じた三陸地域漁業の活性化事業(2013年冬開設)(宮城県気仙沼市唐桑町)

地元漁師を中心とした住民組織による生簀(いけす)施設の活用、中間コストを最小限にする流通経路の開拓により、漁業従事者の収入向上を図り、地域経済の活性化を目指す。

・岩手県釜石市・唐丹地区における、唐丹産海産物を鮮度そのままに全国にお届けする6次産業化プロジェクト(2012年11月開設)(岩手県釜石市)

釜石市の漁村にて細胞膜を破壊せず冷凍可能なシステムを導入し、高付加価値商品開発、全国直販による6次産業化を実現。

・福島県・宮城県・岩手県の被災地域における地域みんなの心身の健康を守る事業(2012年11月開設)(岩手県全域、宮城県沿岸被災全市町村、福島県全域)

被災3県において①障害児が利用できる図書室・遊具の提供、②障害者施設の修繕、③福祉活動の拠点となる施設への食品放射能測定器等の機器の提供、④仮設住宅入居者等を対象に専門家によるエコノミークラス症候群や生活不活性病の予防検診・早期治療、マッサージやカウンセリング等の実施、⑤健康増進活動イベント等の実施、⑥放射線量が高い地域に住む子供に野外活動に参加する機会を提供する。

・復興元気野菜!仮設住宅から農林水産物を日本の食卓へプロジェクト!(2012年11月開設)(宮城県気仙沼市)

①野菜の育て方講習会の実施、
②育てる過程での親子の会話創出、
③育てた野菜の販売、
④地域社会雇用創出会社の立上げ、
⑤野菜販売販路を発揚した水産物の販路を開拓することで親子のきずな・子供の笑顔を取り戻すことを目指す。

エコ食品健究会

・宮城県・女川町の多機能水産加工施設〜マスカー(2012年10月開設)(宮城県女川町)

震災前の女川町は、日本有数のサンマ漁獲量を誇り、町内総生産の9割を水産業が占めていたが、震災により7割以上の水産加工施設が壊滅し、地域経済の再構築に大きな支障が出ていた。そこでQFFでは、女川町に多機能水産加工施設を再整備することにより水産業復興の効果が見込めると考え、20億円の助成を決定。2012年10月に施設が完成し、約3310人の直接雇用と673億円の経済波及効果を見込んでいる。

・雪ん子プロジェクト(2012年1月実施)(北海道夕張市)

QFFが行った最初の事業。東日本大震災で被災し、幼くして悲惨な経験をした子供たちや、福島の原発事故の影響により外で遊ぶことを制限されている多くの子供たちに笑顔を取り戻してもらうことを目的とし、福島県、宮城県、岩手県より1,400人の子供たちとその家族を北海道夕張市に招き、スキー教室や旭山動物園を楽しむスノーキャンプを開催。

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