CSRフラッシュ

アジアで広がるCSR

「CSRアジア」が東京フォーラムで報告

アジア太平洋地域でCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)に特化したシンクタンクとして活動する「CSRアジア」。そのフォーラムがこのほど東京都内で開催された。ミャンマーのIT企業 マンダレー・テクノロジー社とアディダスグループ中国のスピーカーが登壇し、それぞれの取り組みを語った。

アジア地域から評価されるCSRを

CSRアジアのリチャード・ウェルフォード会長

CSRが日本企業に浸透して約10年が経過しました。CSRアジア会長のリチャード・ウェルフォードさんは、この間の動きを振り返りながら、日本企業の多くがCSRに真剣に取り組んだ結果、日本は環境対応で世界のトップレベルになっているものの、その他の取り組みで世界の議論の中心から外れているところもあり、CSRの分野でも日本の「ガラパゴス化」が憂慮されると述べました。

日本企業の多くがアジア各地に工場などの拠点を移しており、これからはアジアにおけるサプライチェーンや人権問題への対応が強く求められるとのこと。地域の実情を踏まえつつも公正な労働慣行の徹底に努め、さらに経営の持続可能性を高めなければならないと語りました。

CSRアジアでは、5月から日本国内で「ジャパン・ラウンドテーブル」を随時開催し、日本企業におけるCSRのさらなる強化を支援したいとしています。

“CSRの目覚め”をうながした巨大サイクロンの直撃

マンダレー・テクノロジー社 ゾウ・ナインさん

マンダレー・テクノロジー社のゾウ・ナインさん

私が創設したマンダレー・テクノロジー社は、ミャンマーのIT企業でGIS(Geographic Information System:地理情報システム)のリーディングカンパニーです。

2008年にミャンマーのデルタ地帯を襲ったサイクロン「ナルギス」により2,400万人が被災、約15万人の死者がでるという大惨劇を機に、ミャンマーでも海外からの人道支援が活発に行われました。政府だけでは対応できず、企業の社会的役割が強調され、“CSRの目覚め”が起きました。

マンダレー・テクノロジー社では、サイクロンの発生後、災害リスクの軽減を図るため、GISの技術とリモートセンシング(対象を遠隔から測定する方法全般を指す)の講習を率先して開催し、政府関係者、NGO関係者、国連関係機関、民間セクターなどから500名を超える受講者の受け入れを行い、参加者から高い評価を受けました。

このプログラムの利点は、短期・週末開催・リーズナブルな価格設定など他にはない独自性にあります。GISデータは一般的には軍事用途で使用されることが多く、災害対策活動も一見したところ政府や行政の役割のように思えますが、ミャンマー政府は災害対策以外にもさまざまな政治的問題や優先事項を抱えており、企業が政府の代わりを行い、自社の強みを活かして社会のニーズに応えていくことが重要だと考えています。

2010年の猛暑で過去最大の水位低下を見せたインレー湖

ミャンマーでも環境悪化が進み、それとともに洪水、津波などの自然災害や森林火災が増えています。たとえば洪水の危機から人々を守るため、私たちはデジタル化した海抜モデルを作成し、洪水でどの地域が水没しやすいかのシミュレーションシステムを構築しました。

こうした取り組みによってマンダレー・テクノロジー社は、2012年のアセアンICT(Information and Communication Technologyの略)アワードのCSR部門で金賞を受賞しました。本業にCSRを統合し、実践している点が高く評価されたものです。今後はさらにCSRとコアビジネスの統合を進めていきます。

スポーツへの情熱を通じて、世界をより良い場所に

アディダスグループ中国のCSR統括ディレクター サブリナ・チャンさん

アディダスグループ中国のサブリナ・チャンさん

アディダスグループは、スポーツへの情熱とスポーティーなライフスタイルを基盤とする複数のブランドとともに、スポーツ用品業界におけるグローバルリーダーを目指しています。世界の従業員総数は現在46,000人を超え、世界各地で魅力的な先進企業の一社に選ばれています。

中国は製造の重要拠点であり、その管理チームは世界11カ国の出身者からなり、安全で公正な労働環境、環境フットプリントの改善、地域社会へのプログラムづくり、社会との関わりと協力をサステナビリティ・プログラムの中核に据えています。

重点活動の1つは「サプライチェーンと労働者」に向けた取り組みです。私たちの職場ではしっかりした雇用基準が定められており、強制労働、児童労働、差別などが禁止されています。また、職場の安全、衛生、環境にも厳しい基準が設けられています。

2つめは「環境」対応です。アディダスグループでは現在環境フットプリントを15%削減する目標に取り組んでいます。具体的には、2009年からサステナブル製品プログラムを設け、サステナブルな材料と製造工程に重点をおいた取り組みを始めています。

それが50%の使用エネルギーの削減であり、50%の化学薬品の減少の取り組みです。2012年に行われたロンドンオリンピックはもっともサステナブルなオリンピックという評価を受けましたが、私たちはこのオリンピックに優れたスポーツ用具、スポーツ製品を提供し、サステナブルなオリンピックの成功に協力しました。

中国では水資源が脆弱なため、水処理でも環境への影響を削減しています。

アディダスグループは工場の水処理に取り組み、水資源の削減に取り組む

アディダスはさまざまなステークホルダーと関わりをもっており、ステークホルダー・エンゲージメントでは、外部機関からの評価を大切にしています。

アディダスのCSRへの評価は中国においてはこれまで必ずしも高いものではありませんでした。その理由を分析した結果、多国籍企業であるため中国語で情報管理をしていないなどの問題があることが分かりました。中国語でも対応した結果、2013年は中国社会科学院のCSRランキングでCSR賞を受賞することができました。

今後は社会の一員としてコミュニティ投資のプラットフォームづくりに努め、子どもたちに重点をおきながら、社員のボランティア精神を活かしつつ、「遊びまたはスポーツに基づく活動」を展開していきます。

日本でもおなじみのドッジボールやバスケットボールなどを通じて、地域の子どもたちとスポーツの関わりを強めているのです。

●CSRアジアとは

http://csr-asia.jp/
香港大学で経済学の教鞭をとっていた英国人のリチャード・ウェルフォード博士(現在CSRアジア会長)を創設者として2004年に誕生。欧米流の対処法ではない、「アジアにはアジアの課題解決法がある」をモットーにアジア各地でリサーチ、コンサルティング、研修プログラムなどを開催。東京事務所は2010年に開設された。現在、アジア太平洋地域を中心に8拠点(香港、東京、シンガポール、バンコク、クアランプール、シドニー、インドネシア、中国)を構え、企業や国際機関の社会的責任と持続可能成長の分野におけるサポートを行っている。

○お問い合わせ: CSRアジア東京事務所

東京都渋谷区恵比寿南1-5-5 JR恵比寿ビル11階 サンブリッジGVH内
EMAIL:japanoffice@csr-asia.com

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