国内企業最前線

“地域密着”が本業とCSRを結び付ける

工藤建設株式会社 フローレンスガーデン事業部 小板橋洋之 事業部長に聞く

CSR(企業の社会的責任)の概念は多国籍企業によるグローバルな事業展開への懸念から生じている。その逆で“互いに相手の顔が見える商売をしていれば、そうそう悪いことは出来ない”はCSRの取材を通じて何度となく伺ったセリフだ。神奈川県に拠点を置く工藤建設は、公共事業で培った“地下室”ノウハウを武器に個人住宅事業へ20年前に新規参入、徹底した地域密着による地道な事業展開は、個人の生活、地域、そして社会問題の解決に自然とつながっていくものになった。工藤建設株式会社 フローレンスガーデン事業部 執行役員 事業部長 小板橋洋之 氏に伺った。

公共工事のノウハウを個人に活かす—売上7割が地下室付住宅

Q. 個人住宅部門は20年の歴史があるとのことですが、そもそも、なぜゼネコンの工藤建設が個人住宅分野に新規参入されたのですか?

小板橋洋之 執行役員事業部長

小板橋:工藤建設は神奈川県横浜市に本社を置き、1966年に浄化槽工事の会社として創業しました。その後1971年に株式会社化し、田園都市線の延伸や港北ニュータウンの宅地開発が進む中、宅地造成などの土木工事に携わり、その後は建築需要が増加したため建設分野に進出、大手との協働で横浜港大桟橋や市営地下鉄など公共工事にも携わりました。1997年に東証2部に上場しています。

現在の「フローレンスガーデン事業部」が個人住宅部門の「住宅事業部」として建設事業部から独立したのが20年前、地下室付輸入住宅「フローレンスガーデンROSE」を発表したのは今から18年前の1996年です。それまでは公共工事の割合も多かったのですが、将来を見越し、民間の仕事を増やしていこうという方針でした。

Q. 現在、貴社の個人住宅売上の7割を占める、貴社の代名詞ともいえる地下室付住宅ですが、どうして他社があまり手掛けない地下室に目をつけられたのですか?

小板橋:個人住宅業界に新規参入する際に、まずは日本の住宅問題と海外の住宅事情を改めて調査しました。調査の結果、国内で首都圏に家を建てる際、一番の不満はやはり家の狭さ、収納力であることがわかりました。そしてそれは高い土地価格と建築費が要因でした。一方で米国、カナダでは日本の家とは比較にならないほど広い家に、さらに地下室がついている、というのが当たり前で大変驚きました。

実は新規参入に際しては、地域に基盤を置く企業としての葛藤もありました。在来工法ではなく2X6工法の輸入住宅を取り入れたのも、当時は国が貿易摩擦の解消に輸入を推奨していたことに加え、これまで「ビルやマンションは当社、住宅は工務店や大工さん、あるいはハウスメーカー」と、うまく棲み分けをしてきた地元の工務店・大工さんたちと競合したくない気持ちもあったからです。

折しも日本でも1994年に建築基準法の一部改正で地下室分を建築総容積に含まないこととなり、1-2階面積を狭めることなく地下室をプラスしやすくなりました。特に横浜は第1種低層住居専用地域(良好な住環境を守るための規制)で3階建ても難しい地域が多い。上ではなく下を有効活用する、地下室付は土地が高価な首都圏の住宅問題を解決する有効策と考えました。

当社の強みを活かし、他社との競合を避けるために地下室付2x6住宅に特化して事業展開しようと決めました。

Q. 当初から「地下室付で安い」を大々的にアピール、住宅展示場に出展せず、モデルハウスを持たずに訪問営業も行わない受注方法は画期的だったようですね。

小板橋:日本の住宅は“高い・狭い”、その一因は業界の重層構造です。通常、ハウスメーカーは建築工事を工務店に外注します。工務店は工事を工種ごとに職人や専門業者に依頼します。

特に地下工事は経験や技術を持った工務店が少なく、専門業者に外注する必要があり、コストが嵩んでいくわけです。

当社の強みは土木工事の経験が豊富で、地下室を直接監理施工できることでした。市営地下鉄や大桟橋など公共工事を通じて、地下工事のポイント—例えば地下工事では水の扱いが肝要であるとか—が分かりますし、また米国やカナダなどでは住宅の基礎を深くし、地下室として活用することがごく普通で、コストダウンするポイントや活用方法など、海外のノウハウも把握しています。日本は地震国で耐震基準も厳しいため、海外のノウハウを活かしながら日本の基準に適合させることで、コストと工期を抑え、安全で丈夫な地下室付住宅をつくることができますよと、全面的にアピールしたわけです。

また、性能の高い住宅を安く提供するために、販促面でも徹底して不要なコストを下げ、モデルハウスも高価なカタログも作らない、訪問営業もしない等として、年4回の新聞の折り込み広告だけで1年分を集客するカウンターセールスとしました。商品が良く話題性があれば、ある意味で販促は不要と考えたわけです。今も訪問営業はしませんが18年前には画期的というか非常識な受注方法でした。

参入するからには、とにかく住む人が喜ぶリーズナブルな住宅を提供しようという一心でした。

当時円高という背景もあり、発売開始時の建物本体価格は“地下室付き1坪当たり29.3万円”。一般的な住宅メーカーが床面積40坪の2階建住宅を建築する同程度の価格で地下室付の60坪の住宅を実現しました。

Q. 満を持して受注開始、地元の皆さんの反応はいかがでしたか?

小板橋:悪かったです(笑)。正確に申し上げますと折り込み広告の当日朝から電話が鳴りやまないほどの反響でした。しかし当初は海外からパッケージで輸入して組み立てる規格住宅をご提案しており、26プランありましたが立地条件に合わない方も多くいらっしゃいました。また、当時は住宅メーカーとしての認知度、ブランド力もありません。「安い」ことをアピールするあまり、発注いただいたお客様から「(安いことをご近所に知られたくないので)工藤建設という看板を工事中に出さないでほしい」と言われたこともあります。

さらにハウスメーカーの皆様からは「ビルやマンションが本業のゼネコンに細やかな住宅建設が出来るのか」とか、日本で前例のないリーズナブルな地下室の工法に「工藤式インチキ工法」などと揶揄されたこともあります。おかげでその後、2000年に“KUDO高断熱地下室構造工法”として日本建築センターの評定を取得するきっかけになりました(笑)。

今振り返りますと、当初のお客様にブランドとしての満足度は低かったのかもしれません。しかし、日本における本格的な地下室活用という新しいことに一緒にチャレンジしていただいた方たちのおかげで、首都圏で住宅を建てる場合の“地下室付”という選択肢が確立され日本にも地下室を楽しむ文化が定着することになったと考えております。

趣味の映像・オーディオ専用ルームに、または半地下にすれば陽当たりの良い広いスペースとなる。

Q.その後、フローレンスガーデンが高級住宅地である田園都市線エリア&港北ニュータウンエリアで成長した要因はひとえに“口コミ”の力と伺いました。

小板橋:当初われわれは「地下室=狭い家をより広くする問題解決策」という観点しかありませんでした。具体的には、二世帯住宅を求めるお客様に地下室を有効活用すれば家を広く効率的に使えますよ、などのご提案です。

しかし、実際のお客様の中には、防音しやすい地下室で音楽や映像を楽しみたいなど、ライフスタイルを楽しむ手段として地下室をお考えの方もたくさんいらっしゃいました。率先して新しいライフスタイルを取り入れる、いわゆるイノベーターと言われるお客様たちとしっかり向き合って家を建てさせていただくことで、仲間をご紹介いただき、まさに口コミでフローレンスガーデンを広めていただきました。

今でも、当社にはモデルハウスがありません。新規のお客様に見ていただく事例は当社が施工した、オーナー様が実際に住む家を見ていただきます。そうした住宅見学会にご協力いただける家のオーナー様が常時200軒ぐらいいらっしゃいまして、例えば地下室で楽器を楽しみたいお客様には、同じ楽器をお持ちの家をご紹介して音響や暮らしぶりを見ていただきます。どのようにすると防音効果が高まるのか、オーナー様に直接話を聞いていただくことで不安もなくなり、安心して地下室付住宅を選択いただけるようになります。オーナー同士の交流会も開催しておりまして、毎年行っている感謝祭に昨年は823名のオーナー様にお集まりいただきました。こうした交流会は地域コミュニティのかかわりを深めることにもつながっているようです。

823名が参加した2013年オーナー感謝祭

目の前のお客様を大事にすることが最大の営業ということで、一例としては、建設中の現場では職人さんにも協力いただき1日に5回清掃しています。建築中にいつオーナー様がいらしても綺麗な現場を見ていただく、そうした小さな積み重ねを大事にしています。
当社の場合、“全国展開”をテーマにしていませんので、今後も地域のお客様からのご紹介や口コミを大切にする姿勢は変わりません。

徹底した地域密着が家づくりを進化させる

Q. お客様と向き合うことで、貴社の家づくりの方針も変化されたようですね?

小板橋:お話したとおり、当初は「価格の安さ」を打ち出したものの、多様なライフスタイル、安全・安心、健康に暮らせる家など、お客様ニーズをクリアするごとに付加価値の高い家づくりに進化していきました。現在、フローレンスガーデンでは「1.陽があたる地下室」「2.耐震性が高い2×6工法」「3.体や環境にやさしい自然素材」「4.素敵なお庭のある暮らし」の4つを特徴としています。

地下室に関しても、単に家を広く使えるだけでなく、趣味を楽しむ、外光が降り注ぐ開放感のあるフリースペースとして、さらには災害対策など、お客様の方で地下室のメリットを広げてくださったように思います。

Q. 災害対策として地下室を選択する方も多いわけですか?

小板橋:確かに地盤が軟弱でも地下室として堅牢な基礎にすることで家が安定します。阪神大震災や新潟地震等の大きな地震の後の検証結果として、地下室が地震に強いという報道をご覧になったということで、耐震という観点で地下室付住宅を注文されるお客様が増えました。

さらに近年は竜巻対策ですね。当社から積極的にアピールしているわけではないのですが、お客様からの竜巻についての問い合わせが増えています。2013年9月の埼玉県越谷市での竜巻被害で、日本の首都圏でも対策が必要との認識が高まり、命を守る空間として地下室が脚光を浴びているようです。

Q.ホルムアルデヒドによるシックハウス症候群などの問題で、健康に暮らす家という基本が改めて重要な時代です。

小板橋:シックハウス対策として厚生労働省は健康上望ましいホルムアルデヒドなどVOC(揮発性有機化合物)の室内濃度を0.08ppm相当以下と定め、また建築基準法では建築材料を4つの等級に分類して、ホルムアルデヒドの発散速度が最も低い(1時間に1㎡あたり0.005mg以下)F(フォースター)建材には使用面積制限がありません。

従って一般的にハウスメーカーはF(フォースター)建材を使用して室内濃度0.08ppmを目指すわけですが、実際には家具からもVOCを発生しますので家全体では0.08ppmを超えてしまいます。ですから、私どもが家を建てる際には国の指針よりも遥かに低い、家単独の室内濃度ができるだけ0に近づけることを目指しています。そのために当社の建材は自然素材が基本、木材の場合は無垢材を使用したります。もちろん自然のものでもホルムアルデヒドを放散するものもありますが、F(フォースター)建材よりも遥かに低い放散量となります。

こうした取り組みは—先ほども当社の営業は口コミが基本と申し上げましたが—当社の事業が地域のお客様に特化していることが背景にあります。地元で工藤建設といえば皆さんご存知ですし、決して期待を裏切ることはできない、地域密着がCSR(企業の社会的責任)を自然と促す部分があるように思います。

Q. 街並みと調和する家など、地域と家の関係性を常に意識しているようですね。

小板橋:我々には一貫してお客様に“資産価値の高い家”をご提供しなければという気持ちがあります。資産価値というのは、広くて暮らしやすい、健康・安全・丈夫、可変性があり長くフレキシブルに使える、それらに加えて、最終的には家の資産価値は家単独ではなく、街全体で創りだすものです。このエリアが素敵だから、このエリアに住みたいから、そうしたエリアにあるから家の価値が高まります。

そのため、家の外観についても、フレキシブルにご要望に応えるのも大切ですが、極力地域の落ち着いた街並みに調和させるデザインをご提案しています。最新の技術、性能・機能を備えた家でありつつ、昔からある素材やデザインを活かして現代にマッチさせる。一般のハウスメーカーは“経年変化”する素材や“お手入れ”の必要な素材を嫌いますが、当社は良い意味で“経年美化”もあると思っております。時とともに変化し街並みの成熟に合わせて深みを増していく、そのためには手入れの必要なものもあります。

建物だけでなくガーデンエクステリア(庭や外構)のデザイン提案にも力をいれている。

本業を通じて社会問題に取り組む

Q.建設現場での職人不足が深刻ですが、独自に“社員職人”を育成されているとか。

小板橋:職人不足の背景には業界全体がたどってきた工業化の歴史があります。工場で製造・加工される領域が広がるほど、現場での作業が減少し、作業の標準化、工期やコストが抑制できます。しかし、その過程で専門職域が侵され、多くの職人が廃業に追い込まれてきたのも事実です。結果として、現在は若い職人希望者が非常に少なく、業界全体で圧倒的に職人が不足しています。東日本大震災の復興事業、2020年の東京オリンピックに向けて公共工事など建設需要が集中する時期を迎えて、ご存じない方も多いですが職人不足は深刻な社会問題です。

こうしたなか、当社は8年前から社長直轄事業として、専門学校等を卒業した若者を社員として採用し、多能工として育成しています。地下室という専門的な施工作業を自社で行うこともあり、当社は他社に比較して現場での作業が非常に多いです。一般に建設現場での職人さんたちは専門技術が細分化されているのですが、当社は複数の作業や工程—測量から掘削、鉄筋及び型枠、コンクリートの打設、など6種類の作業—を一人でこなせる多能工を育てています。

既に一期生を中心に19歳から30歳まで14人の多能工が現場で働いており、現在では当社が受注した地下室付住宅の約半分を彼らが施工しています。今後は地下室だけではなく1-2階の“上物”の住宅部分も手掛け、木造も地下室も施工できる職人集団として育って、業界全体の職人不足改善に多少なりともお役に立てばと思います。

新卒の若者を“社員職人”として教育・訓練し、実際の現場で先輩につかせて育てることは、時間もコストもかかります。しかし、当社がモノづくりを本気でやるには技術はもちろん“良いものを誠実に作りたい”という良い精神を持った職人の育成が不可欠との認識があります。確かに合理化は必要です。しかし、安全や品質を蔑(ないがし)ろにした合理化で良いモノづくりにつながるのか。常にバランスを見る必要があります。

既に14名の多能工が現場で専門的な施工を担っている。

Q.今後は、住宅の構造材に国産材を使用すると聞きました。

小板橋:ご存じのように、間伐など手入れをせずに放置したままでは日本の森林がダメになるため、林野庁がすすめる木材利用ポイント制度など国産材を利用しようという国の方針も打ち出されました。

これまで国産材を使って2x4や2x6の構造材を供給してくれる工場はほとんどありませんでしたが、一昨年より、国産杉の2x6用の構造材を供給できるJASの認定工場が出てきたため当社においても検討を始めました。折しも、米国で景気回復とともに住宅着工が回復し、需要増と円安により、比較的安価とされた輸入材と国産材との価格差が小さくなり、国産材を選択しやすい状況となりました。

当社としても国産材を有効活用して日本の森林の活性化に貢献したいと考えております。1棟目は3月に着工の予定です。杉の構造材は家が完成すると壁に隠れて見えなくなりますが、構造見学会のときなどは、杉の木の良い香りが漂い、目を閉じると森林の風景が広がるのではないかと楽しみにしています。

まだまだ課題はありますが一時の話題性ではなく、継続的に国産材使用に取り組んでいきたいと思います。

Q.工藤建設では介護事業にも取り組まれています。一見、土木・建設事業とは関係ないようですが?

小板橋:「フローレンスケア」として横浜市・川崎市・東京都に11施設14事業の介護付有料老人ホーム・グループホーム・デイサービス・居宅介護支援事業所を運営しています。工藤建設の事業はビル・マンションの建設や耐震補強等のリノベーション、注文住宅の新築や・リフォーム、賃貸物件管理と、見ていくと介護事業が異質かもしれませんが、これは創業者の“地域密着”、地域に貢献したいという意志からスタートしたものです。

例えば・・・社会人として最初に住んだのが当社の建てた賃貸マンション、その後家庭を持ち、住宅を建てるのがフローレンスガーデン、老後介護が必要な場合は当社のフローレンスケアをご利用いただく、など、住まいを切り口に「すべてのライフステージにわたって、お客様のお役に立つ」ことが理想です。当社の中では、全ての事業が「地域に暮らす人々の豊かで幸せな暮らしを支える」という一つの線でつながっています。

さまざまなことにチャレンジする一方で、申し上げましたように、当社は全国に事業を拡大するよりも、地元を中心とする神奈川・東京で事業を深めていきたい。地元に基盤を置くだけに、10個のご評価を頂いても、1個の悪い評判があれば後が続きません。上場企業としてステークホルダーの方のご期待に応える責任は十分に承知しつつ、一つひとつのチャレンジを大切にしながら、地域とともに成長していく、それが当社のやり方なのかなと思います。(2014年2月)

「フローレンスケア」の施設(右はビオトープを併設した「フローレンスケア横浜森の台」)

都内のサポートオフィスでは本社バックオフィス業務など、本社、介護施設とあわせて16名の障碍者が働く。法定雇用数に関係なく積極的に障碍者の登用に努めている」

●工藤建設株式会社 フローレンスガーデンホームページ

http://www.florence-garden.com/

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