CSRフラッシュ

カーボンオフセットで途上国の森は守れるのか⁉

映画「空気を売る村」から見えてくるもの

国連の下で温暖化対策と森林保全の取り組みとして期待されるREDDプラス。試験プロジェクトが始まったインドネシアの中央カリマンタン州では、アブラヤシ農園の拡大や鉱物資源の採掘、森林の違法伐採でいまも森林破壊が止まらない。映画「空気を売る村」の上映会場からレポートしたい。

インドネシアの中央カリマンタン州の村で進められる植林事業(写真はペタプティ村のレディー・プラディタさん提供)

保護か破壊か 国連が進めるREDDの課題

「REDDプラス(レッドプラス)」は国連の下で行われるカーボンオフセットの新しい手法。途上国が森林資源を保全することで抑制されるCO2の排出量を、先進国を中心とした国際社会が買い取ることで、現地の人々に一定の恩典を付与しようという仕組みです。

インドネシアの中央カリマンタン州では、2010年からオーストラリア政府が日本円で約30億円を出資してKFCP(カリマンタン森林炭素パートナーシップの略)と呼ばれる12万ヘクタールに及ぶREDDプラスの実証試験を進めています。森林伐採などで荒廃した森を現地の住民を使って植林し、再生させる取り組みですが、その一方で周辺では石鹸や食用植物油の原料となるアブラヤシ農園の開発が広がり、日本企業なども関係する石炭鉱山の開発、さらにはいまも違法な森林伐採が止まらないという地域です。

二分される村を描く

映画「空気を売る村」は、国際的な環境NGOであるFoE Japanの要請を受けてドキュメンタリー映画の監督である中井信介さんが現地に足を運んで撮ったもの。30分ほどの短い映画の中に、カリマンタン島の大自然の中で森とともに共存して生きる人々の暮らしと、スハルト政権以降、メガライスプロジェクトで湿地帯を更地にして耕作地化する巨大プロジェクトが始まった経緯、それが成功せずに湿地帯の生態系が破壊された有様などが描かれます。

KFCP事業が始まったいまは、苗木をわずか1本1円で植える人々の姿が描かれ、「苗を育て、植える意味が見いだせないと」と地元民は率直に語ります。森林保全に向けた事業が続く一方、いまも違法伐採が横行し、湿地帯の生態系が壊れるなど森の荒廃に歯止めがかからず、人々が生活の糧としてきた野生動物や魚の採取の場が失われています。

違法伐採を行っていた地元民に聞くと、「自然保護が大切なことは理解しているが、その先にはいかに森を守って、いかに森から利益を得るかという問題があるんだ」という答えが返ってきました。現地のREDDプラス女性担当官は、「住民の生活ニーズを満たさないかぎり違法伐採はなくならない」とも語ります。

違法伐採された大量の木材がきょうも水路を運ばれていく(写真は中井監督提供)

現地ではKFCP事業によって利益を得る者と得ない者が生まれ、小さな村が賛成派と反対派に分かれて翻弄されていく様子も描かれています。まるで日本の原発立地の過去を見る思いがしました。

監督の中井さんは、「現地の村には明確な被害者、加害者がいるわけではありません。ただ、映像にしていて滑稽だと思うのは、30億円もかけて植えた苗木の多くが枯れていることです。木を植えた場所からわずかに離れた場所で、植林の数倍もの違法伐採が行われているのも納得できません。昨年末、私はフィリピンのレイテ島の台風被害も取材しました。フィリピン全土で多数の人々が被災し、大量の死亡者を出しています。気候変動がもたらす異常気象への対策は待ったなしです。私たちはもっと知恵を絞らないといけません」と語ってくれました。

●映画を撮った中井信介さん

京都生まれ。93年よりフィリピンのスラム街や米軍基地跡地の写真を撮り始め、新聞や雑誌で発表する。96年にアジアウェーブ賞受賞。99年よりビデオ取材を始め、TBSの報道特集やNews23などで発表する。2001年よりアジアの基地問題や環境問題をテーマに映画制作を始める。「がんばれ!ファンセウル」で国際人権教材奨励事業AWARD2006を受賞。 「ナナイの涙」で座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル入賞(2010年)、 福井映画祭審査員特別賞(2010年)。


現地NPOワルヒのアリー・ロンパスさんからの報告

この日の上映会には、ワルヒ/ FoEインドネシア中央カリマンタン支部の事務局長で環境問題と人権問題に関わるアリー・ロンパスさんも参加しました。

ロンパスさんによれば、KFCP事業はプロジェクトそのものにいくつもの課題を抱えており、オーストラリア政府に撤回を働きかけているとのこと。プロジェクトが経済的な側面だけに集中し、自然資源を保護するというインセンティブに欠け、地域の分断を引き起こしているとも述べました。

先進国はカーボンオフセットによって、自分たちが環境を破壊した責任を免れようとしているとロンパスさんは語ります。インドネシアでは現地の住民が長年にわたって利用してきた森林地帯を簡単に大規模な事業主に開発という形で認可を与える仕組みが横行しています。土地の権利があいまいなことや行政機関の腐敗も深刻です。

先進国の援助はやり方によっては大きな成果が見込めるだけに、ワルヒでは政府だけに委ねるのではなく、森林管理の施策に直接拠出してほしいとも語りました。国連では先住民の意向を無視した「REDDプラス」は本来の趣旨に反するとしています。

上映会の主催者であるFoE Japan事務局長の三柴淳一さんは、「REDDプラスでは森林が持つ多様な機能をCO2のみに換算するもので、森林本来の価値が正しく評価されていません。私たちはこれからも①現場で調査を進め、②生活者の視点で考え、③それを持ち帰って企業や政府に提言していきたい」と抱負を述べています。

●中央カリマンタン州

中央カリマンタンには、泥炭湿地の中にセバンガウ国立公園がある。国立公園そのものは比較的良く森林が保全されているものの、周囲の泥炭地では、運河の周辺から森林減少・劣化が進んでいる。オーストラリア政府支援のREDDプラス以前にも、ノルウェー政府支援による泥炭地の生態系回復プロジェクトが行われたが、依然として課題が山積している。泥炭湿地林の開発で、森林火災もしばしば起きている。

減少・劣化する泥炭湿地林(JICAより)

●詳しい情報/お問い合わせ:認定NPO法人FoE Japan

TEL: 03-6907-7217
http://www.foejapan.org/

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