CSRフラッシュ

現役外交官が日本語スピーチで友好の火花!

日本語は習得が難しい言語の1つといわれる。語学力に優れた外交官といえども習得には一苦労のようだ。4月半ば、「各国大使館員日本語スピーチコンテスト2014」が開催された。笑いあり、涙あり。15カ国16人の外交官が、思い思いのテーマで日本を語った。

この日、スピーチに立ったのは現役外交官16人。なかには来日して1年半ながら日常会話ならスラスラ話す凄腕ならぬ凄口もいて、会場で耳を傾けた日本人聴衆を沸かせた。スピーチは一人5分以内と短い持ち時間ながら、それぞれがユニークな視点で日本体験を語ってくれた。

審査は鈴木泰東京大学名誉教授など10名が行い、外務大臣賞、文部科学大臣賞、文化庁長官賞などに7名が選ばれた。誌面の関係で、受賞者の皆さんのスピーチのみ紹介したい。

外務大臣賞・杯

「日本に来て驚いたこと」

●エルサルバドル共和国大使 
マルタ・リディア・セラヤンディア・シスネロス閣下

コンテストへの参加は2度目になります。私は数十年前に初めて来日しました。そのとき目に見えた光景と、考えた末に見えてきたものについてお話しします。

最初の驚きは制服を来た学生たちが男女別々にグループをつくっていることでした。高校生であれば異性に興味があるはずなのに、きれいに分かれていました(笑)。エルサルバドルでは男女はいつも一緒にいます。日本では男女についての教育が全く違うのだと思いました。エルサルバドルの方が個人主義だからグループをつくらないのかと思いました。

日本に暮らしていると、男女の役割の違いを耳にしたり、目にしたりします。知り合いのお宅を訪問したときのことです。その家庭には息子さんと娘さんがいました。進学についての話を聞いていると、娘さんに「女の子だからあんまり頑張らなくていい」と話していました。息子さんには「男の子だからちゃんと勉強しなさい」と言いました。ショックを受けました。私は女の子だからと一度も区別されたことはありません。いまでは日本では普通の教育観だと理解していますが……。

2011年9月に大使として赴任したとき、駐日大使の中で女性は1割弱でした。日本政府が各国に派遣している大使は、143カ所中女性が4名であることにも驚きました。ある調査によると、女性の社会進出はアジアの中でも低い順位です。この現状を変えることが首相の公約になっています。今後どのように変わるか楽しみです。

この数十年、日本の女性の生活環境が変わっているのを感じています。保母さんが保育士になりました。看護婦さんが看護師に統一されました。新幹線の運転手に女性がなるとか、自衛隊など女性に門戸を開いた職業もあります。これらは目に見えることです。

日本の社会をよく見ると地位には現れない女性の活躍があります。大河ドラマを見ても『八重の桜』や『軍師官兵衛』では妻たちの内助の功が描かれています。女性の力を認めている証明です。驚きというのは結論ではなく、考えるきっかけであると思います。


文部科学大臣賞・杯

「国境のない山、国境を超える科学」

●フランス共和国大使館 マチュ・ピーさん

皆さんにとって国境はどういうイメージでしょう。フランス語の国境は、物と物の境目、はっきり区別できる線、人と人の壁を表す言葉です。いろいろな意味で国境を感じることができます。

私の日本滞在はかなり長いのですが、いまだに日本人からすればちょっと変わった外国人です。異文化を取り入れたせいでフランス人からも変な目で見られます(笑)。フランスに帰ったとき、女性の話を聞いて「うん、うん、アー」と日本人らしく相槌を入れたら、「ふざけないでちゃんと話を聞いてください」と言われました(笑)。

日本でコーヒにパンを浸して食べたら、「いやー汚らしい」と言われました。日本の中にも国境を感じることがあります。私が日本に初めて来たときは、関西に3年ほど住みましたから、ある意味で関西人です(笑)。東京に来るとあなたは関西にいたでしょうと言われ、日本の中の国境を感じました。国境をなくして、人と人、国と国のきずなを深くしたいと考える私が大好きなものを2つ紹介します。

1つは山。小さいころから山が大好きでした。春夏秋冬、どの季節の山も平等に好きです。山は一つを超えると次の山が現れ、その山を越えたらまた次の山が現れます。山を歩けば、自然との一体感を感じます。坐禅に近い感覚です。山には税関がありません。

日本の山はつくりも、見た目も、危険も、ヨーロッパの山と違います。国や国籍と無関係に山はときに厳しいことがありますし、優しいこともあります。山が人間に教えるのは、言葉や文化の壁をなくし、同じ頂上、同じ目的をもつことで初めて国境のない空間が実現します。

科学もある意味で共通の部分があります。科学の言語は数式であったり図面であったりします。言葉の理解が不要なので瞬間的に国境を越えられるのです。近年、莫大な費用をシェアするため、研究開発プロジェクトのほとんどは国際協力のもとで行われています。たとえば核融合の実証の研究がその1つ。日本が開発し南フランスの研究機関で研究が続けられています。違う文化、違う考え方、違うやり方に触れ合うことによって、新しい理論や商品が生まれます。こんな国境を越えた取り組みで、フランスと日本のきずなが深くなること、明るい未来を世界のためにつくれることを願っています。


文化庁長官賞・杯

「日本のウォッシュレット」

●インド共和国大使館 ラジェシュ・ナヤクさん

日本に来て1年半が過ぎました。日本に来てから日本語の勉強をしました。日本語の先生のおかげで少しずつ話せるようになりました。でも敬語はとても難しいと思います。

今日のテーマはウォッシュレットです。外交官が話すにはふさわしくないテーマかもしれません(笑)。日本に来たときはウォッシュレットを知りませんでした。初めてトイレを使ったとき、トイレが自動で開いたので「こんにちは」とあいさつしました。「びっくりしました。これなんですか」。インド人には、外国のトイレそのものが難しい存在です。日本やヨーロッパはインドより寒い国です。トイレの後で手を洗わなければなりません。でも、ウォッシュレットは素晴らしい。あのトイレに座るとお尻があったかくなります。気楽なものです (笑)。全部終わった後に降りかかる水も涼しそうです。冬でも春でも、どんな季節でも、トイレの問題はありません(笑)。

トイレは私にとって素晴らしい場所になりました。長い時間トイレにいるようになりました。新聞も読むようになりました。トイレは知識をもらう場所に変わりました(笑)。外交官になる前は心理学の学生でした。人々の考え方に興味をもっていました。トイレにも日本人らしい考え方が入っていると思います。日本人はどんな技術もパーフェクトを狙います。小さいものにも大きな考え方が入っています。ウォッシュレットも1つの事例です。

インドから見ると、日本はアジアで一番上の国です。日本はアジアと欧米の良いところを融和させて、よりよいものをつくれる国です。ウォッシュレットも欧米のよいところとアジアの良いところが混ざっています。


優秀賞・楯

「食文化から感じられる日本」

●大韓民国大使館 キム・ナム・グックさん

去年、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されました。ユネスコの無形文化遺産には和食と並んで韓国のキムチづくりの文化も選定されました。両国の食文化が選ばれたことをうれしく思いました。ご飯とみそ汁、お寿司とラーメン、とんかつとカレーなど日本の食べ物が和食だと考えていたのですが、どうでしょうか。韓国のキムチの文化は、村の人々が一緒にキムチを漬けて、隣の人と食べる共同体意識と分かち合いの精神が評価されました。

和食にも深い意味があると思います。2月に東京で開かれた金沢と京都の食文化のイベントでは、地方の食べ物を知る機会がありました。そのときの料理は見るだけでも美しく、食べてもおいしく、つくられた皆さんへの感謝の気持ちが現れていました。地域によって食文化に違いがあることが分かりました。和食とは具体的な日本料理ではなく、日本の食文化を総称するものだと感じました。

NHKのドラマ『ごちそうさん』は楽しみでした。“食べさせることを無上の喜びとする” ドラマのヒロインの中に、日本人の心遣い、おもてなしの気持ちが伝わってきます。これが和食の真の価値ではないかと思いました。一国の歴史と人への心遣いが込められている食文化が世界に評価されると、それは単なる文化を知らせることにとどまらず、その国が持っているアイデンティティも世界に影響を与え、国家のイメージや国力の象徴として表れると思います。


「太極拳と中日友好」

●中華人民共和国大使館 王麟さん

太極拳は中国の太極思想の影響を受けている武術です。“柔をもって剛を制す”ということわざがありますが、世界から注目を集めています。世界百カ国に愛好者が1億5千万人近くいるとされています。1978年、鄧小平は日本の代表団と会見した際、代表の三宅正一先生が太極拳の愛好者であったことから、「太極拳好」と揮毫して贈りました。

現在、日本は中国をのぞくと太極拳の愛好者が一番多い国です。百万人以上と言われています。1987年に日本学術太極拳連盟が設立され全国43都道府県に支部があります。各地区の日中友好協会にとっても太極拳は重要な運動とされ、日中友好のシンボルとなっています。

私は日本に来る半年前から太極拳を習いました。渋谷区の日中友好協会の理事長と知りあいになり、彼女も太極拳の愛好家であると分かりました。「毎週金曜日の朝7時に恵比寿のガーデンプレイスで太極拳の練習をしていますから一緒に来てください」と誘われました。一人の愛好者が1枚の写真を見せてくれました。温家宝総理が写っていました。2010年5月に日本訪問中の温家宝総理と交流したそうです。一生の誇りであると話してくれました。中国大使館から恵比寿までは50分かかりますから、仕事が忙しい時期は朝寝坊をして、参加できないこともあります。あきらめようと思っていると「大丈夫、また来てください」と言います。お陰で今日まで続けられています。

渋谷区の日中友好協会は都内でももっとも会員の多い友好協会です。理事長は83歳と高齢ですが日中友好に貢献されてきました。太極拳を通じて皆さんと友達になれ本当に良かったと思っています。日中関係は厳しい時期を迎えていますが、これは両国国民の利益に合致しません。話し合いを通じて問題の早期解決を図らなければなりません。太極拳、書道、卓球など民間の草の根レベルの交流を通じて相互の信頼関係を深めなければなりません。


審査員特別賞

「音姫」

●コロンビア共和国大使館 アンジェラ・ヤマウラさん

来日して17年になります。日本語を何年間も勉強しましたが、上達できていません。言葉の才能がないうえに、世界でもっとも難しい日本語を選んだことは間違いだったかもしれません(笑)。本日は音姫についてお話しします。

男性が男性らしくしないといけないという文化をもつコロンビア出身の私にとって、不思議な現象が日本でよく見られます。弁当男子、男子スイーツ部などといった言葉が登場し、男女間の差が薄くなってきたのではないかと思います。女性専用車両、レディーズデーなども存在しています。

日本の女子トイレの事情は非常に奥深いと思います。日本の女子トイレには、気になる音を消す音姫(トイレ用擬音装置)が設置されています。外国人にとっては男女とも馴染みが薄く、面白い機械です。数年前、まだ音姫を知りませんでした。あるときトイレに入って間違ってその機械に触れました。いきなり水が流れる音が聞こえました。なにが起こったのか分かりませんでした。あまりにリアルな水が流れる音なので、日本ではトイレでたくさんの水が流れるから、もったいないと思いました。

男性はなぜ音を消す必要があるのかと思うかもしれませんが、日本の女性はエチケットでしょうと言います。トイレの音をほかの人に聞かれたくないと考えています。私は外国のトイレで、ここに音姫があればと何度も思いました。国とは関係なく、男女間でもトイレの意識に差があると思います。音姫は音だけでなく、節水効果も抜群です。女性は1回のトイレに平均2.3回水を流します。無駄な水が音姫で一気に減ります。問題は音姫の存在に気付かずに、水を流してしまう人がいるということです。最近まで私もその一人でした。トイレの音を聞かれたくない男性もいるはずです。今後は“音男”の誕生も待たれます(笑)。


「日本語の勉強はスプリントではなくマラソン」

●イギリス大使館 クリストファー・プライスさん

私が日本で体験した2つのチャレンジについてお話しします。日本語の勉強とマラソンのトレーニングです。今年の2月に大使館の日本語の試験を受けなければなりませんでした。同じ週に東京マラソンにも参加しました。個人的な意見ですが、日本語の勉強はマラソンのトレーニングにちょっと似ています。能力を伸ばすために時間がかかります。日本語の勉強は短距離走ではなくてマラソンです。

私は日本語を始めて1年半になります。最初の授業はロンドンオリンピックの直後でした。オリンピックの最後のイベントは男子マラソンです。このレースを見て、マラソンをしたいと思いました。去年の3月に来日しました。成田空港から大使館に到着すると皇居の周りを走る数百人のランナーが見えました。すぐに参加したいと思いました。その後、マラソンの抽選に受かり、トレーニングを始めました。

2つはどんなところが似ているでしょうか。忍耐が大切です。46文字のひらがなとカタカナは割と簡単に覚えますが、2000個以上の漢字の意味と読み方を覚えるには強い忍耐が必要です。マラソンの最初の5キロを走るのは簡単だと思いますが、42キロを走るのは至難の業です。毎日漢字の勉強をすることと、ランニングで距離を少しずつ伸ばしていくことに共通性があります。

さて結果ですが、日本語では先生方から素晴らしい支援を得られました。マラソンでは無事完走することができました(大きな拍手)。これからもマラソンのように日本語も上達していけたらと思います。“学問に王道なし”です。時間になりましたのでスプリンターのように終わります(笑)。

※外交官のスピーチは、各人のお話の内容を尊重しつつ、当編集部で一部を要約しました。文責は当編集部にあります。

<関連記事>

自立的に健康を維持するために、在宅看護師が果たす役割
日本IBMに聞く「災害・パンデミック発生時の対応について」
総合商社が“森林を保全する”ということ~三井物産
“地域密着”が本業とCSRを結び付ける~工藤建設
社会のしくみを“デザイン”する会社~budoriという会社の生き方から見えてくるもの
家族専用SNS「wellnote(ウェルノート)」とは?
「捨て方をデザインする会社」が提案する企業価値を最大化する廃棄物の使い方~㈱ナカダイ                                   
自然エネルギーに舵を切る米国のIT企業
グローバル化時代の企業の人権リスクとは?                
あなたが一足の靴を買うたびに、貧しい国の子供たちに、TOMSの新しい靴が贈られる
就業時間、製品、株式の1%を社会貢献に~セールスフォース・ドットコムの「1/1/1」モデル

トップへ
TOPへ戻る