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自転車で走ると東京はこんなにもワクワクする街だった

自転車でめぐる江戸・東京歴史と文化の旅

東京の街を自転車でめぐる旅が静かなブームとなっている。企画・運営するのは東京グレートサイクリングツアー。4月に2回開催されたL.L.Bean共催の「江戸・東京カルチャー・ライド」に参加し、日本橋に始まって皇居前にたどりつく、約25キロ6時間の旅を体験した。

江戸・東京文化コースへようこそ

ゴールデンウィーク初日の2014年4月26日(土)朝9時。中央区新川1丁目の東京グレートサイクリングツアーのオフィスにはツアーの参加者たちが次々と集まった。この日は、「江戸・東京文化コース」に日本人7名が参加。もう1つの「東京湾・お台場コース」にドイツ人2名、アメリカ人1名、フィリピン人2名の計5名の海外客が参加した。

参加者たちはツアー申込み用紙に氏名、住所、連絡先、生年月日などを記入したあと、ツアーを主催する東京グレートサイクリングツアー代表の肥塚由紀子さんから各自の体格にあった自転車やヘルメットを受け取り、簡単な説明のあと、9時20分にオフィスを出発した。当日は、先頭に肥塚由紀子さん、最後尾にはツアーガイドの森脇江介さんが付き、最初に日本橋をめざした。

この日は土曜の休日とあって道路の渋滞もなく、自転車はスイスイ走り、日本橋に着いたのが9時30分。日本橋が主要な街道の起点になっていたという説明を聞いたあと、人形町の裏通りを抜けていく。細い路地裏には草花が植えられたり、暖簾がかかった板塀のお店があったり、海外のお客様が喜びそうな街並みだ。

銀座あけぼの浜町店で好みの和菓子を1個ずつ購入。9時50分には近くにある大相撲の荒汐部屋前に到着、ちょうど朝稽古が終わったお相撲さんらと記念写真を撮った。部屋の前に力士が乗る大きな自転車が並んでいたのが印象に残った。

和菓子で小休止

10時10分には、浜町公園で和菓子を賞味。記者は白玉豆大福を味わった。実はこちらもツアー代金に含まれている。各自か好きな和菓子を1点選べるというのがミソかもしれない。見た目も美しい日本の和菓子を自分で選ぶというのも醍醐味だろう。

浜町公園で一休みをしたあと、新大橋で隅田川をわたる。川面をわたる風が心地いい。いくつか路地を回ると海鼠(なまこ)塀の屋敷跡が見える。赤穂浪士の討ち入りでおなじみの吉良邸跡である。ここにはランニングスタイルで東京名所をめぐる大手旅行会社のツアー客も訪れており、日本の旅もさまざまな試みが行われていると知った。

JR両国駅付近の歩行者天国をすり抜けて大相撲の国技館に10時45分に到着。相撲博物館で谷風梶之助の横綱免許状や雷電為右衛門の錦絵・化粧まわし・足袋などを見学した。相撲レスラーは海外の観光客にも大人気とか。大いに盛り上がった。

そこから江戸東京博物館の横をすり抜けて大きな通りにでた。墨田区の亀沢地区である。この通りは浮世絵師葛飾北斎の生誕の地が近いことから、通称「北斎通り」と呼ばれるらしい。北斎の浮世絵が通りに展示されている。

見上げればスカイツリー

北斎通りを錦糸町にのぼって途中から左に折れると大横川親水公園だ。公園内の散策道を北上すること約15分、11時近くにスカイツリーの真下近くに到着した。スカイツリーは縦に長く通常のカメラアングルでは全身は入らない。そこで登場するのがマジックミラーだ。記念写真にとっておきの場所となっている。

この日は天候に恵まれた上に道路事情もよく、吾妻橋から再び隅田川をわたって11時半には浅草松屋に到着した。デパート地下の食品売り場で思い思いの弁当を選んでデパート屋上でちょっと早めのランチとなった。実はこちらの費用もツアー代金に含まれている。記者は30食限定牛タン定食1,250円を賞味した。肥塚由紀子さんからお茶と甘いいちごの差し入れもあった。

寺院と神社が隣り合わせ

12時10分にはデパートを出発。裏通りを走るとすぐに浅草・浅草寺の境内に入った。海外からのツアー客には仲見世なども見学できるよう自由時間となるようだが、この日は勝手知ったる日本人ツアーとあって小休止のあと、すぐに出発した。ちなみに寺院と神社が隣り合わせにあるという説明をすると、海外の皆さんは珍しい光景だと驚くそうだ。

12時半には浅草花屋敷を横ぎり、浅草ビューホテル横から上野公園をめざす。JR上野駅の北端にかかる陸橋の急坂をふうふういって登り、上野公園に着くと、連休初日とあってあちこちで人が集い、イベントが開催されていた。そのあと新緑の公園内をゆっくり横切って不忍池をぐるっと半周。途中から東京大学本郷キャンパスに入る。13時15分には安田講堂横の小公園前で小休止。東京大学の現役大学院生である森脇さんに大学の説明を受けた。その間に肥塚さんが近くの大学生協でアイスクリームを買ってきてみんなでそれを味わった。

三四郎池の横から赤門をめざす。赤門の手前には大量の自転車が整然と並んでいる。大学構内が広いため、学生たちに貸与されるレンタル自転車だとか。赤門を抜けて菊坂下付近から東京ドームにでる。水道橋から神田にでて、そこから俎板(まないた)橋を過ぎると九段会館や坂上の靖国神社が見えてくる。

九段坂はこの日最大の難所。自転車のギア比を切り替えてなんとか坂を上り、ようやく田安門から北の丸公園に入った。14時すぎには現在国立近代美術館工芸館となっている赤レンガづくりの旧近衛師団司令部庁舎の横を抜けて千鳥ヶ淵にでた。イギリス大使館前の千鳥ヶ淵公園から内堀通りを三宅坂に向かって降り、桜田門に入った。このあたりは皇居を1周するマラソンコースとあって、ランナーと鉢合わせする。慎重に自転車のハンドル操作をするようにした。

二重橋で会いましょう

14時半前には皇居前広場に到着した。自転車をかたわらに置いて二重橋まで歩く。天皇陛下が暮らし、執務をする宮殿とあって、海外からのツアー客には興味深い場所のようだ。この日も欧米系の外国人だけでなく、中国などアジア系とおぼしき外国人が大勢訪れていた。

われわれ日本人組の到着から遅れること15分。「東京湾・お台場コース」に参加した海外からのメンバー5名も皇居前に到着した。どのツアーも最後は皇居前に集まるようだ。

14時50分には丸の内仲通りを抜けて東京駅へ。レンガ造りの東京駅丸の内駅舎が目の前に迫ってきた。東京の新しい観光スポットである。日本橋の造幣局から東京証券取引所の横を通り抜け、15時10分には朝出発した東京グレートサイクリングツアーのオフィスに到着。一人の脱落者もなく、全員無事だった。

参加者たちの声から

参加者たちに「江戸・東京カルチャー・ライド」参加の動機を聞くと、全員がL.L.Beanのサイトを見て参加を決めており、自転車が大好きだったり、山登りが好きな自然派志向の若者たちであることが分かった。

一人ひとりに感想を聞くと、「普段見ることのできない路地裏や相撲部屋などが新鮮だった」「江戸時代の歴史に関心があり、遠方から参加したがとても気持ちよく走れ、いい疲労感だった」「春らしくなったので春らしい旅をと参加したが、自転車から見る景色がとても新鮮だった」「自転車だとスイスイ走るのに驚いた」などの答えが返ってきた。

「海外のお客様が日本の旅をどのように見ているのか興味があって参加した」と語った旅行代理店勤めの男性は、「東京の魅力が再発見できた。新しいクールジャパンですかね」と感想を述べた。なお、この日のツアー料金は自転車、ヘルメット、昼食代、水、保険、ガイド料のすべて込みで10,000円。

「江戸・東京カルチャー・ライド」の開催に協力したL.L.Beanは、“家族・個人を問わず、アウトドアを楽しむ心を刺激し、また楽しむことを可能にする”というブランドミッションのもと、東京グレートサイクリングツアーと連携して開催を決めたという。「日本支社としては初の自転車イベントの試みでしたが、参加された皆さんが楽しんでいただけたようで、とても嬉しく思っています」と語ってくれた。

東京グレートサイクリングツアー代表 肥塚由紀子さんに聞く

Q1 東京グレートサイクリングツアーはどのような発想から生まれたのでしょうか。

肥塚: 9年ほど前、いま私たちのツアーガイドをしている仲間の1人が京都で自転車を使ったバイクツアーがあると聞いてきました。ヨーロッパなどにはシティバイクツアーがたくさんありました。東京だけありませんでした。それで京都でツアーをしている方にメールを送り、東京で始める旨のあいさつをしました。黙って始めるのは気持ちのよいものではありませんから……。

Q2 軌道に乗るまでにはご苦労もあったのでは……。

肥塚: 口コミでお客様がくればというスタンスで自転車4台から始めました。ホームページも自分たちでつくりました。外国人が泊まる大きなホテルや各国大使館にファックスを流しました。そしたらある日メールが来ました。最初のお客様が来たのは2006年11月のことです。

その前にルートをつくったり、自転車のメンテナンスを勉強してその日に備えていました。パンクなんかはその場で修理しないといけませんから……。

Q3 お客様は順調に伸びたのでしょうか。

肥塚: 最初は1カ月に1人とか2人でした。週1で土曜日だけに限定し、お台場に行くコースから始めました。そのうち日曜日も行うようになりましたが、平日もやってほしいという声があり、平日も行うようになりました。お台場や浅草は平日の方がすいており、自転車で走るのには向いています。

最初の年は51人、2年目は103人、3年目に292人になりました。ところが2011年の東日本大震災で大きく減りました。地震や津波よりも福島原発事故による放射能への恐怖が大きかったようです。家賃が払えなくなって困った記憶があります。

Q4 参加された海外のお客様の反響をお聞かせいただけませんか。

肥塚: 東京は大きな都市という印象が先行しているためか、自転車に乗って旅ができること自体、とても新鮮なようです。今日の外国人参加者たちも話していましたが、「自転車でまわると東京は意外にコンパクト」「アップダウンがあり、変化に富んでいる」「川や海など自然の景色も素晴らしい」「江戸時代の街並みなど歴史的な建造物も残っている」などの声が寄せられます。

また、自転車で走ると知らず知らずのうちに日本人と触れ、日本人の方も気にかけて避けてくれたりするものですから、「日本人のマナーにとてもよい印象を受けた」という声も数多く寄せられています。人だけでなく、クルマも避けてくれたという話をしていますから……。

Q5 左側通行や一部歩道の通行など日本の交通法規に戸惑うことはないのでしょうか。

肥塚: 左側通行のことは朝一番でお話しします。イギリス圏ではほぼ日本と同じですが、そのほかの国は日本と正反対です。前輪と後輪のブレーキも日本と逆になる国もあるので十分注意をうながします。

ヨーロッパでは、歩道と車道が区分けされている国も多いのですが、日本では一部歩道も走ります。そのときは「小さくまとまってね」という注意をします。

歩道を走るという経験がない国の人からすれと、確かに違和感はあるようですね。人が通る間隔を確保するという経験もないので、最初はびっちり詰めたりするのですが、それも注意するようにしています。

実は最初は自転車にベルを付けました。それだとあまりにひんぱんにベルを鳴らすため、ベルは取り外しました。人と接近したら日本語で「すみません」と声を掛けてほしいと頼んでいます。

>Q6 この種のツアーでは事故などのリスクも心配です。主催者としてどのような配慮を行っていますか。

肥塚: TSマーク(自転車安全整備士が点検整備した自転車に貼付されるもので、傷害保険と賠償責任保険が付いている付帯保険)に入っています。通常の自転車保険は事前に登録しないといけません。前日や当日に予約してくる人も多いので、事前の登録は難しいのです。

ただ、これまでの経験では転倒して皮膚を擦りむいたという事故はありましたが、それ以上の大きな事故は幸いなことにありません。年齢層が高い方たちも参加しますが、そういう方の多くは普段から自転車に乗り慣れているらしいのです。

Q7 東京オリンピックの開催も決まり、日本をめざす海外のお客様も増える傾向にあります。東京グレートサイクリングツアーとしては、どのようなツアーの企画を考えていますか。

肥塚: 現在、自転車による4つのコースのほか、カヤックやランニングのツアーもあります。私もガイドに出たいので、いまでも結構手いっぱいなのです。

1回のツアーは最大で10人とか12人ですから、これ以上会社を大きくしてお客様を受け入れていくという考えはほとんどありません。むしろ一人ひとりのお客様を大切にしたいと考えています。

お問い合わせなどはこちらから

東京グレートサイクリングツアー
Tokyo Great Cycling Tour

Thttp://www.tokyocycling.jp
info@tokyocycling.jp

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