企業とNGO/NPO

NPOの次世代リーダー育成プログラム社会を変革する若手リーダーを育てる!

アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー2014が開催

NPOの若手職員を対象とした次世代リーダー育成プログラムが開催された。今年は全国のNPOから30名が参加。イノベーション研究の第一人者である米倉誠一郎一橋大学教授によって設計された2泊3日のカリキュラムをとおして、社会を変えるリーダーとなるべくスキルアップに励んだ。初日に行われた㈱電通の並河進さんによる「共感を呼ぶプロジェクトの作り方」とともに紹介したい。

提出された「私の履歴書」を読む参加者(写真は日本フィランソロピー協会提供)

「アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー」は今年で6回目。公益社団法人日本フィランソロピー協会が主催し、アメリカン・エキスプレス財団がバックアップしてきました。

公募と中間支援組織などから推薦を受けて選抜された参加メンバーは、北は北海
道・東北から南は九州・沖縄に及び、これまでに計144名を数えています。

今年のプログラムの中で当CSRマガジン編集部が注目したのは、参加者が自らの歩み発表する「私の履歴書」グループシェアリング。実践的なプログラムの中にあって、参加者が自らの歩みを語り、それぞれの生き様や活動の背景を共有するというもの。

リーダーシップ・アカデミーで「私の履歴書」づくりを指導している教育と探求社の宮地勘司社長によれば、「『私の履歴書』グループシェアリングは、参加者の交流と団結をうながすものであり、参加者同士が互いを知ることで打ち解け、6つのグループに分かれて競われる最終日の課題プレゼンテ―ションに向けて、チームの結束も一気に高まります」とその効果を語ってくれました。

なお、今年の課題プレゼンテ―ションのテーマは、「クラウドファンディング*の仮想プロジェクト」を競うというもの。「共感を呼ぶプロジェクトの作り方」というテーマで講演した電通の並河進さんも講演の中でその効果について触れています。最終日に行われた課題プレゼンテーションは、並河進さんをはじめ諸澤正樹さん( Wicrep社代表者取締役)、米倉誠一郎さん(一橋大学教授)、エディ操さん(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル社 広報・副社長)、高橋陽子さん(公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長)ら5名が審査員を務めました。

なお、ここに掲載した「私の履歴書」の抜粋は、個人情報ということもあり、あえて個人名は記載せず、写真と関連づけていません。

*クラウドファンディング:個人や団体が実現したいプロジェクトを提案し、そのアイデアに賛同する人々からウェブを通じて資金を募る仕組み。


「よかった。生きている」を大切に

国際協力NPO K君

2008年、大学4年の夏にウガンダである女性の調査を行った。女性は元子ども兵。8歳で誘拐され、戦いを強要されてきた。私はその女性から彼女の子どもの名付け親になってほしいと頼まれ、自分の妹と同じ名をつけた。私は13歳のときに心臓の手術をした経験があり、麻酔から覚めて「よかった。生きている」と思ったときの気持ちがいまも忘れられない。「自分はたくさんの人に支えられて生きてきた。今度は誰かを支える人生を歩みたい」と考え、NPOの活動に参加を決めた。

子どもたちの笑顔をエネルギーに

子ども・若者支援NPO Oさん

18歳まで自然豊かな地方で生活し、大学生となって一人暮らしを経験した。大学3年の夏、あるNPOで小学生・中学生の野外活動にボランティアとして参加。自分たちの企画で楽しそうに笑っている子どもたちを見て、この活動が好きになった。4年生の休みにキャンプインストラクターの養成講座を受け、そこで九州のNPOの方と知り合い、メールを送って幾度か通ううちに自分もそのNPOに参加することになった。

絶対はない。他人のために働くことで新たな成長を

国際協力公益社団法人 Hさん

20歳の成人式で聞いた地元の牧師の話。「絶対に正しいものや、絶対に間違ったものはない。みんなグレーなのだ」。ある仕事に就こうとしたが失敗。フリーターになるのはまずいと思い、現在の職場のお世話になった。それから10年が経とうとしている。やめようと思ったときは牧師の話を思い出す。絶対はないのなら、他人のために行動できると。他人のために働くと、人の輪も広がり、未自分の成長にもつながる。

受身のリーダーから本物のリーダーに

障がい児支援NPO Mくん

小学6年生の修学旅行の体験発表の場で先生からいきなり「始まりのあいさつを」と言われた。母親から「緊張していたけど、頑張ったね」と褒められた。それ以来、中学では運動会の応援団長、テニス部の副部長、高校ではクラス委員、大学ではゼミ長も経験した。いずれも誰かから頼まれた受身のリーダーだが、根拠のない自信になっている。リーダーとはなにか。答えは見つかっていないが、これからも極めていきたい。

後悔したくない

まちづくり支援NPO Mくん

沖縄で生まれた私は8年間続けた空手で県大会を優勝。中学ではサッカー部の活動に励んだ。「弟分になって」と先輩の女学生から言われ、うれしかった。ところが、その先輩が中学3年で交通事故死した。初めて「後悔しても、しきれないことがある」と知った。以来、迷ったら「本当に後悔しないか」を自問するようになった。その後、表現集団の立ち上げや、有機農家での住み込みを体験。およそ8年ぶりに沖縄に帰り、地域のまちおこしに誘われ、活動を続けている。チャレンジさせてくれた上司に感謝している。

出会いが自分を変えた

社会的弱者支援NPO Yくん

大学入学後、先輩に誘われて障がい者の余暇支援を行うサークルに。それまでは気に止めたこともなかった障がいを抱える人々の困難を知った。先輩の縁で、小学生のサマーキャンプの手伝いにも参加。野外活動の企画・運営に深く関わるようになった。異なる価値観をもつ大人とどのように接したらよいのか戸惑いもあったが、社会人として働く先発からも、厳しくも心のこもった指導を受け、プロとはなにか、チームワークとはなにか、リーダーとはなにかを考えるようになった。

6つのグループに分かれて開かれた「私の履歴書」グループシェアリングの模様


共感を呼ぶプロジェクトの作り方

並河 進
電通ソーシャル・デザイン・エンジン クリエーティブディレクター/コピーライター

私は、テレビCMをつくる仕事をしていました。社会のためにといったことに深い関心があったわけではありません。ただ、10年くらい前から、「もっと社会のために」と思うようになりました。誰かに教わることなくソーシャルプロジェクトをつくるようになりました。その後、電通に「電通ソーシャル・デザイン・エンジン」という専門グループができ、社会の課題にクリエーティブに対応するようになりました。

検索が応援になる。250万人が検索したヤフーの「3.11、」

私がお手伝いした一番新しいプロジェクトは「3.11、検索は応援になる。」と銘打ったヤフーとの取り組みです。今年の3月11日にヤフーで「3.11」を検索すると、ヤフーが10円を公益財団東日本大震災復興支援団体に寄付する仕組みです。およそ250万人以上が検索し、25,683,250円を寄付することができました。これほど多くの方に参加していただけたことに驚きました。

http://promo.search.yahoo.co.jp/searchfor311/

こうやってお話しすると簡単にやっているように思えるかもしれませんが、どうやったらみなさんの共感が呼べるか、毎回毎回、悩みながらの連続です。

世の中をもっと良くするようなムーブメントがつくれないかと、私が初めてそうした企画書をつくったのは2003年です。大量生産、大量消費ではない世の中をつくれないかと提案しました。生産者と消費者が一体となれる顔の見えるコミュニティを応援するような広告がつくれないかと考えたのです。

先輩たちに見せたのですが、誰からも共感してもらえませんでした。周りの目は冷たかったのです。それから10年経って、社会のためにというのが、広がりをもつ時代になりました。

失敗した例からお話しすると、8年前に「ボラドル」という企画を考えました。ボランティアに楽しいイメージがなかったので、若いタレントにボランティアアイドル、略して「ボラドル」をお願いし、海岸や商店街でごみ拾いをしました。なかなかうまくいかず、本人も途中でやめたいと言い出しました(笑い)。実は、ほかにもめちゃめちゃ失敗しています。でもその失敗から学んで、いまがあります。

私が関わった「社会をちょっとよくするプロジェクト」をいくつかご紹介します。

●ケース1 「nepia千のトイレプロジェクト」

トイレットペーパーになにか新しい価値をつけられないかと2008年にスタートしたものです。キャンペーン期間中のネピアの売上の一部がユニセフに寄付され、ユニセフが東ティモールでトイレの普及活動を実施、子どもと家族の健康が守られるというものです。

社会にとっては大切な課題であっても、伝え方には悩ましいものがあります。東ティモールは2002年に独立したアジアでもっとも若い国ですから、保健や衛生の取り組みも不十分でした。王子ネピアは取り組みを続けています。

このプロジェクトから学んだヒントは、「北風よりも、太陽。脅迫よりも、共感」というものでした。

写真撮影:小林紀晴さん

http://1000toilets.com/

●ケース2 ユニセフの「世界手洗いの日プロジェクト」

2010年に立ち上げたのが、ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクトです。10月15日は世界手洗いの日ですが、日本では浸透していませんでした。言葉を超えて、手洗いで世界をつなげようということで、「手をあらおう。手をつなごう。」を合言葉に「世界手洗いダンス」をつくりました。

http://handwashing.jp/

誰でも踊れるダンスにしようということで工夫しました。YOUTUBEでこの映像が15万回ほど再生されています。5社の企業にボランタリーパートナー企業になっていただき、支援を受けました。

このプロジェクトから学んだヒントは、「アイデアでみんなが集まる『広場』をつくろう」というもの。「世界手洗いダンス」ができたことで、だれでも参加しやすくなりました。

●ケース3 「SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト」

SARAYAは日本で初めて薬用手洗い石けん液を開発した会社で、このプロジェクトは、アフリカのウガンダで手洗いを普及させる活動です。SARAYAは1952年に創業し、戦後の日本の衛生環境を改善しました。そのときと同じ思いでウガンダで活動をやりたいということでした。

こういう物語があると、共感を得られやすいと思います。このプロジェクトから学んだヒントは、「自分の『物語』を見つけよう」でした。

マーケティングの世界も大きく様変わりしています。最近は企業であっても、そこで働く個人の顔や思いが見える、きめの細かいマーケティングが模索されています。みなさん一人ひとりが世の中の人たちとどう関係をつくっていくかを考えてみてください。

●ケース4 NPO法人日本トイレ研究所「トイレの詩」キャンペーン

公衆トイレのマナーを向上させるため、トイレに詩を掲げることにしました。落書きの代わりにポエム(詩)を、というわけです。

新宿高島屋に協力していただいた実験結果では、実施前と比較すると、トイレットペーパーの使用が20.1%減少した、無駄遣いが減った、というデータもあります。

2009年には表参道にトイレ美術館もつくりました。公衆トイレは美しいものというイメージにしたかったのです。オープンニングではテープカットではなく、トイレペーパーカットをしました。ネガティブなものやあまり面白くないもののも発想を変えることで新しい姿が見えてきます。

このプロジェクトから学んだヒントは、「コミュニケーションを『社会の課題を解決するプログラム」と考える」でした。

●ケース5 国際NGO JOICFP「チャリティーピンキーリング」

若い女の子にどうやったら社会貢献に興味をもってもらえるか、ということで始めました。途上国の女の子を支援するプロジェクトです。チャリティーピンキーリングを小指にはめることで、世界のことを思っているよ、というシンボルにしようとしたのです。

10色のリングをつくり、1個350円で販売することにしました。うち100円がと途上国の問題解決に使われます。チャリティーということを抜きにしても欲しくなりそうなリングにしました。これまでに5万個以上販売されています。

このプロジェクトから学んだヒントは、「社会貢献に『社会貢献以外の入り口』を」というものです。いかにも社会貢献という切り口では、たくさんの人が興味をもってくれません。

●ケース6 ユニセフ「祈りのツリープロジェクト」

2011年の震災の後に立ち上げたプロジェクトで、被災地の子どもたちにツリーを届けようというもの。オーナメントの制作に2,000人のデザイナーが参加しました。

被災地の幼稚園や保育所に100本のツリーがオーナメントとともに贈られました。祈りのビッグツリーは被災地の子供たちを思うシンボルになったのです。

このプロジェクトから学んだヒントは、「誰でもいいから手伝ってほしい」より、「あなたに手伝ってほしい」というメッセージの大切さです。「私のスキルが必要とされている」と感じ、参加してくれたデザイナーがたくさんいます。

●ケース7 「ハッピーバースデイ 3.11」

被災地で2011年3月11日に生まれた子どもたちとその家族の物語を伝えようというものです。写真展を開催したり、本をつくったりしました。

2011年の7月に南三陸町で、3月11日に生まれたお子さんがいると聞いて会いに行ったのが始まりでした。それは、まさに希望だと思ったからです。

このプロジェクトから学んだヒントは、「迷ったら、『一人のために』に立ち返る」というものでした。

子どもたちの写真撮影:小林紀晴さん

http://happybirthday311.jp/

●ケース8 クラウドファンディングを使った「ごしごし福島基金」

国や自治体の手が届いていない地域や場所の除染を、みんなの力を集めてしていこうというプロジェクトです。小さな子どもたちが使う施設で、放射線量の高いところを除染しようということで、クラウドファンディングで資金を集めました。

2012年からクラウドファンディングREADYFOR?(レディーフォー)のサイトで支援を呼びかけ、約150万円の資金を集めました。その資金で郡山市の私立幼稚園のプールの除染を実現しました。

このプロジェクトから学んだヒントは、「『個人の力』を信じること」の大切さです。小さな組織だからできる活動というのもあると思います。

〔社会をちょっとよくするプロジェクトの設計図をつくろう。〕

STEP1 こんなことをやりたいという漠然としたものを書き出す

STEP2 それをどうプロジェクト化するかのアイデアを書いてみる

STEP2 プロジェクトの構造をつくる

「社会のためによいことをしている」だけでは長続きしません。有意義なプロジェクトであってもそこに参加する、たとえば学生さんや会社員の方が、そのプロジェクトに参加する意義を見いだせるよう、プロジェクトの側も、参加する一人ひとりを思いやる心が大切です。

それと、プロジェクトを進める人は、「まず、自分が楽しむこと」「まず、自分が共感すること」「まず、自分がわくわくすること」が大切です。自分がわくわくしていれば、周りの人もわくわくしはじめる。そういうことだと思うのです。

※「アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー2014」における並河進さんの講演を主催者の許可を得て、要約したものです。文責は当編集部にあります。

●お問い合わせ先

●アメリカン・エキスプレス・インターナショナル (社会貢献サイト)
http://www.americanexpress.com/japan/legal/company/philanthropy.shtml
●公益社団法人日本フィランソロピー協会
http://www.philanthropy.or.jp/

<関連記事>

「社会を変える“明日のリーダー”を育てる~アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミー2013」
あなたが一足の靴を買うたびに、貧しい国の子供たちに、TOMSの新しい靴が贈られる
就業時間、製品、株式の1%を社会貢献に~セールスフォース・ドットコムの「1/1/1」モデル
「日本IBMに聞く「災害・パンデミック発生時の対応について」
「捨て方をデザインする会社」が提案する企業価値を最大化する廃棄物の使い方~㈱ナカダイ
ITという社会インフラを止めてはいけない!日本IBMに聞く「災害・パンデミック発生時の対応について」
国民の英知を結集して、放射能汚染水の流出を防げ!原子力市民委員会が緊急提言
未来の街を、電気自動車で走ろう~日産わくわくエコスクール
タニタ社員食堂が出前健康セミナー
廃食油を東京の資源に  TOKYO油田(株式会社ユーズ)
子供たちに‟いきいきした放課後”を  京王電鉄   

トップへ
TOPへ戻る