識者に聞く
温暖化は待ってくれない! [Part 1]地球温暖化の現状と人類の課題
エナジーグリーン社セミナーからエネルギーの地域自立を掲げ、グリーン電力証書・市民出資・地産地消からなるエネルギー事業を展開するエナジーグリーン社。このほど「地球温暖化問題と私たちの課題」と題するセミナーを開催した。IPCCの第5次評価報告書で「自然科学的根拠に関する作業部会」の報告書作成に参加した江守正多さんの講演をお届けしよう。
[Part 2] エネルギーによる社会イノベーション(『オルタナ』編集長 森摂さん)はコチラ
国立環境研究所地球環境研究センター
江守 正多さん
忘れ去られていないか温暖化
2007年から2009年くらいまでは、まだ地球温暖化に社会の関心が向かっていました。ちょうどIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告がでたのが2007年。元米副大統領だったアル・ゴアさんが2006年に『不都合な真実』という映画を製作し、翌2007年にIPCCとともにノーベル平和賞を獲得しました。
その直後にリーマンショックが起き、続いて東日本大震災や福島の原発事故が起き、わが国では温暖化問題はすっかり忘れ去られた格好です。2013年は夏が暑かったことと、大雨が多かったことで「温暖化の影響じゃないか」という話が久しぶりに聞こえてきました。
現在作業が進んでいるIPCCの第5次評価報告書は3つの作業部会の報告書がすでに発表され、年内に統合報告書が発表される予定です。温暖化の話を思い出してほしいということで、私は昨年9月に『異常気象と人類の選択』(角川SSC新書)を出版しました。
最近、環境省が「地球温暖化の仕組み」という映像をつくりました、よくできているのでそちらからご覧ください。
「地球温暖化のしくみ」映像ナレーションから
太陽のエネルギーの3割は雲や雪などで反射され、宇宙に戻っていきます。残りの7割は海や陸地に吸収されます。吸収されたエネルギーは大気に放たれ、宇宙へと逃げていきます。このエネルギーが何にも遮られずに逃げていくとしたら、地球の平均気温はおよそ-19℃になります。人が暮らしにくい環境です。
この地球で大切な役割を果たしているのが、二酸化炭素や水蒸気などの温室効果ガスです。温室効果ガスは地表から放たれる熱を吸収します。その熱が大気へと放たれ、その一部が再び地表を温めます。熱が宇宙に逃げにくくしているのが二酸化炭素などの温室効果ガスです。地球の平均気温をおよそ14℃に保ち、暮らしやすい環境をつくっているのです。
産業革命以降、私たちは石炭・石油を使って多くの二酸化炭素を排出してきました。増えた二酸化炭素によって熱は宇宙に逃げにくくなりました。その結果、地球の温度が上昇する「地球温暖化」が引き起こされているのです。
人間活動が温暖化の要因
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、国連の組織ですが、地球温暖化の科学で何が分かっていて、何が分かっていないのかを評価する機関です。2013年の9月から今年に掛けて、第5次の評価報告書の発表を進めています。私自身は3つの作業部会のうち、1つめの「自然科学的根拠に関する作業部会」の報告書作成に参加しました。
左上の図は大気中の二酸化炭素の濃度です。1958年からのものですが、赤い線がハワイ島のマウナロア観測所で計測しています。青い線は南極ですが、両方とも二酸化炭素が増加しているのが分かります。初めは310ppmだったものが、現在は400ppmを超えています。産業革命前は280ppmでした。そこからだと4割以上増えています。
左下の図は世界の平均気温の変化です。過去150年くらいのデータをさかのぼることができます。この間に約1℃弱世界の平均気温は上昇しています。地球の活動の中にさまざまな気象の変化が含まれており、気温が下がる年もあります。しかし、長期的に見ると平均気温は確実に上昇しています。
右上の図は夏の北極海の海氷面積です。1900年から100年ちょっとのデータですが、1950年からかなり海氷面積の減少が進み、現在は昔と比べると約半分の面積になっています。
右下の図は世界平均海面水位ですが、1900年から100年ちょっとのデータですが、この間19㎝ほど海面水位が上昇しています。年間3㎜くらいずつ増えている計算です。
IPCCの報告書は、こうした状況から気候システムの温暖化に“疑う余地はない”と書いています。2007年の第4次の評価報告書からこうした一歩踏み込んだ表現を用いています。
問題は二酸化炭素が増えたことで地球の温暖化が進んだと言えるかどうかです。結論は、20世紀半ば以降の世界平均気温上昇の半分以上は人為起源の要因である可能性が極めて高いとしています。IPCCではこのような言葉遣いが決まっていて、極めて高いという表現は95%以上の可能性があるという意味です。
この図は世界平均気温の変化を図にしたものですが、黒色は観測の結果です。赤色は太陽光の強弱や火山活動による温室効果ガスの人為的要因を考慮したシミュレーションです。青色は自然要因のみを考慮したものとなっています。赤色は黒色の観測結果と傾向が合いますが、青色は合いません。赤色と青色の差が、人間活動による上昇分だと理論的に推定できるわけです。
地球の100年後を予測する
将来、地球の気温が何度上昇するかは、人類がどれくらい温室効果ガスを出すかによって違ってきます。私たちが今後どのような活動をするのか、また排出削減についてもどのような取り組みをするかによって変わってきます。
今回の報告書では4つのケースに分けて報告しています。
一番高いケースと一番低いケースについて、2100年までの変化が書いてあります。高いケースとなる赤色は、私たちが全く対策をしなかった場合です。それだと世界の平均気温は2100年に4℃前後上昇します。
考えうる限りの排出削減を行った場合、世界の気温上昇は2050年くらいで頭うちになり、そこから2100年までほぼ横ばいとなります。現在と比較すると約1℃前後の上昇に抑えられます。産業革命を基準にすると1.6℃くらいの上昇です。
同様にして、世界平均の海面水位を見てみると、全く対策をしない場合は2100年に60㎝から90㎝の上昇になります。対策をした場合、40㎝前後となります。対策を取れば2050年で気温の上昇は横ばいとなりますが、海面水位の上昇はすぐに止まりません。海が吸収した熱が海の深いところに伝わっていき、深いところの海水が膨脹するからです。
異常気象にも少なからぬ影響
次は異常気象ですが、異常気象というのは気象庁の定義では30年に一度起こるか起きないかの極端な気象現象を指します。地球の気象はたえず不規則に変動しているので、外的な原因がなくてもたまには極端な変動が起きてきたわけです。
長期的に見た場合、温暖化によりいくつかの異常気象の頻度が増えていく傾向にあります。50年くらい見ると分かります。「寒い日と寒い夜の頻度が減少する」「暑い日と暑い夜の頻度が増加する」――これについては20世紀の後半に加わった要因が影響している可能性が非常に高いとされています。90%以上の確率です。
「大雨の頻度が増加」するのは、気温が上昇すると水蒸気も増えるからです。低気圧などが近づくと、水蒸気が多い分だけ雨も多く降ります。大雨は増える傾向にあります。過去のデータからは、雨が増えている地域が減っている地域よりも多かった可能性が高いといえます。
海面水位が上昇していますから、そこに台風がくれば、高潮の可能性も高まります。人間活動によって高潮の発生が増加した「可能性が高く」、将来的にさらに増加する「可能性が非常に高い」わけです。温暖化の影響は、災害、熱中症などの健康被害、海面上昇、農業、生態系などさまざまな分野に及びます。
産業革命から2℃以内の上昇に抑え込む
IPCCは何度を超えたらいけないという提言はしていません。ただ、現実の国際交渉では2℃以内という目標が掲げられています。2010年にメキシコのカンクーンで行われたCOP16/CMP6の合意文章では、「産業化以前からの世界気象の上昇を2℃以内に抑える観点から温室効果ガスの大幅削減を認識する」とされています。
実は最近日本の科学者が「対策なしケース」「2℃以内ケース」の2つを比較したシミュレーション映像を作成しました。どちらのケースも気温が変動しながら同じように上がっていきますが、「2℃以内ケース」では2050年ごろに上昇傾向が止まるのに対して、「対策なし」では気温上昇がどんどん進みます。「対策なし」では2100年には世界平均で4℃上昇するわけですが、一様に4℃上昇するのではなく、海よりも陸地の方が気温上昇の影響が高まっていきます。
2つの差が現れるのはかなり先の話なので、いまから徹底的に排出削減の対策を行ったとしても、30年くらい先でないとその成果は現れないということになります。つまり、それくらい長期を考えてわれわれが行動できるかが試されているといえます。
目安として、2050年ごろに二酸化炭素の排出量を現在の半分にしないといけません。さらに今世紀末には世界の排出量をゼロとかマイナスにしないといけません。そんなことができるのかと思われるでしょう。エネルギーを使っても、二酸化炭素を出さない技術を実現するしかありません。
可能性のある技術にバイオマスCCS(二酸化炭素回収・貯留)という技術があります。二酸化炭素を地中に封じ込める技術です。植物が育つときに大気から二酸化炭素を吸収します。そこからエネルギーを取り出すと二酸化炭素が残ります。これを地中に封じ込めるわけです。大気に返さないで二酸化炭素を地中に埋めるわけですから、エネルギーを使いながらもマイナスの排出量となります。
それだけ植物を植える土地があるかどうか。それが食糧生産と競合したり、生態系破壊につながる可能性もあります。人類は気候変動に関してかなり追い詰められた状況にあります。放っておくと気候変動が進み、対処しようとすると別のリスクが発生する可能性もあります。私たちはなんらかのリスクをとらないといけないところまで来ているのです。
※本講演は2014年5月に開催されたエナジーグリーン株式会社によるセミナーの模様を当編集部で要約してまとめたものです。内容については当編集部に責任があります。
●お問い合わせ
エナジーグリーン株式会社
TEL 03-6380-5556
http://www.energygreen.co.jp
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