識者に聞く

温暖化は待ってくれない! [Part 2] エネルギーによる社会イノベーション

エナジーグリーン社セミナーから

エネルギーの地域自立を掲げ、グリーン電力証書・市民出資・地産地消からなるエネルギー事業を展開するエナジーグリーン社。このほど「地球温暖化問題と私たちの課題」と題するセミナーを開催した。2回目は環境とCSR分野の情報誌『オルタナ』編集長である森摂さんの講演をお届けしたい。

[Part 1] 地球温暖化の現状と人類の課題(IPCCの第5次評価報告書作業部会 江守正多さん)はコチラ

雑誌『オルタナ』編集長 森 摂さん

ソーシャルビジネスへの関心高まる

『オルタナ』は2007年に創刊された「環境とCSR」を取り扱うビジネス情報誌です。最近はソーシャルビジネスに対する関心が高まっています。企業とNPOの協働、そこに自治体が関係する動きもでてきました。そうした動きを受け、『オルタナ』は新しいビジネスの枠組みを探っています。

いま私たちは3つの岐路に立っています。1つは20世紀型資本主義の矛盾という岐路です。ネオリベラリズム=新自由主義という言葉をご存じでしょう。もともとはミルトン・フリードマンというシカゴ大学教授でノーベル経済学者が提唱したものです。レーガン、サッチャー、20年くらいたって小泉さん、いまの安倍首相も同じ流れだといわれています。

2つめは気候変動という岐路です。どこまで温暖化を緩和できるかという課題です。異常気象、特殊な災害、これらに加えて環境難民も生まれています。以前は地域紛争や国家間の対立によって難民が生まれていましたが、いまや局地的な自然災害でそこに住めなくなってしまう難民が現れています。

3つ目の岐路は、1つめと2つめの問題を解決するビジネスを生み出すことができるかどうかという課題です。つまりイノベーションです。グリーン経済、自然エネルギー、第一次産業、このあたりにスポットが当たっていますが、残念ながらあまり楽観的にはなれません。なんとなれば自民党政治ではなかなか変わらないからです。

実は民主党で政権交代が行われましたが、国民の信頼をつなぎとめるところまではいきませんでした。二大政党制を夢見ていたのにあっという間に崩壊してしまいました。この政治を立て直すには相当時間がかかると思います。なかなか楽観的にはなれません。

元気なのは若者、女性、リタイア世代

光明がないわけではありません。1つは若い人です。環境とかCSRの雑誌を発行しているとこれに反応してくれるのは若い人たちです。彼らがなぜソーシャルなことに興味を持ち始めるのでしょうか。それに続くのが女性、リタイアした人たちということになります。この3つの層が世の中を動かす際に新しい原動力になるかもしれません。

この図は上がGREEDで、下がGREENとなっています。GREEDは「欲深い」という意味の単語ですが、最後のスペルDをNに変えるとGREENになります。私たちが目指すべき方向ではないでしょうか。

ご覧ください。上の図には原発が稼働し、木が枯れたりしています。各地で紛争により被害が発生しています。下の図は太陽光パネルがあり、人々は環境負荷が低い中で節度のある暮らしをしているというイメージです。あくまでも概念図ですが、日本はどちらをめざしていくのかを提示し、選択をしないといけません。

私たちはどっちをめざしていくのか。答えは中間にあるのかもしれませんが、しっかりと考えていかなければいけません。私たちには未来をつくる責任が問われているのです。私のような年配者が生きるのはあと数十年かもしれません。若い人たちなら50年、60年と生きる可能性があります。いまの子どもたちやその子どもたち、つまり私たちの孫やひ孫の世代のことを考えれば、100年先や200年先の社会になんらかの形で思いをはせながら国をつくっていかなければいけません。

私たち日本人は未来のことを考えるのはあまり得意ではないようです。日本企業は中期計画というと3年かせいぜい5カ年計画です。つまり5年先までしか見ていないわけです。もっと先を見ないといけないと思います。

この図はアメリカの富を上位1%の人たちがどのように牛耳ってきたかを示したものです。世の中の1%の人が15%から20%の富を動かしてきたのです。1950年から1970年代の一時期だけ比率が下がりました。それが30年ほど続いた後、レーガン大統領のレーガノミックスによって再び富の偏在が拡大していきます。1億総中流といわれた日本もこの10年ほどで貧富の格差が拡大しています。

地球の温暖化とともに忘れてならないのが地球の資源は有限であるという事実です。石炭、石油、鉱物資源、そしてウランにしても有限です。これらの資源の多くはこのまま使い続けるとあと200〜300年で枯渇するといわれています。石油はすでに採掘のピークを迎えているといわれています。

2011年2月に国連環境計画(UNEP)が『グリーン経済報告書』を出しました。10の主要なセクターに世界のGDPのわずか2%を投資するだけで、低炭素で資源効率の高い経済への移行が可能であるというものでした。この主要なセクターには、農業、建設業、エネルギー業、漁業、林業、製造業、観光業、運輸業、水資源、廃棄物管理事業が入っています。

課題があるところほどイノベーションの可能性がある

きょうのテーマはイノベーションです。『イノベーションのジレンマ』という本を書いたヨーゼフ・シュペンターは、イノベーションというのは2つのS字型からなっていて、連続していないといっています。

下の図をご覧ください。2つのSが並行するように並んでいます。シュペンターは 1つ目のSが伸び悩んだときに、真のイノベーションが生まれるといっています。エネルギー産業でいうと、原子力が行き詰っているわけですが、もう一方には、次世代の技術といわれるものがあります。自然エネルギーとか、水素とか、蓄電とか、CCS(二酸化炭素回収・貯留)もその1つかもしれません。いまの日本はまさにこの『イノベーションのジレンマ』の時期にあると思います。

『イノベーションのジレンマ』の要点は、「大きな企業にとっては、規模の大きい既存事業の前に現れる新興の事業や技術は小さく、魅力なく映るだけでなく、既存の事業をカニバリズムによって破壊する危険があるため、新興市場への参入が遅れる傾向にある」としています。

日本の電力会社でいうとまだまだ原子力に依存したい、原子力の再稼働に戻りたいという動きです。これでは新しい発電技術に乗り出すのは遅れてしまいがちになります。彼らにとって自然エネルギーというのは“頼りない存在”に映るのでしょう。

イノベーションは非連続的なものですが、いつか必ずやってきます。最近、何人かの人にインタビューしましたが、その中のひとりである一橋大学大学院教授である米倉誠一郎さんはバブルの崩壊後、長期低迷に苦しむ日本は、解決しなければならない構造問題をながらく放置し、先送りしてきたと語ってくれました。

米倉教授が語る3つの構造問題は①環境・エネルギー・省資源問題 ②グローバリゼーション ③財政破綻とソーシャルビジネスです。米倉教授によれば、これら3つのテーマはいずれもイノベーションのフロンティアになるといいます。課題のあるところほど新しい可能性を秘めているというわけです。

固定価格買取制度導入で自然エネルギーの普及に弾みが

2012年7月に自然エネルギー推進の法律ができ、FIT(固定価格買取制度)導入が進みました。あちこちで太陽光などのソーラー発電所の計画が進んでいます。実際に稼働した量はまだまだ少ないのですが、それでもずいぶん設備はつくられています。ただ、つくっても電力会社の系統に接続してもらえないといった課題もあります。

2016年には家庭向けを含めた電力の小売り自由化が行われます。電力会社10社が地域ごとに販売を独占してきた体制を改め、新規参入組と競争をうながすものです。いま、東京や神奈川に住んでいれば東京電力からでしか電力は買えません。ところが2016年になるとエナジーグリーンさんからも電力を買うことができるわけです。これまでは証書だけをもらって「環境価値」を買うという形でしたが、この仕組みが大きく変わる可能性があります。

東京オリンピックがその節目になるかもしれません。世界が日本のエネルギーイノベーションを目にすることができるわけです。すでにコンパクトシティーとか、ヒートポンプとか、バイオマスとか、いろいろなキーワードが登場しています。住宅の使用電力を集中管理するHEMS (ホーム・エネルギー・マネジメント・システムの略。電力使用量や電力料金などを一元管理する仕組み)やマンションごとの電力を集中管理するMEMSの動きも加速するものと思われます。

日本を動かすイノベーションのヒントについても触れておきます。私は3つあると思っています。1つはスマートフォン。スマートフォンの普及でコミュニケーションのあり方が大きく変わりました。2つめは「なでしこ銘柄」。経済産業省と東京証券取引所が2012年から進めるものですが、女性活用に熱心な企業という基準で1業種1銘柄ずつ選んでいます。大企業の社長が目の色を変えています。女性の活用に積極的な企業だと認められれば、株価の上昇が期待できるわけです。このような新しい基準の誕生で経営陣の考えも変わっていくというわけです。

3つめはご当地電力。行政や企業、市民が共同でエネルギーのイノベーションを起こしていこうという動きです。全国各地で新しい試みが始まっています。エネルギーイノベーションの理想形になる可能性があります。

※本講演は2014年5月に開催されたエナジーグリーン株式会社によるセミナーの模様を当編集部で要約してまとめたものです。内容については当編集部に責任があります。

●お問い合わせ
エナジーグリーン株式会社

TEL 03-6380-5556
http://www.energygreen.co.jp

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