企業とNGO/NPO
“サービスの心”を前面に !
第4回「アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミー」が開催NPO法人エティックとアメリカン・エキスプレス財団が社会起業家を対象とする社会起業家を対象とする第4回「アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミー」研修を開催した。2名の講師による講演の模様をお伝えする。
サービスアカデミーの参加者は全国各地で社会問題をビジネスの手法で解決する有望な社会起業家たちです。教育、高齢者福祉、育児支援、医療、農業、地域活性、途上国支援など、さまざまな分野で活躍する若手で、講演、グループワーク、 ワークショップ、プレゼンテーションなどさまざまなカリキュラムを組み合わせ、参加者たちに新たな視点を伝授するとともに、参加者たちがネットワークを築き、分野を超えてシナジーを育むことを目指しています。
なお、本サービスアカデミーでは、今回を含めて118名が巣立ち、全国各地でユニークな活動を展開しています。今回は2名の講師たちーーーアメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. (日本)コールセンター統括 副社長 萬年 良子さん、NPO法人ケア・センターやわらぎ 代表理事 石川 治江さんによる講演の模様をお伝えしましょう。
感動につながるサービスを
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. (日本)コールセンター統括 副社長 萬年 良子さん
アメリカン・エキスプレスは160年以上前に幌馬車でお金を安全に運ぶというサービスからスタートしました。その後、業態は大きく変わりましたが、サービスを大切にするという思いはますます強くなっています。
いま、私がいる職場は、お客様からの問い合わせに対応するコールセンターと、バックオフィスなどサービス全般を取り扱っています。
なかでもコールセンターには多くの人員がいます。コールセンターの役割は、①請求金額に関する問い合わせ、②国内外でのカードの紛失と再発行依頼、③ポイント残高、アイテム交換依頼、④利用可能枠の確認、⑤オンライン・サービス、ウェブサイトに関する問い合わせ、⑥各種キャンペーンについて、⑦旅行の予約、⑧レストランの手配、⑨カードの入会・解約依頼、⑩各種カードの特典についての問い合わせなど多岐にわたっています。
私たちのビジョンは、「世界でもっとも尊敬されるサービス・ブランドになる」ということです。成功のファクターは、お客様に卓越したサービスを提供する以外にありません。
2年前、お客様に「サービス」に関する調査を行いました。「過去に良いサービスを提供されて、他社よりも高い金額を払ったことがある」と答えたお客様が37%もいることが分かりました。また、「悪いサービスの体験をした際、他の人に伝える」と答えた方は82%にものぼりました。
感動を呼び寄せるカスタマー・エキスペリエンス
お客様に対するサービスを私たちは「カスタマー・エキスペリエンス」と呼んでいます。日本語に訳すと“感動体験”とでも呼ぶのでしょうか。
一般にはカスタマー・サービスという言葉がよく聞かれます。カスタマー・サービスは会社側の思いです。ところが会社が良いと思ったサービスに、お客様も良いと評価されるかどうかは分かりません。お客様目線で、あらゆる接点で“感動体験”につなげるようにしようというのが「カスタマー・エキスペリエンス」です。
私たちはたえずお客様の声を吸い上げて、お客様が不満足とか、不便ですよ、という声に耳を傾け、解決できるものは速やかに対応するようにしています。コールセンターへの問い合わせに対しても、お客様との長期的なつながりに結びつくような対応に努めています。ただ、新人も入ってきますから、常に完璧とは言えません。「カスタマー・エキスペリエンス」の精神をいかに周知徹底するかが日々の取り組みです。
一般的にはコールセンターはコストだという考えがあるかもしれません。私たちはお客様とのつながりを強化するための投資だと考えています。マニュアルどおりの対応ではお客様の満足が得られない場合もあります。社員にある程度権限移譲をして、お客様に喜ばれる人間味あふれる対応に近づけています。
こういう対応をすれば、お客様は感動するというマジックはありません。でも、基本は「個々のお客様のニーズにあわせたパーソナルなサービスをお届けする」ことに尽きるのです。
あるとき、「カードをなくされた」という電話が来ました。社員は、自分がカードをなくしたら何に困るかと考え、当社のカードだけでなく、他社のカード会社の連絡先などもお伝えしました。当初はなぜそこまでという反応もありましたが、いまでは当たり前のサービスになっています。
お客様が忙しい中でコールセンターに電話をされるのには、さまざまな事情があります。私たちはお客様のデータに基づいて対応をしますが、お客様の声、それも最初の10秒の印象を大切にしています。それがお客様のニーズにあった対応につながります。
お客様視点で効果測定も
感動体験を目指す仕組みの話をしましょう。コールセンターの社員が良いサービスをしたと言ってもお客様の評価はどうだったかというのは別物です。お客様に満足されたかどうかを聞き、5段階評価を行っています。もう1つ、ネット・プロモーター・スコアがあります。お客様に「アメリカン・エキスプレスのカードをご友人やお知り合いに勧めてみたいと思われるか」を聞くものです。こちらは10段階評価で行います。
海外のお客様と比較して、日本では良い評価を獲得するのが難しい場合もあります。しかしながら、日本でもネット・プロモーター・スコアは順調に伸び続けています。
「良いサービスは良いビジネスにつながる」という結論は、数字でも実証されています。こちらはアメリカの数字ですが、ネット・プロモーター・スコアの改善とともに①カード会員の利用額が10%増え、②退会率が減少し、継続会員が4倍に増加し、③サービスにかかるコストが10%減少しました。
社員のモチベーションは、正しいことをしている、仕事をする意味がある、お客様から正しい評価が得られる、ということに尽きるのです。私たちはお客様の心を打ち、いつまでも忘れられないようなサービス、それを目指しています。
サービスの可視化への目覚め
NPO法人ケア・センターやわらぎ 代表理事 石川 治江さん
サービスは目に見えるでしょうか。サービスは触れることができるでしょうか。見えるときもあれば、見えないときもある、そういう答えもあるかもしれません。しかし、私自身、サービスは見えないもの、触れることのできないものと決め、見える化、つまり可視化に努めてきました。始めたのはいまから27年前、介護の現場でした。
実は介護の仕事を始める前に、車椅子の方たちを介助するボランティアをしていました。車椅子では、小さな段差を乗り越えることも困難です。道ゆくすがら、介助をお願いするのに、何回も周りに「すみません」という言葉を口にしていました。周りの人には、その大変さがなかなか伝わりません。そこから、私自身、サービスというものは見えないもの、触れないものという仮説を立て、“見える化”するにはどうしたら良いかを考え続けてきました。
ボランティアを始めた当時、車椅子の方たちが電車(当時は国鉄)に乗るには、2日前に申告しないと乗せてもらえませんでした。私の知り合いは、親の死に目にも会えませんでした。故郷から連絡がきても、すぐには電車に乗れなかったのです。
ボランティアの現場でも、30人から40人のボランティアさんを集めないと、地域で生活する障がい者の1か月のシフトは回りませんでした。学生や主婦を誘いましたが、学生は卒業とともに離れていき、主婦は2年で入れ替わります。
8年後にボランティアでの活動を止めました。仕組みとして動かないと介護はできないことが分かったからです。介護の仕組みをつくらないと、問題の解決はありえないと思うようになりました。
在宅福祉サービスを始める
組織化は、株式会社であろうが、NPOであろうが、事業の手法として欠かせないものです。私は、24時間365日の在宅福祉サービスを提供する「ケア・センターやわらぎ」を設立しました。当時、どこにも先生はいませんでした。誰もやったことのない仕事だったからです。
最初は苦情の山でした。でも、苦情こそ教科書でした。通常、お客様から来るのが苦情ですが、内輪からも苦情が出てきました。ケアワーカーの苦情のなかには「お手伝いさんと呼ばれてしまった」といったものもありました。
私たちは障がい者や高齢者向けの介護サービスは、ボランティアではなく有償のサービスだと言って始めました。お金を介在させたサービスだと明確に言いきったわけです。ところが、いざ始めると通常のサービス以外に、事務所などの維持費も必要なことが分かりました。スタッフの報酬から、時間当たり100円を維持費として徴収すると、それが派遣法違反だと言われました。そこで、スタッフの報酬からはお金を取らず、代わりに「データ」を取るようにしました。
本来であれば、行政が担うことを私たちがやっている。そう認められるようになり、数年後にある自治体から補助がでるようになりました。ところが、それで足りたかというと足りません。24時間365日の在宅介護サービスをやっていると聞きつけ、次々と新たな要望が押し寄せてきました。いくら人材を補充しても、追い付かないほどのニーズがありました。
現在では、山梨県から杉並区まで、650〜660人の雇用を生むまでになりました。
24時間365日のサービスの可視化
介護の世界では、それまで「サービス」はやりっぱなしでした。それではいけないと、コーディネーターを育て、サービスのフォーマットをつくりました。
サービスの項目は、「受付」「インテーク(介護の用語で受け入れのこと)」「アセスメント(調査)」「ケアプラン作成」「サービス提供・モニタリング」「サービス調整」「終了・評価」の7段階。その段階ごとに、細かいサービスの細目をつくりました。この中で一番大切なのはどこだと思われますか。
そう、「サービス提供とモニタリング」です。介護保険制度以前は、サービスの多くは行政が“措置”しないとできません。行政が措置すると決めれば、「サービス提供とモニタリング」に入れます。この仕組みはその後、介護保険制度へと変わりました。事業者との契約によって、介護のサービスが受けられるように変わったわけです。
私たちはサービスの記録をケアメニューとして整理し、作業を標準化するためのコードづくりも行いました。これがサービスの可視化に一番つながりました。ケアというサービスの標準化につながり、リスクマネジメントにつながり、可視化につながりました。
これを始めてから、働いている職員がものすごい勢いで資格を取るようになりました。自分がやっている仕事の大切さが分かり始め、より専門的な知識を身に付けることで、さらによいサービスができると分かったからです。働きながら介護福祉士や看護師の資格をとった人が何人もいます。
ケースごとにケースマップというものも作成しました。これを見た医者の中には凄いと関心を寄せてくれた方もいます。難病をもった地域の患者は、私たちだけで介護はできません。病院の医師にも協力を得ないとできません。ケースマップで“見える化”したことで、地域の病院や医師の協力も得られやすくなりました。ケースマップのサービスを一覧表にした「ケースマップコード一覧表」もつくりました。
介護というサービスを“見える化”したことで、私たちの取り組みは、大きな一歩を踏み出しました。(2014年7月)
●NPO法人エティック
http://www.etic.or.jp/
●アメリカン・エキスプレス 社会貢献サイト
http://www.americanexpress.com/japan/legal/company/philanthropy.shtml
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