国内企業最前線

あなたの安全運転が、誰かを応援する一票となる

保険の新しい価値を提供する、三井ダイレクト損保の「ムジコロジー・スマイル基金」

「ムジコロジー・スマイル基金」プロジェクトチームの皆さん

顧客とともに創る新しい社会貢献の仕組み

―― 2014年7月にスタートした「ムジコロジー・スマイル基金」は、単純に三井ダイレクト損保がNPO団体に寄付するのではなく、事前に貴社の契約者に応援したい団体に投票してもらうというユニークな仕組みです。こうした基金を創設された経緯を教えてください。

岩井:当社は2000年6月にインターネットでの商品販売を強みとする損害保険会社として開業しました。その後、開業10周年を迎えた2010年に自分たちの社会的使命を再確認する意味で経営理念・行動指針を見直し、経営理念の一つとして「社会的責任を果たし、安心で豊かな未来づくりに貢献」すること、行動指針には「お客さまとのコミュニケーションを大切に」することを掲げました。しかし、具体的にどのように実践していけばよいのか。さまざまな試行錯誤を重ねてきましたが、「ムジコロジー・スマイル基金」の基本の仕組みである“ワンダークリック”を構築されていた(株)ドウゾさんとの出会いが、本基金の創設につながりました。寄付先であるNPO団体の方も含めて多くの方との協働で、お客さまとともに社会に貢献できる、新しい保険の価値を提供する画期的な仕組みとなったと自負しています。

三井ダイレクト損害保険(株) 事業部ゼネラルマネージャー 岩井 淳さん


●「ムジコロジー・スマイル基金」とは?

https://mujicology-smile.wonderclick.jp/

三井ダイレクト損保の創立15周年事業として2014年7月に創設。三井ダイレクト損保の自動車保険等の契約者は、月に1度、あらかじめ選定された5つのNPO団体から応援したい団体を選び、投票(ワンクリック)できる。1年間の投票数の割合に応じて三井ダイレクト損保が寄付を行う。(1年間の寄付総額は三井ダイレクト損保の税引前利益の1%または500万円のいずれか高い額)



―― 先ほど、いかに経営理念・行動指針を実践するか、試行錯誤されたとのことですが。

岩井:当社の場合は、お客さまとのコミュニケーションについてはインターネットと電話が主体です。もちろん損害保険会社として、お客さまに事故があった時には保険金をお支払いして経済的損失をカバーさせていただきますが、逆に言えば事故が起きなければなかなか接点がありません。どうしたら、お客さまに身近な保険会社と感じていただけるのか、もっと“顔の見える保険会社”となるのか。

「ムジコロジー・スマイル基金」がCSR部門所管の社会貢献活動ではなく、営業部門主体で記念事業として創設する結果となったのは、そうした問題意識が背景にあったからです。

相川:ダイレクトの通販損保というのは価格競争だけになりがちです。当社は、事故対応の良さを自負していましたし、お客さまとコミュニケーションすることで、保険料だけでない、当社の付加価値をご理解いただく必要があるという意識は強くありました。

―― 貴社は2011年から“無事故を願う人のココロが クルマ社会を変えていく。”を掲げた「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」プロジェクトを展開されています。今回の基金との関連は?

相川:先ほど申し上げましたとおり、開業10周年を契機に各部門が経営理念を具体的なカタチにしていこうと取組みましたが、実際にはなかなか難しい。当社は9割がインターネットを通じた契約ですので、比較的、紙を使わない環境にやさしいビジネスモデルとはいえますが、こちらから能動的に社会に貢献する取組みには至っていませんでした。

三井ダイレクト損害保険(株)事業部ダイレクトマーケティンググループ  アシスタントマネージャー相川淳之介さん

一方、当社は損害保険会社として交通事故の現場の悲惨さを良く知っています。無事故はまさしく「安心で豊かな未来」につながります。多くの交通事故は「ドライバー同士の意思疎通不足」に起因すると想定されることから、“お先にどうぞ”という譲り合いの精神さえあれば交通事故は減ると考えました。無事故だと保険会社が保険金を払わないですむから推進していると思われる方もいるかもしれませんが、もちろん、無事故であれば契約者の保険料が低減するなど金銭的メリットも皆無ではありませんが、主眼はそこではなく、当社らしい社会貢献として無事故社会をめざした独自の情報発信として始めたのが「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」プロジェクトです。

岩井:「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」プロジェクトをスタートしてからも、行動指針が掲げるお客さまとのコミュニケーションの深化は課題でしたので、当初は全く別な活動として基金の創設を考えていました。しかし、金融の可能性を広げたいという同じ価値観を持つ(株)ドウゾさん—社名も「お先にドウゾ」からでした—との出会いがあり、保険商品が事故発生時だけに機能するのではなく、当社のお客さまが無事故を続けることでより多くの社会貢献ができる、顧客、企業、社会が三位一体となって皆がハッピーになることを目指した「ムジコロジー・スマイル基金」は、従来からの「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」と根幹の精神が合致していますし、結果的に「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」プロジェクトと一体の取組みだと思います。


無事故を願う人のココロが クルマ社会を変えていく。「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」

http://www.mujicology.jp


―― 顧客が参加する仕組みとして特に留意したところはありますか?

相川:お客さまが“年に1度”ではなく、応援したい団体に“毎月”投票できる点にはこだわりました。毎月のワンクリックが「安全運転をしよう」という動機づけになればと思うからです。

岩井:無事故の方とそうでない方との投票権の割合にも、かなり悩みましたね。事故を減らすために無事故の方の声をより強く反映した仕組みにしたいと考え、最終的には1年間無事故の方は年間の票数を10倍とすることにしました。

相川:ご契約期間が長いお客さまにも価値を見いだせるようにし、1年目の方は年12回12票、1年間無事故の場合は120票、3年目の方は年12回36票、1年間無事故ならば360票分の声になるという仕組みです。

―― 率直に伺うのですが、顧客を社会貢献活動の仕組みに巻き込むことにリスクがあるなど、社内に反対の声はなかったのですか?

岩井:所管部としてはこの仕組みの価値をお客さまに理解いただけるか、実際にたくさんの方に投票いただけるかが一番心配でしたが、この仕組みを構築する過程では、MS&ADインシュアランス グループ全体で地球環境・社会貢献を担当している山ノ川さんや、当社CSR活動の所管である遠藤をはじめ多くの方の協力があり、社内の理解を得られたと思います。

山ノ川:私からは、ご存知のように、CSV(Creating Shared Value)という概念があり、 これからの企業は戦略的に事業活動を通じて社会的な課題を解決していく時代だという意見もあることから、もしも懸念される方がいれば、そうしたCSVという概念についても説明されてはとアドバイスしました。

遠藤:やはり、社内では社会貢献と(収益を目的とする)企業活動を連携させて良いのかという議論はありました。それは必要な議論だったと思います。しかし、最終的には、社会貢献と事業は水と油の関係ではなく、一体となりうるということを皆が納得してスタートすることができました。

三井ダイレクト損害保険(株)理事 経営企画部 ゼネラルマネージャー 遠藤 寛靖さん


NPO団体との出会いが、さらなる意識改革を促す

―― 2014年7月スタート時には5つのNPO団体に寄付できる仕組みですが、これらの団体は三井ダイレクト損保の事業部の皆さんが直接に会って決められたそうですね。NPO団体とのお付き合いが全くなかったので、最初は山ノ川さんに相談されたとか。

山ノ川:最初は交通事故遺児への支援など、単純に損害保険事業との親和性がある団体への寄付をお考えだったと思います。私からアドバイスさせていただいたのは、基準を設けず、団体の皆さんと会ってご自身の目で活動を確認して寄付先を決めてはどうかと、日本NPOセンターなど窓口となる団体をご紹介しました。会って話さなければ分からないことがありますし、私自身もいつも現地に行って自分の目で見て判断しなければと思っているからです。

MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス(株) 人事・総務部部長 地球環境・社会貢献担当 山ノ川 実夏さん

岩井:実際にお会いすると各団体の皆さんとも本当に一生懸命に社会的な課題の解決に取組まれており、限られたスタッフでこれだけの事をされているのかと頭が下がる思いを何度もしました。そこで私どもが偉そうに物差しを設けて良い悪いと判断するものではないのですが、当社のお客さまにお勧めする以上、私たちの目と耳で実際にお会いして寄付先を選ばなければと思いました。

相川:当社はインターネットに特化してビジネスをやってきましたし、お客さまもインターネットを活用する方が多いため、ある程度は団体の活動報告や決算報告をホームページ等で開示されている透明性の高い団体、また、基金の総額や契約者が投票するという仕組みも含めて、当基金の趣旨に賛同していただける団体を選定させていただきました。

2014年7月のスタート時には、5つのNPO団体を対象に応援・投票が可能となっている。

―― 実際にNPO団体の皆さんと接することで、気持ちの変化もあったようですね。

相川:「ムジコロジー・スマイル基金」の寄付は決して大きな額ではありません。NPO団体の皆さんに喜んで頂けるのかなという懸念さえありました。しかし、実際にお目にかかると、当社のお客さまに活動をPRできるだけでも有難いと仰っていただきました。限られた人的労力・資金で地道な活動をされているNPO団体が多く、広報活動に手が回らないという実情も知り、皆さんの活動を告知すること自体に意義があると感じました。

岩井:基金の名前も悩みましたが、「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」のコンセプト+今回の活動を通じて参加者全員が笑顔になれるようにという思いで「ムジコロジー・スマイル基金」とネーミングしました。

相川:当社、お客さま、NPO団体、そしてNPO団体が活動されている地域にスマイルを届けてもらいたいという思いがあります。

(株)ドウゾ 棚田:印象的でしたのが、専用ホームページを構築する過程で三井ダイレクト損保の皆さんが「支援」という言葉を使いたくないと仰ったことです。検討を重ねて、使った方が分かりやすい箇所だけ最小限で使うことにしましたが、上下の関係ではなく、同じ目線で取組みたいという気持ちの表れだったと思います。

相川:自然と、どうしたらNPO団体の皆さんの活動をご理解いただけるのかを考えるようになっていきました。

山ノ川:それは実際にNPO団体の皆さんと会われたことが大きいと思いますよね。(一同頷く)


社員に社会貢献を体験する場を提供する意義

――実際にスタートされたわけですが、これからの取組みは?

岩井:始まったばかりですがお客さまからの反応は良いようです。多くの皆さんにご協力いただいて良いものが出来たという思いがあるだけに、今後はいかにお客さまに中身を理解いただくか。各NPO団体の活動内容を知っていただくために、インタビュー風景などを動画で当社ホームページに掲載する、「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」のFacebookアカウントで各NPO団体の情報発信も予定しています。各団体のボランティア活動に参加する機会を設けるなど、さまざまな可能性を検討しています。

相川:来年6月以降の話になりますが、寄付した後にはどのように活動に活かしていただいたか、お客さまの寄付がこのような形になりましたと言う報告を是非させていただきたいと思っています。
また、今回ご縁があったNPO団体については社外だけでなく、当社内にも発信し、当社社員が自ら各団体を応援したいと思われるようになればと思います。

遠藤:従来からグループのボランティア活動に当社社員も参加していましたが、今回は当社のお客さまに対して発信していますので、社員にとって、より身近な取組みで高い関心があります。当社社員も自分から「ムジコロジー・スマイル基金」に参加してくれることを期待していますし、徐々にそうした働きかけをしていきたいと思っています。

――多くのNPO団体はお金で決着がつきにくい問題を手掛けている、そこに皆さんが参加することで、NPO団体の側でも新しいビジネスの可能性が開ける可能性もあると思います。

山ノ川:私が目指すところも、そこにあります。以前にこういうことがありました。
ある障がい者団体と交流する場を設けたところ、グループ内のシステム構築のプロ集団が彼らの作るクッキーを気に入って定期的に購入しました。ある時に、その団体のホームページがかなり古いものだったので、システムのプロたちが作って良いものができあがりました。自然な形で、自分たちのプロの技術を無償で提供する“プロボノ”を実践したわけです。

私は入社以来、保険の現場以外の仕事でしたので、私自身が保険の実務で社会に貢献する仕組みを作ろうと思ってもできません。社員のボランティア活動を支援する意義は、社会の問題に目を向け、保険業務を課題解決に活かす発想ができる社員を一人でも増やす、そうした社員を育てる可能性がある場を提供することだと思っています。

損害保険事業で本業と連携した社会貢献、CSVを実現することはなかなか難しく、今回の三井ダイレクト損保さんの取組みは、グループ内でも特筆すべき事例です。「ムジコロジー・スマイル基金」の仕組みはインターネット販売という三井ダイレクト損保さんの特性に合ったもので、すぐにグループ他社に取り入れることができるかどうかは分かりませんが、事例を紹介することで他社のヒントになると思いますし、今回関連したNPO団体の活動に社員が参加する機会があれば、グループ全体で募集することも可能です。

梶山:私は今年の4月からグループの三井住友海上火災保険(株) 地球環境・社会貢献室におります。私は営業や商品企画部門におりましたが、私自身も含めて、機会があれば何か世の中のためにしたいと思っている社員はたくさんいると思います。しかし、なかなか自分一人で活動する場所を見つけて飛び込むことは難しい。山ノ川さんがお話された「社員が社会貢献する機会、場を提供するのが仕事」というのは、全くそのとおりだと思います。


●「MS&ADインシュアランス グループ

http://www.ms-ad-hd.com/company/group/structure.html

三井ダイレクト損害保険(株)、三井住友海上火災保険(株)を含む5つのグループ国内保険会社と、7つの関連事業会社を中心とします。

各社のCSR活動


遠藤:やり甲斐がある仕事でも、会社のため、自分のためだけに頑張るのはしんどくなる時があります。自分の仕事が社会的に意義あると思えることが、社員の元気にもつながると思います。今回の基金を通じて当社の付加価値を知っていただき、既存そして新たなお客さまが増えれば、事業成長にもつながりますし、同時に寄付の機会も拡大していく。今回の「ムジコロジー・スマイル基金」は営業部門から生まれましたが、だからこそ(観念的ではない)本物が出来たのかもしれません。

岩井:「ムジコロジー・スマイル基金」は全くゼロから創りあげた仕組みですので、2年を目途に皆さんからの声を基に見直しを予定しています。もちろん、

TOPへ戻る