識者に聞く

夢に挑戦する人が増えれば、日本が元気になる

日本初の7日間ステージ制のアドベンチャーロングトレイルレース開催

2014年8月23日(土)~29日(金)、石川県の白山麓エリアで日本初のアドベンチャーロングトレイルレース「白山ジオトレイル」が開催される。7日間で250kmを踏破する自然の中でのサバイバルレースは自分との戦いであると同時に、仲間との絆を結ぶ時間であもある。主催者であり、南極マラソンなど極地ランナーとして知られる赤坂剛史(あかさかたけし)さんに話を聞いた。

赤坂剛史さん

アドベンチャーレースの醍醐味は、競争ではなく“共走”

――アドベンチャーロングトレイルレースが耳慣れない方も多いと思うので、まず「白山ジオトレイル」の概要について教えてください。

赤坂:日本でも100kmマラソンが行われるようになりましたが、海外ではさらに長距離のレース、ゴビ砂漠マラソンなど250kmレベルをステージごとに7日間かけてゴールするアドベンチャーロングトレイルレースがあります。ステージ制ウルトラマラソンとも呼びますね。今回の「白山ジオトレイル」は日本初のアドベンチャーロングトレイルレースで、石川県にある日本三霊山の一つ白山エリアを6ステージに分けて時間制限を設け、7日間でゴールを目指します。個人または1チーム3名で挑戦し、レース中は食料自給、テント泊となります。

今回のレースに先駆けて、実行委員会は2013年にはプレレースを開催。レース運営や安全確保のためのノウハウを積み重ねた。

――250km/7日間と聞くと、“特別な人”しか出来ないレースと思いがちですが、フルマラソンと比べて、極端に過酷な制限時間ではないと伺いました。

赤坂:世界のアドベンチャーロングトレイルレースでも、走ったり歩いたりが普通です。「白山ジオトレイル」は専門家だけでなく、多くの方が自然を堪能しながら参加いただくレースにしたかったので、制限時間は1ステージ30km前後で約10時間です。一概に比較できませんが、東京マラソンの場合は42.195kmで制限時間が7時間ですので、ある程度の訓練を積んだ方であれば、参加いただけるレースです。

安全性を心配される方も多いですが、アドベンチャーロングトレイルレースは自分自身で水や食料を背負ってレースに参加します。もちろん、山など自然に立ち入るリスクについては認識いただかなければいけませんが、心拍数が上がっても無理して走り続けるというものではなく、苦しければ歩く、立ち止まって栄養を取るという風に、自分のペースを保ちながらレースを続けやすいです。

プレレース「白山ジオトレイル2013」

――7日間のレースを通じて、フルマラソンにはない醍醐味も味わえるそうですね。

赤坂:250km/7日間をひたすら孤独にレースに挑戦するイメージを持たれがちですが、実際のレースでは、歩きながら語り合うこともありますし、各人のペースで「じゃあ、次のチェックポイントで会おう」と先に行く。いずれにしても、1日のステージが終わって夜になれば、知らない者同士が一つのテントに泊まります。1日のステージを早くゴールした人も遅かった人も同じテントです。食事も自分たちで用意しますので、自然と集まって一緒に食事し、家族や仕事の話をしたり、ベテランからノウハウを教えてもらったり、そんなコミュニケーションを身体がボロボロになりながら7日間続けるわけです。

海外レースでのテント風景

私自身の経験でも、7日間のレースにはいろんなドラマが生まれます。怪我をする人がいたり、苦しくてリタイヤしそうになる人もいる、互いが「何とか一緒にゴールを目指そうよ」と励まし合う。自然とのサバイバルレースは自分との戦いですが、レースを通じて支えてくれる仲間とも出会うわけです。

フルマラソンに参加される皆さんは自己ベスト更新を目指して、周囲のランナーを一人でも追い抜こうと“競争”するんですね。アドベンチャーロングトレイルレースの場合も、ゴールが目的ですし、世界トップクラスの参加者はタイムも目指しますが、一般の参加者の場合はそれほどタイムは重要ではないですね。あの人を抜こうじゃなくて、あの人と一緒にチェックポイントへ行こう、一緒にゴールしよう、競争ではなくて“共走”だと思います。

プレレース「白山ジオトレイル2013」


冒険、挑戦、そして“貢献”へ。

――赤坂さんご自身も、サラリーマン極地ランナーとして “冒険”に挑戦し、究極のアドベンチャーロングトレイルレースともいえる南極マラソンの完走者でもあります。なぜ今回は主催者側になろうと思われたのですか?

赤坂:私の場合は全て海外でのレースでしたし、レースのたびにまとまって仕事を休まなければなりません。周囲の人にも迷惑をかけ、協力してもらってレースに出るわけです。ゴールした瞬間は、サバイバルレースを完遂した喜びと自信と同時に、支えてくれた人たちへの感謝、恩返ししたいという強い気持ちが湧き上がってきます。

2010年に自分自身が目標としていた南極マラソンを完走して一区切りついたときに、思いがけず「サイバードグループ・プレゼンツ ファウストA.G.アワード」を受賞したのですが、そのアワードのポリシーが「冒険、挑戦、貢献」でした。折しも翌年に東日本大震災があり、被災地の皆さんとのご縁で支援活動にも取り組ませていただいたのですが、自然と「次の自分のテーマは貢献なのかな」と思うようになりました。

南極マラソンで赤坂さん

私はアドベンチャーロングトレイルレースを通じて、自分自身が成長してきたと実感しています。これからもっと多くの皆さんが、海外に行かずとも日本でレースを経験できる場を創ることが出来たら、今まで支えてもらった多くの人への恩返しになるかもしれないと思いました。

レースはもちろんゴールが目的ですが、レースを通じて何か自分を変えたいという気持ちで参加する部分もあります。一つのレースが自分を成長させると同時に、また次の新しい夢に向かうキッカケの場にもなります。私も最初から南極マラソンを目指したわけではなく、仲間との出会いが次の目標につながっていきました。自分自身の体験からも、アドベンチャーロングトレイルレースを経験する人たちが増えていけば、日本がもっと元気な国になるんじゃないかとも思いました。

●「サイバードグループ・プレゼンツ ファウストA.G.アワード」

http://www.faust-ag.jp/

毎年、地球上で最も活躍した冒険家(ファウスト)、挑戦者、社会貢献活動を表彰する。
赤坂剛史さんは2010年に“サラリーマン極地ランナー”としてファウスト挑戦者賞を受賞。
歴代受賞者にはプロスキーヤー/冒険家の三浦雄一郎氏、探検家の関野吉晴氏など。

――「白山ジオトレイル」は白山市をはじめとした地域の皆さんの全面バックアップで実現したそうですね。

赤坂:ドリームプレゼンテーション(ドリプラ、株式会社アントレプレナーセンター主催)金沢大会で、自分自身の体験とレース開催についてプレゼンした後、白山市観光課の皆さんとの出会いもあり、多くの皆さんの協力で「白山ジオトレイル」が実現しました。

今回は1回目ですが、いずれは海外からも多くの参加者を募りたいと思っています。アドベンチャーロングトレイルレースというのは自然との共生も一つのテーマです。海外レースに参加する仲間は皆、旅行が大好き、知られていない自然豊かな地があれば是非訪れたいと思ってくれるでしょう。ご存じのように、白山は日本百名山の一つで、日本三霊山でもあります。素晴らしい自然とともに山岳信仰など文化的にも重要拠点ですが、海外の一般的なガイドブックにはあまり記載がなく、海外の仲間にもまだまだ知られていません。

また地元の皆さんとのお付き合いが深まるにつれ、古くから白山からの恵みを得てきたこと、いかに皆さんが白山を敬愛しているかを強く感じました。一方で、残念ながら石川県でも過疎化の問題も生じています。地域活性化の意味からも、ますます白山でジオトレイルを実現したいと思うようになりました。


一つの小さな挑戦が、次の夢を見つけるキッカケとなる。

――そもそも、陸上競技を始めたのは社会人になってからだそうですね。

赤坂:小学校高学年までは太っていましたので、持久走は嫌いでした(笑)。中学でテニス部、大学でパラグライダーを始めて長野県菅平高原の標高1500mの地で訓練したことが今になると高地トレーニングになっていたのかもしれませんが(笑)。

社会人1年目に友人に誘われて2000年の河口湖フルマラソン(現在の富士山マラソン)が。完走したものの、2度とフルマラソンなど走るかと思いましたね(笑)、ところが仲間たちが次の計画を相談し始めている、筋肉痛が収まるにつれて、じゃあまたやるかと。中には100kmマラソンに挑戦する仲間もいて、影響を受けて自分も2002年にサロマ湖100kmマラソンに出場しました。その際は一人で参加したんですが、宿泊場所がウルトラマラソンランナーの巣窟というか、100kmマラソンの経験者ばかり。しかも、皆さんとてもエネルギッシュで人生を楽しんでいるように見えました。世の中にはすごい人がたくさんいるんだなあと刺激を受けて、自分自身も「今回の100kmを完走したら終わり」という感じではなくなっていました。

――レースに参加するごとに出会った方々のエネルギーを感じて、さらに次の目標に向かって走り、さらに次の目標が見つかるという連続だったわけですね。

赤坂:2008年には友人に誘われてサハラマラソン7日間/245kmに参加。この時にはタレントの間寛平さんもご一緒で完走されました。サハラマラソンでは爪が6枚剥けて痛み止めを飲みながらのゴールでしたから「今度こそ2度とやるまい」と。なのに、チリのアカタマ砂漠のウルトラマラソンが面白いらしいと言われて、勤続10年でまとまった休みも取りやすいしと、翌年に出場。このあたりまでは、仲間につられて参加する感じでした。

最初のフルマラソンの時から、自分がレース参加したら心身ともにどうなっちゃうんだろうという不安はあるんですが、周囲に先に経験している仲間がいるので「こいつに出来るんなら自分も出来るかな」と思って参加するんですね(笑)。


アカタマ砂漠で仲間たちと

南極マラソンを明確に意識したのはアカタマ砂漠マラソンの時です。たまたま、アカタマ砂漠マラソンが南極マラソンの出場資格となるレース(指定された2つの砂漠レースの参加経験者のみが参加可能)、知り合った仲間たちから当然のように「お前も南極マラソンに出るんだろう」と言われました。

以前から究極の極地レースといわれる南極マラソンは知っていましたが、仲間との出会によってハードルが低くなり、具体的な目的となりました。2010年6月にはゴビ砂漠マラソンに出場して出場資格を得て、2010年11月に南極マラソン250kmを完走しました。日本人では3人目の完走者でした。

南極マラソンで赤坂さん

――アドベンチャーロングトレイルレースは、自分自身をコントロールできる、人生経験がある年配の方が向いているというようなお話を聞いて面白いと思いました。

赤坂:アドベンチャーロングトレイルレースの場合、マラソンスポーツというよりは、参加者の感覚としては高い山に登るのと一緒で、自然を楽しむことも重要で、ある種の観光でもある。海外の参加者には40~60代の方も多いですし、サハラマラソンでは70代の方もいらっしゃいました。

日本でも長距離ほど、参加者の年齢層が高いです。思うに、若い人は自分のタイム—時間を短縮して記録を出すことにモチベーションがあります。ところが、アドベンチャーロングトレイルレースというのは、フルマラソンよりも自分のベースを落とさなければ続きません。実際にアドベンチャーロングトレイルレース用の訓練を続けていると、身体が覚えるペースが違うので、フルマラソンのタイムが落ちてしまいます。

アドベンチャーロングトレイルレースなどの長距離レースで一番重要な事は、いかに自分の気持ちをコントロールするかです。体調や食事、お腹の空き具合は大丈夫かな、足の痛みは大丈夫かなと、自分の身体と会話しながら、うまくコントロールして7日間を過ごさなければなりません。そうした事は人生経験を積んだ年配の方がお上手なんですね。

――レース自体が人生みたいな….。

赤坂:実際にレースを経験すると、自分の強い意志でやりきるというよりも、何かに引っ張られるという感じですね。ゴールが目標ではあるけれども、一歩一歩、景色をみながら、時にはちょっと休もうかなとか、その積み重ねがゴールになる。ふと思い出しましたが、大学時代にパラグライダーのインストラクターからマラソンの楽しみは「達成感だけ考えていたら途中は苦しいだけ。途中も楽しくなきゃダメなんじゃない」と言われたことがあります。まさに、アドベンチャーロングトレイルレースも人生もそうかもしれませんね。

レースを走る仲間と。

――「白山ジオトレイル」では参加しやすいよう、参加費も考慮されたそうですね。

赤坂:一般にアドベンチャーロングトレイルレースのレース場所は自然の奥地が多く、交通費や参加費は自費ですから、余計に若い人には費用負担が大きいということもあります。ただ今回の「白山ジオトレイル」は、一般に海外の参加費約3,000ドルのところ、安全面を確保しつつ、市の協力や各団体の協賛、ボランティアスタッフの協力により、参加費12.8万円(7日間の場合)と出来るだけ抑えるよう努力しました。

――改めて、これから何かに挑戦したい人にメッセージをお願いします。

赤坂:私も大学時代にはバックパッカーで海外を旅していた頃は、外国人旅行者を眺めながら「仕事を1ケ月も休めていいなあ、日本人には無理なんだろうなあ」と思いました。周囲の友人たちも「社会人になったら自分の好きなことに時間を使うなんで無理だ。」とか、「次に大きな夢を実現するのは退職後だよ」と。しかし本当にそうなのかと。

私が製造業に務めるサラリーマンとしてフルマラソンから南極マラソンに挑戦した根底には、日本の社会人も、仕事も100%こなしながら、仕事以外でも挑戦を続けることが出来るはずだ、それを証明したいという思いがありました。実際に、レースに行くと同じように働きながら参加する、挑戦を続けているパワフルな皆さんとたくさん出会いました。そうした方との出会いが自分の殻を破るきっかけとなりました。「白山ジオトレイル」が参加する皆さんにも、自分の殻を破り、次の夢につながる場となればと思います。(2014年8月)

●白山ジオトレイル ホームページ
http://www.hakusangeotrail.com/

●白山ジオトレイル(Face Book)
https://www.facebook.com/TeamHakusanMarathon?fref=ts


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