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食糧危機のセネガルと台風被災のフィリピンを訪ねて

国連WFP協会親善大使 竹下景子さんが食糧支援の現場を行く

東京・銀座三越で、このほど写真展「竹下景子親善大使が見た国連WFPの食糧支援~母と子の絆、子どもたちの未来~」が開催。国連WFP協会親善大使を務める女優の竹下景子さんがセネガルとフィリピンで行われた食糧支援の模様を報告した。

報告する竹下景子さん

世界の8人に1人が飢餓に苦しんでいる

司会:国連WFP協会とはどのような団体でしょうか。

竹下:WFP国連世界食糧計画は、飢餓のない世界を目指して活動する国連の食糧支援機関です。WFPの日本における公式の支援窓口が国連WFP協会です。日本で募金活動や広報活動を行うNPO法人です。

司会:豊かな日本で生活していると、飢餓という問題を身近なものとしてとらえる機会はほとんどありません。飢餓に苦しんでいる人々は世界でどれくらいいるのでしょうか。

竹下:世界には自然災害だけでなく、紛争地帯も数多くあります。地球の総人口は70億人を超えましたが、8億4千200万人が飢えで苦しんでいるといわれています。つまり世界の8人に1人が十分に食べられないのです。


干ばつで苦しむセネガルへ

司会:2013年2月に竹下さんはセネガルに行かれたわけですが、セネガルの状況からお話しください。

竹下:セネガルは西アフリカに位置しています。西アフリカというと最近ではエボラ出血熱が大問題になっています。亡くなる方が90%という大変怖い病気ですが、セネガルの東南に位置するシエラレオネ、リベリア、ギニアなどで発生しています。

セネガルの首都はダカールです。パリ-ダカ自動車レースで有名ですが、治安の悪化で現在は行われていません。

©JAWFP

セネガルは1960年にフランスから独立しました。上の地図で色がオレンジの地域がサへルと呼ばれるサハラ砂漠以南の半乾燥地域です。2012年に西アフリカのサヘル地域で大きな干ばつが起きました。紛争なども影響して穀物の価格が上がり、およそ1,500万人が飢餓にさらされました。

司会:まず、訪れた場所はどちらですか。

竹下:都市部から少し離れたところにある母子栄養支援センターです。ここに来るのは5歳未満の子どもさんとその親御さんですが、ここでは栄養強化食品「プランピー・サップ」を配布しています。ピーナッツペースト状の高カロリーの食べもので、各種ビタミン、ミネラルも含まれています。1袋食べると500キロカロリーが摂取できます。

司会:子どもさんも好きになりそうですね。

竹下:私が抱っこした子どもさんは、生後13カ月でしたが、6〜7カ月くらいの大きさしかありません。プランピー・サップを与えるとかぶりつくように吸い続けました。お母さんのおっぱいを吸うような感じです。懸命に生きようとしているのが分かり、心を打たれました。

妊娠中のお母さんたちに対する取り組みも行われています。子どもたちもお母さんたちも社会でもっとも弱い立場に置かれています。子どもはお母さんのお腹にいる時期から2歳になるまでの1000日間に十分な栄養が摂れないと、なんらかの障がいが現れる可能性があります。しっかり栄養を摂らないといけないのです。


子どもたちを学校に導く給食

司会:未来をになう子どもたちには、大切な時期だというわけですね。

竹下:次にたどりついたのが小学校でした。レッドカップをもっているのは給食当番の子どもたちです。国連WFPはこの小学校で803人の子どもたちに給食を提供しています。この数字には同じ敷地内にある保育園の子どもたちも含まれています。

給食室は屋外にあり、簡単な仕切りしかありません。かまどがあってここで給食をつくっています。カップに注いでいるのはトウモロコシと大豆の粉でできているおかゆです。給食は月曜から金曜までのお昼時間にあります。これとは別に火曜日と木曜日だけ朝ごはんの給食もあります。

給食のひと時(写真 関口照生)

司会:朝も昼も給食があれば、両親も安心ですね。

竹下:お母さんたちは当番制で給食づくりにやってきます。この学校には井戸がないので、水汲みに行くにも20分くらい歩かないといけません。お母さんたちは子どもたちに少しでも栄養のある給食をということで野菜を加えたりもしています。

司会:子どもを思う親の気持ちはどの国も同じですね。

竹下:子どもたちの給食に必要な資金は1日たったの30円です。これで栄養たっぷりな給食がまかなわれています。

司会:私たちの支援がこうした給食につながっているわけですね。

竹下:授業を見せてもらいました。フランス語なのでさっぱり分からなかったのですが、自分たちの地域のことを勉強しているようでした。お腹がいっぱいになると何がよいかというと、集中力が増して、学校の勉強に意欲がわきます。

途上国では子どもたちはなかなか毎日学校に通えません。貧しいために子どもたちが労働力として使われてしまい、卒業まで学校に通えない子どもたちも大勢います。学校に給食があれば、親たちは子どもを少しでもお腹一杯にしてあげたいので学校に行かせるようになります。お腹が一杯になるということで子どもたちも喜んで学校に行きます。

司会:食糧支援と教育がつながっているわけですか。

竹下:ええ、この学校では98%の子どもたちが学校を修了しています。お腹が一杯になるだけでなく、将来の夢を実現する力になり、飢餓や貧困からも脱出できるのです。

司会:修了率が高いということはすばらしいことですね。

竹下:世界では空腹状態で学校に通っている子どもたちは6,600万人ほどといわれています。学校に通えない子どもたちも6,700万人ほどいます。

司会:どちらもつらい状況です。

竹下:国連WFPは昨年1年間で63カ国の1,980万人の子どもたちに給食を提供してきました。

司会:子どもたちの笑顔につながっていると考えるとうれしいですね。

竹下:セネガルでは食糧引換券を配布しているところもあります。緊急支援ではダイレクトの食糧支援も行いますが、ある程度落ち着いた状況になると食券や現金を配ることもあります。地域経済の活性化に役立てるのです。買えるのはお米、豆、塩、オイルなどです。お年寄り、母子家庭、低収入の家庭が対象です。

食糧配布をお手伝い(写真:関口照生)

ある支援の現場でお米を配ったところ、とても喜んでダンスを踊ってくれました。気が付いたら私も一緒に踊っていました(笑い)。

司会:うれしい気持ちを伝えたいということだったのでしょうね。

竹下:つましい生活をしている方々ですが、とても明るくて元気でした。


巨大台風に襲われたフィリピンへ

司会:2014年4月にはフィリピンにも視察に行かれたそうですが、そちらもご紹介ください。

竹下:2013年11月に巨大台風がフィリピンを襲い、フィリピンの中部・東部の島々に甚大な被害が発生しました。この台風で国民の7人に1人にあたるおよそ1,400万人が被災しました。豪雨もありました、強風もありました、一番深刻だったのは高潮の被害です。亡くなった方は6,000人以上だといわれています。

司会:国連WFPはどのような支援をしたのでしょうか。

竹下:食糧支援はもちろんですが、母子栄養支援も行いました。こういう大きな災害では各国からもさまざまな支援団体が来ますので、そうした組織のため、物流網や通信網の整備を先導することも国連WFPの役割のひとつです。

©JAWFP

私が現地に行ったのは今年4月、台風からほぼ半年が経過し、緊急支援はほぼ収束し、復興支援に移行しつつある時期でした。マニラで飛行機を乗り換えて到着したのがレイテ島のタクロバン空港です。壁がなかったり、板を打ち付けただけのものだったりで、ほとんど骨組みだけの空港でした。台風被害のすさまじさをあらためて知りました。

被災者が暮らすテント村(写真:関口照生)

空港から街への道中でも台風から半年たったとは思えないほどの風景があちこちで見られました。いろいろな支援団体のロゴが入ったテントがみっしり並んでいました。テント村と呼ばれていました。皆さん急場の家で雨露をしのいでいる状況です。

司会:被害のあった場所でもう一度生活を始めるというのは勇気もいると思います。皆さん力強く生きているわけですね。

竹下:レイテ島と橋でつながっているサマール島に行きました。フィリピンというとバナナを思い浮かべますが、サマールはココナッツの産地です。

司会:ココナッツは食物だけでなく、石鹸などにも活用されています。

竹下:そのココナッツ畑が壊滅的な被害に遭っていました。ココナッツの木には葉っぱも実も付いていません。この畑がもとに戻るのは7〜8年かかるといわれていました。

司会:被災者の支援も10年単位で考えていかないといけませんね。

竹下:ココナッツ畑で働いている人の多くは小作農です。自分の持ち物ではない畑を耕して細々と生計を立ててきた人たちが被害に遭ったわけです。

初めに訪れた場所は、タクロバン空港からクルマで5時間ほどの場所にあるお米の配給所でした。お米の配給自体はほとんどの地域で終わっていたのですが、この地域はもともとフィリピンの中でも貧しい人々が多い地域ということで配給を続けていました。

司会:どれくらいの割合で配給が行われているのでしょうか。

竹下:一人あたり5キロのお米を2週間ごとに配っています。フィリピンの主食はお米ですから、ずいぶん助かっているという話でした。

司会:一人あたりというのは小さなお子さんも大人も同じというわけですか。

竹下:そうです。世帯当たりではなく一人あたりにしている理由は、家族単位で暮らしているのではなく、いろいろな人が一緒に暮らしているケースもあるからです。私も配給のお手伝いしましたが、皆さん、感謝の言葉を述べてくれました。お米そのものが命の源なのだと実感させられました。

リサさんという女性に話を聞きました。リサさんのところもお米をつくったりココナッツの栽培をしていたのですが、いまは仕事ができず、お米の配給に頼っている状況でした。家も見せてもらいました。台風が来たときは屋根も飛んで、大変な状況だったそうです。2週間分のお米は節約して、少しでも長く食べられるよう、大事に食べているということでした。


復興作業の対価として現金支給も

司会:次の現場ですね。

竹下:これは国連WFPのひとつの支援の形で、キャッシュ・フォー・ワーク(Cash for Work, 以下CFW)というもので、「労働の対価としての現金支援」と呼ばれるものです。労働に参加してくれた皆さんに現金を支給するもので、台風で使えなくなった道路を復旧させる工事などに参加をしてもらうわけです。

学校を建て直すとか、荒れた農地を整備するといったさまざまな活動が行われています。参加者にはそれでお金を支給するわけです。今回のCFWでは一日に550円が支給されていました。

司会:物だけでなく、現金というのもうれしいことかもしれません。

竹下:CFWに参加する女性たちの集まりでは、畑を拡張して整備していきたいとのことで、カボチャやインゲンなどいろいろな野菜がありました。

司会:与える、受け取るだけではなくて、自分たちで育てていくという継続的な取り組みの一歩につながります。

竹下:経済的な自立支援です。

司会:女性たちがたくさん集まっていますね。

竹下:CFWのミーティングに集まってくださった皆さんとの記念写真です。次の日はまた違う支援の現場で、ボスケットボールのコートなのですが、台風で屋根の半分が吹き飛んでいました。母子栄養支援の現場で、生後6カ月から5歳未満の子ども300人とそのお母さんたちが集まっていました。ここでは食べるものに振りかけるだけで栄養強化が図れる栄養強化パウダーを配給していました。

栄養支援に集う人々(写真:関口照生)

お母さんたちに説明していたのはNGOのスタッフの皆さんです。国連WFPは地域で活動するNGOとも連携しています。NGOの皆さんは説明がとても上手で、栄養指導のほかに手洗いの大切さを替え歌でやさしく伝えたりしていました。

司会:何か月分のパウダーを配られるのですか。

竹下:1袋で2回分なので、15袋を1カ月分として配ります。別の支援現場では、さらに栄養不良が心配されている6カ月から5歳未満のお子さんたちが集まっていて、栄養指導や健診も行っていました。バネばかりで体重を測ったり、一目で栄養不良が分かるメジャーを子どもたちの腕に巻いたりしていました。ここでもセネガルと同じ「プランピー・サップ」を配布しました。

司会:大きな台風被害ですから、小さなお子さんにも栄養不良が出てくるのですね。

竹下:数週間にわたってきちんとした食事が摂れないと栄養不良が問題になってきます。こうした時期に、やがて未来をつくっていく子どもたちを支えるため、子どもたち・お母さんたちを支援するのはとても重要な活動です。

司会:未来を支える子どもたちへの支援は、明日の希望につながります。

竹下:ある地域では台風で大きな船が打ち上げられていました。この場所は、次の台風の被害も心配される場所らしく、家を建ててはいけないのですが、バラックのような家があちこちで建っていました。通りの反対には仮設の住宅も建てられていましたが、全員が入れるような数はないのです。家の中を見せてもらうと、テーブルを挟んで家族が暮らしていました。フィリピンでは犬や猫は放し飼いですが、資産価値のある豚だけはつながれていました。

「ウエルカム・トゥー・ヨランダ・ビレッジ」と看板にありました。ヨランダはこの台風に付けられた名前です。こんなことぐらいで負けないぞ、という人々のたくましさを感じました。

司会:フィリピンへの支援はどういう状況だったのでしょう。

竹下:今回の台風支援の第1位はアメリカです。3位は日本でした。2位は各国の個人や企業の方の募金で、日本のWFP協会の支援もここに含まれています。フィリピンの皆さんはとても感謝をしてくれました。


あなたにできる支援を

司会:セネガルとフィリピンを視察してどのような感想をお持ちですか。

竹下:物があふれる日本で、私たちは便利で安全な暮らしを当たり前のこととして享受しています。ところが、この瞬間も飢えで満足に食べられない人々が世界には大勢います。

セネガルでもフィリピンでも、子どもたちは懸命に生きようとしています。国連WFPは“食糧支援”に特化した団体ですが、“食べる”ことは命の源です。この命に向き合いつつ、これからも継続的な支援を続けていきたいと思います。

司会:支援に参加するにはどういう方法があるのでしょうか。

竹下:国連WFPのホームページを見ると、いろいろな支援の方法が出ています。毎月1000円からできる「WFPマンスリー募金」もそのひとつです。レッドカップキャンペーン(国連WFPが進める学校給食を届けるためのキャンペーン。赤いカップは、子どもたちの未来への希望のシンボルとされる)もあります。赤いカップのマークが付いた商品を購入いただければ、子どもたちの学校給食に支援が届きます。飢餓は私たちの努力で撲滅できる課題です。皆さまのご支援をよろしくお願いします。(2014年8月)

■竹下景子さん

女優。2005年9月より国連WFP協会顧問として、国連WFPをサポート。2010年11月1日より国連WFP協会の親善大使に就任し、世界の飢餓への関心を高め、支援を広げるためのさまざまな活動に参加。

■関口照生さん

写真家/日本写真家協会会員。倉敷芸術科学大学客員教授。コマーシャルや雑誌・写真集の撮影を中心にフリーフォトグラファーとして活動。世界の辺境を訪ねるTV番組の取材をきっかけに、以後ライフワークとして世界各地で人々の取材を継続。作品集に「支倉の道」、「地球の笑顔」等多数。

●お問い合わせ

国連WFP協会 
WEBサイト: www.wfp.org/jp


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