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“炊き出し”の極意、まとめました

防災の日に『炊き出しマニュアルver.1』が完成、配布へ

防災の日の9月1日、9都県市合同防災訓練が神奈川県相模原市で行われた。安倍総理も駆け付けたこの訓練で、総理が真っ先に立ち寄ったのが炊き出し会場。水を注ぎ、お湯に入れるだけで炊き立てのご飯が味わえる最新技術に総理も納得の様子であった。災害で大きな役割を果たす“炊き出し”だが、先の大震災では課題も見え隠れする。このほど炊き出しのスキルが冊子にまとめられた。

配膳の際は両手で気持ちを込めて

“炊き出し”を甘く見てはいけない

マグニチュード7クラスの首都直下地震を想定した「防災の日」の訓練は、在日米陸軍サガミ補給廠で行われた。官邸からヘリコプターで飛来した安倍総理が真っ先に駆け付けたのが炊き出しの会場。総理がお米の詰められた袋に水を注ぎ、隣の大きなお湯の釜に20数分入れると、炊き立てのおいしいご飯ができあがった。

広大な敷地の一角には50の企業・団体が防災フェア展示・体験ブースを並べていた。その中の1つにこの日に合わせて『炊き出しマニュアルver.1』をまとめた一般社団法人エコ食品健究会があった。

この団体を主宰するのが久保正英さん。中小企業を中心とする食品企業200社以上に食環境(環境&健康配慮)の改善ならびに食文化の発展に向けた提案を行う中小企業診断士であり経営コンサルタントだ。2011年3月に発生した東日本大震災では、自らも120拠点の避難所支援に参加し、42,000食の炊き出し支援に関わった経験をもつ。

エコ食品健究会のブースで(中央が久保さん)


準備不足から思わぬトラブルが

そんな久保さんが先の東日本大震災の支援をとおして感じたことがある。「炊き出しは被災者を勇気づけてくれますが、支援者側の準備不足もあり、被災者と支援者の間に思わぬトラブルを発生させたことも事実」「これまでの被災地支援で得た知恵や教訓から学び、次の大規模災害に備えるためにも、マニュアルづくりが必要だと考えました」とのこと。

誰もが手放しで喜んでくれるはずの炊き出しの場で、想定外のトラブルとは何を指すのだろうか。あらためて久保さんに聞くと、「配膳予定時間に間に合わなかったり、言葉の行き違いで被災者と支援者が口論になったり、配膳後、紙容器等をそのまま捨てていったり、といったことが各地で見られました」「また、ボランティア参加者が火傷を負ったり、不衛生だと指摘をされる場面もありました。夏場だと食中毒の対策も必要です」との答えが返ってきた。

記者のうがった見方かもしれないが、誰もが気を張っている避難所では、盛り付けの量の大小や具の多い・少ないも、気に掛かるのが人情かもしれない。

震災後、久保さんたちのグループでは、『炊き出し支援実態調査報告書』をまとめるとともに、実際にトラブルの原因となった幾つかの事項を評価項目に、今後、炊き出し支援を行う予定の団体で“炊き出し”のスキルを競う、炊き出しグランプリ実行委員会を立ち上げ、これまでに3回の「炊き出しグランプリ」を行ってきた。


知恵と経験を競う「炊き出しグランプリ」

これまでのグランプリ獲得グループを紹介しょう。各グレープの工夫の中からも優れた炊き出しのスキルが見えてくる。

●2012年3月 第1回炊き出しグランプリ

会場:宮城県仙台市 八木山ベニーランド

第1回の受賞者とアドバイザーの1人である山形・庄内のカリスマシェフ奥田政行さん(左)

【最優秀グランプリ】つきじ喜代村すしざんまい(鮪のづけ丼)

被災後、津波の被害から沿岸部では日常陸上げされていた魚介類を食べる機会がめっきり減った。そこでマグロづけ丼を提供し、被災地の方々を勇気づけた。マグロの解体ショーは見る者すべての方々に楽しい思い出を刻んだ。

【優秀グランプリ】結まーる(沖縄そば)

調理が手早くできる麺類の炊き出しは各地でメニューとして登場した。そのため一部で麺類に『飽き』が見られた。沖縄そばは珍しいこともあって、被災地の方々に新鮮な喜びと満足感を与えた。

【優秀グランプリ】甲信食糧株式会社(山梨ほうとう)

震災後、被災地では飲料水の確保にも苦労した。そうした状況を踏まえ、水洗いの必要のない再使用容器を採用した工夫が光った。ほうとう料理というホットメニューが寒空の下の炊き出しで人々を和ませた。

総評: どの団体も想定被災地をイメージした炊き出しが実施できた。特に避難所が置かれている不足資源や前後の食事状況を踏まえ、被災者の心を優しく包む工夫が見られた。

2013年3月 第2回炊き出しグランプリ

会場:宮城県仙台市 八木山ベニーランド

第2回の受賞者のみなさん

【最優秀グランプリ】 ㈱ゼンショー(牛丼+豚汁)(右)

多くの人員を配膳に配置するとともに、順番を待つ想定被災者に声掛けするなどコミュニケーション能力が高い賞賛を得た。牛丼プラス1品の心配りも、偏りがちな避難者の気持ちにより沿ったものといえる。

【優秀グランプリ】 ㈱リンガーハット(長崎ちゃんぽん)(中央)

炊き出しで提供された『長崎ちゃんぽん』は国産野菜を多く使っており、避難所での偏った食生活を改善する一助になると評価された。小雨に見舞われた想定被災者からは、期待どおりの温かい料理だと絶賛された。

【優秀グランプリ】 ㈱北日本吉野家(牛丼)(左)

その場に居ない被災者への提供も想定した容器対応、お子様の心をなごませる動物の被り物対応など避難所の実情を理解し、避難所の状況に応じた炊き出しを提供しようという意志が感じられ、好感が持てた。

総評: 当日は風速15~20mもの突風と小雨の中での炊き出しとなり、天候への準備とスキルの蓄積が順位に影響した。多くの出店団体は突風の影響でテントが使えない、粉塵除けできないなど、衛生管理も間々ならない状況となった。突風は調理に必要な熱源の確保にも影響した。上位3チームはキッチンカーを用意し、悪天候下でも左右されずに、安定した衛生管理、エネルギー調達、おいしさを提供し、想定被災者たちを喜ばせた。

2014年3月 第3回炊き出しグランプリ

会場:相模大野中央公園


【最優秀グランプリ】石巻うまいもん屋〔一杯の教訓(かぼちゃを使ったおかゆ)〕

想定被災者への配慮が行き届いていた。おかゆにかぼちゃを混ぜた“一杯の教訓”は腹持ちも良く栄養面も考慮したメニュー。容器にビニール袋をかぶせてあり、食べ終わった後にそのビニール袋を外すと、洗わなくてもその後の自炊に容器を再利用できるという工夫もあった。炊き出しの場に充電ステーションを設けるなど、自ら被災した体験を最大限に生かし、いかにすれば被災者の負担を軽減できるかに注力した姿勢が光った。

【優秀グランプリ】 七輪屋@復興屋台村気仙沼横丁(カマカレー)

炊き出しなどの定番メニューであるカレーライスは、一方で飽きられやすい側面をもつ。マグロのカマを使ったカレーライスは、見た目にも驚きがあり、想定避難者の心労を和らげる効果がありそう。味付けも老若男女を問わない工夫がされており、避難所での炊き出しの経験を存分に生かしたものといえる。開始時には衛生面の課題が散見されたものの、自主的な気づきで改善された。

【優秀グランプリ】 NPO法人キッチンカーズマーケット(すいとん)

常日頃から災害時の炊き出しに出動できるよう準備をしているとのこと。スープは適量を袋に入れたものを冷凍で常備し、小麦粉を練ったものをちぎってすいとんとして加えることで、新鮮なおいしさはもとより、効率のよい炊き出しを実現していた。誰にでも好まれる味付けも好感がもてた。

【優秀グランプリ】石巻食堂(びっくりきつねうどん)

油揚げの中にうどんを入れたものを一人分ずつ下準備し、温めた出汁スープと合わせる方法で提供した。この工夫は、調理の効率および同分量を盛りつけるという点において高く評価できる。またキッチンカーをレンタルして望むなど衛生管理も徹底されていた。

【審査委員特別賞】小田急ホテルセンチュリー相模大野(野菜たっぷりポトフ)

ポトフは、栄養バランスが偏りがちな炊き出しメニューの中では出色といえる。野菜を煮崩れしないように大きく切ってあったが、少し小さめにカットしたものを用意するなど高齢者、幼児が食する場合には多少の配慮や工夫も必要かもしれない。制服/衣装がホテルマンそのものであり、凛々しく清潔感もあって、炊き出しを受ける側への心理的な好感度も高いと思われる。

甲乙つけ難い出店者の炊き出しであったが、経験が明暗を分けたといえる。被災地からの出店者には、東日本大震災で実際に炊き出しを受けた、あるいは炊き出しを行った体験が生かされていた。被災者の心労を考えた料理メニューや盛り付け、調理工程を単純化する工夫があった。一方、開催地相模原市の出店者は、炊き出しを受けた経験に乏しく、その差が大きく作用したといえる。

『炊き出しマニュアルver.1』のポイント

2014年の防災の日に発行された『炊き出しマニュアルver.1』についても簡単に触れておこう。第一号は、A4カラーコピーで18ページ。洗練された出来栄えとは言い難いが中身はしっかり書かれている。

ブースで手配りされた冊子


『炊き出しマニュアルver.1』(http://www.takidashigp.jp/からダウンロードできます)

初めに「食の備蓄の心構え」として、各食品メーカーが発売する備蓄可能な製品の一覧が並び、次に「職場」と「家庭」では備蓄にどのような配慮が必要かが書かれている。職場では、帰宅困難者への対策、家庭ではアレルギーのある家族への対応などにも触れられている。

また、備蓄には「備える」「食べる」を繰り返すローリング・ストック法の大切さにも触れている。

ローリング・ストック法


第3回の会場ではローリング・ストック法の説明も

5ページからは「炊き出し支援マニュアル」となっており、①事前準備・心構え ②実施時の衛生管理やアレルギー対応、栄養について ③五感に訴える炊き出し ④炊き出し実施時の危機管理 ⑤炊き出し実施のマナー ⑥実施時の留意点となっている。

たとえば、①事前準備・心構えでは、「実施先の大まかな配膳食数の確認」とあり、それに見合った設備や人員確保などが必要とある。③五感に訴える炊き出しでは、盛り付けや見た目のバランスも大切で、配膳者で差があってはならないとしている。

盛り付けはすべての方に均等に

⑤炊き出し実施のマナーでは、ごみの量が少なくなる努力をしているか、再使用できる容器を使っているか、が。

初めてこの冊子を読む読者は、多岐に及ぶ項目に負担を感じるかもしれないが、何よりも準備と経験が必要であり、あらためてチャレンジする心構えが重要と思われる。

一般社団法人エコ食品健究会と炊き出しグランプリ実行委員会では、今後も「炊き出しグランプリ」を開催し、冊子の内容もさらに充実させたいと語っている。

大槌町の安渡小学校避難所で

●炊き出しグランプリ実行委員会

http://www.takidashigp.jp/

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