CSRフラッシュ

自転車で都市は変われるか

東京サイクリングサミット2014 [Part2]

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を受け、自転車の環境整備に向けた動きが急浮上している。東京よりも一足早く自転車を都市交通インフラと位置づけたニューヨーク市からゲストを招いて、「東京サイクリングサミット2014」が開催された。2回目はパネルディスカッションの模様をお届けしたい。

自転車にやさしい都市へ、大きく変わり始めたニューヨーク~東京サイクリングサミット2014 [Part1]

サミットと同時に開催された東京シティサイクリング2014

パネルディスカッションの参加者

(上段左から)谷垣禎一さん:公益財団法人日本サイクリング協会会長/自転車活用推進議員連盟会長、山崎一さん:一般社団法人自転車協会副理事長法、増田寛也さん:東京大学公共政策大学院客員教授(スペシャルゲストパネラー)(下段左から)ジョナサン・オルコットさん:ニューヨーク市交通局前政策責任者、ケネス・ポジバさん: バイクニューヨーク(BIKE NEW YORK)会長、スザンヌ・ウインチさん:ウエブサイトヴェロジョイ.コム創始者


自転車普及は国民1.5人に1台

司会:いよいよ東京シティサイクリング(9月21日開催)が開催されます。

谷垣: 楽しみですね。コースを紹介すると、スタートは新宿の東京都庁前、それから表参道、有明から東京スカイツリー、浅草、皇居前を経て神宮外苑銀杏並木通りがゴールとなる都内43キロを走ります。(今年は約2,000 人のライダーが参加)

司会:以前、増田さんは奥様と走られたことがあるそうですね。

増田:2007年の総務大臣のときですが、二人で参加しました。運動不足の解消とストレスの発散になりました。

司会: 東京シティサイクリングは今回で14回目ですが、始めた理由は何だったのでしょうか。

谷垣: 自転車の楽しみ方を広げていきたいということでした。それと自転車を都市交通の手段として位置づけられないかという思いもありました。ニューヨークには、BIKE NEW YORKのイベントがあり、それをお手本に安全・安心なサイクリングを広めていこうというものです。

増田:わが国は自転車が普及しています。保有台数は国民の1.5人に1台という比率です。子供の頃、親は必ず自転車の乗り方をわが子に教えます。一方、国土が狭いために自転車の交通安全をいかに確保するかが課題となっています。低炭素社会の実現に向け、環境面でも自転車をしっかり活用しなければなりません。

盛り上がった東京シティサイクリング2014


東京シティサイクリング2014


東京シティサイクリング2014


自転車利用の環境を整えるニューヨーク

司会: ニューヨークは自転車を交通体系の中に組み込み、BIKE NEW YORKのようなイベントで盛り上げています。

ポジバ:BIKE NEW YORKのイベントが開催される日は、ニーヨークの40マイル(約64キロ)に一台の車も走らせないわけです。とても解放感があります。このイベントのために自転車に乗るという人もいます。友人や家族と走ったり、このイベントをとおして新しい友人をつくることもできます。

ウインチ:自転車の普及には教育がとても重要です。私も講習に参加し、大いに学びました。バイクニューヨークは、人々を教育するという意味でポジティブな影響をもたらしました。小さい子供たちから高齢者までをカバーしています。

司会: ニューヨークで自転車の人気が高まった要因にはほかにどのようなものがあったのでしょうか。

ウインチ:街のインフラが改善されて安全性が高まり、人々の自転車を見る目が変わりました。ジャネット・サディカーン前交通局長の言葉『道をつくれば、みんな乗ってくれる』によって市当局の姿勢が示され、自転車が安全で効率的な移動手段になると分かりました。シェアサイクル(公共自転車)の普及も大きな力を発揮しました。青色のシェアサイクルは、バスや鉄道などと同様の交通手段として人々に理解されています。

ポジバ:講習会の教育プログラムが素晴らしいのです。スペイン語など少数者の言語でも教育しています。自転車が文化になっていない人たちにも歩み寄って自転車を使えるようにしているわけです。学校での活動も助けになります。

司会:さまざまな層に訴えかけているわけですね。BIKE NEW YORKの成功にはニューヨーク州の協力を引き出したという部分も大きいのではないでしょうか。

オルコット:イベントには市も関与しています。なぜならば道路が閉鎖されるからです。ニューヨークにはこのイベントのために65カ国の外国人、国内の参加者などがホテルに宿泊します。財務面のメリットがあります。なによりも市が本気になることで新しい自転車中心の文化が生まれるという姿を提示できたことが大きいと思います。40マイルの道路を走ったみなさんは、通勤で2〜5マイルの道のりを走ることなど簡単なことだと思う人が大勢います。自転車を通勤に使うきっかけにもなっています。

司会: 市当局と警察の連携はうまくいっているのでしょうか。

ポジバ:交通局のほかに連邦政府や国家安全局、FBIなど35の行政当局が協力してくれました。40マイル閉鎖することは、ニューヨーク市を閉鎖するようなものです。ボストンマラソンで爆破事件が起こり、この2年はさらに当局との連携が欠かせないものとなっています。BIKE NEW YORKのイベントは、私自身は市のイベントだと思っています。

増田:BIKE NEW YORKのイベントは、私も2回ほど見ました。警察官、市の職員、ボランティアの方々が大勢出て、市民に協力していました。市全体が一体感に包まれていて、とてもよい雰囲気でした。日本の場合は安全性の確保という意味で警察との連携が強く求められます。官と民の公民が同じ方向に向いてきちんと話し合いをすることが大切です。東京シティサイクリング大会は、いずれは東京を象徴するイベントになる可能性があります。

司会:東京シティサイクリングもBIKE NEW YORKを参考にして始まったわけですが……交通規制などはいかがですか。

山崎:ニューヨークの場合、道路一杯に広がって走っています。とてもうらやましい姿です。多くの参加者に楽しんでいただくには道路の完全規制も有効かと思いました。ただ、東京の場合、多数の参加者が集まるイベントであっても公道ですから、交通ルールを守って走ることが大切だと思います。自転車協会は、東日本震災の復興支援を呼びかけて2年にわたって「サイクルエイドジャパン」というイベントを開催しましたが、ルールを守って走れば安全なサイクリングが楽しめると実証しました。


政策変更で自転車利用者は150%増

司会:ニューヨーク市ではこの間、自転車の利用者はどれくらい増えたのでしょうか。

オルコット:2007年の政策変更後、2013年までに150%くらい自転車の利用者が増えています。今後、さらに増えていくと予想しています。シティサイクルを拡充するという計画も出ています。この間、自転車専用レーンも年間35マイル〜60マイルずつ増やしています。新しく建設される建物では駐輪場を設けるなど、自転車を意識したものとなっています。

ウインチ:シティサイクルが登場するとすぐにメンバー(年会員、7日会員、1日会員などがあり、会費を払えば一定時間無料で利用できる)になりました。いま住んでいるアパートに何台も自転車をおくことは難しいので、シティサイクルは素晴らしいツールとなっています。夫と出かけるときなどは、1台はシティサイクルを使うこともあります。

増田:とてもうらやましいですね。ニューヨークやパリに行くと、シティサイクルはとても便利な乗り物になっています。


事故の拡大をいかに防ぐか

司会:日本では利用者の広がりとともに、事故なども増加しているというデータがあります。

増田:残念なことです。最近では歩道での人と自転車の事故が増えています。歩道はいろいろな方たちが使う空間です。若い方なら反射神経で避けられても、高齢者は避けられません。自転車がスピードを出すと凶器のようになることを理解するべきです。

司会: 自転車を交通インフラとして活用するには安全性の確保が不可欠です。ニューヨークのデブラシオ市長は「ビジョンゼロ」という方針を示されていますが、ブルームバーグ前市長の政策とどのように結びついているのでしょうか。

オルコット:根本的な違いがあるわけではありません。前市長は安全性を重視し、歩行者に安全に横断歩道を渡ってもらおうということで信号の時間調整などにも力を注ぎました。“アイランド”といって、信号が変わっても待機できる場所もつくりました。新市長になってからは、さらに安全なものとするため、道路の再設計とスピード規制にも取り組んでいます。


ル―ルやマナーを徹底

司会:自転車レーンは日本でも広がっているのでしょうか。

山崎:確実に広がっています。全国で導入が進み、そのスピードも確実にアップしています。

司会:データを見ると日本の都市と世界の先進都市では開きがあるともいえますが。

増田:日本の都市の中では名古屋が進んでいます。ただ、ニューヨークと比べると15倍以上の開きが出ています。整備を進めていくにはお金も必要ですし、利用者の下からの声も必要です。最終的に決めるのは自治体であり、自治体と警察の協議ということになります。


東京の事例-1


東京の事例-2

谷垣: 自転車レーンは、ある程度ネットワーク化されていないと使い勝手が悪いわけです。日本は自転車の保有台数は多いのですが、ママちゃりと呼ばれるものがかなりの比重を占めています。道路を設置管理する国交省や自治体、交通の安全を担保する警察が連携し、利用しやすいレーンをつくり、ネットワーク化を進めていかねばなりません。

司会:谷垣さんは自転車愛好家でもありますが……。

谷垣:自転車に乗っていると、ときどきヒャっとすることがあります。自動車だけでなく、歩行者との関係でもあります。安全性を高めていくためには、自転車利用者のルールやマナーも大切です。

増田:事故が多くなっているということですが、ルールやマナーを学ばせることが重要です。子供のときから学校できちんと教育する機会を設けるべきだと思います。警察の婦警さんが学校に来て、交通教室を開いています。学校からさらに地域に広めていくことが大事です。

司会:大人から子供へ、子供からさらに大人へとマナー向上を図らなければなりません。

増田:公民協働が大切です。これまでは税金を使って自治体がやるということでしたが、営利団体である企業も公共の分野に協力することが大切です。行政と企業が一体となって社会の目的を実現していくという動きにしなければなりません。


信頼できる安全な自転車を広める

司会: 公共性は公益性ということでもありますね。

山崎:自転車は環境にやさしい乗り物ですが、同時に安心・安全が求められています。わが国では2000年を境に自転車が大きく伸び、2004年に1,150万台まで増えました。実は修理するよりも買った方が安いといわれる自転車が流通したことも要因です。1年間に利用される自転車の台数は800万台から900万台で、2000年以前の10年間はそれで安定してきました。自転車の生産拠点が中国などに移り、一部の商品が粗悪化し、事故の遠因にもなっています。

自転車協会としては独自に安全基準をつくり、一般用自転車にはBAA、スポーツ自転車にはスポーツBAA(略称SBAA)のマークを認証し、安全な自転車の普及に努めています。スポーツ用自転車の安全性は販売者の技量に負うところも大きいので、販売者の技量を認定するスポーツBAAプラスという資格制度も設けています。

谷垣:買ってからのメンテナンスも大切ですね。

ポジバ:こうした認証は非常に大切です。それとニューヨークでは、赤信号を突っ切って走ったり、歩道を走ったり、逆走したりした人は、交通切符を切られますが、私たちの講習を受けることで許される仕組みもあります。そういうことが起きないよう私たちは講習をしています。

オルコット:最近の調査では新しく自転車に乗り始めた人は規則を守ります。サイクルシェアをしている人は自転車に乗るようになって間もない人が多く、規則を熱心に守ります。ところが昔から乗っている人たちは、意外と守りません。

司会:自転車も自動車と同様の権利が与えられている以上、交通法規は守る必要がありますね。市民一人ひとりが声を上げることも大切です。

増田:当面の目標は2020年のオリンピック・パラリンピックの開催に向けて都市整備と自転車の活用を含めた交通網の検討が求められています。本日は、安全などの課題とともに、自転車の普及には都市の環境整備と利用者のルールやマナーを守ることの大切さが提案されました。官と民の公民協働はますます重要になっています。

【⾕垣禎⼀実⾏委員⻑によるまとめ】

私たちは自転車の「公益性・公共性」を追求したいと思います。低炭素社会が叫ばれていますが、私たちは持続可能な社会を作るため、都市交通の改革を進める必要があります。自転車はその主役であり、言葉を変えれば、「都市の課題、都市交通の課題を解決する」力を持っています。自転車利用の意義を再認識し、世界の先進都市に負けない、新たな普及ステージを作っていきたいと考えます。

自転車が都市交通改革の主役となるためには、「安全のための抜本改革」を推進することと、「都市交通としてのインフラ化」の両方の課題を推進していくことが大切です。「安全のための抜本改革」とは、自転車だけでなく、歩行者、自動車のドライバーという道路を利用する全ての人々の安全確保を行うことです。自転車の観点から言えば、通行帯区分や法規の見直し、マナーの啓発活動等です。

「Road to 2020」に向けて、自転車愛好家だけでなく、一般の自転車利用者を含めて問題意識を共有していくことが必要です。学校単位での教育やマナーの啓発活動が非常に重要かと思います。さらにBAA マークやSBAA マークに代表される自転車自体の品質の保持やメンテナンスの重要性も認識していかなければなりません。

「都市交通としてのインフラ化」とは、自転車レーンを広げ、ネットワーク網を構築し、さらにシェアバイクシステムの導入を行い、休日や平日昼間にサイクルトレインを導入して、自転車利用の拡大を図るというものです。安全性を追求した利用・活用、その2つを推進する中で、「交通ルール/マナー」「シェアシステム」「標識等の交通シンボル」の3つを国際標準化することもめざしていきます。

私たちは2020 年のオリンピック・パラリンピックの開催に向け、都市インフラ、都市交通の再構築を進めるため東京で新たな“日本モデル”をつくっていきたいと考えます。(2014年9月)

●東京シティサイクリング2014

http://tokyocity.j-cycling.org/
TEL:03-5793-3190
E-mail:tcc@jikko-iinkai.jp

●東京サイクリングサミット2014

http://tokyocity.j-cycling.org/summit/


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