識者に聞く

「固定買い取り制度」を進化させ、再生可能エネルギーを地域おこしに。

竹村英明さん〔市民電力連絡会/エナジーグリーン㈱副社長〕に聞く

再生可能エネルギーの「固定買い取り制度」(FIT)にいくつか課題が見えてきた。政府は見直しの意向だが、これによってようやく軌道に乗りかけた再生可能エネルギーの普及に足踏みがあってはならない。市民の力で地域のエネルギー資源開発を呼びかけるエナジーグリーン社の竹村英明さんに最新の動きを聞いた。

市民電力連絡会/エナジーグリーン㈱副社長 竹村英明さん

太陽光発電への偏重で制度にゆがみ

Q.再生エネルギー「固定買い取り制度」(FIT)の問題点が指摘されています。再生エネルギー普及の足かせになりませんか。

竹村:政府による太陽光発電の余剰電力買い取りは、2009年11月から始まりました。(電力会社による自主的買い取りは、ドイツのFITをひな形に1992年に始まった。注編集部)2012年7月1日には対象を太陽光以外の風力、バイオマス、小水力、地熱など他の再生可能エネルギーにも広げた全量買い取り制度に移行しました。背景には、2011年3月に起きた福島原子力発電所の事故により、原子力発電をベース電源と位置づけてきた政府のエネルギー政策の見直しがありました。

ところが欧州の制度設計と違って、大企業の参入を制限しなかったり、地域の自立性を尊重するという配慮が足りなかったため、土地とパネルさえ準備すれば比較的短い期間で事業がスタートできる太陽光発電に不動産事業者などの事業参入が集中しました。なかには“金もうけ”だけが目当ての事業者もいます。

設備認定されたものは、太陽光発電だけで6,800万キロワット(6月末までの累計)もあり、出力で言えば原子力発電所約68基分(日本の原子力発電所は54基。発電電力量は13基分くらい。注編集部)に相当するほどになりました。

これらがすべて稼働すれば、電力の消費が少ない時期は、太陽光発電の発電量だけで需要を超えてしまい、需給調整が困難になる恐れが出てきたというのです。電力会社側からすれば太陽光発電のために送電線への新たな投資も必要となり、経営環境にも悪影響がでるという理由で、5つの電力会社から再生可能エネルギー買い取り拒否ともいえる動きが始まりました。

Q.現状の「固定買い取り制度」では立ちいかないということでしょうか。

竹村:まず、九州電力が2014年9月25日から固定価格買い取り制度に基づく新規契約を中断、すでに申し込みを受け付けた分についても回答を保留すると発表しました(10月21日に回答保留の一部を解除。注編集部)。10月1日より北海道電力・東北電力・四国電力・沖縄電力も買い取りの新規受け入れを管内全域で停止すると発表しています。

電力各社の言い分は、設備認定された太陽光発電がすべて運転すれば、電力需給のバランスをとることが困難になり、送電網の新たな装備に莫大な設備投資を自費で行うことになれば、経営にも悪影響がでるというもの。

日本は大手電力会社9社 (沖縄電力を含めると10社)が地域ごとに電気事業を行っており、それぞれが最大電力需要を想定して発電所をつくり、そこから大消費地へと電気を送るという考えで送電網を整備してきました。ところが太陽光発電では(他の再生可能エネルギーも同じだが。注編集部)送電網のあまり整っていない地域から大容量の電気を送るというケースも生まれます。たとえば、大都会ではこれまで給電だけしていれば良かったのに、街中に太陽光発電所が大量にできれば、受電も気にしないといけなくなります。今までとは考え方を変えないといけません。

ちなみに送電網は電力会社の手を離れ「広域運用する」ことが電気事業法の改正で決まっています。今後は、設備投資をするにしても「電力会社の自費で」ということではなくなるのです。「広域運用」は2015年度からスタートしますが、すでに「解決策」の方が先にできているわけです。


事業者の淘汰が進む可能性も

Q.高額な固定買い取り価格を当て込んで太陽光発電事業に参入した事業者も困っているでしょうね。

竹村:事業者の中には、不純な動機から“もうけ話”にのった者もいないとはいえません。大きな資本を武器にメガソーラー(1,000キロワット以上の大規模な太陽光発電。注編集部)の建設が全国複数箇所で始まっています。なかには中国の大手電力会社の参入も含まれています。

固定買い取り価格制度は、再生エネルギーの普及を促すため、国庫から資金を持ち出して産業を育成するという狙いがあります。海外の電力会社の育成というのもおかしな話ですが、巨大な資本を持っている大会社が地方の土地を買いあさって、その地域のエネルギー資源をお金に換えて奪っていくというのも本来の趣旨からかけ離れています。

全国には地域資源を生かした新しい産業としてこの分野を育成したいという事業者が大勢います。10月24〜25日、金沢市で「市民・地域共同発電所全国フォーラム」が開催され、再生可能エネルギーに関心のある人々が経験交流を行いました。

「地域の過疎や経済の問題を環境ビジネスで解決したい」「太陽光発電で事業を軌道に乗せ、その間に風力など時間のかかる計画を進めたい」などなど、熱心な人たちが全国津々浦々で努力を積み重ねているのです。

豪雪地帯の豊富な水資源を生かした小水力発電で山間地の地域づくりに取り組む岐阜県白鳥町石徹白(いとしろ)地区や、風力で町おこしを始めた北海道寿都(すっつ)町の例は、地域振興の新しい可能性を打ち出しています。この日に報告された集計では、いわゆる市民電力・発電所は、今年全国で600カ所を超えると予測されています。

図-1 続々誕生する市民電力、発電所 (提供:市民電力連絡会)

 

図-2 都内・首都圏だけでもこんなに増えてきた(提供:市民電力連絡会)

Q.日本がお手本としたドイツやスペインでも買い取り価格の見直しが始まっています。わが国でも見直しは必要なのではないでしょうか。

竹村:かつて、日本は太陽光発電の技術で世界の先頭を走っていましたが、2005年に設置補助金が打ち切られて以降、他国に追い抜かれ、その後中国などの追い上げで国内市場も大きく縮小しました。2012年から始まった固定価格買い取り制度(FIT)によって、ようやく息を吹き返しつつあるというのが現在の状況です。せっかく生まれた地域産業の芽がすくすく育つのかどうかは、これからの政策に掛かっています。

私自身、太陽光だけに肩入れしているわけではありません。地域の特性を生かした地域エネルギーの“開発”こそが理想だと考えています。たとえば北海道は風力発電の最適地です。今は本土と太い送電網で結ばれていなかったり、風車適地まで送電線が伸びていなかったりするために足踏みをしていますが、ひとたび送電網が整備されれば、一気に拡大する可能性を秘めています。

実は世界的に見ると、太陽光よりも風力発電の方が伸びています。日本も風力発電の適地で、風力発電だけでわが国が必要とする約9,500万キロワットの電力の4倍くらいの電気はつくれるとの試算もあるくらいです。


エネルギーの地産地消”で町おこし・村おこしを

Q.竹村さんは全国各地で“エネルギーの地産地消”を促す発電所づくりにも取り組んでいますね。

竹村:固定価格買い取り制度は、継続することが望ましいと思いますが、導入後の3年間の実状に即して、いろいろ改善していくことは必要です。この2年間を見ると、太陽光発電以外の再生可能エネルギーはほとんど増えていません。

太陽光発電以外の発電種別については買い取り価格を据え置くこと、太陽光発電については電力消費地に近い場所で導入しやすい小規模な発電設備の事業化にインセンティブが働くようにしてもらいたいと考えています。メガソーラーの買い取り価格は安くなっても、小規模設備の買い取り価格は上がるというように、規模別に買い取り価格は設けるべきだと考えています。

ただ、こうした議論を進める上で欠かせない電力会社内部の情報がほとんど開示されていません。系統制約の発生しやすい地域や送電および変電設備の許容量についても情報公開を進めれば、再生可能エネルギーの事業化に意欲を燃やす事業者があらかじめ情報を得やすくなり、設備認定業務の集中による電力会社の負担軽減にもつながるはずです。

今、経済産業省の新エネルギー小委員会が中心となって、この制度の見直しを進めていますが、私たちのこうした主張を受け、地熱や風力など太陽光以外の再生エネルギーについては現在の制度を維持する方向で動いています。ただし、太陽光発電の買い取り価格の見直しは避けられないと思います。


再生可能エネルギーは地域の資源

Q.再生可能エネルギーがもたもたする中、原子力発電所の再稼働に向けた動きも始まっています。私たちはこの問題とどのように折り合いを付けたらよいのでしょうか。

竹村:エネルギー問題は、国際紛争の遠因にもなっています。この問題の解決こそが“平和への一里塚”だと思います。この間の動きを見ても分かるように、わが国は再生可能エネルギーだけで、人々が必要とする大部分のエネルギーをまかなえる潜在的な力を秘めています。

先の見えない原子力発電所にお金を注ぎ込んだり、海外から天然ガスや石炭を買ってくるのではなく、全国に広がりつつある市民電力などに支援の手を差し伸べてほしいと考えています。

再生可能エネルギーはまさに地域の資源です。立地地域が事業に関する決定権を持ち、事業に出資して得られる利益を地域に還元できれば、地域経済にも好循環が生まれます。「固定買い取り制度」(FIT)の導入を受けて育ちつつある再生可能エネルギー関連産業が保護され、発電事業者が安定的に事業を行い、中長期的ビジョンを持って投資や人材育成が行われるようにすべきです。

●お問い合わせ:エナジーグリーン株式会社

TEL 03-6380-5556
http://www.energygreen.co.jp


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