CSRフラッシュ
子どもたちが危ない。性暴力被害から子どもを守れ!
児童ポルノ排除対策公開シンポジウムから11月は「子ども・若者育成支援強調月間」。深刻な広がりを見せる児童ポルノ排除対策に向けて内閣府が公開シンポジウムを開催した。誰もが及び腰のテーマだけに、家庭も学校もしっかり対策に目を向けてほしい。
【基調講演から】
子どもの性暴力被害について
山本 恒雄さん(日本子ども家庭総合研究所 子ども家庭福祉研究部長)
表にでる性暴力被害は一部だけ
性暴力被害はなかなか表に出てきません。加害者も被害者も隠そうとするからです。事態を収めたいとするあまり、被害を取り扱う関係者さえも最小限のところでとどめようとします。
子どもの性暴力被害の発見は、被害にあった子どもが告白・証言しない限りオープンになりません。子どもはその被害をどう大人に話すべきかで悩みますが、そのすべを知りません。罪深いことだと感じて話すのをためらいます。
性暴力の加害者は子どもにとって大切な人物=父親だったり母親のボーイフレンドだったりもします。隠し事をさらすことは裏切りとなるだけに、子どもは強い恐れを抱いています。
子どもの告白があっても、大人はなかなか本気にしてくれません。性的な言及だけに無視したり避けたりします。やがて、子どもはあきらめてしまいます。
この問題への対応には大人も慣れていません。子どもの性的な出来事に大人の対応が遅れるため、子どもの妊娠・出産などで初めてオープンになるケースも少なくありません。
実態はかなり深刻です。2005年の米国での調査ですが、子どもの50%が身体的暴力を経験しており、その13%が児童虐待、8%が性的虐待でした。調査を行った児童保護局が受け付けていた虐待受理件数の約40倍の身体虐待、約15倍の性的虐待が起こっていると推計されました。
この数字を2010年の日本に当てはめると、身体的虐待は86万件、性的虐待は2万1千件となります。全国の児童相談所が扱った子どもの虐待相談は、1999年から2012年の13年間で性的虐待が2.5倍、虐待全体では5.8倍にもなっています。
子どもは人間関係を選べない
子どもの性暴力被害が発見されとときの対応原則があります。1つは子どもの「安全確保」。子どもは信頼できる大人に被害の一部分をほのめかすのですが、家庭内・家庭外に関わらず、疑いがある場合は一時保護、疑いが未確認の場合は調査や見守りの継続が必要となります。
2つめは「正確な事実確認・聴取・調査」。いわゆる「調査保護の実施」です。加害者・関係者からの分離・遮断による安全確保と被害調査が求められます。全国175カ所(支所を含めると215カ所)の児童相談所などで対応しています。
3つめは「再被害の阻止」です。事案によって刑事捜査・司法による加害の阻止が行われ、親権の制限・児童福祉の観点から再被害の防止が進められます。
4つめは「必要なケアの開始」です。このテーマは中長期にわたる場合も少なくありません。
現状は調査保護のあと半数の子どもが保護の継続対象に、残りの半数が家庭に戻っています。家庭に戻すケースでは子どもの安全確保が大前提になります。初期対応まではなんとかしても、その後の処遇・支援が不十分で再トラブルにいたる例も散見されます。
児童相談所の保護は児童が対象です。児童福祉法では児童を「満18歳に満たないもの」と定義しているため、18歳を超えることで成人とみなされ、保護が打ち切られます。“18歳の壁”が立ちはだかっているのです。
児童ポルノ事案の何が問題か
近・現代のポルノは、性暴力情報の商業化による利益追求が主な動機になっています。情報通信機材・機器(パソコン・携帯電話・ゲーム機器など)の普及によって、どれほど遅れた国・地域でも、“お金とポルノ”を追えば、その国・地域の問題が分かるとまで言われています。
児童ポルノ事案では、子どもが直接の性暴力被害者である場合、子どものケアと再被害の阻止を進めないと、その子どもがのちの加害行為や性的行動に走る場合も少なくありません。直接の被害者でない場合も、模倣・探索行動による加害、被害の再生産の注意が必要です。
児童ポルノの事案では、加害者に家族や親族が含まれたり、親密な知人である場合が少なくありません。子どもは成長によって徐々に被害を認識し、その気づきによってトラウマ(ギリシャ語で傷の意。心理的な傷をさす)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)が発症するケースも増えていきます。
子どもへの援助には、本人が必要を感じたらいつでも接触できる支援者の設定が必要です。本人の状況が悪化した場合、支援要請できるサポーターの設定も必要です。
【パネラーの発言から】
児童ポルノの現状と警察の取り組み
高橋 靖さん(警察庁生活安全局少年課理事官)
犯罪の増加に罰則強化で対応
児童ポルノ事犯は、送致件数、送致人員とも確実に増えています。被害児童の約4割はスマートフォンを使って被害に遭っています。通常の携帯電話、パソコン、ゲーム機を使ったものもあります。
警察は、低年齢児童愛好者グループの実態解明と検挙に努めているほか、ファイル共有ソフト利用事犯に対する取締りの強化を進めています。また、プロバイダーなどに対してブロッキング(インターネットのアクセス制限。「フィルタリング (有害サイトアクセス制限)」という言葉も使われる)の協力を依頼するとともに、サイト管理者への削除要請を進めています。2014年6月に児童ポルノ禁止法が改正され、罰則の強化が行われました。
警察では「サイバー補導」を行うため、援助交際などの書き込みなどがあった場合の注意指導で2014年の上半期だけで220人を補導しています。
9割の家庭がフィルタリングなしで使用
いくつかの事例を紹介します。加害者は「同世代の男子になりすます」など身分を偽ったり、「アイドルグループのメンバーと話ができる」「悩みごとの相談に乗る」などと目的を隠して巧妙に児童に近づいてきます。
近づいてくる手段は、「携帯ゲーム機」「携帯音楽プレイヤーを」「スマートフォンのアプリ」などさまざまです。掲示板サイトで知り合った男から裸の画像を送るようしつこく要求され、ゲーム機のカメラで撮影して送った例、スマートフォンの無料通信アプリでIDを投稿したところ、「モデルにならないか。お金を払う」との誘いを受け、顔写真からエスカレートして裸の画像を送信した例もあります。
子どもを被害から守るには、「情報通信機器にフィルタリングする」「インターネットの危険性を伝える」「家庭のルールをつくる」などが必要です。ただし、親が子どもに一方的に押し付けるのではなく、理解させることが大切です。調査では9割の家庭がフィルタリングしていないことも明らかになりました。
情報通信機器を使った児童ポルノは、半永久的にデータが残る可能性があります。お子さんにしっかり伝える必要があります。
児童ポルノは人身取引のひとつ
藤原 志帆子さん(NPO法人人身取引被害者サポートセンターライトハウス代表)
子どもはなぜ声をあげられないのか
国連の取り決めでは、18歳未満の子どもが買春やポルノの被害に遭ったときは、強制でなくても人身取引の被害者と認定されます。
私たちへの相談では、「裸の写真を送ってしまった」「性的虐待と児童ポルノの製造の被害に遭った」「交際していた彼氏によるポルノの製造」のほか、「18歳になってアダルトビデオに強制出演させられた」などの事例が寄せられています。
子どもたちを取り巻くワナは、至るところに仕掛けられています。「暴力や脅迫」だけでなく「ウソの約束や契約」「監視」「あきらめと絶望」によって孤立感を深める被害者がいます。
子どもたちが参加して啓発マンガを制作中
ライトハウスでは、「未成年者向け啓発マンガの発刊」「被害者向け専用スマホサイトの公開」「先生のための子ども支援セミナーの開催」に取り組んでいます。
マンガプロジェクトでは、子どもたちが制作に参加しています。2015年の2月末には初版本1,000部が発行される予定です。学校や児童施設への無料配布をはじめ、スマホやパソコンに対応する電子書籍としても無料配布する予定です。
一番新しい取り組みとしては、性的搾取の被害者が相談できる専用スマホサイトの開設進めています。
●フリーダイヤル(0120-879-871 月〜金10時から19時まで
●メール(soudan@lhj.jp)、
●LINE(ID:LH214 表示名:ライトハウス)
被害者児童のケアに関わって
白川 美也子 氏(こころとからだ・光の花クリニック院長)
被害の記憶が突然よみがえる
私は大学病院で思春期外来の臨床に従事したほか、精神科医療機関で勤務した経験を持っています。そこでPTSD臨床や複雑PTSD(心的外傷後ストレス障害)の研修を積みました。
児童ポルノのサイトに入って確認すると、女性や子どもの人権に対する尊重が欠けていると痛感します。児童ポルノの問題点は、被写体になる子どもへの影響、ポルノを視聴した少年などへの影響、そして商業主義の拡大によるDVや性虐待の広がりにまで及びます。
通常のストレスは、時間の経過とともに元に戻ります。この種のトラウマは、出来事が終わってもいつまでも影響が残るのです。記憶が冷凍保存された状態で、何かをきっかけによみがえってきます。性虐待もトラウマになります。子どもは性的な働きかけに対する準備ができておらず、暴力や外傷の伴わない性体験であっても、PTSDの要因になります。
PTSDになると、「再体験症状(なにかの拍子にフラッシュバックする)」「回避・麻痺症状(苦痛を回避するため、避けたり、無感情になる)」「過覚醒症状(不眠、焦燥、驚愕反射、集中困難になる)」が見られます。
加害と被害の連鎖を取り除く
私が関わった中に、小学生のときに児童ポルノの被写体にされ、20歳のときに診察に訪れた女性がいました。家族は否定しましたがDVDが発見されました。
15歳の男児の例では、家庭教師による性加害が背景にあり、被害があった1年後に幼い女児に性加害をしたとして来院しました。被害者が加害者になった事例です。
実の父親によって性暴力を加えられた例もあります。DVで別居していた父親によって連れ去られた3歳の女児は、父親から悪質な行為を受けました。
発達的に不適切な性体験で子どもたちはトラウマになります。児童ポルノは直接的に被害を受ける子どもがいるだけでなく、それを視聴したことから派生する興味関心、性嗜好、性行動の中に加害者に導く例が見られます。いまでは後遺症の治療法が進み、回復の可能性は次第に高まっています。
未然防止につながる“学び”を考える
尾花 紀子さん (ネット教育アナリスト)
便利さの裏にある脅威を知る
スマートフォンの普及は、写真撮影やメッセージ投稿をより簡単にしました。児童ポルノ事犯の多くは、その便利さ、手軽さによってもたらされています。
ネットでは、子どもの自画撮り写真による被害、子どもがネット掲示板に出会いを求めたことによる被害、交際中に撮影した写真によるリベンジポルノによる被害があふれています。
「自ら危険な行動をとらない」「トラブルのきっかけや材料はつくらない」「ルールやモラルを守る」という3つを実行するだけで、かなりの数の未然防止が可能となります。
子どもたちがデジタル機器に慣れ親しんでいるのに対し、親や教師の多くはデジタル機器に対する苦手意識を克服できていません。子どもたちが買ったり、使ったりするゲーム機、携帯音楽プレイヤー、学習用タブレットも、使い方次第で怖い機器になり、トラブルを呼び込むのです。
大人も子どもを守る知識を
私が知るところ、2014年10月に発売された「NEWニンテンドー3DS」2機種が世界で始めて「販売時のフィルタリング設定ON」になりました。その他の機器は保護者の設定がなければ、どうにでもなる機器なのです。
巷には、「コミュニティサイト」があふれています。クラウドの普及により、プライベートな情報が流れるリスクも増えています。今年の9月、海外で有名女優のプライベート写真が流出するというトラブルがありました。一旦ネットで拡散すると回収は不可能です。
子どもたちの中には自ら出会いを求めるケースも少なくありません。電話やメールアドレスは危険だが、IDならとIDをオープンにしたことで、悪意のある人間に利用されるケースも増えています。
ケータイやスマホは、1台でなんでもできる万能機です。ネットで知り合った相手に言葉巧みに誘われ、自画撮り画像を送るケースがかなり見られます。実は自画撮り写真には位置情報が入っている場合があります。そこから撮影者の自宅などが特定されるのです。
大人も子どもも「児童ポルノ」「リベンジポルノ」に関する知識が不足しています。また、子どもには困ったら大人に相談するという環境をつくらないといけません。今の子どもには親身になって大人から叱られる環境が欠けています。
東京都教育庁が毎年教職員向けに『インターネット等の適正な利用に関する指導事例集・活用の手引き』を発行しています。教職員のみなさんにぜひ読んで活用してほしいと思います。
お問い合わせ
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)青少年環境整備担当
TEL 03-5253-2111(代表)
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