CSRフラッシュ

プロに学ぶ、プロジェクトマネジメント

IBM x ETIC. プロジェクトマネジメント・ワークショップ

社会貢献活動に定評のある日本IBM(以下、IBM)が、復興のための人材派遣を行っているNPO法人ETIC.(以下、ETIC.)のコーディネートにより、仙台でプロジェクトマネジメントのワークショップを開催した。プロジェクトマネージャーの資格を持つIBM社員が、NPO活動をする参加者にマネジメントの手法を教えてくれるという。どんなふうに進めればプロジェクトは上手くいくのか? 当日のワークを振り返ってみよう。(レポート:CSRマガジン仙台スタッフ 藤森有紀)

IBM x ETIC. プロジェクトマネジメント・ワークショップ

「IBMインパクト・グランツ」と称されるこのプログラムは、IBM社員が業務で培ったスキルを社会に役立ててもらおうという取組みだ。コーディネーターであるETIC.は、震災から3年9カ月が経った被災地のNPO法人から、組織運営の見直しや、成果達成の手法を身に付けたいという声が上がっていることを受け、今回のワークショップを企画した。

この日、IBMのノウハウを学ぼうと集まったのは5団体15人。いずれもNPOのメンバーで、「育児中の母親を支援するプロジェクト」や、「被災地の未利用不動産と新規住民の橋渡しをするプロジェクト」など、様々な社会課題の解決に取り組んでいる。

●IBMの「インパクト・グランツ」について
http://ibm.com/ibm/jp/company/society/grant_programs/
●NPO法人エティック(ETIC.)の「みちのく仕事」について
http://michinokushigoto.jp/

プロジェクトマネジメントを学びに来た宮城・岩手のNPOメンバーと、講師を務めたIBM社員、コーディネーターのETIC.メンバー

“プロジェクトマネジメント”とは何か?

会社の業務でも社会的な活動でも、「ある目標の下に、新しいことや、やったことが無いことを、問題を解決しながら期限内に完結させること」、それがプロジェクトマネジメントである。この日は、実際に様々なプロジェクトを運営している参加者が、6つのステップを通してマネジメントの手法を学んでいった。

1. プロジェクト憲章の作成
2. マスタースケジュールの作成とマイルストーンの確認
3. 作業計画と要員計画の作成
4. ステークホルダーのマネジメント
5. 課題管理とリスク管理
6. プロジェクトの終結

1.「プロジェクト憲章」の作成

参加者が最初に作成するのが「プロジェクト憲章」シート。これはプロジェクトの拠り所ともなるもので、プロジェクトに携わるメンバー全員が認識していなければならない指針になる。プロジェクトの目的、何を以て成功とするか、どんな成果物を生み出すのか、見込める予算、影響を及ぼす人や団体、資源やリスクなどをシートに書き込んでいく。

企業活動の場合、ある程度組織から条件として提示されるものもあるだろうが、NPOは全て自分達で定義付けていかなければならず、難しさがあるのだろう、参加者は苦心しながらシートを埋めていた。この過程で、メンバー間の認識のズレや、曖昧になっていたことが浮き彫りになるなど、大切な “気づき”もあったようだ。

2.マスタースケジュールの作成とマイルストーンの確認

次に、プロジェクト全体のスケジュールを書き出していく。プロジェクトにとって重要なイベントや会議を“マイルストーン”と呼び、そこまでに準備するものなどを表にしていく。これにより、最終的なゴールに向かって、どのようなペースで、いつ、何をすべきなのかが明確になる。こうしてスケジュール表を完成させることは、プロジェクトメンバーにとってだけではなく、第三者に対しても有効らしい。つまり、外部に対して活動内容を説明しやすくなり、賛同者(一緒に活動してくれる人や、スポンサー、行政など)を得やすくなるということだ。

3.作業計画と要員計画の作成

3つ目のワークは、目的を達成するためにしなければならない作業タスクや所要時間、それを実行する要員を洗い出すこと。今までこなしてきた作業も、細分化してみると誰がどのくらいの負担を担っていたのかも見えてくる。NPOの活動では、各メンバーが携わることのできる時間は様々なので、それを考慮して、作業内容や参加方法、成果物を「見える化」していくのだ。この日参加した各プロジェクトは、現実的な問題と相まって苦戦していた。実際、あるプロジェクトでは、主要メンバーが抜けることが想定されていて、その穴をどうやって埋めるかが大きな課題となっていた。

4.ステークホルダーのマネジメント

ステークホルダーとは、そのプロジェクトから影響を受ける全ての人や団体のこと。例えばプロジェクトを推進することによって恩恵を受けられる対象者、資金援助をしてくれる寄付者、助成金を出してくれる行政機関、活動を広めてくれるマスコミ、活動内容を熟知しているOBやOGなど。

この人たちをいかに取り込み、協力を得られるかによって、プロジェクトが円滑に進むか、目標が達成できるかが決まるとも言える。リストアップしたら、それぞれにどういうアプローチをしていくかも考えなければならない。現状の関係性でいいのか、より距離感を縮めたいのか、コミュニケーションの質や頻度も検討し、可視化していく。

5.課題管理とリスク管理

いよいよプロジェクトを実行しようという段階では、計画した作業を実施していくのだが、往々にして予期せぬ問題が発生する。所要時間の変更や課題の発生、そしてリスクなど。マネジメントでは、こうした問題を書き出して、管理していくことが必要なのだ。

リスク管理では、問題が発生した時に既に対応策が考えられていれば、準備済として直ぐに歩み出せるが、考えていない場合は、発生してから準備を始めるしかなく、進捗に大きな差が出てしまう。

例えば、イベントを企画して、申込者が予想以上に多かったら? 雨が降ったら? メンバーがやむを得ず離脱したら? など、いかにも起りそうなリスクと対応方法が示された。現代では、情報漏えいや、SNS対策なども必要になってきそうだ。

6.プロジェクトの終結

プロジェクトとはそもそも期限を設けて行うものなので、自ずと終了の時が来る。その際、報告書を作成することが一般的だ。報告書はそのプロジェクトの記録であると同時に、将来、似たようなプロジェクトが発生した場合に備えたノウハウの蓄積にもなる。NPOの場合、こうしたノウハウの蓄積こそが組織の財産になるのかもしれない。

プロジェクトごとに話し合いながらマネジメントシートを作っていく作業は、改めてプロジェクトを見直すきっかけにもなる

ワークショップを終えて

講義では、普段あまり使わない用語も多く聞かれ、一見難しそうな印象を受けた。確かに渡された資料には、「スコープ」や「WBS(Work Breakdown Structure)」など、独特の用語が使われている。しかしそこはこの世界の言い方だと割り切って、その意味するところを捉えることが大事だ。

終了後、参加者からも「すべきことが解ればだれでも参加できる。言葉の難しさは気にならなかった」という感想が聞かれた。プロジェクトマネジメントは、言ってみればプロジェクトを成功させるための段取りやテクニックなので、概念を学んで、実際のプロジェクトに適用できればそれでいい。むしろ、プロジェクトには2つとして同じものはないのだから、基本となる考え方をプロジェクトごとに当てはめていく力が問われることになる。

最後に、コーディネーターを務めたETIC.から「我々NPOには、やるべきだと思ったことに突き進むタイプが多く、ついそういう個の力に頼りがちになる。それは強みでもあるが、これからは組織の力を伸ばしていくことも大事。プロジェクトマネジメントはNPOにとって効果的な手法なので、これを活用してプロジェクトを成功させていこう! 」とのコメントでワークショップは終了した。(2014年12月)

●IBMの「インパクト・グランツ」について
http://ibm.com/ibm/jp/company/society/grant_programs/
●NPO法人エティック(ETIC.)の「みちのく仕事」について
http://michinokushigoto.jp/ 

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