識者に聞く

原発の再稼働はなぜ問題なのか

国際環境NGO FoE Japan満田夏花さんに聞く

原発再稼働が急浮上している。再稼働に向けた地ならしを進めるためか、政府は古くなった原発5基の廃炉を進める一方で、九州電力川内原発(鹿児島県)、関西電力高浜原発(福井県)、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)などを年内にも再稼働する構えだ。果たして原発の再稼働は必要なのか、また安全性の確保は万全なのか、国際環境NGO FoE Japan満田夏花さんに聞いた。

FoE Japan満田 夏花さん

住民の民意に配慮はなされたか

Q 1 福島原子力発電所の事故からまもなく4年、政府は九州電力川内原子力発電所(鹿児島)を皮切りに、原子力発電所の再稼働を急いでいます。現地はどのような状況なのでしょうか。

満田: 一番の問題点はパブリックな議論が行われていないことです。原子力規制委員会が新基準に適合しているとし、また、「地元も同意した」とされています。しかし、かなりの住民が反対している中、鹿児島県と薩摩川内市の議会、県知事と市長が決めてしまったというのが実態です。

鹿児島県議会では、31件の再稼動反対陳情が否決され、たった1件の再稼動賛成陳情が可決されたのです。地元の説明会では多くの住民が反対の意見陳述をしました。それらの声には全く耳を貸しません。

Q 2 地元鹿児島県議会や県知事にはそうした声は届いていないのでしょうか。

満田: 川内原発から30キロ圏内に位置するいちき串木野市や日置市、姶良市などの近隣自治体の中には強い懸念を示しているところもあります。

現地では審査書の説明会が行われましたが、審査書に限定したかなり技術的な内容のみを原子力規制庁が説明し、それ以外の質問は全く認めないというスタンスでした。


火山地帯の原発は安全か

Q3  鹿児島を含む南九州地方は日本有数の火山地帯ですが、その影響などは議論されていないというわけですね。

満田: 南九州はもともと火山の多いところで、周辺には巨大噴火を起こす可能性のあるカルデラがいくつか存在しています。

桜島を含む一帯は姶良(あいら)カルデラといって、約3万年前に巨大噴火を起こし、火砕流が川内原発周辺に達したという痕跡も見られます。川内原発は桜島の50キロ圏ですが、仮に大きな噴火が起きると川内原子力発電所も被害は免れられない可能性があります。

原子力規制委員会の田中俊一委員長は、「川内原発が運転される、せいぜい数十年の間に姶良カルデラが噴火する確率は論ずるほどのものではない」という見解ですが、本当にそうでしょうか?

たとえば、敷地内の活断層の場合、10数万年前に動かなかったと確証のないものは動くとみなして検証しなければならないとされています。

原子力規制委員会の火山審査ガイドに従えば、施設に火砕流が届くような噴火の可能性が十分小さいか、モニタリングが可能か、核燃料の運び出しが可能かということを見ることになります。核燃料を冷やすためには通常5年かかると言われています。しかし、万一の場合、どこに運び出すかという議論も全くなされていません。

火山学会の専門家は、巨大噴火について、前兆現象をとらえられるとは限らないとし、川内原発の審査のあり方に疑義を呈しています。


原発から何キロ圏なら安全と言えるのか

Q4 川内原発では事故が起きた場合の避難路の確保が盲点のひとつとされていますが。

満田: 福島原子力発電所の事故が起きるまでは、原発の過酷事故は起こらないものとされてきました。ところが原発事故は起きたのです。この事故を踏まえて、原子力防災の指針が検討されたものの住民の被ばくを許容する非常に甘い指針となりました。これでは福島原発の教訓は生かされず、同じ轍をもう一度踏みかねません。

新しい指針では、原子力発電所で事故が起きた場合、施設の状況によって即座に避難しなければならない範囲を周囲5キロメートルとしています。そして、次の段階で放射線量が一定線量になったら5キロメートルより外側のエリアで避難するとしています。この一定線量が非常に高い基準になっています。

福島の事故では、震災翌日の3月12日の夕方になって20キロメートル圏の人たちに避難指示が出ましたが、飯館村で全村避難の指示が出たのは1か月後でした。1カ月もの間、飯館村のみなさんは放置され、大量の被ばくを受けました。

飯館村は福島原発からどれくらい離れているかというと、30〜50キロ圏内です。ということは50キロメートル圏でも避難が必要になるということです。あくまでも距離は目安に過ぎないのです。

実は福島原発の事故の際、アメリカ政府は80キロメートル圏内にいる米国人に避難指示を出しました。福島市は福島原発から60キロメートル離れているのですが、事故後の3月15日に24マイクロシーベルトという高い線量を観測しています。

福島原発事故後、国は即時避難の基準を毎時500マイクロシーベルトとしました。途方もなく高い線量です。どれくらい高いかというと、国が定めた放射線管理区域(3カ月で1.3ミリシーベルト)は毎時に直すと0.6マイクロシーベルト/hです。そこに立ち入るには訓練した人しか入れません。5キロより外側の住民は、500マイクロシーベルトというとてつもなく高い線量を浴びて、初めて避難することになります。

もう一つ、毎時20マイクロシーベルトという基準があります。1週間かけて避難するという基準なのですが、こちらも 0.6マイクロシーベルト/hに比べるとかなり高い線量です。被曝を甘く見ていることが分かります。


避難路の確保は事故が起きてから⁉

Q5 川内原発では避難路の確保が不十分で準備不足の感が否めませんね。

満田: 市民団体の検証によれば、避難の際の集合場所が高潮の影響を受けやすい場所にあるとか、想定された避難路が津波による高潮をかぶりやすい場所に設定されているという問題も指摘されています。

10~30キロメートル圏にある医療機関や社会福祉施設は、自分たちで避難計画をつくらなければならないとされています。ところが、ほとんどの施設で避難計画が立てられていないことも分かっています。事故が起きてから逃げる場所を決めることになるのです。

鹿児島県知事は10キロメートル圏以遠の要援護施設の避難計画は必要がないとまで語っていましたが、住民の怒りを受けても「10キロメートル圏以遠については事故が起きてから調整すればよい」と述べています。

いま決められている避難計画では、原発周辺の住民の多くは鹿児島市に逃げることになっています。鹿児島市は南東の方向ですから、一番風下になる可能性の高い地域です。原発に近いいちき串木野市は、南の方に避難先を設定しましたが、冬場は北風が多い地域であるため、こちらも風下に逃げるということになりそうです。


原発に代わる再生可能エネルギーの普及を

Q6 原子力発電所の再稼働については民意とのへだたりも大きいのですが、私たち一般市民はどのように判断したらよいのでしょうか。

満田: 11月に行われた朝日新聞の世論調査では、再稼働に賛成が28%、反対が56%でした。安倍政権は先の総選挙で再稼働問題にほとんど触れず、選挙で大勝したとたんに再稼働を叫んでいます。

ところが福島事故後の対応を見ていると、原発の経済性は絵に画いた餅にすぎないことが分かります。

原発事故の賠償額や除染などの費用はすでに10兆円を超える額です。また、原発廃炉費用も巨額なものとなっています。放射性廃棄物、いわゆる核のゴミにいたっては処分方法も決まっていません。

「原発を止めても、放射能まみれの建物が残り、使用済み核燃料の処分に十万年、百万年かかる。どれくらいの金があっかるか全然分からないまま、政府と電力会社は、これらを国民に知らせずにきた。どうにもならなくなり、国民に負担をまわしている」とは京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんが語っています。

現在、川内原子力発電所は、工事計画と保安規定について審査中という段階です。工事計画については数万ページもある書類を審査しなければならないので、まじめに審査をすればかなりの時間が掛かるはずです。

原子力規制委員会はこれまで重要な審査をいくつも先送りしてきました。審査の基準となる地震の強さも引き上げられたのですが、施設がそれに十分適合しているかどうかの審査は工事計画認可で行います。火山の巨大噴火についてもモニタリングがどこまで可能なのか、また火山の巨大噴火の際に核燃料棒をどのような方法で抜いて安全に制御するのかなど、すべてを先送りしている状況です。

原子力発電所の再稼働では、審査書案についてパブリックコメントの募集が行われます。少しでも疑問があったら、どしどし意見を上げてほしいと考えています。国民的な議論なしに再稼働を認めてしまえば、そのツケは後世の人たちに残るのです。

原発再稼働は、並行して進む再生可能エネルギーの買い取り制度を骨抜きにする動きと決して無関係ではないと考えています。いま全国の3分の1の自治体で、原発再稼働反対と再生可能エネルギーの促進に向けた意見者採択の動きが始まっています。このうねりを全国に広めていけたらと強く願っています。(2015年1月)


国際環境NGO FoE Japan と満田夏花さんについて

http://www.foejapan.org/about/organization.htm
FoE Japanは、地球規模での環境問題に取り組む国際環境NGO。世界74カ国に200万人のサポーターを有する Friends of the Earth International のメンバー団体として日本では1980年から活動を続けている。満田夏花さんはFoE Japan理事、メコン・ウォッチ政策担当スタッフ。(財)地球・人間環境フォーラム主任研究員を経て、2009年より国際環境NGO FoE Japanにて、森林問題、国際金融と開発問題に取り組む。3.11原発震災以降は、脱原発・持続可能なエネルギー政策の実現に向けた各種活動に従事。

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