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被災地の子どもたちに‟教育の機会”を!
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが「被災地・子ども教育調査」報告会所得格差が教育格差を生まない社会を目指す、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン。このほど三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱などの支援を受け、「被災地・子ども教育調査」を行った。その結果、被災地では家庭経済の悪化により、アルバイトをする子が増える一方で、学習塾・習い事を断念する子も多く、結果として教育機会を奪われる子どもたちが増えている実態が明らかになった。報告会の模様をレポートしたい。
震災後、年収250万円未満の世帯が約8%増加
この調査は、2014年5月から9月にかけて岩手県、宮城県、福島県に住む被災家庭2,338件(調査対象は、中学生から高校生の子どもたち1,987件、保護者2,338件。チャンス・フォー・チルドレンの「教育クーポン」応募者、東日本大震災復興支援財団の「学べる基金」奨学生などが対象)にアンケートを行ったもの。全国に避難中の子どもたちも一部含まれている。なお、報告は調査に協力した三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社研究員の喜多下悠貴さんが行った。
○回答者の世帯収入状況
世帯収入は、平均値で358.9万円、中央値で356.6万円となりました。世帯人数は平均4.2人でした。回答者の収入区分は、給与収入のみが71.7%、給与以外あり(自営業所得等)が28.3%でした。
○被災の状況
住宅被害を受けた子どもは2,264人(91.5%)となり、全壊の子どもは1,042人(42.1%)となった。父親が死亡または行方不明の子どもは38人(1.5%)、母親が死亡または行方不明の子どもは13人(0.5%)であった。
1.家庭の経済状況について
正規就業が9.4ポイント減、非正規就業が7.0ポイント増
○震災前後の雇用形態の変化
父親の正規就業(正規雇用職員、自営業または家族従業員)の割合は、震災前後で9.4ポイント減少した。父親の非正規就業割合(派遣社員・契約社員・嘱託、パート・アルバイト、無職) の割合は、震災前後で7.0ポイント増加した。
○震災前後の世帯収入の変化
東日本大震災前後の世帯収入を比較すると、全体として震災後に収入が減少していた。 特に、世帯収入250万円未満の低所得家庭は、8.3ポイント増加(28.4%→36.7%)していた。
○人的被害別の収入変化
人的被害別に震災前後の収入変化をみると、父または母が死亡もしくは行方不明となったケースで、収入が減少している割合が高くなっていた。人的被害の有無と収入変化が密接に関連していることが分かる。
2.放課後の教育格差について
経済的な理由で塾・習い事に通えない子どもが約75%(全国平均約39%)に
○所得と学習時間の関係
相対的貧困世帯の子どもとそうでない世帯の子どもでは放課後の学習時間に差が見られた。放課後に「宿題以外の学習を全くしない」と答えた子どもは、相対的貧困世帯の子どもの方が7.9ポイント多かった。
○所得とアルバイトの関係
相対的貧困世帯の子どもは、そうでない世帯の子どもと比較して、アルバイトをしている子どもが6.1ポイント多かった。
○アルバイトと学習時間の関係
定期的にアルバイトをしている子どものうち、家庭での学習時間をとっていない子どもの割合は49.7%にのぼることがわかった(アルバイトをしていない子どもの約2倍)。
○通塾と習い事の状況
相対的貧困世帯の子どもの方が、そうでない世帯の子どもと比較して通塾率が9.1ポイント低いことが分かった。相対的貧困世帯の子どもの方が、そうでない世帯の子どもと比較して習い事や学校外のクラブ等の活動をしている割合が7.1ポイント低いことが分かった。
○塾や習い事に行かない理由
今回の調査対象者のうち、経済的な理由で学習塾や習い事に行くことができない子どもは75.0%であり、内閣府調査38.8%よりも、36.2ポイント高かった。
また、全国の相対的貧困世帯の子どもと比較したところ、経済的な理由で学習塾や習い事に参加できない子どもの割合は、今回の調査対象者の方が20.3ポイント高かった(内閣府調査:54.7%)。
3.進学先の理想と現実について
理想と現実の谷間で悩みを深める親と子どもたち
○進学の理想と現実(子ども)
専門学校、短期大学、大学などの高等教育機関までの進学希望者の割合は、理想よりも現実の方が12.0ポイント(理想80.4%、現実68.4%)低い結果であった。理想よりも現実を低く見積もる傾向が明らかになった。
○現実的な進学先の理由(子ども)
現実の進学先の理由として、「経済的な余裕がないから」と答える子どもの割合は、全国よりも今回の被災地調査の方が9.1ポイント多い結果となった(※中学3年生のみで比較)。理想よりも現実の進学先を低く見積もる理由として、「経済的な余裕がないから」と答える子どもの割合は43.3%となった。
○進学先の理想と現実(保護者)
今回の調査対象者は、全国調査と比較しても子どもの進学に対する理想は高いが、現実的には大学等への進学を断念している割合が高いことが分かった。
○現実的な進学先の理由(保護者)
現実的な進学先を「経済的な余裕がないから」と答えた保護者の割合は、全国調査では12.2%であったが、今回の調査対象者では36.8%と、被災家庭の方が24.6ポイント高いことが分かった。また、全国の相対的貧困世帯と比較したところ、被災家庭の方が現実的な進学先を「経済的な余裕がないから」と答えた割合が9.1ポイント高かった。
4.調査結果のまとめ
喜多下研究員は、今回の調査を以下のようにまとめた。
①被災家庭の経済状況はまだ十分に回復していない
被災を発端とする人的被害や親の雇用状況の変化等により、震災後4年が経とうとする現在においても、家庭の経済状況は十分に回復していない。
②所得の格差が教育機会の格差につながっている
被災による家庭の経済状況の悪化は、アルバイト就業による家庭学習時間の減少や、学習塾・習い事等に通うことを断念するという形で、子どもの教育機会の格差につながっている可能性が示唆された。
全国調査と比較すると、学習意欲が高い子どもが多いにもかかわらず、経済的な理由によって学校外教育を受ける機会が失われている状況がみられた。
③所得の格差は希望の格差にもつながっている
被災地の調査では、全国調査と比較して子ども・保護者ともに現実的な進学先を低く見積もる傾向があった。現実的な進学先を低く見積もるのは「家庭に経済的な余裕がない」から、という理由が、保護者のみならず、子どもに対しても広く浸透している実態が明らかとなった。所得の格差によって、子どもたちが自ら希望を押さえこんでしまっていることが懸念される。
なお、この調査は、東日本大震災で被災した子どもたちが置かれた状況やニーズを把握することで、子どもたちの状況に応じた適切なサポートを行うことを目的に行ったもの。アンケート調査および集計には公益財団法人東日本大震災復興支援財団、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、中室牧子慶応大学総合政策学部准教授が協力した。
●喜多下 悠貴さん(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 研究員)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社でソーシャルビジネス支援プログラムに参画し、チャンス・フォー・チルドレンへのプロボノ活動に携わる。
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被災した子どもたちに教育支援を
あいさつに立った、チャンス・フォー・チルドレンの代表理事 今井悠介さんは、震災から4年が経ち、被災地では震災のダメージから回復した家庭とそうでない家庭の間で次第に「格差」が広がっていると語った。大学進学費用の援助や、放課後の学習機会を保障するための教育支援は、さらに重要度を増しているという。
被災地の支援では、非日常のイベント支援よりも日常の生活支援がますます大切になっており、中でも生活困窮家庭に対する支援が急務となっている。
また、被災地で起きている課題のベースには、所得格差によって学ぶ機会の格差が生まれる日本全体の社会構造があり、今後も被災地の子どもたちに寄り添いながら、貧困が次世代に連鎖しない社会のモデルづくりに取り組みたいと抱負を述べた。(2015年3月)
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンとは
経済的な理由によって学校以外での教育を受けることができない子どもたちに塾や習い事などのサービスを利用できる教育バウチャーを提供している。阪神淡路大震災を契機に活動を始めたNPO法人ブレーンヒューマにティーを母体に設立し、東日本大震災後、東北での活動を開始した。これまでに総勢845人の子どもたちに教育バウチャーを提供してきた。
http://cfc.or.jp/activity/
お問い合わせ先:E-mail info@cfc.or.jp
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