国内企業最前線

シリーズ:未来につなぐ復興③日本と被災地のために。心と体の“健康への支援”はこれからが本番です。

サノフィ・ジャパングループの取り組み

東日本大震災から丸4年。多くの企業が被災地支援から遠ざかる中で、いまも地道な活動を継続している企業がある。外資系のヘルスケア企業であるサノフィ株式会社もそのひとつ。サノフィ・ジャパングループとして震災直後から続けてきた社員のボランティア活動は、被災地の復興ニーズに合わせて、どのように進化を続けていくのか、CSRの責任者に聞いた。

社員ボランティアによる泥のかき出し作業(2011~2012年)

社員ボランティアによる泥のかき出し作業(2011~2012年)

Q1 東日本大震災はヘルスケア企業サノフィの事業にどのような影響をもたらしましたか。

本山:サノフィ・グループは、フランス・パリに本社を置くグローバルなヘルスケア企業です。世界の約100か国に拠点をもち、約11万人が働いています。

日本においては、2006年に発足したサノフィ株式会社をはじめとするサノフィ・ジャパングループの各社が、「日本の健康と笑顔に貢献し、最も信頼されるヘルスケアリーダーになる」というビジョンのもと、患者さん中心志向に基づき、予防と治療における製品とサービスの提供を行っています。サノフィ(株)では約2,700人が働いています。

サノフィ株式会社 渉外本部CSR推進部 本山 聡平様

サノフィ株式会社 渉外本部CSR推進部 本山 聡平様

私どもはヘルスケア企業ですから、生命や健康に対する強い思いが、社員の中に共有されています。東日本大震災のような厳しい状況においても、まずは医療機関に医薬品をきちんと安定的にお届けするという本来の使命を果たすことに全力で取り組みました。

ただ、この震災は事業継続に対する見直しを図るきっかけとなりました。危機管理の基準はありましたが、さらに実効性の高いものにしていくため、たとえば医薬品製造、物流、薬の問い合わせに対するコールセンターの事業継続プランなどの大きな見直しを進めました。ヘルスケア企業の業務というのは、どんな状況でも休むことなく続けなければならないという使命感がありますから……。

Q2 震災直後から被災地での社員ボランティアに率先して取り組まれてきました。社内ではどのようなきっかけがあったのでしょうか。

本山:東日本大震災の発災直後、日本法人の当時の社長から「自分たちの安全と事業継続にめどが立ったら、被災地の支援に移ろう」という檄が飛ばされました。

サノフィ・ジャパングループには、「会社は社員とともに成長していく『家』である」というLa Maison(ラ・メゾン)の理念とともに、ソリダリティ(連帯)という信条が根づいています。

グループ内の連帯だけでなく、世界の人々との連帯をうたったものですが、2010年のハイチ地震、2011年のニュージーランド地震などの天災による被害に対して世界から人道支援を行ってきました。

先の東日本大震災でもグローバルのサノフィから日本に対する寄付や支援が寄せられています。震災孤児となった子どもの心のケアをする「あしながレインボーハウス」に2,000万円の寄付をお届けしました。

震災直後に行った国内の募金活動では、社員から1,900万円を超える募金が寄せられました。これに会社がマッチングし、最終的に総額4,200万円を日本赤十字社に寄付しています。事業をとおして社員自らが成長し、会社の成長だけでなく社会に貢献できるような職場環境づくりを目指してきたことも背景にあるのかもしれません。

Q3 ボランティア活動に対する理解とそれを育む土壌が培われていたわけですね。

本山:3月11日に震災が起き、それから2週間くらいは被災地に医薬品を届けるという本来の業務や社内の体制を整えるという猶予が必要でした。3月末にはどうにか落ち着きを見せてきましたので、被災地の情報収集にあたりました。

被災地の自治体などのサイトをのぞくと、他県からの支援を受け入れる自治体はほとんどありません。唯一受け入れていたのが石巻市でした。

ところが、交通機関の多くがストップし、現地にたどり着くだけでも容易なことではありません。ある日、仙台市の駅前で発災直後から休業していたホテルが営業を始めるという情報が届きました。開業初日に電話を入れ30部屋を抑えることができました。バスはJTBにお願いして確保し、4月末から5月初めのゴールデンウィークに第一陣30名、第二陣43名からなる2度の社員ボランティアを石巻市に送ることができました。

石巻市で私どもが担当した地域の復旧作業を受け持っていたのが一般社団法人ピースボートの災害ボランティアセンターでした。私どもがバス2台で乗り込んだものですから、相当驚かれたようです。企業が送ったボランティアの中では早かった方だと思います。

La Maison(ラ・メゾン)の理念のもと、被災地で行われた多彩な復興支援活動

La Maison(ラ・メゾン)の理念のもと、被災地で行われた多彩な復興支援活動

以来、被災地支援の取り組みをCSR活動の一環と位置づけ、「Work for Japanプログラム」として進めています。2011年には、サノフィ・グローバルの協力NGOである「ケア・インターナショナル」の日本支部とも連携し、宮城県石巻市、東松島市、岩手県大槌町、山田町などで災害救援ボランティア活動を行ってきました。この4年間で400人以上の役員、社員がプロジェクトメンバーとして参加しました。

Q4 印象に残る支援があったらご紹介いただけますか。

本山:岩手県大槌町に小槌神社という神社があります。沿岸部の皆さんにとっては神社の祭礼は生活文化の一部ともいえるもので、信仰は精神的な支えになっていました。

震災に負けずなんとか例大祭を継続したいと立ち上がった小槌神社の社人会の方々がお祭りで身に着ける礼服(白装束)を購入するための寄付を募っていることをWebサイトで知り、社内で寄付を募りました。秋の例大祭の際にはボランティアの終了後私どももお祭りに一緒に参加させていただき、それがご縁で毎年、大槌町でのボランティアを続けています。2013年からは山車の引手のボランティアを行い、式典衣装を着た方々の活躍を間近で拝見しています。

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また、石巻市ではピースボート災害ボランティアセンターが編集発行している『仮設きずな新聞』の配布のお手伝いを続けてきました。仮設住宅のドアを一軒一軒ノックし「こんにちは。仮設きずな新聞を届けに来ました」という形でお邪魔をするのです。

そうすることで、個別の被災者が今どのような暮らしぶりをされているのか、被災者の体調はどうなのかも分かります。私どもの社員の半数は医療関係者に薬の情報をお届けするMR(Medical Representativeの略。医薬情報担当者)ですから一般の方に比べれば専門知識も持ち合わせているので、健康面に関してはお話をより深く理解することができます。

震災後、各地のコミュニティがバラバラになり、仮設住宅に入ってからはご近所と話をする機会もめっきり減ったという方もいます。高齢者の中には外にでる機会そのものも減り、生活不活発病になりやすい状況が生まれています。また仮設住宅の住環境は必ずしも良くないため、熱中症を発症したり慢性疾患を悪化させたりする方も多くいらっしゃいます。こうした疾病の予防に役立つパンフレットなどもご興味のある方にお渡しするようにしています。

『仮設きずな新聞』を届けている石巻市の仮設住宅

『仮設きずな新聞』を届けている石巻市の仮設住宅

Q5 被災地の人々との連携に加え、NGO/NPOなど新たな連携も広がっていると聞いています。

本山:石巻市でのボランティア活動のご縁からピースボートの災害ボランティアセンターの皆さんと出会い、その後、民間防災および被災地支援ネットワーク(CVN)に加わって活動するようになりました。またCVNでのご縁から本社のある新宿地区の企業のCSR担当者のネットワークである「新宿CSRネットワーク」にも参加するようになりました。復興支援の活動を通じてご縁がどんどん広がってきていると感じています。

今年の3月14日~18日には、第3回国連防災世界会議が仙台で行われます。3月16日にはCVNが主催するパブリック・フォーラムが開催され、民間連携で進める今後の防災・復興支援活動について、CVNとしての行動宣言を行う予定です。私もパネラーの一人としてサノフィ・ジャパングループの復興支援と防災の活動について紹介を行う予定です。

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また、これまでの活動を通じて、水産加工業者さんや自治体関係者の方々とも知りあう機会が増えています。ある地方自治体の健康福祉関係の部署の方たちとは住民の健康管理に向けた連携の動きも始まろうとしています。

震災から4年が経った今、ヘルスケア企業の支援の活動として求められるのは、被災者の心と体の‟健康支援”であると考えています。

Q6 首都直下型地震などに備える動きも始まっています。サノフィ・ジャパングループではどのような取り組みが始まっていますか。

本山:被災地から得た学びを今後の防災にどのようにつなげていくのかという課題があります。これまでの教訓をサノフィ・ジャパングループの企業文化の領域にまで高めていけたらと考えています。

サノフィ・ジャパングループでは、先の震災後BCP(Business Continuity Planの略。事業継続計画)の見直しを行い、専任のBCM(Business Continuity Managementの略)組織を発足させてきましたが、本業の事業継続と災害支援を分断させるのではなく、事業を守り、社員を守り、家族を守る、というその先には本社のある新宿地域やもっと広い被災地との連携がなければなりません。

今、被災地では、震災の教訓の風化が心配されています。サノフィ・ジャパングループでも、3月11日にサノフィの東日本大震災復興支援の取り組みである「Work for Japanプログラム」と社内の防災の取り組みを紹介し、自分事として考えてもらうイベントを行います。

震災から4年目の3月11日に開かれたサノフィ・ジャパングループの社内イベント。                  同社の東北復興支援活動である「Work for Japanプログラム」と「危険予知トレーニング」が行われた。

震災から4年目の3月11日に開かれたサノフィ・ジャパングループの社内イベント。                  同社の東北復興支援活動である「Work for Japanプログラム」と「危険予知トレーニング」が行われた。

このイベントは「自ら考え、自ら行動する」という社員のマインドセット醸成の取り組みである「SHINKA」活動の一環として行われるものです。「SHINKA」には、進化、深化、新化、真価、新価などの意味が込められています。事業の継続に加えて、防災・災害復興支援においても「自ら考え、自ら行動する」社員一人ひとりのマインドが強く求められています。

●サノフィ株式会社

http://www.sanofi.co.jp/  

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