企業とNGO/NPO

NPOの若手リーダー48名がビジネス・スキルを学ぶ

「アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー2015」開催

全国の若手NPO職員を対象とした次世代リーダー育成プログラム「アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー」が今年も開催された。7回目を数える今年は、参加人数もこれまでの30名から48名に拡大。2泊3日の盛りだくさんの研修から「道端留学」と最終日の「プレゼンテーション」の模様を伝えたい。

修了書をもって集合したアカデミー参加者

修了書をもって集合したアカデミー参加者

すでに研修生144名が全国各地で活躍

3日間の研修カリキュラムは、日本におけるイノベーション研究の第一人者である米倉誠一郎・一橋大学教授によってNPO向けに設計された独自のもの。地域の課題解決や震災被災地での復興支援で重要な役割を果たすNPOやNGOなどの基盤強化と、地域や活動分野を超えたネットワーキングと協働推進の2つを目的としている。

2009年に開始した本研修は今回で7回目。これまでに参加した研修生144名は28都道府県に及び、今年の研修生48名が加わると、そのネットワークは全国32都道府県の192名に拡大する。

参加者は公募および中間支援組織等からの推薦を経て選考され、リーダーシップやビジネス・スキルを各分野の専門家たちから直接学ぶほか、8つのグループに分かれて、「社会的課題解決のためのクラウド・ファンディング・プロジェクトを作成せよ」という課題に取り組んだ。


道端留学

夜の新宿・池袋で『ビッグイシュー』を販売

「ビッグイシューです。350円から社会貢献ができます」という声が聞こえてきた。時刻は金曜日の18時すぎ。ここ新宿界隈では、春を思わせるほど温かかった日中の天候が、夜に入ると急激に冷え込んできた。

2人1組で、新宿の街角に立った研修生たちの声も、寒空の中、足早で家路へと急ぐ通勤客たちにはなかなか届かず、足を止めてくれるまでにはいたらない。だが時折、「きみも路上生活者なの」「何でビッグイシューを売っているの」と不思議そうに声をかける人もいる。

この夜の研修は、『ビッグイシュー』の販売をとおして街ゆく人々と触れ、生身の人間を説得して販売することの難しさを知ること。「道端留学」は、「アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー」で伝説の名物カリキュラムとなっている。

この日、新宿西口で若手リーダーたちのビッグイシュー販売に立ち会った㈲ビッグイシュー日本の販売サポート兼広報担当の長崎友絵さんは、「参加された方からは『道端に立って実際に雑誌を売ってみると、見ないふりをされたり、声をかけても振り向いてもらえないという経験をしたりして、街の見え方ががらっと変わりました』という声をよくお聞きします」と語る。

そうした貴重な経験をとおしてビッグイシューの販売者である路上生活者やビッグイシューの事業に対する見方もおのずと変わってくるようだ。参加した研修生はいつともなく、「熱心な応援者になって下さる方もいるんですよ」と長崎さん。

目の前で30代とおぼしき男性が350円を出して、ビッグイシュー1冊を手にして立ち去った。別の場所で2冊を販売した女性研修生に聞くと、「びっくりしました。本当に売れるんだと……買ってくれたのはいずれも年配の女性でした」と喜びを隠さない。「どなたも、1冊売れる喜びは格別だとおっしゃいます。その体験も大きいと思います」と長崎さんは言う。

道端留学で、ビッグイシューの販売を行う (新宿で)

道端留学で、ビッグイシューの販売を行う (新宿で)

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クラウド・ファンディングの仮想プロジェクト

8つのチームが課題解決策を競う

「アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー」では、毎回のように参加者たちがチーム分けされ、与えられた課題にどのような解決策を導くかが競われる。

チームに分かれて課題解決策のプレゼンテーションに取り組む

チームに分かれて課題解決策のプレゼンテーションに取り組む


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今年のテーマは「クラウド・ファンディングを活用したプロジェクト」の提案となった。48名の参加者が8つのチームに分かれ、グループワークに取り組み、最終日に審査員および過去の研修生の前で各グループが発表プレゼンテーションを行う。一番多くの共感を集めたプロジェクトには優秀賞が贈られる。

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審査員は、米倉誠一郎さん(総合監修)、宮地勘司さん(株式会社教育と探求社)、並河進さん(株式会社電通)、エディ操さん(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. 広報副社長)、高橋陽子さん(公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長)の5名だ。

今年は8つのプレゼンテーションの中から以下の4つが受賞した。


アメリカン・エキスプレス賞

テーマ:児童養護施設の退所者の新生活を支えるコミュニティをつくりたい

チーム名「ダイバーシティ」

児童養護施設というのは実の親が子育てできなくなった子どもを18歳まで預かる施設です。この写真は施設の子どもたちの寝室です。雑然としているだけでなく、プライベートにくつろげるスペースさえありません。私たちが育ってきた環境との違いに衝撃さえ受けます。

児童養護施設は全国で600か所ほど。3万人くらいの子どもたちがそこで生活しています。背景には親による虐待があります。施設に入る子どもの6割近くは虐待が原因といわれています。

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施設の職員一人に対して子どもの数は16人。ところがこの施設でさえ、18歳を過ぎると出なければなりません。自己責任で生きなければならないのです。そうした子どもたちの1割がホームレスになると言われています。

この子たちにできることはなにかと考えた結果、この子たちの日常の暮らしの相談に乗り、支援する組織が必要だと分かりました。18歳以降の子どもたちが施設から退所したあと、社会に橋渡しする仕組みです。

1つは、「退所者向けオンライン上のコミュニティ」をつくろうと考えました。18歳を超えた子どもたちに最初にここに登録してもらいます。子どもたちが気軽に相談したり、交流できる場を提供します。

オンラインだけでつなげないものはNPOなどでも対処します。1ST ステップでは最初のつながりをつくっていきます。目標金額は200万円。クラウド・ファンディングだけで200万円はかなり厳しいので、応援してくれる人を探しました。今回の企画では、一つのアイデアとして、児童養護施設出身のシンガーソングライター川嶋あいさんを想定しました。 (川嶋あいさんの歌声が会場いっぱいに流れる)」

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審査委員からのコメント

児童養護施設の子どもたちが社会に出る段階できちんとケアするという着眼力を評価したい(宮地)、よく練られた企画で、本気度が伝わってきます(並河)、具体的なところが評価できる。ぜひやってほしい(エディ)、高齢者のお年寄りにも支援する側に回ってもらったら、応援されるだけじゃなく、応援するというのも大切です(高橋)、7年前の1期生で「18歳の春を泣かせない」という同じテーマがありました。退所する人たちのつらさに共感をもちました。こんな取り組みがネットでできる時代になったのですね(米倉)


審査員賞

テーマ:70万人のもやし農家計画

チーム名「ももたろう」

もやしをどこまで知っていますか。栄養がある。生長が早い。私たちはもやしを使って、「社会を変えよう、引きこもりを救おう」と考えました。

内閣府の調査では引きこもりは70万人に及ぶと言われています。ところが引きこもりは、いわゆる障がい者支援の対象ではありません。最近、ようやく家庭訪問 (アウトリーチ)などの支援が行われるようになりましたが、1訪問に2万円、月2回で4万円もかかります。この分野は人材育成も未成熟です。家庭の問題ですから相談しにくい分野です。

アウトリーチはいわゆる北風的な支援ですが、これを太陽的な支援にできないかと考えました。そこで考えたのが3つ。1つめは引きこもりの方に野菜栽培キットを配布し、もやしを育ててもらいます。もやしは1週間でできます。

2つめはWEBを利用したコミュティサイトの運営。野菜の生長日誌なども掲載します。もやしを使った料理のレシピも発表します。
3つめは仲間たちのオフ会の開催です。つくった野菜自慢などを行います。

誰かに食べてもらうことで、仲間と共感できる場が生まれます。これで社会への復帰を応援します。11月11日はもやしの日ですが、交流会も計画しています。

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収入は、クラウド・ファンディングで200万円、広告収入で60万円を集めます。この運営に250万円くらいかかる予定です。

審査委員からのコメント

洗練された提案。大きなビジネスになる可能性を感じました (宮地)、発想が面白い。お手伝いしたいと思いました(並河)、もやしの日のイベントにぜひとも招待してください(エディ)、野菜キットは1年目は無料だけど、2年目はどうなるの。「お金をとる」という回答に「了解」と答える(米倉)


チーム賞

テーマ:修学旅行×じじ・ばば団地泊

チーム名「ブルーオーシャン」

振込詐欺は年間559億円にも及んでいます。ダルビッシュが110人くらい雇える金額です。たった1つだけ撃退方法があります。留守電にするのです。

新宿区に戸山団地があります。限界集落といってもよいくらい高齢者の多い団地です。7,000人の住民のうち3,500人が65歳以上です。

メンバーの一人が宮城県の多賀城市から来ました。彼女の団地のイメージは家族が団らんするイメージです。ポジティブなイメージしかありません。じじ・ババしか住んでいない団地というのはある種の異文化です。

これを魅力的な観光資源として活用できないかと考えました。実は彼女は修学旅行で国会議事堂や東京タワーに初めて来たそうですが、修学旅行で戸山団地に来るというのはいかがでしょうか。

修学旅行1泊団地泊。東京の最新リアルを宮城県多賀城市の中学生に体験してもらおうという旅です。子どもたちが団地に泊まる際に留守電の設定なんかも教えるようというわけです。多賀城市の子どもたち400人が3,500人の高齢者宅に分泊します。その際、希望者に詐欺撃退機能の付いた電話を贈ります。1台2万円×50人で100万円で購入できるので、クラウド・ファンディングで100万円募集します。

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審査委員からのコメント

チーム内のスタッフの化学反応がすごい。企画は荒いがチームワークがよい (並河)、宿泊させると高齢者に経済メリットもあるのはよい(エディ)、じじ・ばばは留守番電話にしたくないはず。電話を待っているわけですから。修学旅行から帰ったら多賀城市の子どもたちから電話をするとかハガキを書いてほしい(高橋)、修学旅行のオプションの中に入れて来年からぜひやってほしい(米倉)


グランプリ賞

テーマ:ホームエルプロジェクト

チーム名「SOKOAGE」

プロジェクト名の「ホームエル」には‟家を得る”という意味があります。いま社会問題となっているのが孤独死です。東京都内で孤独死される方は年間で約4,500人。この3分の一は親族が家財道具の引き取りにさえ現れません。孤独死の方が住んでいた住居は次の住み手が見つからず、空き家となる例が増えています。

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全国にはホームレスと呼ばれる人が2万人程度いると言われています。ところがその多くは公的な支援さえ受けていません。この問題を解決するには「金」「仕事」「家」という高いハードルがあります。先日訪ねてきたホームレスの方は、年金があるのですが、家を借りられないと言っていました。

そこで私たちは「孤独死」と「ホームレス」の問題を解決しようと考えました。引き取り手のない事故物件の家をホームレスの方に清掃してもらい、修理して、販売も行います。事故物件を扱うことで建物のオーナーともコネクションが生まれますから、ホームレスの方が住まいを探す際には、仲介の可能性も高まります。

収入としては、清掃費、家電などの遺品処分、ホームレスの方の雇用も生まれます。この分野は市場として確立されておらず、有望な分野です。

初期費用と1年間のランニングコストで300万円を見込んでいます。そのうち100万円をクラウド・ファンディングで募集します。

審査委員からのコメント

みんながハッピーになれ、ハードルもそれほど高くない(宮地)、ネーミングが分かりやすい(エディ)、税金が抑えられるという説得力が強い(高橋)、ネガティブな課題をポジティブな仕事に変えるという設計がよい (並河) (2015年3月)

●お問い合わせ先

●アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.(社会貢献サイト)
http://www.americanexpress.com/japan/legal/company/philanthropy.shtml
●公益社団法人日本フィランソロピー協会
http://www.philanthropy.or.jp/

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