CSRフラッシュ

震災の経験と教訓を仙台から世界へ

第3回 国連防災会議 パブリック・フォーラムより

震災から丸4年を迎えた宮城県仙台市で、自然災害の被害を減らすために私たちは何ができるのか話し合う「第3回 国連防災世界会議」が開かれた。未曾有の震災を経験した仙台で開催される意義は深く、震災の経験と教訓を仙台から世界へ発信する5日間となった。各国の代表者が集う本体会議の開催期間中、一般市民が参加できる「パブリック・フォーラム」から「震災から企業が立ち上がるために ~被災3県における支援機関の活動を振り返りながら~」を紹介する。(レポート:CSRマガジン仙台スタッフ 藤森有紀)
国連防災会議1

シンポジウムでは、岩手、宮城、福島3県の企業支援機関が震災後どのような活動を行ってきたか、数々の復興支援事業の報告がされた。その中から、特徴的な事例を紹介しよう。

モノ作り産業の復興拠点になった「みやぎ復興パーク」(みやぎ産業振興機構)

2011年3月11日、巨大地震の発生から1時間以上が過ぎた午後4時過ぎ、宮城県多賀城市のソニー仙台テクノロジーセンター(通称:仙台TEC)を2mほどの津波が襲った。仙台塩釜港から1.5kmも離れているというのに、敷地内には濁流と共に多くの車やがれきが押し寄せ、仙台TECは一時、創業を停止せざるを得なくなった。

同社は事業再編を余儀なくされ、ここでしか生産できない4事業を仙台に残し、他の事業所でも生産できる2事業を移管することに決めた。その結果、この2事業分の敷地(建屋7棟、延床面積32,602㎡)が遊休化することになり、これを何とか宮城県のモノ作りに役立て、地域の早期復旧に活用して欲しい、と同社から宮城県と東北大学に施設の無償貸与の申し出があったのは、震災後わずか1カ月足らずの4月だった。

もともと宮城県には産学官連携の風土がある。東北経済連合会や、宮城県・多賀城市・仙台市、そして東北大学が協議し、みやぎ産業振興機構の管理運営の下、地域のモノづくり産業の復興拠点として、同年10月、仙台TEC敷地内に「みやぎ復興パーク」が開設された。1㎡当り月額720円という破格の賃料で被災した中小企業や団体などへ仙台TECの建物が貸し出されるというしくみだ。


ソニー仙台テクノロジーセンター(仙台TEC)の敷地内で貸出される施設 出典:科学技術振興機構 「産学官の道しるべ」ホームページより

ソニー仙台テクノロジーセンター(仙台TEC)の敷地内で貸出される施設
出典:科学技術振興機構 「産学官の道しるべ」ホームページより

開所後、印刷業や精密機械製造業、食料品製造業、授産施設など、多くの企業が入居した。現在入居する東北大学の「次世代移動体システム研究会」は、減災・防災に向けた研究や、自立走行ができる電気自動車の開発などをここで行なっているという。また、LED照明を使ってレタス栽培の実証試験を行う植物工場なども入居した。仙台市内の工場が被災した株式会社昭特製作所(本社:神奈川)は、みやぎ復興パーク開所翌年の2012年3月に入居、金属材料規格試験片の研究開発などを行いつつ自社工場の修復工事を行い、今ではパークを巣立っている。

平成27年1月現在、みやぎ復興パークには29団体が入居している。本来は、各社とも自社工場の再建が目標であることを考えると、むしろ早くこの施設を卒業する企業が多くなることが喜ばしいことかもしれない。しかし、この施設をきっかけに、産学官の新しい連携や、災害時の復旧・復興の有り方が示されたことは大きな意味があっただろう。また、地元の多賀城市では、この取り組みを今後の減災関連事業に役立てていきたいと考えているそうだ。

連携都市ネットワークが救う販路開拓(仙台市産業振興事業団)

仙台市内には約45,000の事業所がある。1978年の宮城県沖地震(マグニチュード7.4、最大震度5強)以降、仙台市は建物の耐震性を高めるなど防災・減災に取組み、東日本大震災では、大規模地震の割には建物被害が少なかった。その為、被災後早めに業務再開を果たした企業も多かったが、ほんの数週間でも商品の供給が途絶えた影響は大きかった。取引先では、他地域からの仕入れに切り替えたり、売場の陳列棚を別の商品やブランドに奪われるなど、仙台地域の企業の多数は、販路喪失状態となっていたのだ。

こうした状況の中、京都市より仙台市に対して販路開拓を支援したいとの申し出があった。これをきっかけに、仙台市は仙台市産業振興事業団が旗振り役となって、他都市の中小企業支援機関と連携して販路を開拓する事業を推進。各都市で開催される展示会への出展を後押ししたり、ビジネスマッチングを行なったり、他地区の関連企業(見込客)に向けてプレゼンテーションを行う機会を設けたりするというものだ。

仙台市産業振興事業団の担当者は言う。「こうした事業では、連携する都市とのネットワークが非常に大事です。各地の担当者と日頃からよくコミュニケーションを図り、繋がりを維持していくことで、例えば展示会や商談会に関係のありそうな企業を連れてきてくれたりするのです」。災害の時だけではなく、平時からの信頼関係の醸成が大事だということだ。

平成26年度現在、仙台市産業振興事業団は、札幌、埼玉、川崎、名古屋、京都、堺、神戸、北九州の8都市の中小企業支援機関と連携関係が結ばれている。災害大国と言われる日本。こうした地域連携による互助はこれからも益々大事になっていくだろう。

平成26年度 仙台市の震災復興都市間連携都市

平成26年度 仙台市の震災復興都市間連携都市

原発災害に特化した中小企業特別資金(福島県産業振興センター)

周知の通り、地震後の津波による原発事故により、原発周辺の企業は移転を余儀なくされた。が、移転にはそれなりの資金が必要だ。取るものも取らず避難した事業者に、余裕がある筈もない。そこで震災から3カ月足らずの2011年6月1日、福島県産業振興センターは「原発災害対策特別融資チーム」を結成し、避難区域から移転した企業向けに特別資金制度を始めた。

被災区域から福島県内の別の場所へ移転する企業や、後に避難解除区域となった地域で事業を再開する企業向けに、無利子・無担保で3,000万円まで融資した。制度を利用した企業は幅広く、製造業、建設業、小売業、運送・倉庫業、サービス業など偏りなくあらゆる業種に亘っている。それだけこの地域の産業がことごとくダメージを受けたことが窺える。

2012年3月に制度利用者に対して行ったアンケートでは、8割を超える事業者が「(融資金を活用して)計画通り移転し、事業を再開している」と答えている。設備投資も6割以上が「計画通りできた」と、融資が有効に活用された様子がわかる。勿論、中には「電力会社の補償が不十分で思い通りに設備を購入できない」、「二重ローンの負担が重い」、「返済開始までに完全復活できるか不安」などの声も出ている。これらの不安や要望に対して、福島県産業振興センターは、「平成28年に据置期間が終了し、償還が始まってからも、資金繰りを含めた事業継続への支援をしていきたい」と述べている。

課題解決型のオーダーメイド支援(いわて産業振興センター)

岩手県内の被害も甚大であった。特に沿岸部では水産業を中心に、津波で水産加工施設が流出した企業も多かった。いわて産業振興センターでは、300社を超える企業への巡回訪問相談に始まり、震災関連サイトでの情報提供(中古設備の“譲ります”、“譲ってください”)や、貸工場の紹介、経営支援など、考えられるあらゆる支援を行った。その中でも特筆すべきなのが、「オーダーメイド支援」、つまり、被災事業者のニーズに応じた支援だ。

津波により全壊・流失したある水産加工会社は、事業再開の為にやっと見つけた中古の加工設備を千葉県から岩手県まで運搬する費用に困っていた。同じく、津波で事務所が全壊した業者は、事務所と工場、冷蔵庫の当面のレンタル費用の捻出に苦労していた。こうした、企業が個別に抱えるニーズに対し、「オーダーメイド支援」では、1社当たり50万円までの助成を行うなど、きめ細かく対応したという。

この事業で大変だったのは、どうやって被災企業の個別のニーズを把握するかということだったらしい。平常時ならともかく、緊急時に情報を集めるのは容易ではない。インターネットは元より、ライフラインが絶たれる状況で、いかに迅速に状況を把握するか、が支援の鍵になるようだ。

災害を経験したからこそ後世に伝える義務がある

シンポジウムを通して幾つかの重要な点が見えてきた。まず、企業は勿論、支援機関も日頃から事業継続計画(BCP)を立て、さまざまなケースを想定しておくこと。そして、支援の対象となる企業と支援機関は日頃から密なコミュニケーションを取っておくこと。いざ緊急時には互いが改めて連絡を取り合う努力をし、どこにどんな情報があるのかを把握することが復旧・復興への第一歩となる。

今後も私たちは、地震だけでなく、大型台風や局地的な大雨・大雪、高温・干ばつなど、地球上のいたるところで起きている自然災害に加え、伝染病のパンデミックなど新たな脅威にも備えなければならない。不幸にして東北は歴史的な大災害を経験してしまったが、経験したからこその今後への備えや、減災のノウハウを含む災害への対処法を後世に伝えていく義務があるだろう。(2015年3月)

参考:第3回国連防災世界会議 仙台開催実行委員会ホームページ

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