国内企業最前線
「メイド・“バイ”・ジャパン」の電動バイクが社会の仕組みを変えていく。
テラモーターズ株式会社の挑戦電動バイクをひっさげて世界市場で事業拡大をめざすベンチャー企業がある。設立から5年を迎えたテラモーターズだ。海外の事業経験で培った発想力と日本の技術力を結集し、日本最高品質の電動バイクを実現した。成熟産業といわれるバイク市場でイノベーションを巻き起こし、クリーンで持続可能な社会の実現を目指す、テラモーターズの皆さんに話を聞いた。
電動バイク市場の有望性:世界のバイク需要の8割がアジア
Q1 テラモーターズは電動バイク、三輪、シニアカーなどの開発・販売を行うベンチャー企業だとうかがいました。なぜ、いま電動バイクなのでしょうか。
佐藤:ベンチャーとして新たな市場に参入するには、2つの条件が必要です。1つは大手が真似のできない分野であること、もう1つはその異分野で高い技術力を誇れること。それらが参入障壁につながり、ブランド価値にもなりえるのです。
ご存知のように電動バイクの特徴は環境性と燃費の良さですが、動力源としてエンジンを使用しないため、ガソリンバイクと比較すると部品点数は約1/4と極めてシンプルです。その結果、エンジン技術関連のエンジニア、系列下請け部品会社などを多く抱える大手ガソリンバイクメーカーは参入しにくい構造となっています。
Q2 国内の大手メーカーが参入しにくい一方で、中国では言葉は悪いですが雨後の竹の子のように電動バイクメーカーが林立し、アジア市場へも進出しようとしていると聞いています。
佐藤:おっしゃるとおりです。ただし、急速に生産と販売を伸ばした中国製電動バイクは、品質の低さに加え、メンテナンスに向けたネットワークの不備や部品供給に向けたサプライチェーンが未整備であるため、市場の信頼を得るまでには至っていません。
その結果、アジア諸国では、いまだに日本メーカーのガソリンバイクが市場をほぼ独占している状況です。そこに、我々のビジネスのチャンスがあります。
世界には日本のモノづくりに対する大きな信頼があります。私たちは日本の技術者が長年にわたって蓄積してきた、日本ブランドの強みを「メイド・“バイ”・ジャパン」として継承することで、電動バイク市場のけん引役になれると考えています。企画・デザイン・マーケティング、そしてコア技術—当社の場合は電池(バッテリー)技術をテラモーターズが担い、海外各国の生産拠点と連携しながら現地ニーズに合った製品を提供する、それが私たちの考える「メイド・“バイ”・ジャパン」です。
Q3 当初からグローバル市場、特にアジアを視野に創業されたそうですが、アジア諸国におけるバイク市場の特色とテラモーターズの強みはなんですか。
佐藤:実は世界のガソリンバイクの8割がアジア諸国で販売されています。年間販売台数で見るとベトナムが300万台、インドが1,500万台を数えるなど、“庶民の生活の足”として欠かせないものとなっています。
ところがバイクの普及にも問題がないわけではありません。排気ガスの排出による大気汚染は深刻な社会問題となっていますし、この数年のガソリン価格の高騰で人々の生活を圧迫しているとも言われています。
アジアの人々に品質のよい電動バイクが提供できれば、こうした深刻な社会課題を解決に導く‟一石二鳥”の効果が期待されます。私たちにはその力が十分あると自負しています。
Q4 すでにベトナム、フィリピン、インドにグループ会社を展開しています。
佐藤:これら3国に加え、最近ではバングラディシュにも拠点を設けました。カンボジア、ネパール、イタリアには販売代理店も生まれています。
これらの地域の多くは途上国ですから、テラモーターズの電動バイクを普及させるには、価格とコスト面でクリアしなければならない課題も残っています。
社長である徳重徹は、アジアの生活水準を考えると、現在の価格を15%まで下げ、品質はさらに50%下がっても良いと語っています。
日本から現地に派遣されるテラモーターズの駐在員の意識は、現地に派遣される他の日本企業の駐在員などと比べるとモチベーションが格段に高く、一人ひとりが‟日本を背負う” 気概でバリバリ働いています。
国内の取り組み:国内トップの走行距離を誇る「BIZMOⅡ」
Q5:国内ならではの電動バイクの需要もあるようですね。国内市場に向けた戦略と具体的な商品を教えてください。
佐藤:日本におけるバイクは、他のアジア諸国のように一般の方の“生活の足”というよりも、郵便局、警察、新聞販売店、銀行、ピザ宅配、小荷物配達など、日常生活のあらゆる場面に浸透している不可欠な移動・配送手段です。
近年、こうした業界では、二酸化炭素の排出量削減に向けたニーズが高まっています。また、住宅街を移動するだけに、出来るだけ音が静かであることも重要でした。電動バイクはCO2排出ゼロに加えて、極めて高い静音性を有し、今後はガソリンバイクから電動バイクへの移行が急速に進むものと期待しています。
何よりも電動バイク普及の一番のカギは、搭載バッテリーの性能にあったわけですが、私どもでは新開発の3元素リチウムイオン大容量バッテリーを搭載した企業様向けのバイク「BIZMOⅡ」を開発し、2014年6月に発売しました。いまその普及に全力を注いでいます。
「BIZMOⅡ」の最大の特徴は、日本メーカーで唯一、100kmを超える圧倒的な航続距離です。1回の充電で航続距離150kmを実現したほか、坂道の登攀でも力を発揮しています。専用充電器なら家庭用の100V電源で5〜9時間で充電、1回の充電で150km走り、その燃料費は約60円で済みます。
開発費がかかっているため、電動バイク1台の価格は決して安いものではありませんが、私どもの試算では燃料費を含めた維持費が安いため、2年ほどでガソリンバイクを上回るコストパフォーマンスを発揮します。
【ここで徳重徹社長が合流。新たに取材を開始しました。】
日本発のメガベンチャーを目指す
Q6:改めて、徳重社長がテラモーターズを立ち上げるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
徳重:私は大学を卒業後、日本の大手企業でビジネス経験を積み、そこから海外の大学で学びなおしをするとともに、シリコンバレーで起業した経験を持ちっています。
当時もいまも、アジアに出かけると日本人に対する期待と信頼が大きいのを強く実感してきました。明治以来の近代国家建設と、戦後の焼け野原から立ち上がって世界有数の経済大国になったこと、その後ろにはソニーやホンダのようなベンチャースピリットを持った企業とそれを支えた企業人が大勢いました。
ところが現在の日本はどうでしょう。終わりの見えない閉塞感に覆われ、かつてのように世界をけん引する企業が見当たりません。日本発のベンチャー企業が世界で通用することをもう一度証明したいと考えました。
Q6 シリコンバレーや韓国、台湾、中国と比べてもわが国ではベンチャー企業の育成が遅れています。あらためて今後に向けた抱負をお聞かせください。
徳重:最近、日本でもベンチャーの役割が見直されつつあります。しかし、世界にインパクトを与える企業はまだまだ少ないのが実態でしょう。
シリコンバレーでは、「クレージーな発想ができる」と言われるのは大変な“ほめ言葉”なのですが、日本ではただの常識外れ程度にしかとらえられていません。ところが新しい事業と呼ばれるものの多くは既存の常識からはみ出すことなしには生まれません。
これまでの成功体験からか、最近の日本人は少し小利口になりすぎており、大きなリスクを取ろうとしません。リスクという言葉は、日本では‟危機”といった意味でしか使われませんが、リスクとリターンは裏表の関係です。リスクを取るから大きな見返りも生まれるのです。
良く成功するにはコアとなる何かが必要だと言います。技術や戦略はもちろん必要ですが、何よりもコアとは“何かを本気で成そうとする志”、スピリッツに他なりません。戦後に京浜工業地帯を築いた事業家の浅野総一郎は七転び八起きならぬ「九転十起」だといいましたが、常に頭にある言葉の一つです。
アップルやサムソンにできたことを、私たち日本人にできないはずがありません。日本発のベンチャー企業として、社名のTerra(地球)のとおり、アップルやサムスンを超えて、世の中に価値を与える企業となるべく、邁進します。(2015年4月)
テラモーターズ代表 徳重 徹
住友海上火災保険株式会社(現:三井住友海上火災保険株式会社)にて、商品企画等の仕事に従事。その後、米国ビジネス スクール(MBA)に留学し、シリコンバレーのインキュベーション企業の代表として IT・技術ベンチャーのハンズオン支援を実行。事業の立上げ、企業再生に実績を残す。経済産業省「新たな成長型企業の創出に向けた意見交換会」メンバー。一般社団法人日本輸入モーターサイクル協会電動バイク部会理事。
http://www.terra-motors.com/jp/i/media/2015/
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