企業とNGO/NPO
国連気候変動パリ会議に向けて交渉進む
世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の報告から2015年12月に予定されている国連気候変動パリ会議(COP21・COP/MOP11)に向けた交渉が加速しています。6日1日から11日にかけて国連の気候変動に関する補助機関会合ボン会議が開催。現地時間の6月11日午後5時過ぎに、パリ会議に向けて交渉文書の整理が進む形で閉幕しました。会議に参加したWWFジャパン小西雅子さんの報告です。
今回のボン会議では、以下の3点が注目されました。1つは、国連気候変動パリ会議(COP21・COP/MOP11)に向けて交渉文書の中身を、意見の近いものをまとめ、大きく意見の異なるものは、選択肢(オプション)として並べたりして、どこまで整理していけるか。2つめは、日本の2020年目標に対する各国との質疑応答が行なわれるか。そして3つめは、日本を含む各国の目標草案がどこまで提出されるかでした。
2020年以降の温暖化対策の
国際枠組み「パリの条約」の交渉文案の進展
2015年2月にスイス・ジュネーブで開催された中間会合で、パリで合意される条約の下書きとなる「交渉テキスト」がまとめられました。今回のボン会議では、パリに向けてどこまで交渉文書を整理していけるかが焦点でした。会議の冒頭で各国の多様な意見を反映して90ページもあったテキス トは、セクションごとに整理統合が進み、選択するべき争点が明瞭化する形にはなり、ボンで議論された結果が交渉文書に反映されました。
次に開催される8月の会合に向けて、このボンテキストを整理し、コアの条約となるパリの合意(パリ議定書になるのか、その他の名前になるのかは分かりませんが、便宜的に「パリ合意」と呼んでいきます)に入るべき内容と、その他パリ会議の後に技術的に決めていけばよい内容(COP決定などとして)とに分け、さらにパリで決定すべき内容までを含めた“総合的なパリ合意案”を、まず共同議長が作って、各国に交渉のベースとして示すことになりました。
こうして聞くと、「いったい何が進展なの???」と思われるかもしれませんが、国際交渉は、温暖化対策の約束事を法的文書で合意する、 という作業なので、合意文書の案が出て、それをベースに交渉が進んでいく、その形が整っていくことが「進展」なのです。つまり、ボン会議の結果としては、合意文書の案が整っていく方向に決まったので進展と言えるわけです。
2009年のコペンハーゲン会議(2013年以降の温暖化対策の条約に合意するための交渉が行われたが、決裂して決定ができなかった)の交渉も見てきた私からすると、各国の交渉態度は随分前向きで建設的である気がします。コペンハーゲンのときには、半年前のこの6月には、各国はばらばらに交渉文書を提出し、統合された全体文書は200ページ前後にも及び、さらに各国がてんでに主張を付け加えて、手が付けられないくらい膨れ上がっていました。それに比べると、パリに向けた今回の交渉では、各国とも非常に建設的で、少なくとも最終日には、ボンで議論された結果が反映された共同議長文書を受け入れていこうというコンセンサスがとれ、さらに共同議長に全体的なパリ合意の案を作って各国に示すことを決めることができたのです!
しかし、各国の矛盾する意見をすべて反映した合意文書案を作るというのは、非常に困難な仕事です。出来上がった共同議長案を見て、「これは受け入れられない」とまた各国が紛糾することもありえます。予断を許しませんが、まずは年末パリにおける合意が可能となるような道筋にあると言えるでしょう。
もちろん、先進国と途上国の取り組みにどのように差をつけるのか、パリ合意に書き込まれる削減目標にどの程度法的な強さをもたせるのか、などの難しい問題の交渉はまだこれからです。パリにおける年末のCO21まで、残された会合はあと2回(8~9月、10月)ですから、8月会合の前までに示される共同議長の案をもとに各国もそれぞれ国内で討議を重ねて、次の会合における交渉をなるべく有意義なものにしていく必要があります。
2020年までの先進国の温暖化対策の国際評価に日本が登場
今後の交渉でもう一つ重要なのが、2020年までの世界の温暖化の取り組みを底上げする話し合いです。その重要なプロセスとして、注目されているのが各国の2020年目標について国際的に評価するプロセスです。平たく言えば、各国の目標について、 お互いに質疑応答ができるということです。これは温暖化の国際交渉において、ありそうでなかったもので、各国の目標について、お互いに質問しあう形が有意義だなと今回改めて感じました。
これは、事前に各国が質問を出して、当該国はそれらにオンラインで回答を出し、さらに会合で直接各国からの質問に答えるという形で進められました。最初の会合は、 昨年のCOP20リマ会議で行われ、欧州連合やアメリカが登場し、今回のボン会議にはオーストラリアやカナダ、日本、それにドイツやイギリスなどが登壇しました。特に、もともと1990年比25%削減を公表していたのに、2011年に2005年比3.8%削減に目標を激減させた日本にもたくさんの質問が寄せられました。
「2020年目標は暫定目標ということだが、いつ確定目標を出すのか?」「非常に低い目標だが、 確定目標の際には上げるのか?」といった厳しい質問に、日本は「原発の再稼働が読めない中では、2020年 のエネルギーミックスが決まらないので、まだ確定目標は出せない」といった頼りない回答を返していました。
一方、賛辞を込めた質問を受けている国々もありました。総じてヨーロッパの国々は、欧州連合としてもっている全体目標をどのように各国で分けて実行しているのか、といった質問が相次いでおり、温暖化対策において欧州連合各国がリーダーとして見られているのだということを改めて感じさせました。
特にドイツに対しては、各国が口々に「再エネや低炭素社会つくりにおいて、いい例を示してくれていてありがとう」などの賛辞とともに質問をしているのが印象的でした。なんと中国も「ドイツはよいモデルを示してくれて感謝する」と述べていたのです! 各国がこぞって聞いたのは再生エネルギーの奨励策、ドイツは明確に今後も再生エネルギーの導入を進めると回答し、量を稼ぐやり方から、だんだん市場にゆだねる方向へ舵を切っていると説明していました。
試行錯誤をしながらも、再生エネルギーの意欲的な導入など低炭素社会へ向かって進もうとしている国には、批判はあっても世界は敬意を払うのだという感想を持った次第です。
世界の5分の1の国が2020年以降の目標草案を提出、
日本の2030年目標草案も公表
ボン会議の前に2020年以降の目標草案を出していた国は、アメリカや欧州連合(28か国)など38の国と地域で、会期中にはモロッコとエチオピアが提出して、世界の5分の1が提出しました。その他ペルーなども国内で目標草案を発表し、まだまだ提出国は少ないものの、機運は高まってきました。その中で、日本もG7で安倍首相が、日本の2030年目標、2013年度比26%削減を発表し、ボン会議でも公表されました。
ボン会議の1週目と2週目に、各国が目標草案の取り組みについて発表する機会が設けられており、すでに目標草案を提出しているメキシコやアメリカなどが発表した後、日本も2週目に登場して、目標草案が公平で野心的であると説明しました。このときは発表したすべての国に機械的に拍手が送られていましたが、日本の目標草案に対しては、世界の市民社会から強い非難が集中しました。
理由は、日本の目標草案がアメリカや欧州連合と比して遜色ないものとして説明されたことに対して、まず基準年を国際的に標準となっている1990年や、自国の2020年目標で採用した2005年ではなく、排出量が非常に多い2013年と したことです。
これは、数値を大きく見せようという意図が透けて見え、かつ欧州連合やアメリカなどの他国がこれまで行ってきた温暖化対策の早期努力を無視する形になるからです。さらに風力や太陽光などの再生エネルギーの目標を低く抑えていることやCO2排出量の多い石炭火力を国内外で推進していることに対しても市民社会からの非難が集まりました。結局ボンの補助機関会合ではめったに出ない化石賞を3つも単独受賞してしまいました。
この目標草案は、国内で6月3日から7月2日までパブリックコメントにかけられています。目標草案の下となったエネルギーミックスのパブリックコメントは6月3日から7月1日までです。ボン 会議における国際的な評価も反映して目標レベルが上がることを期待します。
いずれにしても、パリにおける合意に向けて、各国が少なくともコペンハーゲン合意のときよりも前向きに取り組んでいると感じたボン会議でした!(2015年6月)
世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
<関連記事>
●今、改めて環境問題を考える part 2自然資源コストを正しく認識すれば経済成長が実現できる
●Part 2「自然資源コストを正しく認識すれば経済成長が実現できる」
●温暖化は待ってくれない! [Part 1] 地球温暖化の現状と人類の課題
●COP19/CMP9から見えてくる気候変動対策の遅れ~地球の明日は崖っぷち⁉
●みんなで考えよう「ソーシャル・デザイン」~第9回ロハスデザイン大賞2014 発表とシンポジウム
●カーボンオフセットで途上国の森は守れるのか⁉~映画「空気を売る村」から見えてくるもの
●総合商社が“森林を保全する”ということ~三井物産㈱環境・社会貢献部 社有林・環境基金室
●ツバルと私たちの未来は大国同士の国益の陰で 沈んでいくしかないのだろうか?
●生物多様性を巡る先進国と途上国の戦いとは?
●高知県の香美(かみ)森林組合における山を守る格闘~今、森林の現場で何が起きているのか?
●「捨て方をデザインする会社」が提案する企業価値を最大化する廃棄物の使い方~㈱ナカダイ
●自転車で走ると東京はこんなにもワクワクする街だった
●NPOの次世代リーダー育成プログラム~アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー2014が開催
●馬が運び出した間伐材で美しい家具をつくる~岡村製作所とC.W.ニコル・アファンの森財団の連携
●人を思いやる心を、日本と世界へ~NPO法人オペレーション・ブレッシング・ジャパン1人の難民が日本で生きた20年。~映画『異国で生きる』に出演したビルマ人民主化活動家に聞く
●原子力発電所に“絶対安全”はない。米国原子力規制委員会前委員長 グレゴリー・ヤツコさんに聞く